「これ、アタリだから」

 と、CANちゃんがわたしにささやいた。
 雪組の一般発売、三番街プレイガイドの列、抽選箱まであと2人、てところで。
 先に抽選を済ませたCANちゃんが、わたしのところに走り寄ってきて、小声で言ったんだ。手にした封筒を指さして。

 なにを言っているのか、わからなかった。

 反射的に「わかった」と答えはしたけれど、ほんとのとこは「???」。
 アタリ? なに?

 そしてすぐに、わたしがくじを引く番になった。
 チケット用の封筒がたくさん入った箱に手を伸ばす。その封筒の中に、購入整理券が入っているわけだ。いい番号を引かなければ、のぞみのチケットは買えない。
 たくさんの封筒を指ですべらして選んでいるうちに。

 わかった。
 CANちゃんの言ったこと。

 アタリとハズレの見分け方を、教えてくれたんだ。

 わたしはCANちゃんに教えてもらった通りの封筒を1枚選んだ。
 すでに抽選を終えた仲間たちのもとへ行く。
 封筒を開ける。

 大当たり。
 17番だった。

 どよめきが起きたね。
 誰かに背中をどやしつけられた。痛い。
「おねがい、僕の分も1枚買って!」
 ボスという通り名で親しまれている方にすがりつかれた。
「わ、わかりました。ボスの分も買います」
「ほんとにいいのっ?!」
「いいです、いつもお世話になってますから」
 1枚の整理券で、3枚のチケットを買うことができる。
 トド様出演日の1月3日と、新人公演さえ買えれば、それでいいんだもの、残りの1枚はボスに進呈するわ。
 ボスはコム姫ファン。初日のチケットを欲して、総勢9人のアルバイトを雇ってこの並びに参加していた。……なのに、ハズレばっかだったんだって。
 1枚くらい回しますとも、今まで何度となくさよならショー付き大楽を回してもらってたんですから!

 今回の抽選の「アタリの見分け方」に気づいたのは、わたしの5人前に並んでいたCANちゃん。
「あたしの前に並んでいた人が話しているのを、聞いたの。半信半疑で試してみたらほんとにアタリだったから、あわてて緑野に知らせたの」
 ありがとうありがとう。
 おかげでのぞみのチケットを買えました。

 ま、今回限りだよ、この「アタリの見分け方」は。次はもうない。
 それにしても、ラッキーだった。

 今回から三番街プレイガイドは、チケットの発売枚数が減った。
 1列目と2列目がなくなり、前方席は3列目だけとなった。
 だから、わたしたちの戦いは熾烈を極める。
 今までは、「1列目と2列目の1番から4番まで」がアタリ席。つまり、1日に8つはアタリ席があったわけ。
 なのにこれからは、「3列目の1番から4番まで」しかアタリ席がない。
 1日につき4席だけだと??

 わたしたちが狙うのは、そのたった4席だけだ。あとはハズレ。いらない。

「たった4席だよ。初日は制限がないから、1人で3席買う人がいるかも。そしたらもう、おしまいだ」
 と、ボスはモーニングセットを食べながら嘆く。
 新公と千秋楽だけは、1人1席までと決められているんだけど、それ以外の日はフリーだからねえ。
 17番の整理券を手に入れたとはいえ、たしかに心許ない話だ。

 そしていざ発売、というときになって。
 ボスったら、わたしの整理番号より前に知人を見つけたらしい。
「こっちの人に買ってもらうことにしたから、緑野さんは3枚とも自分の好きな席を買っていいよ!」
 ええっ?!
 そんなこと突然言われても。
 そう、「悪い席ならいらない」のだ、ボスもその仲間たちも。3列目を買えないならもう、いらないのだ。
 整理番号17番なら、どんな日にちでも買えるけど……初日の3列目以外はいらないから、買う権利が1席分、いきなり余ってしまった。

 こまったなー。
 ……てことで、わたし、つい買ってしまった。
 千秋楽。
 買うつもりなかったのに、せっかくある買う権利
を捨ててしまうのが惜しくて。
 トド様出演日の3列目、新人公演、そして、千秋楽……。
 なんか、イベント日のチケットばっか買っちゃったよ。

 わたしの次にいい整理券を手に入れていたCANちゃんは、春日野八千代大先生ファンのママと、そのつきそいの自分の分として1月3日のチケットと、本日体調不良だか寝坊だかでまた欠席しているWHITEちゃんの分の新公チケットをGET。

 みなさん、実り多い発売日でございました。

 てゆーか。
「なんで今日に限って、おもらいさんがいないの?」
 いい整理券を手に入れて並んでいると、「整理券余ってたらください」ともらってまわるおばさんが何人かいるんだけど。
 今日に限って、見あたらない。
 わたしたち……整理券、めちゃ余らせてるんですけど。しかも、けっこーいい番号なんですけど。
 知り合いも見あたらない、欲しがる人もいない。仕方ないから破棄しました。(うおー。もったいねー)

          ☆

 そして本日は、『一万人の第九』リハーサル日。

 前代未聞、リハーサルなのにチケット売って、一般客を入れております。さすがは平井堅! てことか。
 リハとはいえ、歌うもんね、堅ちゃん。

 初の生・平井堅!!

 わたしはちゃっかりオペラグラス所持。
 はじめて彼を見た感想は……「濃ゆっ!!」(笑)。

 プログラムを買っていないわたしたちは(3000円もするんだもんよ)、彼がなにを歌うのか知りませんでした。

 聞こえるのは、第九のメロディ。
 しかし、歌詞は……チガウ。

 これって、英語だ。
 英語で第九歌ってる。

 そして歌声は、そのまま聞き覚えのある歌につながる。
 『リング』。
 堅ちゃんの今の曲だ。

 わたしは、『リング』という歌は、好きでも嫌いでもない。どーでもいいレベルの歌だった。
 発見のない歌、というか。
 生きるつらさやかなしさを歌うのは、よくあることだから。それでも前を向いて生きよう、なんてのは、ほんとによくある歌だから。
 平井堅が歌うから説得力になってるけど、歌だけを見れば、べつにどーってことない陳腐な歌だよなー、と。

 しかし。
 しかし、だ。

 生で聴くと、すごかった。

 歌自体はそりゃ、よくある歌だよ。今まで5万回と歌われてきた歌詞だしテーマだし、フレーズだよ。
 しかし。

 それを平井堅が歌うと、……いや、今までもテレビで聴いてたけど、生で聴くと、こうなのか。

 生きる痛みの歌が、朗々と響く。
 響き渡る。

 そしてその痛みの歌は、第九のメロディにつづく。

 よろこびの歌に。

 生きる痛みが、闇が、慟哭が、生きる力に、光に、よろこびに結びつく。

 アカペラ。
 英語の第九。

 ここにあるのは、ひとりの人間の声。
 それだけ。
 祈りのような、歌声。

 そして。
 メロディは変わり、おなじみの『大きな古時計』になる。

 ……いやあ。
 いいもん聴かせてもらったよー。
 癒しの歌声だったよ。

 わたしたち出演者は、リハとゲネプロと本番とで、3回も堅ちゃんの歌を聴けるのさ。ふふふ、ラッキー。

 そっかあ、「ふろいで」は英語だと「じょいふる」なんだなあ。
 「ふろいで しぇーねる」が「じょいふる じょいふる」だったよ。
 第九のゴスペルアレンジ。

「堅ちゃんの第九のあとさぁ、司会者が『一万人のみなさんも3番の歌詞は一緒に歌ってください』って言ったとき、ぎょっとしたよ。英語なんてわかんないぞっ?! って」
 と、リハが終わったあと合流したキティちゃん。
 音大出の彼女は特別ルートがあるらしく、練習には一切参加せず、リハと本番の2日だけこの『一万人の第九』に参加しているのだ。
 だもんで、わたしたちとは座席がちがい、終わってからでないと会えないの。

 うん、ぎょっとした。
 そりゃ第九は歌えるけど、英語の歌詞はわからないよ。

「『古時計』の3番だったんだねー。いやあ、あせったよー(笑)」

 てなわけで、わたしたちは、堅ちゃんと『大きな古時計』を一緒に歌いました。


 パパがうれしそーに「ベルばらは見たんか?」と聞いてくる。
 ウチは家族もわたしの趣味に理解を示してくれておりまして、テレビ放送や新聞記事があると教えてくれるんですわ。
 ありがとうパパ。
 だけどわたし、ソレ、カケラも興味ないっす。気持ちよく忘却の彼方。
 その時間は『バイオハザード0』に打ち込んでおりました。
 おかげでへっぽこなわたしも無事クリア。うう、つらかったよ、ノーマル・モード。何回死んだことか。
 んで現在はおまけモードに燃える。なんなんだ、この難しさは。弾が足りない、回復アイテムが足りない……。

          ☆

 WHITEちゃんがやってきました。
 相変わらず突然。
「今から行っていい?」
 とTELがあったのが、午後11時半。
 おお、いいぜ。
 電話を切ってからあわてて1階の部屋を掃除する。……つっても、ほうきで軽く掃くだけだが。1階は普段は使ってない。お客が来たときのみ使用。だもんで冷え切ってるから、前もってヒーターのスイッチON。よかったよ、今日ガスが通ってて。

 そして、使っていない部屋だから、相も変わらず時計がない。
 12時前にやってきたWHITEちゃん……。
 さんざん喋り倒して、「ところで今、何時?」ということになり。
「時計見るのがこわい……」
 と、つぶやきつつ、携帯電話を取り出す。うん、こわいね。わたし、3回以上お茶を淹れ直したよね。短い時間ではありえないよね。

「3時過ぎてる……」

 君、明日も仕事だよね?
「早く帰って寝なきゃ」
 と、よろよろ自転車にまたがる彼女にわたしが贈る言葉は、

「土曜日がんばって早起きしてね」

 雪組の発売日だもんよ。
 わたしのために1/3のチケットをGETしてぇえ、友よ!
 わたしにトド様の艶姿を見せてぇえ(はぁと)。
 や、わたしももちろんがんばって並ぶけどさ。わたしのくじ運じゃきっと無理。
 友人たちのくじ運に懸けるのだ。

 えーと、WHITEちゃんは、ビデオテープの受け取りに来ました。録画を頼まれてたのね。
 べつに土曜日に会うから、そのときでもいいのに、わざわざ家までやってくるあたり、律儀だ。
 とゆーか、実はわたしに会いたかっただけだろ? と、うぬぼれておこう(笑)。

 
 あらっちはノリノリだ、『一万人の第九』。

 昨日の月曜日、『一万人の第九』の最後の練習日だった。きんどーさんはお休み。雨天だからじゃないかと、わたしは推測する(笑)。
 だもんで、わたしとあらっちのふたりきり。
 練習の前半はわたし、後ろの席の学生さんの歌声が気になっていまひとつ集中できなかったんだ。
 というのも、となりにいるあらっちの歌声と、わたしの後ろにいる学生さんの歌声の、音が微妙にチガウからだ。
 ど、どっちが正しいの?!
 いやもちろん、あらっちと見知らぬ学生さんなら、あらっちの音の方を信頼するよ。彼女が歌うまいの知ってるし。
 でも、わたしは周りの音に左右される。自分では楽譜通りの音なんて出せない。つーか楽譜なんざ読めん。そんなわたしのそばでチガウ音を出されたら、それだけで混乱するのよ。
 幸いなことに学生さんは、グループそろってこっそり早退してしまった。
 だから後半は安定。
 あらっちの歌声をガイドに、集中して歌うことができた。
 しかもあらっち、ノリノリだし。
 いつもより声出てるよ?
 わたしもつられて、ノリがよくなる。
 とても気持ちよく歌えた。

 第九を歌っているとき、時折「電流が走る」ことがある。ゾクゾクッと背筋を走るものがある。
 それは毎回チガウところで起こるし、いつ起こるとも限らない。
 が、さすがは最終練習日。
 キました、今回は。
 知識のないわたしはどこの箇所、と名指しできないが……「あーねすと どぅー でん しぇっふぇる、べぇると?」のとこ。
 アホウなヅカファンのわたしにとって、「げぷりゅーふと いむ とーと」は「ふふっ、トートですって。ああ、寿美礼ちゃん素敵だったなー」だし、「あーねすと」というと『アリスの招待状』のタカネくんのことしか思い出さないんですが。
 それでも今回は「あーねすと」でキたなあ。
 ぞくぞくぞくっ。
 「ふぉる ごっと」とか「べぇると」って言葉はほんと、盛り上げてくれるよなあ。

 んで、今日火曜日は、佐渡裕先生の特別レッスン日。
 わたしったらまた遅刻して行きました。
 つーのも、道に迷ってな。
 1年前に1度行っただけの場所だったから。なのに、一度行ってるからって、地図も持たず、場所の正式名称すら知らずに行ったのよ。
 ……迷ったわ。
 ひとに聞いても、「知らない」「わからない」ばかりだし、正式名称知らないのがまた、運の尽き。
 ぜんぜん関係ない、仕事中のWHITEちゃんに電話でSOS出した。たしか昔、彼女とそこの前を通ったことがあった。つーことは、彼女はあの場所を知っている! と。……おかげで、発声練習には間に合わなかったけど、ちゃんと佐渡先生のレッスンには間に合ったわ。

 んでもって今日は、最後の「ふろいで」でキました。
 ぞくぞくぞくっ、とな。

 「多少、音なんかハズれてもいい。『ふろいで』は叫べ」みたいなことをえんえん言われていたせいか。
 最後の最後、大音響だったぞ、「ふろいで」。

 この間、ミジンコくんに会ったとき、第九の話になった。『一万人の第九』に参加するのに5000円くらいかかるって言ったら(正確には4000円。でもこのときはよくおぼえてなかったんで、5000円くらい、と言った)、

「ええっ? 5000円も出してわざわざ歌いに行ってるの? 交通費まで自分で出して??」

 と、驚愕されてしまった。
 おどろかれたことに、おどろいた。
 わたしにとっては、あのイベントに参加できるなら5000円+交通費なんか安いものだ。つーか、たった5000円だなんて安いわ、わたしも参加したい、と誰もが言うものだと思っていた。
 そっかあ、価値観ってのはほんと、ちがうもんなんだよなあ。
 いや、「他人もこう思うに違いない」なんて、狭量きわまりない考えだと思ってはいるが、それでもアサハカなわたしは無意識にそう思っていたから、おどろいちゃったのさ。

 あれだけレッスンしてもらって、イベントを企画運営してもらって、それで4000円。
 ぜんぜん安いと思うけどなー。つーか、営利目的じゃないだろ、このイベント。
 宣伝目的ってことで、利潤度外視でやってんじゃないの、サントリー。

 なんといっても。
 背筋に電流の走る瞬間を、経験できるのだから、それだけで4000円なんて、安すぎるもんだよ。
 わたしにとって。

 ふつーに生きていて、自分のいる場所で電流走ることなんか、どれほどあるよ?

 そして、あらっちは今日もノリノリ。

「佐渡先生とお話ししたい」
 と、興奮気味に繰り返す。
「ああいう人、好き」
 と。

 無理です。
 わたしたちは1万人のひとり。彼からすれば、ゴマ粒です。個別認識なんざあり得ない。

 ごはんしてお茶して、ハシゴして喋り倒していたんだけど、
「もしこの席に佐渡さんがいたとしたら、なにを話すかしら」
 と、あらっちの妄想は止まらない。
「世界の佐渡裕だもんね、緊張して話せないよー。ああでも、きっとふつーの話をしてくれそう」

 恋するヲトメのように頬染めて、興奮して語るあらっち。
 かわいいなあ(笑)。

「佐渡先生って、オーラがちがうよね。見ていて圧倒される。ああいう生きるオーラの強い人と話したら、こっちもなんか変われそうな気がする。がんばろうっていうか」
 無意識だろうね、握った拳がいいの。

 あらっちはほんと、性格のいいおねえさん。人の善さが顔や雰囲気に現れている。のほほんとした、癒し系。
 彼女がこんなふうに強く語るのはめずらしい。

 そして彼女はけっこーマジに言う。

「佐渡先生と合コンしたいなぁ」

 って、合コンかいっ?!

 その発想の柔軟さっちゅーか低俗さにウケました、わたし(笑)。
(注・佐渡先生はぴちぴちの41才、既婚者です)

          ☆

 ところで、遅くに帰宅したところ、我が家のガスが死んでいました。
 キッチン死亡、お風呂も死亡、そしてわたしの家の暖房器具はすべてガス使用なのです。

 さむい……。

 なにが起こったんだ、わたしのいない間に??
 深夜ゆえ、問い合わせもできないし。

 仕方なく、まだ今年は使っていなかった電気毛布を出してくるまりました。
 我が家はすべてフローリング、畳も絨毯も1枚もないのよ。底冷えするのよ。凍えるのよ。

 なにもできず、する気にもなれずに布団の中……。

 
「ごめん、緑野ちゃん。ちゃんと用意していたのよ。袋に入れて、鞄と一緒に玄関に置いていたの。なのに、でかけるときについ、鞄だけ持って出てしまって……」

 デジャヴ。
 あら、デジャヴですわ。

 フクスケさん、あなたたしか、以前会ったときもまったく同じことを言ってませんでした?
 あれは6月16日ですわね。今、この日記サイトでたしかめました。

 のんき者が4人。
 「イタリアに行くぞ!」てなことで集まった寄せ集めのメンバー。昨年の秋、例のテロ事件で世界中が震撼している最中、それでも旅立った強者ども。

 ある日キティちゃんからメールがきました。
「19日にフクスケちゃんと会うんだけど、緑野も来ない? フクスケが本を返したいって言ってるの」
 あら、キティちゃん、フクスケちゃん、わたしと3人そろうなら、ミジンコくんにも声をかけましょう。そしたらイタリア4人組勢揃いするじゃない。
 そう、のんきなわたしたちは旅行から1年以上経つというのにまだ、写真の受け渡しをしていないのさ。

 そして5ヶ月ぶりで集まったわたしたち。
 わたしの顔を見るなり、フクスケちゃんは言った。

「ごめん、緑野ちゃん。ちゃんと用意していたのよ。袋に入れて、鞄と一緒に玄関に置いていたの。なのに、でかけるときについ、鞄だけ持って出てしまって……」

 つまり、本をすべて忘れてきた、と。

「あれ……? なんかそれ、前にも聞いたよーな気がする……」
 マイペースで人の話を聞かないミジンコくんまでもが、素で首を傾げている。

「そーよっ、2度目よっ。2回とも同じことやってんのよ、ごめんねっ」
 フクちゃん開き直り(笑)。

 フクスケちゃんには、『銀英伝』のコミックを全巻貸出中。旅行に行く前からだから、1年以上。
 彼女は会うたび話すたび、「今度返すから」と言い続けている。
 いや、いいんだよ、いつまで持っていてくれても。そのぶん我が家が広くなるから(笑)。
 わたしはそれより、『ハリー・ポッター』の続きを早く貸して欲しいだけ。
 ねえ、いつ貸してくれるの?
 デジャヴはもういやよー(笑)。

 さんざんフクスケちゃんに謝らせたあと。
 キティちゃんがにやりとして言う。
「ま、あたしも写真間に合わなかったけどな」
 「ええーっ?!」と叫ぶフクスケちゃん。そう、旅行にカメラを持っていかなかったのはフクスケちゃんだけ。つまり、焼き増しをもらえない限り、彼女は旅行の写真が一枚もない状態なのだ。
 キティちゃんは焼き増しが間に合わず、持ってきていないというのだ。
「ええっ、キティちゃんも? ははは、あたしも写真持ってきてないー。ネガが行方不明でさー」
 と、わたし。フクスケちゃん、再び「ええーっ?!」。

 のんき者が4人。
 旅行から1年以上経つのに、未だに写真の受け渡しはできず。

「なんのために集まったの? 本の受け渡しはできないし、写真はないし……」

 ただのおしゃべり目的。
 そーゆーことで。

 ごはん食べて、お茶して。店を変えて。喉が涸れるまで喋り倒してまた今度。

 で、今度っていつよ??

 
 そして今日は、一万人の第九の練習日。
 今週、来週とも、2日連続第九の練習日だったりする。

 わたしは音楽の才能を持たずに生まれてきたが、そんなわたしでもふたつの合唱のレベルのちがいぐらいはわかる。
 日曜日に練習に行った某合唱団は、やっぱ一万人の第九の人々よりも、うまいわ。どちらも自分でお金を払って歌っている趣味の合唱団だけど、やっぱ一万人の方はことさら素人の集まりだよなー。なんせわたしが毎年参加してるくらいだもんなー。

 だから一万人は、こわくないの。へたでも、ぜんぜん。
 しかしもうひとつの方は……へただと、目立つなー。いやだなー。
 あらっちは歌がうまい。きんどーさんはふつーにうまい。
 そしてわたしひとりが、へたなのだ……。「音痴よね(笑)」と言われてしまう人間なのだ……。

 それでも、好きなんだけどな。
 歌うこと。

 こわかろうと、こわくなかろうと、とりあえずちょっとでもうまくなりたくて、練習するのだ。

「それで、昨日のポスターどうした? あたしはちゃんと貼ったよ!」
 あらっちは胸を張って言う。
 昨日の某合唱団での練習のおり、わたしたちも参加する第九コンサートのポスターを配布されたのだ。
 「ポスターは巻いてあってもただの紙です。ちゃんと貼って宣伝してくださいね」と言われた。
 ……貼ってないよ……。
 近所ならともかく、すげー遠い会場のコンサートだからなー。気軽に「いらっしゃい」とは言えない距離。
「弟に頼んで、男湯にも女湯にも貼ってもらったし、ないとは思うけど、チケットのことを聞かれたらどう答えるかも教えておいた」
 と言うあらっちの家はお風呂屋さん。
 そうか……あらの湯(仮名)では、脱衣場にベートーヴェンの顔が貼ってあるわけか……アカデミックだなー。
 わたしも親に言って、店に貼ってもらうかな。……恥ずかしいけどなー。

 なにが恥ずかしいって。
 んなもん貼ったら、親が宣伝しそうだ、コンサートをではなくて「娘が歌うんですよ!」なんてことを。
 わたしはへたっぴで、いちばん後ろでめだたないよーにこっそり歌っているだけだっつーの。
 つーか、「あんたの遺伝子を受け継いでいて、歌がうまいわけないだろーっ」てなもんだよ。

 お家が自営業ではないきんどーさんが、いちばんこまっていた。
「うちのトイレにでも貼ろうかな……」
「だめだよ、そんなんじゃ! 他の人も見るとこに貼らなきゃ」
「そうそう。電柱とか貼りに行ったら?」
 こまるきんどーさんを見て、わたしとあらっちはさらに追いつめてみるのでした(笑)。

 一万人の第九、本番まではあとちょっと!
 某合唱団のコンサートは、宙組DCのころ!(そんなおぼえ方……)

 

食は文化。

2002年11月17日 その他
「母親ってさ、スーパーで和菓子買ってこない? アレ、ゆるせないんだけど」
「買ってくる買ってくる」
「ヤ*ザキかなんかの和菓子! どーしてこんなもん買ってくるのよ、ほんのちょっと行けば、ちゃんとした和菓子屋さんがあるでしょ、どうせならおいしい和菓子が食べたいじゃない! でも何度言ってもだめなの、母親って。『面倒だから』ってスーパーで和菓子を買うのよっ」

 ゆるせないっ。
 …………と、普段は穏やかなあらっちの叫びと、やはり普段は穏やかなきんどーさんの同意の声を聞いていた。

 第九の練習のあとの、喫茶店にて。
 何故か和菓子の話題で盛り上がる。

 わたしは無口。
 だってうちの母親もスーパーでヤマ*キとかの和菓子買ってくるけど、べつにわたしそれ、平気なんだもん……。
 ていうか。
 わたし、あんこダメなんっす。
 甘いモノは自分では好きだと思っているけど、食べられないモノが多い。あんことチョコレートはダメ。甘すぎて食べられない。フルーツの缶詰もダメ。炭酸で中和されていない、甘さだけが売りのジュースもダメ。ムースポッキーとかも甘すぎてダメ。
 甘いから食べられない、というものがたくさんある。
 かわりに、辛いモノはぜんぜんOKなんだけども。(しょっぱいモノではなくて、辛いモノね)

 おまんじゅうでいちばん好きなのは、「皮」だからなあ。中のあんこはいらない……。
 だから、「皮」が分厚いものほど、わたしにとっては「おいしい」ことになる。
 おまんじゅう、あんまん、たいやき、シュークリーム……中身が少なく、皮が分厚いのが好き。

 その昔、某和菓子チェーン店でアルバイトしたときは、大変でしたなあ。
 自分が食べられない、おいしいと思えないモノを売る、というのは……。
 おやつをいただくときも、「これなら甘くないよ」という言葉を信じて食べて、「嘘だ、十分甘いじゃん!」と言えず、なんとか半分食べたけど残り半分どーしよー、でも食べないと失礼だよね……と笑顔の下で悩んだなー。
 友人に頼まれてやっていた、助っ人バイトでした。自分で選ぶなら、食べられないモノを売る仕事は選びません……。

「あたし、和菓子にはちょっとうるさいよ」
「あたしも和菓子がマイブームでねー」
 あらっちときんどーさんは、熱く語る。
「わらび餅が食べたくてしょーがないの、おいしいわらび餅が!」
「うんうん、いいよね、わらび餅」
 店の名前がいろいろ出ているが、わたしにはよくわからない。

 わらび餅とゆーと、我が家ではやはり、彼女たちが「ゆるせない!」と言う、スーパーで98円のわらび餅を、母がよく買ってくる、夏の間。
 弟の大好物なので。……とゆーのも弟は甘党。和菓子があるとにこにこ食べている。チョコレートも大好物だ。わたしの敵である白桃の缶詰なんかも、じつにうれしそーに食べる。
 98円のわらび餅も、彼はうれしそーに食べる。
 わたしはわらび餅をことさらありがたがることはないので、弟が食べているわらび餅を、横から数個つついただけで満足。1人前はとても食べられない。

 そーいやきんどーさんやあらっちと、「おいしいわらび餅」の店にわざわざ行ったことがあったね、昔。
 わたしは「友だちと歓談」するのが目的だから、わらび餅なんかどーでもよかったし、また、特別に「おいしい店」と言われてそれなりの値段を払ったおぼえはあるが、劇的においしかった記憶はない。
 わたし、グルメとはほど遠いんだよね……。

 わたしが口を挟めないウチに、ふたりは京都にあるというおいしい和菓子の店に行く話で盛り上がっている。
 ああ、ほんとに好きなんだね。

 わたしにとって「食べること」はあまり重要な意味を持っていない。必要だからしていることで、たのしむよーなものではないからだ。
 だから、わざわざ「おいしいモノを食べに行く」という文化にはなじめずにいる。
 どこかへ「行ったついでに、おいしいモノを食べる」ならアリなんだけども。
 そーいやきんどーさんたち元の職場の仲間たちとは、わざわざ「おいしいモノを食べに行く」ために何十分も電車に揺られたりしたなー。わざわざ京都、わざわざ神戸。お店に行って、食べて、帰る。また何十分も電車に乗って。
 わたしはそういう文化になじみがなかったので、「嵐山に行くってことは、そのへんのお寺の散策だよなっ」と勝手に思いこんでいたよ。ごはんは「ついで」だと思って参加したんだ。まさか「ごはん」ごときが目的だとは思わなかったから。

 食は文化。
 そしてわたしは、文化レベルが低い。

「梅田にシフォンケーキの専門店ができてて、わたし、シフォンケーキ大好きだから食べたいんだけど、イートインできないのよ。わざわざ買って帰ってまで食べたくないし」
 と、わたしは言いました。
 わたしがケーキの中でいちばん好きなのは、シフォンケーキです。フルーツもアイスクリームもチョコレートもいらん、純粋にケーキ、そしてクリームは自分で加減しながらつける。だからシフォンケーキが好き。あまり甘くないから。
 そのいちばん好きなケーキでさえ、買ってまで食べたくない。
「喫茶店だったらよかったのに。そしたら、友だちとお茶するたびにそこの店に行くのに」
 わたしにとってケーキは「友だちと歓談する」ためのアイテム。
 自分のために自分で買って、家でひとりで食べたいわけじゃない。
 ……あれ? それってつまり、純粋に「食べ物」としては好きじゃないってことか?

「そうね、ケーキはわざわざ買わないかな」
「和菓子なら食べたいときは買って帰って食べるけど。ケーキはね」
 と、友人たちは同意してくれたけど。
 あれ。わたし、ハズレたこと言いました?
 みんな、ほんとはケーキも買って帰って食べたりするの?

 食は文化。
 むずかしいっす。

 

熊ですかっ?!

2002年11月13日 その他
 わたしの家の隣には、ひとり暮らしのおじさんが住んでいる。
 おじさん、とゆーか、おじいさん、かな。それくらいの年齢の人。

 うちは角なので、道に面した部分が大きい。でもお隣さんには少ない。
 そしてお隣さんは、花が好き。植物を育てたいというので、うちの家の前を貸している。

 つまり、うちの玄関前から角(角の家って、そこだけ壁が削られたよーになってるよね?)のあたりまで、お隣さんが育てているお花がずらりと並んでいるの。植木鉢、プランターなどがずらり。

 わたしはひとり暮らしの独身の女の子。もういいトシだが、独身だから「女の子」だ。
 女の子がひとりで暮らしている家の前が、花であふれている、てのは、良くないか? 良いだろう?
 わたしは植物を育てるのは苦手だが、眺めるのは好きだ。そして、お隣のおじさんは育てるのが好き。
 両者の利害は一致した。
 だもんで、わたしの家の前は花でいっぱい。

 最初のうちは、かわいいもんだった。
 植木鉢がいくつか並んでいる程度。
 12月になればポインセチアなんかが置かれ、とっても女の子らしい、かわいい玄関になった。

 時が経つにつれ、花の数は増えていく。
 どこまでも、増えていく。

 ……あの、おじさん。どこまで増やすんですか……? もう置き場所、ほとんどないですが……つーか、そこは長年自転車を置いていたスペースなんだけど……わ、わかりました、自転車の方を移動させます。

 お隣のおじさんは、花だけではなくどーやら、かわいいものも好きみたいだ。
 植木鉢の間や中に、陶器の動物たちが置かれている。
 小首を傾げたリスさんとか、かわいいクマさんとか、七人のこびととかな。
 ……これもだんだん、増えている。
 そーいやおじさん、一人暮らしなのに、彼の家の表札は季節のお花があしらってあるリースだ。玄関だけ見たら、女の子の家だと思われるぞ?

 なんか、わたしの性格とはかけ離れた玄関になってきている気がする……と、小首を傾げたリスさんと目が合うたびに思う。

 そして、お花たちの間に、ある日奇妙なものが置かれていた。

 全長150センチくらいでしょうか。
 巨大な、細長い赤いガラスの花瓶。

 さすがにこれには、おどろいた。

「あの……なんなんですか、コレ……?」

 目を点にしたまま、お花にお水を遣っているおじさんに聞きました。

「ああ、あるお店でもういらないって言うんで、もらってきたんだ」
 おじさんは意気揚々と答える。

 もらってきたって……。
 どう考えても、ホテルのロビーとか、大きなお店とかでライトをあびて飾られているよーな花瓶なんですけど。
 だって高さが、こどもくらいありますぜ。

 当然大きすぎるから、花なんか活けられない。これに活けることができる人は、プロのコーディネーターだけだろう。

 道を行くいろんな人が足を止め、おじさんに話しかける。
「これ、なんですか……?」
 おじさんはうれしそうに説明する。

 そりゃ、理解できずに質問するだろーよ。
 道ばたに巨大な花瓶(しかも花は活けてない)があったら。

 かわいいものが好きな、花好きのおじさん。
 そう思っていたんだけど。
 この花瓶のあたりから、疑問が生じる。

 そして、今日。

 わたしは信じられないモノを目にする。

 お花で埋まった、わたしの家のエアコンの室外機の上に、それはあった。

 木彫りの、熊の置物(黒塗りの台付き)。

 ふつー玄関とか、応接間なんかによく置いてある、躍動的な姿をした熊の置物。
 もらうもんなんですかね、たいていの家にあるよね。こんなの趣味じゃなかったり、置きたくなんかないだろうな、って人の家にも、何故かちゃっかり置いてあるから、なにかしら日本家屋には必要不可欠な因習があるのかもしれない。
 その、熊の置物。

 それが、わたしんちの外壁に沿ったお花畑の中に。
 エアコンの室外機の上に。

 ……ガーデニングをたのしむ人たちは、たしかにお花の間に陶器の置物を置く。動物を置いたりする。
 でも。

 木彫りの熊は、置かないだろおっ?!

 おじさん。
 かわいいものとお花が好きなおじさん。
 ひょっとして。
 ひょっとしておじさん、実は飾れるものなら、なんでもいいの……??

 ……道行く人たちに、どう思われてるんだろう。
 木彫りの熊を植木鉢の間にディスプレイする、ひとり暮らしの30女の家、って。

 

神様仏様。

2002年11月5日 その他
 朝起きると、わたしの耳は大仏だった。

 左の耳たぶを、虫かなにかに咬まれた模様。
 ぷっくり腫れて膨らんで、痛がゆい。熱い。

 もともとわたしの耳たぶは大きい。
 いわゆる福耳ってやつ?
 まーるく肉厚。アクセサリの似合わないカタチ。
 遺伝なので仕方ない。緑野家の人間はみんな福耳(母除く)。

 ただでさえ福耳なのに……。

「まるで大仏ね」
 ママンはあっさりと言う。言ってくれる。
「ひどいわ、それが年頃の娘に言う台詞?!」
「だってほんとにすごいもん。うわー、大仏みたいー」
「痛いのよ、かゆいのよ、可哀想だと思わないの?」
「あんな部屋に住んでるからよ」

 あ・ん・な・部屋。

 毎日が障害物競走の部屋のことですか?
 足の踏み場をいちいち確保しなければ移動できない部屋のことですか?

「まー、あんな部屋じゃあ、虫も湧くわね」
「ひどいわ、それが年頃の娘に言う台詞?!」

 蚊の仕業だよ、たぶん。羽音を聞いたもん。
 なのになのにママンったら、そんな言い方するのね! ひどいわっ。

 部屋が汚いのは事実だけど。
 …………。

 わたしの耳は大仏の耳。
 まーるく腫れて、なんて福々しい。耳たぶが大きいと幸運だとかなんとかいう迷信があるのなら、なにかいいことあるかしら。

 そうだ、腫れている今のうちに友会の入力だ! 

 と、思いついて受話器を握ったんだけど。
 「約40秒で10円」とかいうアナウンスのあと聞こえてきたのは

「はい、こちらは宝塚友の会です。この電話番号はただいま受け付けておりません……」

 またかよっ!
 金だけ取られて、無駄足かよ。

 わたしがかけるときって、高確率でメンテ中なんだよ。つーかなんでそんなにいつもいつもメンテばっかやってるんだ。24時間受付なんて嘘ばっか。

 わたしの耳は大仏の耳。
 福々しい大きな耳たぶ。

 幸運をプリーズ!!

 
 わたしはシイタケが嫌いだ。

 食感系の食べ物は苦手なの。コンニャクもだめ。
 味じゃなくて、食感。
 気持ち悪いのよー。

 なのに、行ってきましたシイタケ狩り。

 何故かって?
 友だちに会いたいから。

 そーいや友人のミジンコくんが、ある日あるとき、真剣な面持ちで言ったそうな。
「みんな焼肉、好きじゃなかったんだってね!」
 好きじゃないよ。
 わたしは肉より野菜の人。肉なら脂のないヒレ限定の人だ、つまり本物の肉好きから見たら「ケッ」てなレベルの肉好きだ。
 WHITEちゃんに至っては、肉なんて大嫌い!(身震い)の人だ。
 なのになんで、わざわざ焼肉パーティにつきあっていたか。

 君を好きだからだよ。

 君を好きで、君に会いたくて、君がうれしそーに食べるのを見たくて、それで、好きでもない焼肉パーティにつきあっていたんだよ。
 君が、焼肉を好きだから。

「ぜんっぜん、知らなかった。あたし、みんなが焼肉好きだから、焼肉食べに来てるんだと思った。……じゃあなんで、わざわざ焼肉食べに来てたの?」

 君の鈍さに乾杯。
 や、WHITEちゃんはともかく、わたしは肉はキライじゃないよ。それほど好きでもないが、ちゃんと食べられる。内臓と生がだめだから、鶴橋界隈の本物の焼肉がつらいだけで……それでもまだ、つきあいで食べることはできる。WHITEちゃんはすべてだめだから、かなり苦労してたみたいだけどね。
 焼肉以外で誘ってくれたら、もっともっとうれしかったんだけど……君があんまりしあわせそうだから、ずっと言えなかっただけ。
「そろそろ焼肉以外も食べに行かない?」
 と、わたしが言ったのをひとから伝え聞いて、心底おどろいたんだね、ミジンコくん。

「じゃあなんで、わざわざ焼肉食べに来てたの?」

 気づけよ、お前(笑)。
 ミジンコくんの目的は焼肉。鶴橋の某有名店には複数名で行かないと、いろんな味が楽しめない。だから仲間を募っていた。
 目的は焼肉で、わたしを含めた友人たちは焼き肉を食べるための手段。そして彼女は、自分がそうだから他のみんなもそうにちがいないと信じこんでいた。
 わたしの目的は焼肉じゃない、君だ(笑)。

 てなわけで、わたしにとって食べ物の嗜好は友人たちへの愛で多少左右される。
 好きな人が好きなモノなら、つきあう程度のことはできる。
(魚だけはだめだけどな。見たら悲鳴あげるくらいだめだから、魚料理の店には入れない。だもんでこれだけは例外)

 とゆーことで、シイタケ狩り。

 はるばる電車とバスを乗り継いで、行ってきました。ちょっとした日帰り小旅行だね。
 集まったのは、前の職場の仲間たち。総勢9人。
 シイタケを採って、その場で焼いて食べる。シイタケだけは自分たちで好きにむしるが、他の野菜や肉はちゃんと用意してくれてるの、そのイベントやってる農家が。
 天気は快晴、イベント盛況。
 たくさんの人たちでにぎわっている。

 オトナになってよかったことといえば、「友だち」のことだろうか。

 オトナになってからできた友だちってのは、変わらないんだ。
 時間が存在しない。
 職場がなくなって、みんな散り散りになって1年ちょっと経つわけだが、みんなぜんぜん変わらない。
 昨日「また明日ねー」と手を振って別れた、そのまんまのノリだ。
 みんな変われよ。全員独身のままかよ。ひとりぐらい、そーゆー話はないのかよ(笑)。

 女ばかりの職場だった。
 女ばかり、100人以上。
 仕事は個人、他人との接触はナシ。
 仕事の座席も日替わり。IDカードをリーダーに通した際に、その日に坐る端末をランダムに提示される。隣の人と口をきく必要もない。親しくなる必要もない。
 万が一、いやな人がとなりでも1日我慢すれば、次に隣になる確率は人数分の1。
 逆に言えば、好きな子がたまたま隣になっても、次に隣同士になる確率も人数分の1ってこと。

 休んでもさぼっても、同僚に迷惑をかけるということがなかった。給料も一律同じ、不公平ナシ。
 自分の仕事だけをこつこつやっていればいい。
 お茶くみも挨拶もなにもいらない。
 他人の名前も顔も、覚える必要はない。
 必要なのは、仕事だけ。

 こんな職場だったから、ここで生まれた友情はなかなかしぶといんだ(笑)。
 だって、その気になれば誰ひとり友だちや知り合いを作らなくてもいいわけだからね。
 現にわたしが紹介してこの仕事をはじめたミヤビンスキーは、ついにひとりも友だちを作らなかった。休憩時間はずっとひとりで本を読んでいたそうだ(わたしとは部署がちがったので仕事中は会えなかった)。丸一日、仕事以外ではひとことも口をきかない日々だったらしい。彼女はすぐに辞めてしまったけれど。

 キティちゃんやきんどーさん、ワゴンねーちゃん、あらっちと出会ったのはこの職場でだ。
 わずらわしい人間関係が必要ない、いくらでも回避できる場所で、わざわざ友だちになるわけだから、彼らはみんな得難い人たちだということだ。

 シイタケなんか嫌いだけど、いいもん、みんなに会いたいんだもん!
 みんなだって、わたしに会いたいはずだ(笑)。
 だから行くわ、みんなに会いに。

 わたしの嫌いなモノで遊びを企画しないでよ、なんて言おうものなら「そんなら緑野が次の幹事やってよ」とお鉢が回ってくるので、言い出せない(笑)。つーか、この人数だから、絶対なにか誰か嫌いなモノ食べられないモノがあるからさー。幹事は大変なのよ。
 次は忘年会。
 幹事はピンクちゃんに決定。なんでかって? 彼女今日、財布忘れて来たんだわ。定期があったから、梅田まで気づかずに来てしまい、総ツッコミの嵐に。
 ペナルティとして、次の幹事は君!!
 牛肉の食べられないピンクちゃんは、どんなお店を選ぶだろう。言っておくけど、わたしと松竹ちゃんは魚がダメだよ、わたしはともかく(笑)松竹ちゃんは口うるさいぞぉ。

 友だちがいるから生きていける。
 わたしの人生の最優先事項のひとつ。

 なんだけどさ。

「緑野ってさ、シイタケ嫌い嫌いって言うくせに、がんがん食べてんじゃん。ほんとは好きなんじゃないの?」

 ちがわい、嫌いだけど食べてんだい。

「ほんとに嫌いな人は、焼いただけのシイタケをまるまる1個、塩ふっただけで食べられないよねー」

 採りたてのシイタケだけは食べられるの。たしかにこれは、なかなかうまいと思う。……でも食感が気持ち悪いのは事実なのよ。

「たんなるワガママ……?」

 ちがーうっ。
 場の雰囲気だよ、あんたたちを好きだから、たのしい場所だから、たのしく食べられるんじゃん!!

「犬好きの人って猫タイプの人が多くて、猫好きの人は犬タイプの人が多いんだよね」
 と、あらっち。
 犬派の松竹ちゃんは眉をひそめる。図星だからだろ? 君は自分が気まぐれなのはかまわないが、相手からは絶対的な盲目的な愛を欲する人だ(笑)。
 猫派のわたしとあらっち、テルちゃんはうんうんとうなずく。
「犬タイプでなきゃ、猫なんて生き物を愛せるわけないじゃん。冷たくされると萌えるのよねーっ」
「永遠の片想いって感じがいいのよね」
「愛してもらえなくても、夢中で愛を捧げるよねええ」

 わたしは猫を愛する、犬タイプの女。
 片想いに萌える女。

 わたしの人生はいつも、片想いばかりさ。
 家族にも仕事にも、そして友人にもなっ。

 
 
 今日はヤマダさんとデート。

 ヤマダさんは旧友なので、どーしても昔の話が出る。
「あのころ、緑野んちはすごいことになってたねえ」
「ああ、毎週誰か来てたよね」
「毎日だったでしょ?」

 ……そういや、毎日だったよーな。

 あのころ、というのは、学生時代のころだ。
 まだうちにおじーちゃんとおばーちゃんがいて、盲目の猫がいたころ。
 わたしが3人と1匹で暮らしていたころ。

「おじーさんとおばーさんには、悪いことしたと思うよ。あたしたち毎日押しかけてたじゃない?」
「なれてたと思うよ。高校生んときもわたしの部屋って、友だちのたまり場だったからねー」
「それにしても、毎日はひどかったよね。緑野にはプライベートなかったでしょ、あの状況じゃ」

 なかった。
 たしかに、なかった。

 ほぼ毎日、誰かがわたしの部屋にいた。遊びに来ていた。
 たとえわたしが留守でも、勝手に部屋にあがっていた。

「緑野んちに行けば、かならず誰かいるからさー。当時は携帯電話なんかなかったから、誰かと連絡取りたかったらまず、緑野んちに電話かけたよね」
「そーねー。ぺーちゃんから電話かかってきて『緑野には用ないの、WHITEちゃんに渡すモノがあるんだけど、WHITEちゃんいる?』とかな。『いるよ』って返事したら、10分後にはぺーちゃんも現れているという」
「WHITEちゃん、ほとんど緑野んちに住んでなかった? 絶対にいたよーな」
「あの子は電話嫌いだったから、絶対前もって電話でわたしの都合を聞いてきたりしなかったからねー。勝手に現れて、勝手にくつろいでいたよ……ほぼ毎日」

 友人たちの間でいちばんせまい家に住んでいたのは、たぶんわたしだと思う。
 なのに何故か、わたしの部屋がたまり場だった。
 たぶん、楽だったんだろうね。
 友人たちにとって、老人ふたりと暮らすわたしは、ほとんどひとり暮らしと変わらなかったんだ。「オヤ」という気疲れする生き物と一緒に暮らしていない友人、てことで、訪問しやすかったんだと思う。
 まあ、せまい部屋にあらゆるオタクグッズをそろえていたせいもあるな。
 自分の家では見られないビデオ(笑)なんかは、わたしの部屋に持ってきて見てたもんなー、あいつら。

 毎日、誰かがいた。
 みんなお菓子やマンガ、ビデオをさげて、勝手に現れては帰っていった。
 えんえんえんえん、他愛ない話をしていた。
 ハタチそこそこの娘たちの、楽園だった。
 終わらない祭りだった。

「あのせまい部屋に、よくあれだけの人数が入ったよね……今ならひとりとして泊まったりはできないよ……足の踏み場ないし」
「6人くらい泊まったりしてた? 坐ったまま寝たりしてたよね、横になるスペースなくて」
「泊まりじゃなくても、ベッドの上はWHITEちゃんの定位置だったしな。あの子、わたしの部屋に入るとまっすぐにベッドに行くから」

「コミケにもみんなで行ったね」
「大森だっけ、あの一升瓶伝説!」
「TAMAちゃん30回コール事件とか」
「サンルートに泊まれなかった事件もあったよね」
「『ホテルも揺れるぜ』はサンルートだっけ。クリスマスの日にチェックアウトしてる女はただひとり。他はみんな男だよーっ」
「そりゃ、チェックアウトは男だよねえ。女の子はみんなロビーのソファで待っている(笑)」
「『触っていい?』は大森だっけ」
「あれは三條苑。『さよなら三條苑』って作ったじゃん」
「作った作った。ていうかあたしたちなんで、ことあるごとに本作ってたの?」
「自分たち主役の内輪受け本を、なにかしら事件があるたびに作っていた……」
「アイタタタ」
「アイタタタ」

 人生でいちばんバカだった、あのころ。
 むやみやたらなパワーだけはあった。

「今、若い子が多少バカでおいたをしてても、目くじらたてる気にはならないよ。わたしたちもバカだったもん、君たちの年頃には、って」
「そうそして、今バカでおいたをしている子どもたち、君たちもいずれ、『なんであんなに恥ずかしい真似ができたんだーっ』と穴を掘って埋まりたくなる日が来る(笑)」

 そして、人生でいちばんバカな時代を共有した友は、みんなが宝物になる。

 
 水曜日なのに、はるばる宝塚まで行きました。

 お風呂に入りに。

 題して、リベンジ、ホテル『若水』!!

 そうあれは、震災直後くらいのこと。
 当時のムラには、手頃なレストランがなかった。
 プレハブの飲食店やロッテリアはあったけれど、みんな閉店が早い。3時開演を観たあと、ゆっくりごはんを食べておしゃべりができる店がなかった。
 わたしとクリスティーナさんは仕方なく、ワシントンホテルを利用していた。駅前で夜遅くまで開いているレストランはここしかなかったのさ。
 しかし、あまりにいつも同じ店では飽きる。つーかメニューも食べ尽くした。
 そしてわたしたちは、ワシントンホテルから見える、もうひとつのホテル、改築だかをしたばかりできれいな『若水』に行ってみることにした。
 『若水』なんて、いかにもダサい、昭和っぽいホテルだ。和食しかないかもしれないが、うどんくらい食べられるんじゃないかな。

 ……甘かったっす。
 高級旅館だったのね……『若水』……。

 わたしもクリスティーナさんも、そんなことまったく知らなかったからさ。
 1階ロビーでレストランのメニュー見て、回れ右したよ。
 た、高い……高すぎる……。つーか、たかだか晩メシにこんな値段出すなら、大劇場公演を観るよ。
 特別でもなんでもない、日常の晩ごはんが、S席値段(最低価格)なんてやだ……。

 それ以来、一切近寄らなかった『若水』に、行ってきました。
 風呂好き三姉妹、ワゴンねーちゃん、きんどーさん、わたしの3人で。
 大劇場勤務のワゴンさんが、聞きつけてきたんだ。『若水』のランチメニュー「仙水」3500円が、おいしいうえに温泉にも入れるからお得だって。
 なお、『若水』の温泉はお金持ちのおばさま方がたくさん利用しているので、いつもとっても混雑しているとのこと。
 だから狙うなら歌劇のない水曜日。水曜日ならすいているからゆっくりすることができる。
 それにワゴンねーちゃんの休日も、とーぜん水曜日なわけだしな。
 わたしたちは、満を持して水曜日に『若水』を攻略した!!

 ここで問題。
 じつはわたし、和食だめなんだわ。
 魚介類全部だめなの。
 和食以外で調理してあるものならまだ食べられるけど、この風呂付きランチはとーぜん和食だよー。
 和食ってさ、素材の姿も味もまんまだから、きついのな。さしみとか生だし。
 死体の肉を生で食べたり、死体の姿まんまを調理したものは食べられないっす……。和食の魚って、断末魔の苦痛にのたうつおぞましい姿そのままとか、生前の姿そのままとかで出てくるからなー。想像力豊かなわたしには、恐怖が先に立って食べられないんだわ。
 豚や牛だって、死の苦痛にのたうつ姿や、生前の姿そのままで出されたら、食べられない。
 幸い肉は、もとのカタチがわかる状態では食卓にあがらないから、和洋中問わずに食べられるんだけど。そして魚介類でも、もとのカタチがわからない和食以外の文化ならばまだ食べられる。
 どうもわたしは、「動物を食べる」ことに拒絶反応があるみたいなんだわ。なんて偽善的。
 おぼえてないけど、トラウマでもあるのかな。とくに魚。食卓にあがる種類の魚は、生きていてもこわい。
 ゴキブリと魚を見たら、わたしは悲鳴を上げる……。(わたしにとって魚は、ゴキブリと同類項)

 まー、こんなやつが、天下の『若水』様でランチをしよーなんて考えることがおこがましかったね。
 死体の姿まんまの魚は出なかったので、さしみ以外はがんばって食べたけど(連れに悪いし、もったいない)、味なんかわかんないよー。「食べた」という事実のみ。ぜえぜえ。がんばったわ、わたし!
 連れのふたりが「おいしい」と言っていたので、きっとおいしいお料理なのでしょう。

 ただし、量は少ない。
 ワゴンさんは「足りない!」と叫んでいた。

 ま、食事はいいんだ。どーでも。
 わたしたちの目的は、温泉。

 見晴らし最高です。8階なの、大浴場。
 大劇場も川も橋も山も、全部見える。
 今日はまたすばらしくいい天気。青空の美しいこと。

 でもなー。
 女風呂はつまんないね。
 目隠しが張り巡らされているから、湯船につかってしまったら、外が見えない。
 せっかくの露天風呂なのに。
 立ち上がって目隠し塀の向こうをのぞかなきゃ、眺望はたのしめないのよ。
 男風呂はきっと、こんな無粋な囲いはないよね。世界を見下ろしながら風呂につかれるんだよね。男はいいなあ。
 盗撮されて、写真を販売閲覧されたりするんでなけりゃ、わたしゃべつに多少裸見られても平気なんだけどね。
 というと、誤解があるかな。
 女風呂ってたいてい、外からは見られにくいような位置に作ってあるでしょ。200メートル向こうからなら見えるけど、とか、そんなふう。
 わたしはその、200メートル向こうからなら、見られてもかまわねー、と思うのよ。ただの肌色にしか見えないからね。顔もカラダの細かいカタチもわかりゃしねーもん。
 そりゃ世の中にはいろんな人がいるから、望遠レンズで200メートル先からのぞいたり、写真撮ったりする奴はいるかもしれないけどさ……そんな人に当たる可能性なんて、交通事故くらいの確率でしょ。だって露天風呂利用者の平均年齢知ってたら、盗撮屋さんもあまり熱心には仕事しないと思うよ……若者向け温泉施設以外では、若い女の子率低いんだからさ。
 『若水』に限らず、露天風呂に入るたびに思う。こんなの露天風呂じゃないよー、外が見えないよー、と。

 水曜日だったのに、けっこー混んでた。平均年齢は、ものすごく高い。わたしはまちがいなく、最少年齢だ。
 お風呂はふつーに温泉旅館のお風呂。健康ランドのよーな設備はない。
 のんきに湯船につかってました。
 ただ、ゆうべ寝ていないというワゴンねーちゃんがのぼせて坐り込んでたな。

 お風呂だけなら、きれいだし気持ちいいし、でよいのだけど、食べられない和食とセットで3500円はわたしにはきついわ。
 2度目はないでしょう。

 でも、リベンジしたし!
 あの日逃げ帰った『若水』に入ったわ。ランチだけど。

 んでもって、この『若水』お風呂とランチのセットコースだが。
 ……風呂だけならたぶん、ただで使える……。
 チェックポイント、ないのよ。
 誰でも入れるわ、あのお風呂。
 ちょっとびっくり。
 予備知識さえあれば、何度でもタダで入れるよ。タオルその他のお風呂グッズも全部浴室にあるし。手ぶらで行って、内緒でひとっ風呂浴びて帰れるよ。

 ……いいのか、『若水』。太っ腹だな、『若水』。

          ☆

 ワゴンさんはどうして、ゆうべ眠っていないか。

 息子さんの試験勉強につきあっていたらしい。

 ……これって、ふつーのことなのかな……。
 一緒に起きていてあげないと、息子さん眠っちゃうんだって。
 先日はワゴンさんがつい、眠ってしまったために息子さんは勉強ができなかったそうな。
 ワゴンさんが、意識が途絶える前に見たページと同じページを開いたまま、机に突っ伏して息子さんも眠っていて、「とってもかわいそうだった」とワゴンさんは言う。「あたしさえ起きてあげていたら、あの子も起きて勉強できたのに」と。
 かわいそう? それ、自業自得って言わない? 勉強っつーの自分でするものだと思う……。
 だからワゴンさんは、息子さんの試験期間は、仕事を休むそうな。勉強につきあわないといけないから。

 それって、ふつーのことなのかな。
 今の若いおかーさんって、それがふつーなのか。
 ワゴンさんはさほど教育熱心なママさんではないし、息子さんの学校も進学校ではない。
 でも試験勉強で夜更かしや徹夜をするときは、横につきそってあげなきゃいけないのか……?
 ワゴンさんが教育熱心で、「怠けるなんてゆるさないわ!」と起きて息子さんを見張る、というのならまだわかるんだが。
「息子は、勉強というつらいことをしているんだもの、あたしも手伝ってあげなきゃかわいそうだわ」
 という心理がわからない……。つらくても本人の問題としか、わたしには思えないから。

 わたしはそれが不思議だったので、そのままのことを言ったんだが、ワゴンさんは「だってかわいそうだもの」としか言わない。
 うーむ。
 まあ、遊びに行く息子さんを「(自転車や徒歩で行かせるなんて)かわいそうだから」と車で送ってあげる人だしなあ。
 修学旅行とかで集合時間が早かったり、荷物があったりするときも、絶対送り迎えしてあげるもんなあ。「うちの子はあたしが送ってあげたからいいけど、車のない子はかわいそうだったわ、荷物を持って朝早く電車に乗らなきゃいけないのよ」……それも修学旅行ってもんだと思うが……。

 ワゴンさんはやさしくてかっこいい、すてきな女性だが、息子さんへの干渉の仕方だけはわたし、違和感あるんだよなあ。
 ワゴンさんと知り合った当初、息子さんたちのことを「ひとりで電車に乗せるのが痛々しいような年齢」の小さな子どもだと思って聞いてたもんなー、わたし。
 でも実際は息子さん、もう高3と中3で、見上げるほど大きな男たちなんだが……。


 Be-Puちゃんが悲鳴を上げた。
「緑野さん、なんてことするの!!」

 はあ?
 なんすか?

 わたしにはBe-Puちゃんの悲鳴の意味がわからない。
 うちのバカ猫が粗相をした。わたしはなにも知らずにそこを踏んだ。
 うわーん冷たい、足が濡れちゃったよー、汚れちゃったよー。
 てことで、濡れた足を台所で洗っていた。
 そのわたしの背中に、Be-Puちゃんは悲鳴をあげたんだ。

 濡れた右足を流しに突っ込んで、水道水で洗っていたわたしは、考えた。
 あ、ひょっとして、「流し台に足を乗せるなんて、緑野さんたらなんてお下品なのっ?!」という意味かしら。
「仕方ないじゃん、濡れた足で風呂場まで歩いたら、その分家の中が汚れちゃうし。流しまでは3歩だったし……」
 言い訳するわたしに、Be-Puちゃんは言う。
 わたしが夢にも思わないことを。

「そーじゃなくて、なんで流しに片足を乗せることができるのっ?! わたしだったら絶対届かないよ!」

 …………はい?

「身長差ってすごいよね。わたしなら、そんなことやろうなんて、思いつきもしないよ。わたしと緑野さん、身長差20センチもあるもんね」

 ちょっと待て。
 20センチ?
 Be-Puちゃんあんた、身長いくつよ?

「153センチ」

 ……153センチでどーしてわたしとの身長差が、20センチなの?

 まずいと気づいたのか、Be-Puちゃんはあわてて言い直す。
「約20センチ」

 どーせわたしたち、アタマひとつ分身長ちがいますけどね。
 Be-Puちゃん。あーたいちいち過剰反応しすぎ!
 なにかと思ったよ……。

 
 思い出したわ、わたしとBe-Puちゃんの出会い。

 わたしとBe-Puちゃんは、同じ会社にいた。が、持ち場も立場も違ったので、接点はほとんどなかった。同じ年だということぐらいか。
 そりゃ会えば挨拶はするよ。天気の話くらいもする。でも、それだけだった。
 ところが、わたしと彼女はある日親しくなった。何故か。

 マンガの貸し借りをしたんだ。

 話のはずみで、「途中まで読んだけど、つづきを読んでない」という『Jドリーム』を、わたしが彼女に貸したんだ。
 なんだ、そのマンガならわたし、全部持ってるよ、と。

 ただの親切、深い意味なんかない。
 持っているものを貸すくらい、日常さね。

 しかしBe-Puちゃんは、微妙な表情でわたしにそのマンガを返してきた。
「ありがとう、とてもおもしろかったわ。とくに、緑野さんのツッコミが」

 ……わたしのツッコミ?

 さぁーーーっ、と青ざめる緑野。
 家であわててチェックしたさ。『Jドリーム』を読み返したさ。

 ああ神様。
 わたしったらわたしったら、ツッコミ入れてます。
 北村と鷹がラヴラヴすぎてものすごいことになってるところに、「おいおい」とか「愛ね」とか「見ている方が恥ずかしい…」とか。
 書き込んでますのよ、ツッコミを!!

 忘れてたよ、そんなこと!

 解説。
 『Jドリーム』ちゅーのは古いサッカーマンガです。
 Jリーグ設立、つーて日本中がJリーグブームだったころの。
 主人公は天才少年、鷹(小柄で華奢なかわいこちゃん)。とにかく天才。ほんまもんの天才。だから努力なんかしないし、超えるべき壁もない。スタートから万能。
 天才であるがゆえ、彼は常識に縛られない。翼のある彼は自由にはばたく。凡人には理解できない高みで気まぐれに生きている。
 万能のスーパーマンが主人公じゃ、物語になんないよね。彼が本気になればなんでもできちゃうんだから。
 でも鷹は本気にならないの。ガキだから、大人の事情も都合もおかまいなし。
 鷹があまりにも読者の理解しがたい位置にいるから、読者視点の主人公として北村(ごつい。でかい。見ようによってはハンサム)という男がいる。鷹よりずっと年上。苦労人の小心者。努力家で熱血漢。とても主人公らしい主人公。才能だってあるけど、彼の人生は困難だらけで、壁をいちいち大騒ぎして超えていく。
 鷹だけなら物語にならない。北村だけならありきたりすぎる。
 このふたりが共に主人公だというのが、おもしろい。しかもあくまでも鷹が中心てのが。

 気まぐれな天才、鷹。本気になれば世界を獲ることだってできるのに、それをしないでへらへら生きている。
 そんな鷹が本気になるのは……北村の涙を見たとき!!
 傷ついた北村のためだけに、鷹はその翼を広げる。たぐいまれな才能を存分に発揮する。

 とゆー話。
 あまりにものすごいので、ついツッコミを書き込んでしまっていたわけだ……。
 北村のくやし涙を見て、彼のためにいきなり真面目に戦いだす鷹とか、それに感動してマジ泣きする北村とか、それをあたたかい目で見守っている仲間たちとか……。
 読んでてアゴが落ちたからさ。おいおいお前ら正気か?! てなもんで。

 今日たまたま読み返しちゃったのよね、『Jドリーム』。
 んでもってその書き込みを見つけて……そーだ、これだ! と思い出した。
 このツッコミのせいで、わたしがヤオイスキーだとBe-Puちゃんにばれちゃったんだ。
 Be-Puちゃんも同じヤオイスキーだったから、それ以来徐々に仲良くなっていった……。
 お互い、どこまで本性見せていいのかな、と手探りしていたよ。なまじ同じ職場の人間だからねえ。気まずくなるとこまるしさー。
 そうそう、好きで読んでることは言えたけど、書いてることは長い間言えなかったなー。でも、彼女の友人とかいう人が、わたしのペンネームを知っていたとかなんとか、とにかく思いもかけないところでバレて、気まずかったっけ。
「緑野さんが言えなかった気持ちわかるわ。わかるけど、おどろいた」
 宝塚からの帰りの阪急電車で突然そう言われて、心が冷えたっけ……ああ、ひとつ思い出したらいろいろ思い出してくるよ……。
 あと、ばれたならいいや、と思ってわたしの書いたやほひ本をプレゼントしたら、えらくショック受けてやがったし。
「そうよね、わたしたち大人だもんね……大人だからいいのよね……」
 って、マジに言われて、ものすごーく恥ずかしかったなー。そうだよ、大人だから小説でSEXシーンを書いたってべつにいいんだよ。つーか、もっと過激なものを読んでるくせに、友人の書いたSEXものってだけで本気で照れるな! おかげでこっちまで恥ずかしかったじゃないか!(笑)

 人に歴史あり、思い出あり。
 Be-Puちゃんとわたし。

 そして『Jドリーム』には他にも思い出あり。
 友人オレンジとも、盛り上がったんだよな。鷹×北村で。
 鷹って男前すぎる、とか。完璧な攻様、しかも亭主関白、とか。(繰り返しますが、鷹は小柄で華奢なかわいこちゃんです。んでもって北村はごつくてでかい大人の男です)
「鷹のプロポーズの言葉。『お前をアジアの大砲にしてやるよ』、って……すごすぎー。男前ー!」
「そんでもって北村、即OK!!」
「早っ」
 てな会話できゃーきゃー長電話してた。まだオレンジが大阪に住んでいたころ。
 なつかしーなー。
 『Jドリーム』を読み返しながら、この「お前をアジアの大砲にしてやるよ」のシーンで思わず吹き出してしまったよ。オレンジとの会話を思い出して。

 人に歴史あり、思い出あり。

 そしたらものすごいタイミングでオレンジから電話。
「新刊、読んだよー」
 という内容だったけど、あんたタイミングよすぎ(笑)。今まさに、あんたのこと思い出してたんだよ。

 人に歴史あり、思い出あり。
 そーやってわたしたちは生きている。

 
 パソコンは依然調子悪。
 こまったなあ。どうしようかなあ。
 他はすべて問題ないと思うんだけど(周辺機器はまだなにもつないでないし、使っていない機能もいっぱいあるから、それらの不都合はわからず)、Premiereの調子が悪い……。
 なぜだ。
 そもそもわたしが2回目の再セットアップを決心したのはPremiereが壊れたからじゃないかー。なのにまたしてもPremiereの調子が悪いなんて。
 Adobeのばかー、Sonyのばかー。

 パソコンのお守りをしながら、ひたすらコントローラ握ってました。
 Premiereの調子が悪くて、作業に3倍くらいの時間がかかるの。
 9分の動画を加工するのに、30分ほどかかるのよ。しかも、2GB以上のデータはエラーがでるの。
 通常なら数時間で終わる作業がその3倍必要ってことで、丸1日つぶれてしまった。
 仕方ないから、ゲーム三昧。

 わたしが家にいてうれしいのか、猫がやたら元気。走り回る、鳴きまくる。ついでにあちこちおしっこしまくる。……怒。

 
 『一万人の第九』初練習日。
 6時半からなのに何故わたしは、6時の段階でまだお風呂に入っていたのでしょう。
 あらっちときんどーさんには、「遅いから、緑野ちゃん練習のこと忘れてるのかと思った」とまで言われ。
 忘れていたわけではありません。ほんとーに他意なく風呂に入ってました……。いいじゃん、本練習までには間に合ったんだから。(初日は事務連絡があるので、練習自体がはじまるのは7時くらいから)

 今年の先生はなんと、二足のわらじで参加する、もうひとつの合唱団の先生でした。うっわー、偶然。ふたつの「第九」が両方同じ先生だなんて。
 ありがたいけどね。発音とか解釈とか、同じ先生の方が混乱せずに済むから。
 そして、それと同時に「顔をおぼえられるとこまるなあ」というのがある。……だって、さぼりにくいじゃん。

 『一万人の第九』のチケットは、昨日の発売日で即完売、オークションでは剛毅な値段で出ているらしい。やはり平井堅効果か?
 つっても毎年売り切れるのが当たり前らしいから、固定ファンがいるのかな、このコンサート。

 きんどーさんも『竜馬の妻とその夫と愛人』を見たそうだが、やはりあのオチについては疑問が残ったらしい。「あれって、いいの?」と。
 ねえ? いいのかねえ?

 
 クリスティーナさんとデート。

 クリスティーナさんは名字を聞き返されるのが嫌い。
 初対面で名字を言ったとき、相手に「は?」と返されると、「二度と名乗ってやらない」と思うそーな。
 つまりそれくらいよく聞き返されるらしい。かわいい名字なんだけどな。
 あるとき仕事で電話をかけたとき、彼女はきちんと名乗ったのに、「**さーん、**社のクリスティーナさんからお電話でーす!」とやられてしまったらしい。「どっからクリスティーナ? わたしゃばりばり日本人じゃ!」と憤慨していた。

 さて、クリスティーナさんはBe-Puちゃんの同期入社フレンドで、わたしは彼女と一時期同じフロアで働いていた。そりゃーもー、仲良かったっすよ。仕事に支障が出るくらい、仲良くしてました(だめじゃん! ……そーいやわたし、Be-Puちゃんとは同じ店で働いたこと一度もないんだよなー。なんで仲良くなったんだっけ?)
 クリスティーナさんはわたしに会うたび、メールをくれるたび、「Be-Puさんに連絡が取れない」と嘆いている。「もうどれくらいBe-Puさんに会ってないだろう。声も聞いてないわ」と。
 わたしだって以前ほどBe-Puちゃんには会ってないけど、それでも月に何度かは会ってる。ちゃんと連絡取れるよ?
「Be−Puちゃん、クリスティーナさんに会いたくないんじゃないの?」
「ねえ? そうとしか思えないよねぇ?(ちょっと怒り。ほとんど笑い)」
 ちなみにわたしは、会うたびBe−Puちゃんには「クリスティーナさんに連絡してあげなよ、嘆いてたよ」とせっついているんだ。なのにBe−Puちゃんは依然連絡をしていないらしい。おいおい。
 前にわたしがクリスティーナさんと会ったのって、いつだっけ? まだトド様がトップのころじゃなかったっけか? 次のトップはブンちゃんだねえ、って話をしたような。
 そしてそのときすでにクリスティーナさんは「Be−Puさんに連絡が取れない」と嘆いていた……。

「昨日、Be−Puさんに電話したのよ」
 と、クリスティーナさん。
「ほお」
「出なかったわ」
「……夜遅くにかければ出るんじゃない?」
「そう思っていつも11時くらいにかけるんだけど」
 わたしがかければ、出てくれるよ? それくらいの時間。もしくは留守電に入れておけばリターンしてくれるし。
「電話ちょうだい、メールちょうだい、って言っても、返事くれないのよ」

 ……Be−Puちゃん、マジ、クリスティーナさんを避けてる? ← いや、たんにズボラなだけッス(笑)。

 もうこうなると、どこまでクリスティーナさんがBe−Puさんにフラれつづけるか、たのしみになるなー。
 すでにふたりが会えなくなってから、雪組のトップは3人目だぞ?!(笑)

 クリスティーナさんとは東急ハンズの喫茶店で6時間しゃべり倒した……。
 この前会ったときは、ヨドバシのコムサカフェで7時間ほど喋ってたのよね。
 どちらも追加オーダーなし、閉店なので仕方なく店を出たという。
 今のところ、1店居座り記録はクリスティーナさんとのみ更新中だわ。

 
 HAPPY BIRTHDAY TO ME !!

 誕生日だけど、他人にオルデトウを言っています。
 旧友のミヨの結婚式。
 なにもわたしの誕生日に嫁に行かなくてもいいだろう? わたしのことを置いてゆくのね? つーか、いつまでわたしは独身なんだ? ととほほな気分にもなりながら、友を祝福。

 これで学生時代の同じクラスの仲良しは、ちょうど半数が結婚したことになる。
 残っているのは、わたしの他はグループ内でいちばんの美人のイシちゃんと、いちばん華やかでかわいらしいスノオちゃんだ。
 なんでよりによってイシちゃんとスノオちゃんが残ってるかな。いちばん先に行くかと思ってたのに。
 バンカラなヤマダさんがいちばん最初に行き、少年のようなリーが次に行き、そしてクールなミヨが今回かよー。
 最後に残るのはだれだ?
 ……わたしのような気がする……。

 とにかく、1泊2日の東京行き。ヅカとメル友とデートと結婚式で、ハードスケジュールさ。へとへと。
 それでも帰って来たら、またしても『零』をやっていたりな。
 弟がわたしの部屋にぺたんと腰を落ち着けちゃうもんだからさ、一緒にあーだこーだと仲良くゲームをしちゃいましたよ。
 35の姉と、32の弟が、仲良くテレビゲーム……。なにをやってるんだ……。

 わしがなかなか嫁に行けないわけだよ……。

 
 衣替えをしようと思った。

 が。
 タンスの前には本の高層ビルディングが建設されている。
 まずはこいつをなんとかせんことにゃあ、引き出しが使えない。

 ……なんか1日、衣替え(以前の作業)で終わっちゃったんですけど? はあはあ。

          ☆

 ブンちゃんとまひるちゃんの退団記事は、白黒の上、小さな扱いだった。ナルセのことにはまったく触れてないし。
 つまんないぞ、スポニチ!

 
 パソコンがフリーズした。
 よくあることだ。
 動画処理を主な任務のひとつにしているMYパソは、とにかく不安定で、買ってからまだ8ヶ月だっちゅーに落ちまくる。
 ……のはもー、あきらめてるけどさ。
 日記書いてるときに落ちるなよーーーっ。
 このサイト、バックアップないっつーの。

 大したことは書いてなかったんだけど、書いてる途中で全文消えたので、いったんフテ寝した。

          ☆

 わたしはささやかなアルバイトを続けている。
 1ヶ月に1度、アンケートを提出する。それで500円の図書券がもらえる。
 とゆーアルバイトだ。

 そこはリサーチ専門の会社で、様々なジャンルの調査を行い、その情報を企業に提供することで糧を得ている、らしい。
 そしてたまたま、わたしにも協力の依頼が来た。
 なんでわたしなの? どっかの懸賞かなんかに応募したときの個人情報が漏れるなりしたのかしら、と危惧して訊ねた。
 向こうが言うには、役所を通して得た個人情報だというんだな、これが。
 一般市民に調査を行うためには、そこの役所に行き、書類を提出し審査を受け、真っ当な調査であることを証明した上で許可を受けるのだそーだ。そこで得たランダムな名簿をもとに、アンケート調査の依頼に来た、と言う。

 ま、難しいことはどーでもいーや。
 要するに毎月アンケートに答えたら500円もらえるのね? いーよべつに。

 そうやってわたしが依頼を受けたアンケートのジャンルは、「化粧品について」だ。
 毎月、購入した化粧品を報告するわけだ。
 A4サイズ16ページからなる冊子に、項目別(ファンデーションとか口紅とかあぶらとり紙とか)に記入する。買った日にち、店名、個数、値段、商品の正式名称、バーコード。
 最初は面倒だったけど、要はその項目にある品物を買ったときにだけその場で記入すりゃいいわけだから、慣れればどーってことはない。
 そして月末に、買わなかったモノの項目にチェックを入れて月が変わったら投函。

 それが8月末から今月にかけて日付の感覚がなくなるほど多忙だったために、このアンケートのことをきれーさっぱり忘れてた。
 催促の電話が来たので、東京へ向かう電車の中で最後のチェックをする。
 買ったのに記入忘れで無記名なのか、買わなかったから無記名なのかを判別するために行う、最後のチェック入れね。
 それをやりながら、またしても思う。
「なんでわたしなんだろ?」
 このアンケートを書くとき毎回思うんだけどさー。ここ2ヶ月はほんと、しみじみ思ったよ。
 だってわたし……化粧しない人なんだもん。

 化粧品はほとんど買わない。
 化粧をしないから。
 肌が弱くてね。だめなんだわ。
 いろいろあってさ、紆余曲折の果てに化粧するのをあきらめたんだ。

 つっても、なにもしないとただのブスだから、最低限のポイントメイクだけはする。眉と目元と口紅と。
 夏は仕方ないから日焼け止めだけは使う。

 基礎化粧品も使ってない。
 無添加石けんひとつだ。なにも塗らない。
 でも肌はきれいだとほめられるぞ。昔、「大人だからお化粧しなきゃ」という固定概念に追い立てられ、いろんな化粧品に頼っていたころよりな。
 髪は無添加の外国製石けんシャンプーとコンディショナーを、わざわざ通販している。石けんシャンプーもいろいろ試したが、今使っているものがいちばんわたしの髪に合うようだ。

 こんな生活だから、化粧品買わないんだよ、ほんと。
 口紅とかマスカラとかを年に1回買うくらいかな。ショートヘアだからシャンプーの減りも少ないしな。
 ダイエット食品もサプリメントも買わない。ダイエットは薬や食事制限ではなく、運動で引き締めたい人間なんだ、わたしは。
 いちおーエコロジーなんかにも興味があるので、歯磨き粉もほんの少ししか使ってないもんでな、これもまた減りが少ない。

 唯一、鎮痛剤だけは定期的に買っている。頭痛持ちだからだ。
 化粧品のアンケートだけど、薬についても記入欄があるんだな。薬局で売っているもの全般、ナプキンやパンストまで記入欄があるのよ。生理用品は買うけど、わたしパンスト穿かないしなー。身長のせいで合うパンストが少なくて、キライなんだわ。
 化粧品についてのアンケートだってのに、わたしが記入するのは毎月1箱買う鎮痛剤と、数ヶ月に1回生理用品についてだけ。
 なんだかなー、悪いなー、こんなんで500円もらって。
 そう思いながらやってたんだけど。

 ここ2ヶ月はさ。
 その鎮痛剤すら前にまとめ買いしちゃったんで、買ってないのよ。

 つまり、なにも買ってない、まったく記入なし。
 すべての項目の「なにも買ってないから書きようがねーんだよ」枠に、チェックを入れる。

 なんでわたしなんだろね?
 他のことならもー少し、記入しようがあるんだけど。
 なんか悪いよーな気がするのよ。
 ここまでなにもせずにお金だけもらってると。

 
 平井堅が『一万人の第九』に参加する。

 いやあ、朝からうれしいニュースだ。

 関西名物、『一万人の第九』に参加しはじめて、今年で何回目かな。佐渡裕氏参加と同時にはじめたの。
 最初の年は、ひたすら感動した。「第九」っちゅー歌のことをなにも知らなかったから、すべてが新鮮だった。
 司会者として俳優の内藤剛志が参加していたのも、よかった。佐渡氏もノリノリで、「新しいことをやってやろう」という野望がきらきらしていた。佐渡さんと内藤さんの掛け合いは、「君ら本職なんやったっけ?」という関西人ならではのものだったし。
 2年目も佐渡&内藤コンビ。見事に「続き物」の構成。おいおい、そんなにふたりして「去年はこうだったよねー」「だから今年はこうしようと思って」とかを全面に出してていいのか? 今年はじめて参加する&見る人たちはわけわかんないぞ、それじゃあ? 読み切りだと思って買った本が、「シリーズの2冊目かいっ、1冊目読んでねーからわかんねーよ、疎外感ありまくりだよ!」って感じ。
 たのしかった。
 ところが。
 3年目は内藤さんが不参加。かわりにどっかのアナウンサーだかタレントだか知らん、どーってことのないおっさんが司会をやった。
 テンション、下がりまくり。
 なんなの、このつまんない構成。お仕着せのトーク。
 佐渡氏のテンションも低く、「仕事だからな」って感じが見える。1年目2年目のあの「オレはやるぜ!」な鼻息はどこへいったの??
 がっかり。

 そして、今年が4年目か。
 また、昨年司会やったおっさんが出てきたらどーしよーかと思ってたんだが。
 とりあえず平井堅が出てくれるのは朗報だ!!
 たのむ堅ちゃん、佐渡さんのテンションをあげてくれ!! あの人、いったん盛り上がったらめちゃ暴走するんだよー、すげーたのしいんだよー。
 2年目なんか、歌っててめちゃ感動したよー。

 つーか。
 単純に、平井堅の歌を生で聴けるのがうれしかったりな(笑)。

          ☆

 今日は3回目の月組公演。

 まいったな、腐っても1列目だわ。
 なんか、よかったのよ、芝居(笑)。これぞ1列目マジック。

 「もう二度とないかも」と思って、ゆーひの足首に注目してました。男役の足首(ストッキング+パンプス)をこの近さで見ることはないだろうから(笑)。

 タイトルのおぼえらないこの芝居、石田作品にしちゃーかなりマシ。とはいえ、突っ込みたい、直したいところがいろいろあって、精神衛生上よくない。なんでここでこーするかなー、くうぅ。ってのの連続。

 タイトルもなあ、「長い冬」の「果てに」だったらまだ理解できたんだけどな。トラウマ医者がそれを乗り越え、自分を取り戻す話ってことで。
 「長い春」だと、なにが春なんだか(恋してねーじゃん、主役医者)わかんねーし、しかも春が「果てに」なったらまずいだろ?
 出会ってから結ばれるまでが長い物語、ちゅー意味のタイトルなんだろうけど、「長い春」が「果て」たらそれ、「破局」じゃん。日本語として。
 タイトル、思い切りまちがってる……。
 わかるけどさ……。「冬」より「春」の方が通りがいいからそうしたんだよね? 単語のイメージがいいから。んでもって「果て」っていうとなんかカッコよさげだもんな。しかも「果てに」ってやるとなおカッコよさげだもんな。
 企画会議で通りやすい名前だな。
 年寄りの好きそうなセンス。
 そして抽象的だから、本編の内容が多少変化しても誤魔化せる。
 だからこんなタイトルなんだよね、石田センセ?

 ショーではわたし、いちばん好きなのは「少年時代」ってシーンだわ……。長すぎる、あきる、と悪評のある、アレ。
 なんか好き。
 あの衣装、あのダンス。
 ケロたちの女装はべつに、どーでもいいの。いるから見ちゃうけど、いなくてもたぶん、いちばん好きなシーン。
 だってあのシーン、気持ち悪くない……?
 「陽気な悪夢」って感じで。
 同じ顔同じ姿の女の子たちが、たんぽぽの綿毛みたいに揺れて弾んで増殖してるのよ? 気持ち悪いよ。 動きもデフォルメされてる感じで。
 そして、その気持ち悪さがツボ。
 悪夢だ。これはいつか見た悪夢の世界だ。と思って、ぞくぞくする。
 いやー、好きだなー(笑)。

 「オリエント・ファンタジー」では、まともにケロちゃん見てた。よそ見せずに(笑)。
 そしたら、海軍将校その他のひとりであるケロちゃんが、オリエントなお嬢さんに恋に落ちる過程がよーくわかりました。うわ、マジ恋に落ちてるのがわかる……。かわいい……。
 ここでのポイントは、ゆーひくんをまともに見ていても、「恋に落ちる」ところは見られないってことでしょうか。どうやらゆーひ将校にとってのオリエント娘は、「遊びの恋」の相手みたいっすね(笑)。
 いやあ、君はそれでいいよ、それでこそゆーひだ(笑)。

 一昨日、ケロがゆーひの頬に触れていたシーンでは、今回はなにもありませんでした。つーことはやはりあれは「ラッキー」なシーンだったってことか……。まあ、あれがアドリブでなく、振りとして決められていたら、それもイヤだしな(笑)。
 しかし今回は、ゆーひの腕をケロが一瞬掴んでいたよーに見えたんだが、わたしの妄想か?

 そして……。
 この公演、きたじままみ氏がやたらめったら目に飛び込んできてこまってます……。なんでこんなにあの人がどこにいるかわかるのかしら。
 雪のまちかめぐる氏と同じ現象です……。まいったよ……。

 

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