どこか、かわいい子猫いませんかね……。

 いい加減限界だー。
 こんな寒い朝、寒い夜、猫がいない生活なんて。


 トコはその夜、よろよろのカラダでわたしの部屋にやって来た。
 それまでずっと、1階のコピー機の陰に隠れるように、誰にも触られない・見られないところで寝込んでいたのに。
 骨と皮だけのカラダで、2階まで上がってきた。

 彼女が全快する未来を疑ってもいなかったわたしは、「よくなってきてるんだ」と喜んだ。
 今まで飼っていた猫は、ほんとうに具合が悪いと、ほんとうに別れのときが近いと、人間の目と手の届かないところを望むようになったから。

 その1日半後、トコは死んだ。

 やっぱり、わたしの部屋から逃げ出して、1階のコピー機の陰で、だったけど。
 そこがいちばん楽な場所だったんだろうに、それでもわたしの部屋までやって来た。
 わたしのそばまで来て、横になっていた。
 カラダの許す限界まで、わたしのそばにいてくれたんだ。

 よくなると信じていたから、薬もエサも与え続けた。
 手遅れなら、そっとしておいたのに。あんなに嫌がるのを押さえつけて、飲み込ませなかったのに。
 治るって信じていたから。疑ってなかったから。

 エサを食べなくなったトコの口をこじ開けて、獣医さんから指示されたエサと薬を注射器で飲み込ませるのが、わたしの日課だった。
 噛みつかれ、引っかかれ、手が腫れ上がり仕事もできなくなり、わたしも病院へ通い、指にプラスチックを巻いてガードして、それでもエサと薬を与え続けた。
 嫌がるのを捕まえてケージに入れ、獣医さんに連れて行った。

 嫌がることばっか、してたなあ。
 なのに、それでも、部屋まで来てくれたんだね。


 手のケガが治っていくのを、爪の中の出血のあとが、消えていくのを悲しく見ていた。
 手が治る頃には、またトコに会えるかな。きっとすぐに生まれ変わって、会いに来てくれるよね。
 この内出血した親指の爪が生え替わる頃には、新しいトコに会えているよね。

 そう思って待っているのに、まだ出会いがないよ~~。

 爪は生え替わってしまったよ。
 血の色の残った最後の爪を切ったとき、泣けて泣けてしょうがなかった。

 トコが残したモノが、わたしから消えてしまった。


 どこかに子猫、いませんか。
 新たに縁があった子猫を、トコの生まれ変わりだと思って、大切にします。

お祈り。

2008年8月12日
 小学2年生のときに、今の家に住むようになった。
 祖父と祖母とわたしの3人。
 途中から、猫1匹が加わった。

 3人と1匹の生活。

 少女だったわたしは、毎晩眠る前に、誰にともなく祈っていた。

「世界が平和でありますように。おじーちゃんとおばーちゃんと猫が、元気で長生きしますように」

 
 それまで眠っていたはずの猫が突然、大きな声で鳴き出した夜、そのすぐあとに電話が鳴った。
 祖母の訃報の電話だった。

 そして、家に残ったのは、祖父とわたしと猫。
 ふたりと1匹の生活。

 おばーちゃんになついていた、おばーちゃんが逝く瞬間に突然鳴き出した猫は、それからすぐにおばーちゃんのあとを追っていった。
 おばーちゃん、ひとりだと寂しかったんだと思う。
 猫はおばーちゃんを守りに行ったんだ。

 そして、家に残ったのは、祖父とわたし。
 ふたりだけ。

 祖母の納骨式の日、行方不明だった従兄弟がひょっこり現れた。一時期はこの家に預けられていたこともある、縁薄めの兄弟みたいな相手だ。
 彼は、1匹の子猫を連れてきた。

 久しぶりに会った従兄弟は「どこのヤクザ?!」な風体だったけど、顔と調子の良さだけで生きてきた身軽さで、わたしたちに子猫を託してまたいなくなった。以来、生死を含めて行方不明のまま。

 わたしたちのもとには、猫1匹が残った。

 そしてはじまった、祖父とわたしと猫1匹の生活。

 加齢によるおぼつかない足取りで、それでもおじーちゃんは猫を抱いてよちよち歩いた。
 毎日毎日、よちよち歩いた。
 猫を抱いて歩く祖父の隣を、わたしも歩いた。彼らが転ばないよう、見守りながら。

 21世紀を間近に控えた頃、祖父もこの家を去った。
 入院先の病院で、猫に会いたがっていた。家族は見舞いに行けるけれど、猫は行けない。
 元気になって家に帰り、また猫を抱くのだと、最後まで言っていた。

 そして、家に残ったのは、わたしと猫。
 ひとりと1匹の生活。

 3人と1匹だったのに。
 気がつけば半分だ。

 猫を膝に抱いて、わたしはブログなんぞをはじめる。
 大好きなタカラヅカのことを書く。
 ブログのプロフィールに載せるのは、とーぜん猫の写真。

 ひとりと1匹の生活。
 寂しいね、人口半減だよ。でも、ひとりぢゃないから、いいか。

 そして。

 いつからわたし、お祈りしなくなっていたのかな。

「世界が平和でありますように。おじーちゃんとおばーちゃんと猫が、元気で長生きしますように」

 祈っても、なにひとつ叶わないし。
 わたしはもうとっくに少女ではなく、漠然とした祈りより、明日の予定とか心配事とか、目の前の現実に振り回されていて。

 
 2008年8月12日、夜。
 猫が逝った。
 

 最初は、3人と1匹だったのに。
 今はこの家に、わたしひとり。

 小学2年生でこの家に来た。自分の部屋をもらい、暮らしはじめた。
 それ以来、はじめて、ひとりになった。

 変だな。
 夢の中ではしょちゅう、当たり前におじーちゃんは居間でテレビ見てて、おばーちゃんは編み物してるんだけどなあ?
 猫だって、丸まってたり伸びてたり、エサくれって鳴いてたり、してるのになあ?

 
 わたし、いつからお祈り、しなくなっていたのかな。
 わたしの祈りなんか、なんの意味もないけれど。

 
 ありがとう。
 今、こんなにさみしいのもかなしいのも、今までひとりじゃなかったからだ。


ひどい。

2006年1月21日
 ほんの4000文字ほど、日記を書いた。
 しつこく『不滅の恋人たちへ』だ。
 けっこー時間も労力もかかっている。

 あとはタイトルつけて、アップするだけ。

 とゆーところで。

 猫に消された。

 猫が、マウスの上に坐りやがったの。
 んで、画面が前のページに戻った。たまたまポインタがそーゆー位置にあったらしい。
 あわてて現在のページにもどった。
 通常ならコレで、元通りだ。
 しかし。

 わたしが書いたはずのテキストは、どこにもなかった。

 ……もう寝よう。


 今日、猫を病院に連れて行った。

 ウチの猫は、痩せ続けている。
 数年前4kgあった体重が、今では3kgを切っている。

 4分の1以上、軽くなったということだ。
 体重40kgの人間が、28kgとかになっちゃったよーなもん?

 心配はしていたんだが、食欲はあるし、元気だし、意欲もあるし(しょっちゅーネズミを捕ってはわたしに見せに来る……)、あまり深くは考えなかった。

 でも先日、オレンジと長電話している際に猫の話になって、「やっぱ病気かも?」と思うようになった。

 完全な家猫で、外に出したことのない猫だから、外へ連れ出すのは大変。こわがって暴れるから、それを力尽くで拉致して運ばなければならない。
 わたしひとりでは無理。
 だからまず、家族の説得が必要だった。

「動物に医者など必要ない。自然の摂理に任せるべき」
 が、母の持論。
 ペットが病気になった場合は、下手な治療などせずに「運命だと思ってあきらめろ」ということだ。
 いつだって獣医に診せることを大反対する。

 仕方ないので、父を口説く。
 父は猫にめろめろなので、猫が痩せていることを説明して(みんな毎日見ているからか、痩せていることに気づいていない)、病院につきあってもらった。

 ふたりがかりで、暴れる猫を連れて、病院へ。

 
 そこで、ショックな事実を知った。

 
 検査をしたところ、猫はとーっても元気だった。

 原因はどうやら、母が与えていた超安い猫缶にあったらしい。
 猫は喜んで食べているが、栄養にはまったくならない「一般食」というカテゴリのエサだった。
 ミにならない安物の猫缶ばかりを食べて、栄養食であるカリカリをろくに食べなくなっていたんだ。

 そーいや猫が痩せだしたのって、親たちが猫の機嫌取りのために猫缶を与えだしてからだったかも……。
 カリカリより美味くても、ミにならないんじゃ、意味ないじゃん。

 
 猫が元気で、よかった。
 心からホッとした。

 
 だが。
 ショックな事実が判明したんだ。

 痩せ続けた猫。
 4kgあった体重が、3kg切っちゃったんですよ! 体重が4分の1から半分近く減っちゃったら、そりゃ心配するでしょう?!

「それじゃ、体重を計ってみましょう」

 と、先生に言われ、専用の体重計に乗せてみる。

 3.3kg

 あ、あれ?
 家で計ったときは、2.5以上3.0未満だったのに?

「家庭用の体重計では、どうしても誤差がありますからね」

 人間用の、とてもシンプルな体重計なんですけど。
 3kg切ったから、さすがに心配になって病院に連れてきたんだけど。
 ……切ってない?

 誤差?
 そーいや4kgのときは、別の体重計で計った数字だよな。
 んで、2kg台の数値は、今現在わたしが使っている安物の体重計で……。

 実際より、軽く表示される体重計ってこと?!

 ちょっと待って。
 待ってくれ。

 それって、つまり。

 わたしが今「自分の体重」だと信じている数値は、実際より軽い数値だってこと?!

 
 
 
 
 …………が−−−−−−ん。
 

 
 
 
 今わたし、人生で最大に太ってるんですが。
 その数値より更に、500gとか重いのが現実?

 
 ヘコみました。

 

Cat in the basket

2005年6月3日
 わたしの家にやってきた弟が、

「在中」

 と、にやりと笑って言えば、ある状況を示している。

 洗濯籠の中に、猫がいる状態。

 そう、洗濯籠。
 「これから洗濯するつもり」の汚れ物を入れた籠ではなく、「すでに洗濯済み。これからタンスなどに片付ける予定」の、きれーなモノが入った籠。

 なのに、そこに猫。

 季節は初夏。

 1年中でもっとも抜け毛する季節。

 う・きゃー。
 洗濯物が、洗濯済みモノが、毛だらけ〜〜っっ。

 とっととタンスなどにかたずければいいものを、わたしゃついめんどーなので洗濯籠に入れたまま放置、必要なときはそこから探し出して着る、とかをしていたのだよ……。

 
 弟はわたしが悲鳴をあげるもんだから、それを愉快がっていちいち教えてくれるのよ。
 猫が籠の中に入ってることを。

 
 何故なんだ、猫。
 わたしがその洗濯籠を使っているのは20年も前からだし、アンタだってわたしんちに来てから7年だか8年だか、一度もそんなところへ入ったことなかったじゃない。
 だから安心して使ってたのに……。

 何故今、いきなりそこへ入ることをおぼえたんだ?

 すぐにあきるかと思って、とくに叱ったり叩き出したり、「猫避けスプレー」をふったりもしてなかったんだけど。

 なんか、1日1回は入ってるよーな。

 
 ああ、しかし。

 籠に入っている猫を見つけると「在中」とだけ言う弟。
 彼は籠の横に膝をついて、しみじみ言う。

「かわいー」

 わたしも悲鳴を上げながら、わざわざ籠のある部屋へ行く。
 そして同じよーにのぞき込んで、しみじみ言う。

「かわいー」

 迷惑だって、悲鳴もんの出来事だって、わかっていて、どーしても強く叱れない理由。

 だってだって、かわいいんだものっ。

 丸いバスケットの中で、丸くなって寝ている猫……。

 かわいいっ、かわいすぎるっ。
 弟とふたり、飽きもせず猫を眺める。
 ああ、かわいい……。迷惑だけど、かわいいよ……。

 所詮飼い主バカ。


 チェリさんに「ミャウリンガル」を借りた。

 弟とふたりで、わくわくスイッチを入れる。
 最初に猫の個別データを入力するようだ。「えーと、種類はアメショー、性別はオス、と」弟がひとりでちゃっちゃと入力していく。
「……性格?」
 なんでも、入力事項に「性格」というのがあるのだわ。
「あまえんぼう、ピュア、しっかり者、クール、やんちゃ、お調子者」
 選択肢を弟が読み上げる。

「どれもチガウ」

「性格。性格ねえ。猫の性格なんて、一度も考えたことないよ」
「あえて言うならどれ?」
「あえて……ですらナイだろ、ここには」
「えーと、んじゃうちの猫のことをひとことで表現したら?」

「バカ」

 見事に、声がそろったよ。
 見れば当の猫は、機嫌よさげに部屋のドアの前で正座してこちらを見ている。お前だ、お前の話をしているんだ。

「バカって選択肢がなんでないんだ?」
「ピュアとかクールとか、なんか夢見てない? この選択肢」
「猫に対してドリーム入ってるだろコレは」

 意義を唱えたところで、選択肢から選ばなければ次へ進めない。

「消去法でいくか。しっかり者はチガウし、ピュアもちがう。やんちゃでもないし。お調子者ってなんだそりゃ、猫でそれはあり得ないだろ……残ったのは、クールとあまえんぼうだな」
「ソレ、正反対やん」


 消去法でしぶしぶ選んで、両極端の選択肢が残るなんて……なんて使えない性格分類だ。

 仕方ないので「あまえんぼう」にしてみる。まだこっちの方が「バカ」に近いと思うし。

 設定完了、さあ猫よ、鳴いてごらん。

 もちろん、鳴かない。
 鳴けと言って素直に鳴いたら、ソレはすでに「猫」じゃない。
 弟が必死に「ミャウリンガル」を猫の鼻先に突きつけるのだが、猫は後ずさるばかり。

 ついに猫は逃げ出した。階段を駆け下り、1階から顔だけ出してこちらをうかがっている。
 なにかもの言いたげに、鳴いてみせる。被害者ぶった鳴き声だ。

「おっ、『ほんやく中』になったぞ」
 弟が液晶画面の文字を読み上げる。

「“うれしいニャ。だいすき”」

 おおっ、翻訳したのか!

「マイクの感度、相当いいみたいだな。階段の下のあの声を拾うなんて」
「すごいね、さすが猫専用機械なだけある」

 と言っていたら。

「あれ、また『ほんやく中』だ」

 はい?
 猫、鳴いてないよ?

「“ボクはせかいでいちばん幸せだニャー”」

 ………………。

「ぼくたちの声を、翻訳したようだな」
「さすが猫専用機械」

 つ、使えねえ、ミャウリンガル!!

 マイクカンド、ソウトウイイミタイダナ。
 スゴイネ、サスガネコセンヨウキカイ。

 という音を、「猫語」として認識し、翻訳すると「ボクはせかいでいちばん幸せだニャー」になるわけだ。

 それでもめげずに猫を追いかけて、鳴き声を拾おうとしたんだけど。

 弟が突き出すと逃げる「ミャウリンガル」だが、わたしが突き出すとなにを思うのか、猫は頬ずりをはじめる。
 すりすりすり……いやあの、鳴いてほしいんであって、なついてほしいわけでは……。

「あっ、『ほんやく中』」

「“ニャンコみょうりにつきるニャン”」

 そうか、「ミャウリンガル」のマイクに向かって頬ずりする音は、「ニャンコみょうりにつきるニャン」という意味なのか。

 使えねえよ、ミャウリンガル!!

 発売当初以外、人の口に上らないわけだわ……ここまでバカだと。

 猫が実際に鳴き、翻訳されたとしても。
 それがほんとうに猫の声を翻訳したのか、わからない。
 外の車の音かもしれないし、テレビの音かもしれない。部屋の中を歩く音かもしれないし、マグカップをテーブルに置いた音かもしれない。
 猫自身のたてた音かもしれない。

 「ミャウリンガル」は、この世のすべての音を、「猫語」として認識し、日本語に翻訳し続ける。

 すげえや……この世のすべての音を翻訳。
 グローバルでファンタスティックだわ。

 てゆーか、使えなさすぎ。

 ありがとうチェリさん。
 「ミャウリンガル」堪能しました。


 今日は朝からミニ法事。
 明日が祖父の祥月命日だ。

 他人になつかないウチの猫は、何故かお坊さんの草履が好き。今日もまた、彼の草履の上で丸くなっていた。
 読経の最中に仏壇の上に飛び乗ったり、ろくなことをしないんだが、お坊さんは動ずることなくつとめを果たす。

 大目に見てあげてください、祖父が愛した猫なのです。
 亡くなる寸前まで、彼はいつも猫のことを気に掛けていました。大切な家族のひとりです。

「かまいませんよ、ウチにも猫が3匹いますし」

 まだ若いお坊さんはそう言って笑ってくれる。
 ウチの猫がなんとなくなついているのは、その臭いゆえだろうか。

「……にしても、太ってますね」

 ころんと誘い受するウチの猫の喉元を撫でながら、お坊さんが言う。

 飼い主は曖昧に笑う。
 あの、ぜんぜん、太ってません。けっこう痩せている部類だと思います。……心の中でつぶやく。

 ウチの子はたんに、顔がでかいんです。ふつーの猫の1.5倍、下手すると2倍くらいあるもので、痩せていてもデブにしか見えない罠。

 
 お坊さんを見送ったあと、郵便物を受け取った。
 かめたさんからだ。

 封を切ると、中からあざやかな赤い花のポストカード。
 9月29日、わたしの誕生花「チトニア」だそうだ。
 花言葉は果報者、幸福。

 浜名湖花博で買ってくれたって。
 遊びに行った先で、わたしのこと思い出してくれたのね。誕生日おぼえていてくれたのね。
 ありがとうありがとう。
 そのことが、すでに幸福、果報者。

     
 画像職人@デイジーちゃんから、メールが届きました。

「芸術的美貌は皆で分け合わないと。いやぁ、ファントムのたか夫さんは宝塚ファン全ての共有財産ですよね(爆)」

 とゆー語りと共に送られてきたのは、ファントム@たか夫さんの美しすぎる待ち受け画像!!
 ブラボー!!
 さすがです、画像職人様。大きな写真をPCに取り込み、小さな携帯画面で最高の美しさを保てるように加工してくれる、その技術と根性!
 GOOD JOB!! あんた神や。

 …………彼女はケロファンではないので、ケロちゃんの画像を作って送ってくれることはないんですけどね……他の美男たちはいろいろプレゼントしてくれるのー。わたしと彼女は男の趣味が同じなので、いつも同じ男にきゃーきゃー言ってます(笑)。

          ☆

 ところで本日、1週間ぶりに家の鍵を発見しました。

 先週、これから東京へ旅立つぜ、てなときに、鍵がなくなってわたわたしたのよ。
 なんでないの?
 家の中で紛失したことはわかっていた。わたし、どこかへ置いて、そのまま忘れちゃったのかしら?
 時間がなかったので、そのときは仕方なく予備の鍵を握って旅立ったんだけど。

 どこから出てきたって?

 
 猫の、しとねから。

 
 猫が普段寝ている布製バッグ(バッグだったのに……もうきゃつめのベッドにしか使えない……とほほ)から、出てきました。

 犯人はお前か!!

 
 FROG STYLEのキーチェーンをつけたわたしの鍵は、すっかり濡れてべたべたし、猫の臭いに満ちておりました……。

 おしっこまみれかよ……。がっくり。
 前もわたしの愛用のハンカチが、猫のトイレの中に連れ込まれていたっけな。カプセル状になったトイレの中に、わざわざくわえて入るなよ……いやがらせか……。
 
 
「まああ、猫ってば利口ねえ」
 嘆きながら鍵を洗うわたしに、親たちはのんきに言います。

「どこが利口なのよっ?!」
「コレを隠せば、おねーちゃんはどこへも行かない、って思ったわけでしょ? 利口じゃない」

 ……たしかに、外出するときは鍵を持って出るけどさ……猫もそれはおぼえているみたいだけどさ……。
 それで、隠すか?!
 浅知恵め。鍵を隠したって、出かけるわよー!

 
 ああ……鍵がくさい……FROGもくさい……。涙。

    
 そう、それは、ある昼下がりのことだ。
 わたしは出かけるために、自転車にまたがった。

 お天気上々、予定もいろいろ、さあ急いででかけましょう。

 そのとき。
 気づいたのだ。

 肩の上に、猫が乗っていることに。

 ママに爆笑されました……「猫を肩に乗せて、自転車を漕いでいる女がいる」と。

 わたしにとって、猫が肩に乗っていることは日常なのよ。
 だから、そんなことすーーっかり、忘れきっていたわ……。
 いちいち意識してなかったわ……。

 家の近所で気がついてよかった。
 もしそのまま、シャレにならない距離、気づかないまま自転車を漕いでいたら……。

 猫を家に置きに行くために、一度帰宅するハメになっていた。
 ああ、ぶるぶる。時間と労力の無駄。つーかそれじゃ、約束に間に合わなかったわ。

 爆笑する母に猫をあずけ、さあ、気を取り直して出発よ!!

 みなさんも、ペットを肩に乗せたままの外出には、お気をつけ下さい。

 
 猫には、霊が見える、って言うよね?

 実際、うちの猫もよく、どこでもない空間を見つめて静止していたりする。
 そこになにかいるのか、なにか気になるものがあるのか……。
 ただじいっと、虚空を見つめていたりする。

 今日もまた。
 ふと見ると、猫が……口を開けていた。

 うっすらと、口を開けたまま静止している。

 えーと。
 人間でも、口をうっすら開けたまま虚空を見つめている人って、こわいよねえ。指一本分くらい、なんとなく開いていると。

 猫も、3mmほど口を開けたままにしていると、こわいです。

 てゆーか。

 まぬけ。

 口、閉じろよお前。
 開いてること、忘れてるだろ。

 霊を怖がるメンタリティは持っていないので(ゴキブリの方がはるかにこわい)、虚空を見つめてかたまっている猫の姿は、わたしにはひたすら愉快なものに見える。

 

愛が欲しい…。

2004年1月16日
 犬は人につき、猫は家につく。

 我が家の猫は、わたしにだけなついている。
 わたしと猫は狭く汚いこの家で、とりあえずふたりっきりで暮らしている。

 抱っこされるのは大嫌いだけど、わたしの膝には乗ってくる。そのまま眠ってしまって、降りない。
 わたしがトイレに入ると、入口までついてくる。長く(つっても数分だけどさ)入っているとドアを掻いたり鳴いたりと大騒ぎをするので、いつもドアを少し開けてある。顔を見たら安心するのか、隙間から目が合うとそれでおとなしくなる。あるいは中に入ってきて、便器に坐るわたしの膝に乗ったりする。
 風呂に入っていても同じ。必ず1度はドアの前で大騒ぎをする。風呂のドアの開け方だけは何故か知っているので、勝手に開けて入ってくる。水が大嫌いだから、すぐに逃げるように出て行くけれど。わたしが長く入っていると、何度も勝手にドアを開けて、顔をのぞかせる。ドアの前でうるさく鳴く。
 夜はわたしのベッドの上で眠る。1時間おきくらいにわたしの顔をのぞきに来る。
 早朝のいちばん冷え込む時間になると、眠るわたしの頬を前足でつついてくる。肉球がぺちゃっと頬に押しつけられる。「いつもの体勢」というのがあり、わたしにそれを要求する。わたしの腋を枕にして、布団に肩まで入って眠る。いちばん寒い時間は、こうやって暖を取る、らしい。
 わたしが出かけるときは、玄関で大騒ぎをする。つっかけを履くだけなら反応しないが、下駄箱から靴を出して履くと必ず大騒ぎする。「どこへ行くんだ!」「おれも連れて行け!」と。後ろ足で立ってドアに前足をかけ(直立猫。けっこう長い。でかい)、ぎゃーぎゃー鳴きわめく。

 とまあ、猫とわたしはそれなりに仲良く暮らしている。
 猫はわたしにだけなつき、わたしの顔の見えるところにしかいない。わたしがいなくなることを、いつもおそれている。

 しかし。

 ……しかし、だ。

 わたしはよく、猫を親の家に連れて行く。
 出かけるときなどは、親の家に猫を預けていく。猫にとって、わたしの親の家はもうひとつの家である。

 親の家に連れて行くと、猫の態度は豹変する。

 人間きらい。
 触られるのきらい。
 抱っこなんてもってのほか。
 エサをよこせ。水をよこせ。でも触るな。

 わたしの家で暮らしているときは、わたしの膝が定位置なのに。そうでなくても、わたしの顔の見えるところにしか、いないのに。

 他の人にも触らせないが、わたしにも一切触らせない。

 しばらく預けていて、数時間ぶりとか何日ぶりとかにわたしの顔を見ても、ぜんぜん知らんぷり。
 わたしの顔を見ても、ちっともうれしそうにしない。
 呼んでも反応なし。

 親の家に行くと、わたしにも他の家族にも、猫の態度は一律同じ。
「知っている人」
 という認識。
 知っている人だから、危害は加えてこない。知っている人だから、要求すればエサをくれる。
 ……という認識。

 どういうことっ?!

 親たちは、信じないのよ。
「家では、猫はわたしの膝から降りないのよ。いつも一緒に寝ているのよ」
「嘘でしょ。だって、アンタが触っても逃げるじゃない。いやだって言うじゃない。ちっともなついてないじゃないの」
 家ではなついてるのよーっ。
 わたしのそばから離れないのよーっ。

 家とよそでは態度がチガウって、どういうこと、猫よ?!

 猫は、家にいるときに限り、わたしになついている。

 犬は人につき、猫は家につく。

 ……ねえ、ひょっとして、猫にとってわたしは「家の一部」ですか?
 猫の大好きな「自分の家」の、「お気に入りの場所」みたいなもん? 動いて、エサをくれたりする「場所」だと思っている??

 だから「家」以外の場所では、わたしのことは「お気に入り」とは認識されない?

 今も猫は、膝の上にいる。
 重い。

 
 今朝わたしは、某チケ取りのために必死に電話をしていた。
 子機を握りしめ、リダイアルしまくる。

 どれくらい経ったろう。

 電話の調子が、おかしい。
 ボタンに電気がつかない。
 小さくエラー音を出すのみで、どこを押してもなんにもいわない。
 当然、通話可能を表す電子音も聞こえてこない。

 まさか、壊れたっ?!

 リダイアルしまくってたから?
 とくにここ1ヶ月ほどは、やたらとリダイアルの嵐をしていたから?
 無理な使い方が祟ったの?

 ……にしたって、今このタイミングで壊れなくていいだろう!! 友会全滅して、まだ1枚も確保できてないんだから! 一般売りはまだだけど、ぴあで1番取るなりしなきゃ手に入らないのは目に見えてるし、大阪のぴあで1番に並ぶなんてまず無理だし、ああとにかく、今電話に壊れられるとこまるのよーっ。
 携帯は、今この瞬間共にチケ取りに励んでいる友人との緊急連絡用として空けてあるので、家の電話が壊れたら公衆電話に行くしかなくなる!!

 わずかな時間で、わたしの頭の中をいろーんな想いが走り去っていった。

 ああ、何故壊れちゃったの電話、こんな肝心なときに!!

 オーマイガッ!な気分のそのとき、ふと、小さな音が部屋の中から聞こえた。
 音の方を振り向くと。

 電話の親機の上に、猫が優雅に横になっていた。

 親機の液晶モニタが、点っている。
 つまり、現在「親機使用中」という意味だ。

 使用中、って。

 猫がボタンの上に乗ってるんじゃん!!!
 親機使用中じゃ、そりゃ子機は使えないよっ。

 猫が身じろぎするときに、小さな電子音が鳴る。FAX付きの親機は、猫が寝るのにちょうどいい大きさだ。

「降りろ、この飼い主不孝者がっ」

 ……結局、チケットは取れませんでした。泣。

 

猫と帽子。

2003年11月1日
 帽子を買いました。

 もともとかぶりものが好きで、今年の夏は3つも買ってしまったので、秋冬は去年のモノで我慢しようと思っていたのに……また、買ってしまった。

 それかぶってわくわくと東宝『王家』観に行ったんだよね。

 んで、帰ってきて。

 忘れた携帯を取りに行ったりなんだりでばたばたしたあと、ふと、その帽子を見れば。

 猫が、恍惚としていた……。

 帽子にアタマをつっこんで、くねくねあうあう、恍惚状態。
 ……なにやってんのよ……。
 見た目は愉快だからしばらくは笑ってたんだけど、いつまでたってもやめないので不安なった。
 猫を払い落とし、帽子を取り返す。

 すると。
 なんてことなの!
 わたしの買ったばかりの帽子!

 内側がぐっしょり濡れている!!

 まさかおしっこ?! と恐怖しながらニオイをかいだら、チガウ。ニオイらしいニオイはない。
 てことはコレ……。

 よだれっ?!

 なに考えてんのよ、猫!
 わたしの帽子になんてことすんのっ。

 払い落としても、油断するとまた、いつの間にか帽子に顔をつっこんであうあうやっている。
 置き場所を替えても、そこから持ち出して、あうあう。
 …………どうしたものか。

 今も、猫は帽子にアタマをつっこむようにして、しあわせそうに丸くなって寝ている。

 かわいい……(猫バカ)。

 
 猫のエサが、缶詰になった。
 それまではドライフード、カリカリだっのに。

 猫の愛を得たいがためだけに、わたしの親たちが猫に缶詰を与えたせいだ。
 口の肥えた猫は、おかげでカリカリに見向きもしなくなった。
 朝起きると、「親の家に連れて行け」と鳴く。
 つれていけば、親たちが「おー、よしよし」と缶詰を食べさせる。
 家に連れて帰ろうとしても「イヤっ」と言って、わたしの手から逃げる。

 むかーっ。
 アンタ、どこの家の子よっ?!
 飼い主は誰よっ?!

 そうやって数日が過ぎた。
 猫は、1日の大半を親の家で過ごした。わたしの家には、夜、寝に帰ってくるだけだ(わたしが無理矢理連れ戻す)。

「ほら、缶詰買ってきてあげたから、アンタんちで食べさせなさいよ」
 と、ある日母がわたしに猫缶の束をくれた。
 えっ、わたしの家でも缶詰を?
「用事があってアンタんちに行くじゃない。そのとき、家に猫がいないのがさみしくてねえ」
 そりゃいないよ。猫は今、缶詰で餌付けされて親の家にいるんだもの。
「アンタがアンタの家にいなくてもなんとも思わないけど、アンタの家に猫がいないとさみしくてしょうがないわ。だから、缶詰あげるから猫と一緒に家に帰りなさい。そして、わたしが用事があってアンタの家に行くときに、猫がいるようにしなさい」

 …………そんな理由ですか。

 とゆーわけで、わたしの家でも猫に缶詰をあげることになりました。
 猫缶を食べさせるようになった途端、猫は「親の家に連れて行け」とは言わなくなりました。
 ほんとーに、缶詰だけが目的だったんだな、おまえ……。

 

口の肥えた猫。

2003年7月25日
 昨日、さんざんキティちゃんとお喋りして帰ってくると、猫が誘拐されていた。
 うちの親が、わたしに無断でわたしの家から猫を自分の家に連れ帰っていたのだ。

 猫は、猫缶をもらってご満悦。

 ちょっとぉ、よくもそんなものを食べさせたわねっ。
 うちの猫のエサは「カリカリ」。つまり、ドライフードよ。なんでかってーと、それがいちばん安いからよ。
 高いエサを与えると、口が肥えてしまって安いエサを食べなくなる。だから缶詰は絶対にあげなかった。
 なのになのに。

「この子、ほんとに缶詰が好きみたい。ものすごい勢いで食べるの」
 あたりまえじゃん、値段がチガウんだからっ。缶詰を好きなことぐらい、はじめからわかってる。わかってたけどあえて、食べさせなかったのに。
「この子、ウチになついちゃってるわぁ。ほら、こんなにくつろいで」
 高いエサで餌付けておいて、母は満足顔。猫の愛を、エサで買うつもりなのだ。まったく。

 その満腹している猫を、連れて帰ろうとしたら。

 猫は、わたしの腕から逃げた。

 ……帰りたくない、だと?
 ここの子になるってか?
 むきーっ。アンタの飼い主は誰よっ?!
 逃げる猫を力尽くで連れて帰った。

 そして、今日。
 猫は玄関で正座する。
「親の家に連れて行って!!」
 と。
 ……どーすんのよ、味を占めちゃってるよ。
 仕方なく親の家に連れ行ったよ。そしたら母はまた、いそいそと缶詰を食べさせる。
 カリカリを食べなくなったら、責任取ってよ?

             ☆

 デイジーちゃんからTEL。
 昨日、おさあさ画像を送ってきたときは、まだきりやんのことを知らなかったのだと言う。
 いやあ、みんなが悲鳴を上げているときに、君ののんきなメールはほっこりしたよー(笑)。
 んでわたしは、画像職人の彼女にリクエストをしてみる。

「あのスワンレイクのおさあさだけどさ、アイコラでもなんでもいいから、もっと顔近づけて、ほんとにチューしてる画像作れない?」

 デイジーちゃん、ふたつ返事。

「わかりました、まかせてください」

 男前だぜ、お嬢さん!!
 できたら是非、待受画像にさせてもらうよ。携帯電話を開くたびに、おさあさのチュー。……うっとり(笑)。

 ついでに、『アイーダ』でホモパロやるなら、の話もする。
 いちばんやりやすいのは、チャル・ファラオ×ワタル・ラダメス……。
 し、しかしそれはな、あまりに本物くさくて……ちょっとな。やほひはファンタジーだからな……。
 それくらいならまだ、エチオピア・トリオでなんかする方がいいよな。

 友会からは、月バウの払い戻し書類が届いた。
 どーしよーかなあ。せっかく当たってたのになあ。
 周囲のみんなは、誰も「いる」と言ってくれないので、払い戻しちゃうかなあ。
 ま、明日の発売日以降に考えよう。

 
 3人で暮らしていたときは狭かった家も、ひとりで暮らすと空間が余る。

 そのいくらでもある空間の中で、わざわざ、わたしのそばを選んで丸くなる猫に、愛しみを感じる。
 そうか、お前、わたしのそばがいいのか。

 ……ただ。
 寝返りを打った途端、猫の背中に顔が埋まると、ショックだわ。
 ……吸い込んじゃったよ、息。猫の毛ごと。

 
 我が家の今日の事件は、猫の毛並みについてだ。

 ことのはじまりは、昨夜。
 オレンジと電話していたわたしは、猫が目の前を横切っていくのをなにげなく見ていた。
 そのときに、気づいたんだ。

「色、白い」

 色というのは、猫の毛の色のことだ。

「あれ? なんか、色が白いっていうか、薄い。あれ? なんで??」

 電話口で、本能のままに叫んだ。

 うちの猫は、一見アメショーである。
 正確には、アメショーとチンチラのハーフである。
 顔と体格がチンチラで、毛の柄はアメショー。ショートヘア、というにはちょっと長い毛並み。

 つまりアレだ、ホワイトタイガー。
 白いカラダに、黒いシマ。

 なのにふと、気づいたんだ。
 たしかにあったはずの黒いシマが……なくなっている。

 あれえぇぇえ??

 この発見を、今日他の家族に話した。

「ほんとだ、たしかにシマがなくなってる」
「いつから?」
「背骨に沿って黒い線があったよね? アタマからしっぽまでつながる長い長い線。消えてるよ??」
「毛の模様って消えるもんなの?」

 背骨の上を走る縦のトラジマはほぼ消えている。
 それに垂直に左右に連なる横のトラジマは、薄くなっている。ほぼグレーだ。
 毎日見ているだけに、変化に気づかなかった。

「なんか、だまされたみたい……。ボーダー模様のシャツを買ってきたのに、1回洗濯したら模様が全部消えちゃった、みたいな」
「この子がうちにきた最初は、模様がすごくはっきりしてたよねえ。おなかの両脇にある目玉みたいな模様とか」
「アメショーの証、みたいな目玉模様。ほんとに虎みたいにシマがくっきりしてたのに」

 黒かったはずのシマがグレーになってしまった今。

「使い古しのぞうきんみたい……」

 弟の表現が、いちばん的を射ていた。

 そう。
 美しさを誇ったはずのうちの猫は、気が付いたらぞうきん色の毛並みの猫に成り果てていた……!

 白とグレーの混ざり具合がもー、まさに「汚れたぞうきん」!!
 シマだったのに! トラジマだったのに! こんなまだら模様じゃなかったのに!!
 何年か前、大劇場の売店で「ホワイトタイガー」のぬいぐるみを「うちの猫に似てる」って理由で買ってしまうくらい、きれーなシマが自慢の猫だったのに!

「見た目がいいのだけが取り柄の猫だったのにな」

 我が家の歴代の猫たちの中で、今の猫がもっとも美しかったのだ。
 ただし、外見の美しさと反比例して、歴代の猫たちの中で「もっともバカ」なのだが。
 のーたりんでも、きれいだからゆるされていたのに!!

 今じゃ、ぞうきん猫……。

 何故だ?
 あの美しいトラジマはもう返らないのか?!

 
 猫は狭いところが好き。

 最近の彼のお気に入りは、家具の隙間。部屋の角、ふたつの家具と家具の間に、20cm四方の隙間がある。そこにわざわざ入る。
 なんといっても20cmしかないので、なにもできない。苦労して入ってなにをするのかと見ていれば、そこで彼は神妙に正座している。
 正座。
 両手両足をきちっとそろえ、正面を見て坐っている。
 ただ、正座。
 他の体勢はとれないので、寝ることもできない。
 ずっと、正座。
 他になにもできない。
 ……やがて、彼はまたもそもそと出てくる。

 なにがしたいんだ?

 1日に1回は、絶対そこへ入る。
 入ってただ正座をし、また出てくる。

 猫は狭いところが好き。

 彼はマウステーブルの上がお気に入りだ。
 ぴったりと収まっている。
 たしかに、マウステーブルは猫が丸くなるにふさわしい大きさだろう。専用に作ったのか、と言いたくなるくらい、ぴったりだよ。
 猫は、カラダにぴったりの場所に入る、という習性がある。それも、飼い主のそばで、「ぴったりの場所」を探す。パソコンの前にいることの多いわたしの飼い猫だから、マウステーブルの上がお気に入り、ってのは、仕方のないことかと思う。

 でもな。
 すごく、不便だ。

 今も、彼のカラダの下敷きになっているマウスを使うべく、手を突っ込んだ。
 すると彼は、「なにするのっ?!」という驚愕の顔をしてわたしを見る。
 いや、なにするのって、マウスがね、あんたの腹の下なんだよ。
 ごそごそと猫のカラダ越しにマウスを動かす。
 猫は「信じられない……ッ!!」という顔でわたしを見る。
 なにを大袈裟な顔してんだよ、こっちは使いにくいのを我慢してマウステーブルの上を貸してやってるってのに。ああそれにしても使いにくい。ん?
 ふと見ると、わたしの手は猫の股間に突っ込まれる形になっておりました。
 ……えーっと……でも、そこにマウスがあるわけで……。
 両足の間に手を突っ込まれた猫は、まことにいやぁな顔でわたしを凝視している。

 ……えっと。
 わたしべつに、アンタの股ぐらをいじりたいわけじゃなくてだね。
 ただ、マウスを……。

 猫は傷ついた顔で去っていきました。

 ……痴漢? アンタわたしを痴漢だと言いたいのかっ?!
 ムカつくぞ、猫!!

 とゆー穏やかな昼下がり。

 

愛は重い。

2003年2月10日
 今だ。
 今なら、彼は眠っている。

 抜き足、差し足。
 音をたてないように、こっそりと支度をする。

 これから家族で外食に行くの。
 彼が眠っているうちに……。

 家の前で待っている母に、
「やったわ、アイツは熟睡中だから、気づいてない」
 と報告。

 彼は寂しがり屋。干渉されるのはキライだけど、ひとりぼっちはさらに大嫌い。
 家にひとりで残されるのなんか、耐えられない。
 だからわたしが出掛けるときは必ず、
「どこへ行くんだ、オレを置いて行くな、ひとりにするな、オレもつれて行け!」
 と、ぎゃんぎゃんさわぐ。
 仕方ないのでいつも、親の家に預けに行く。

 でも今回は、家族総出でお食事だ。親の家も空っぽになる。
 彼を預けることができない。

 だから抜き足忍び足。
 彼が眠っているうちに……。

 玄関でコートを着ているときに。
 2階に、気配を感じた。

 まさかっ。

 振り返れば階段の上に、彼の姿が。

「がぁー……ん!!」

 彼の顔には、驚愕がわかりやすく文字になって貼り付いている。ええ、マンガなみにわかりやすい。ベタフラ背景に白目になった姫川亜弓ばりだよ。

 オレが寝ている間に、ナイショで出掛けようとしている……!!

 裏切られた!!

 とゆー、驚愕と傷心の顔なんだな。

 しばし「がぁー……ん!!」と硬直していた彼は、はっと我に返り、大慌てで階下に降りてきた。

 ぎゃんぎゃん、にゃーにゃー。
 足元で鳴きわめく。

 ああっ、うるさいっ。

 エサをやって、水をやって、彼がよそ見している隙に家を出た。

 つれて行けないのよ、親の家にも預けられないの。帰ってくるまでたかだか数時間、おとなしくしてろっつーの。

 たかが猫。
 たかが猫一匹ですとも!

 でも、小さな生き物に足元にすがりつかれて、
「どこへ行くんだ、オレを置いて行くな、ひとりにするな、オレもつれて行け!」
 と鳴かれたら、いい気はしませんて。

「あんたがもし将来、腰を悪くしたら、それは猫のせいね」
 と、母は言う。
「1日何時間も、猫を膝に乗せてるせいね」
 と。

 わたしは在宅ワーカー。仕事は自宅でパソコンに向かうこと。
 そして働いている間、猫はずーーーっと膝の上にいる。重い。

「そして、あんたが肩をおかしくしたら、それは猫のせいね」
 と、母は重ねて言う。
「毎晩、猫に肩枕をしてやってるせいね」
 と。

 夜は猫と一緒に寝ているのだけど、1日何時間かは絶対、わたしの脇の下から腕の上に乗り、肩を枕にして寝るのよ。重い。

 愛って……。

 

うちの生き物。

2002年11月23日
 野生の獣は鳴かない。

 日々を命がけで生きる彼らに、「音」が存在してはならない。
 肉食動物は、獲物を追いつめるために。
 草食動物は、天敵から身を守るために。
 「音」をたてない。
 だから鳴かない。
 (生殖などのために異性を呼ぶのはまた別の話)

 猫もまた、本来は鳴かない獣だ。

 しかし、人間に飼われている猫は鳴く。
 「声」を出すことによって人間に働きかけるすべを学習するからだ。
 どんな声を出したときに、人間がどう反応するか。自分になにをしてくれるか。
 獣である猫は、てめえの損得本能によって学習する。

 人間の存在がなければ、猫は鳴かない。

 それならば。
 寝ごとを言う猫は?

 眠りながら、人間と関わっているということか?
 それはつまり。

 わたしの夢を見てるってこと? MY飼い猫よ。

 深夜、ショットガンを手に緊張しきって養成所を歩くわたしの耳に、

「みゃ? る〜にゃ」(アクセントは「み」と「る」)

 とかゆー生き物の声が入り、思わずびくんとする。
 画面の中にモンスターが出たわけじゃなく、膝の上でお菓子のカールのよーなカタチになって熟睡している生き物の出した声かいっ。ぴっくりさせるなっ。

 人間に話しかける以外で鳴かない生き物が、眠りながら鳴くってことは、人間が出てくる夢を見ているってことよね?
 そして、その夢の中に出てくる人間ってのは、十中八、九、飼い主よね?

 どんな夢を見ているんだ……MY飼い猫よ。
 しあわせそーな顔しやがって。

 野生の獣は鳴かない。
 人間と共存するうえで、鳴くことを覚える。

 そして、我が家の猫よ。
 1階で大声で鳴けば、人間が2階から下りてきて新しいエサをくれる。
 ……という認識はまちがいだっ。
 わたしはあんたがどんなに1階で泣き叫んでも、わざわざ降りていって新しいエサをあげたりしないわっ。あきらめて古いエサを全部食べなさい。

 うちのバカ父が、こーゆー妙な癖をつけさせたのよっ。
 猫に呼ばれて、目尻下げて鼻の下のばして給仕をしに行くなーっ。
 鳴きさえすれば、なんでもしてもらえると思いこんじゃってるじゃないの。
 飼い主はわたし、1日1回やって来るだけの父は猫にとって「都合のいい下僕」。
 何度言い聞かせても、父は猫をあまやかすことをやめない……。飼い主が迷惑するんだってば、横からへんないじり方をされるとよぅ。

 本来、猫は鳴かない生き物。
 しかしうちの生き物ときたら……近所迷惑だ、雄叫びをあげるなーっ!!

 

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