今日はSPEEDのコンサートでした。
 ……って、SPEED?! 今さらあのSPEED?!

 そう、解散以来なにかっちゃー再結成している、レア感のあまりないあのSPEEDです。

 SPEEDでは、わたしはhiroこと島袋寛子ちゃんがいちばん好きでした。
 理由はかんたん。

 友人のWHITEちゃんに、似ているから。

 SPEEDがデビウしたのが、今から7年ほど前ですか。
 そのころ、まだ小学生だったhiroを見て、
「あ、WHITEちゃんだ」
 と、シンプルに思った。
 我が家の家族も、同意見。SPEEDがテレビに出るたび、「WHITEちゃんが出てる」と盛り上がっていた。
 WHITEちゃん自身も、
「誰かに似てるなと思ったら、そうか、アタシか」
 と認めていたし。

 つーことでわたしは、hiroが好きです。
 好きな人に似ている人には、好意持つよねえ?
 その昔、タレントの千葉美加が好きだったんだが、彼女は友人のヤマダさんにそっくりだった。あと、高木美保は友人のイシ子にそっくりだったし、最近では宮地真緒が友人のBe-Puちゃんに似ているので気になる存在。
 友だちに似ている芸能人には、親近感がわく。

 つーことで、SPEEDはけっこう好きだった。
 でも、CDも買ったことないし、ライヴに行くほどのファンでもなかった。またわたしも、そんなトシじゃないし。SPEEDのファンって若そうだもんなあ。わたしなんか、好きって言ってもカラオケで歌うくらい?
 あと、当時のファミ通によく載っていた、SPEEDネタの読者投稿を読むのも好きだったなー。大抵仁絵ちゃんがオチなんだよなあ。
 そうそう、SPEEDオリジナルのアルバ・スプーンが本気で欲しかったなあ(非売品。マジかわいかったのよ。あ、アルバ・スプーンちゅーのは腕時計です。わたしがいつもしている腕時計はスプーンのメタルVer.)。

 でもWHITEちゃんはわたしよりはまともにファンしていたようで、CDも買っていたし、解散後も動向をチェックしていたようだ。

「言っとくけどアタシは、多香子ファンだからねっ」
 と、WHITEちゃん。
「えっ、hiroじゃないの?!」
「自分と同じ顔のファンになってどーすんのよ、多香子よ多香子。美人が好きなのよ」

 たしかに多香子は美人だけど……。
「ドラマには出ないで欲しいなあ、大根すぎ……」
「うるさいっ、美人だからいいのよ!」
「歌も下手だったよね……」
「うるさいっ、美人だからいいのよ!」
 と言うWHITEちゃんは、もちろん檀れい様のファンです。『LUNA』のポスターの、檀れい様の美貌に惹かれてタカラヅカを観はじめたヤツです。

 さて、そのWHITEちゃんから誘われました。
「緑野、SPEEDのコンサート、行く? 懸賞で当たっちゃったんだけど」
 てゆーかわたし、また彼女たちが再結成しているのも知らなかったよ、WHITEちゃんから誘われるまで。
 そしてさらに。
「そんな懸賞、応募してたんだ……」
 そのことに、おどろいてみたり。
「当たると思ってなかったんだもの! 2等のクオカードが欲しいだけだったのに! まさかライブチケの方が当たるなんて」
 WHITEちゃんはくじ運いいから、いろんなものが当たる人なんだよねえ。
「行くのはいいけど、どこでやるの?」
「城ホール」
「で、席はどこ? スタンド?」
「アリーナ」
「……アリーナ? 椅子、あるよね?」
 トシですから、椅子のない世界は鼻白むのだ。理性とばすほど好きなアーティストならともかく。
「あるでしょ、座席番号書いてあるし。アリーナの後ろの方だね、この番号は」
「そいでSPEEDの客層って、どんなん? わしら行ったら、めちゃ浮きまくるんじゃ……?」
 トシですから、若者やガキにまみれるのは鼻白むのだ。理性とばすほど好きなアーティストならともかく。
「そんなの知らない。アイドルだから、臭い男たちがいっぱいいるのかな?」
 アイドルか……。未知の世界だわ……。

 つーことで、いざ未知の世界。

 そもそもコンサート自体、滅多に行かないしな。
 わたしは「物語」好きなので、物語のあるジャンルにまず気持ちが向く。芝居とか映画とか。とくに芝居、ヅカに金がかかりすぎるので、「物語」性の薄いジャンルにまで回らないんだよなあ。
 音楽に物語性がないと言ってるんじゃなくて、芝居や映画よりは薄いと言っているだけよ。ジャンルの立ち位置がチガウんだから、それは当然のこと。
 わたしが大金持ちなら、音楽にも金をかけるんだが。甲斐性なしなので、どこかなにかあきらめて生きていくしかない。

 べつに嫌いで音楽関係のイベントに行かないわけではないので、アリーナのすみっこでもたのしむ気は満々さ。
 もちろん、ヒール着用。
 女子ども相手なら、勝利は確信。フラットな会場でも、いちばん後ろから障害物なしでステージが見える身長さ。
 肉厚なおにーちゃんが前にいたら、さすがに負けるけど。日本人男性の平均身長はヒールを履いたわたしよりはるかに低いわけだから、あまり苦にはならない。

 と、勢い込んでいったのに。
 アリーナの後ろの方は、ちゃんとひな壇になってました、席。
 てことは、だ。

 我に敵なし。

 わたしの席から、ステージをさえぎるモノは一切ありませんでした。
 ヒール履いてくる必要なかったかも。坐っていたら前の人の頭が邪魔だけど、立ったら障害物なんてないよ。

 SPEEDに関しては、わたしはhiro、WHITEちゃんは多香子とお気に入りの子は決まっていた。
 デビウのときからずっと。

 しかし。

 最近、思うんだ。
 わたしたちひょっとして、仁絵ファンじゃないのかって。
 SPEED活動時も、解散後も、hiroや多香子の話はしなくても、仁絵の話はなにかとしてるじゃん、わたしたち!

 今回のライヴの間中、わたしたちが口にする名前はHITOEばっかなんですけどっ?!

「グッズ見た? 仁絵ちゃんのは売れ残ってたよ」
 からはじまって、
「ファンクラブのお知らせ、仁絵ちゃんだけないのね」
「仁絵ちゃんの髪型、マスター!!(注・マスターとは、『木更津キャッツアイ』の登場人物)」
「仁絵ちゃんの谷間がすごい!」
「おっぱい大きいねえ、本物かなあ」
「仁絵ちゃんの背中がまぶしい」
「仁絵ちゃんのソロはあるのかな?」
「仁絵ちゃん、かっこいい」

 とにかく、仁絵ちゃんの話ばっか。
 ねえWHITEちゃん、わたしたち実はHITOEファンよね? わたし、ライヴの間ずーっと仁絵ちゃんのダンスばっか見てたよー。
 hiroの歌は耳で聴いて、目は仁絵ちゃんに釘付けさ。

 仁絵ちゃんの国籍不明年齢不詳のセンスが、わたしたちを惹きつけているのだと思う(笑)。
 GO! GO! HITOE! お笑い系の投稿で、多香子を持ち上げ、絵理子を持ち上げ、hiroを持ち上げ、仁絵で落とす、てなネタで使われまくっているそのキャラが愛しいわ。
 だからこそ、新曲のモー娘。もどきの振り付けはつらかったわ。
 あんなの、HITOEじゃない〜〜っ。
 他の3人は娘。系のことをやってもいいけど、HITOEはダメよ! キャラがチガウんだから。
 リアリーダー・コスでポンポン持ってキュートに踊るなんて、あり得ない!
 他の3人のことは素直に「かわいい」と思ったのに、仁絵ちゃんだけは痛々しく思ってしまった……彼女の美意識とは正反対の格好させられてるよね……?

 なんにせよ、わたしはわたしなりにたのしんで来ました、ひっさびさのSPEED。
 おどろいたのは、「歌える」ことにだ(笑)。そっかー、アイドル・ソングってのは奥が深いわ。CD持ってなくても聴くのが何年ぶりであっても、なんとなく全曲お…
 コントローラを握っていたら、電話が鳴った。
 日付変更線まであと少し、という時間。
 こんな時間に我が家に電話をかけてくるのは、オレンジかWHITEちゃんのどちらか。でもきっと、今回はWHITEちゃんだわ!

「はい、緑野です」
「こんばんはー」
 名乗らないけどやっぱりWHITEちゃんでした。なんでやっぱりかというと、明日のことで連絡取らなきゃなと思っていたから。

「明日はどうする?」
「は? なに?」
「だから明日」
「明日? なにかあったっけ?」
 WHITEちゃんの声があせりだす。ほんとうに通じていない。
「へ? 明日じゃなかった? 並び」
 彼女に通じないから、わたしもあせりだす。
「並び? なんかあった?」

「だから、花青年館」
「…………ソレ、明後日」

 すみません。
 わたしが勘違いしてました。土曜日だって思い込んでたんだよーっ。

「あぶなかったっ、あたし、明日並びに行ってたよ!」
「行ってもたぶん、孤独だったと思うよ……誰もいないから」

 WHITEちゃんの用件は
「今から行くから!」
 ということでした……。

 どーせ「明後日」並びで会うのに、日付変更線近くなってからウチにくるのね。それって大変じゃないかい、君が。わたしはぜんぜんかまわないけど。
 WHITEちゃんがウチの来るのはいつも夜中。夜行性?

 WHITEちゃんはどこぞの懸賞で当てたという、豪華なペットフードをうちの猫にプレゼントしてくれました。
 猫がソレを食べるところを見たかったそうな。
 粗食で生きているうちの猫は、そりゃーもーものすごい勢いで豪華なエサに食らいついてました。よかったな、猫。WHITEちゃんに感謝しろ。
 つーか人見知りなうちの猫は、わたしの他にはいまいちなつかないんだが、唯一例外としてWHITEちゃんにはなついているのだ。何故。WHITEちゃんはたぶん、大して猫好きではないと思うんだが。

 いつものよーにいろいろくっちゃべって、WHITEちゃんが帰っていったのは午前3時前。

「んじゃ明後日」
「明後日ね」
 別れの挨拶は、次の並びの日の再会を約束する言葉さ(笑)。
 雨が降る……。

 今日はきんどーさんとデート。
 持っていくモノは前日に用意したし、一緒に見る映画も決まったし、あとはでかけるだけよ!

 外は雨……。

 きんどーさんとのデートは、いつもの映画館。
 つまり、自転車で片道40分の場所。

 わたしは悲しくメールを打つ。

「雨が止まない。映画館まで行けないよー」

 きんどーさんからの返事。

「うん。今日は無理だね」

 デートだったのにー。昨日から用意してたのにー。
 つーか、映画も見たかったのにー。
 わーん。雨のバカー。

 ヒマができてしまったので、親の家に猫を連れて遊びに行ったら、そこでまさかの大雨に遭遇。
 窓の外は、滝。
 今度は帰るに帰れなくなった。
 わたしひとりならまだしも、猫を肩に乗せて(猫は外出時には必ずわたしの肩に乗る)帰れるよーな雨量じゃない。
 ぼーぜん。
 無為な時間が過ぎる。
 こんなことなら、おとなしく自宅でコントローラ握っていればよかった……。

 弟は帰宅するなりわたしに、
「で、『エコーナイト』はどうよ?」
 と聞いてきた。
「『エコーナイト』じゃなくて、『クロックタワー3』でしょ?」
「でも似てるだろ」
「……似てる」
 ちゃんと最初のボス戦までクリアしましたさ。死にまくりながらな。

 
 水曜日だから、WHITEちゃんと映画。

 WHITEちゃんは実家がお菓子屋(びっくりした、今、「犯し屋」って変換された……わたしのワープロって……)なので、しょっちゅう新製品を持っている。んで、わたしはよくそれを味見させてもらうんだ。
 今日は「あさげ」味のポテチと、ストロベリーとモンブラン味のポッキー。
 あさげ味はいまいち。パッケージほどのインパクトはナシ。

「ねえねえそれで、月バウはどうだった?」
「そう、月バウ。緑野が『さららんの足袋がー』って言うから、足袋ばっか気になっちゃったよ!」
「わはは、さららんの足袋、見たの?」
「見たよ。ルフィ夫さんが言うとこの、『すてき足袋』?」
「……そこで何故、ルフィー@ONE-PIECEなの?」
「ルフィ夫さんなら絶対、大喜びすると思うわ、あの足袋」
「なるほどなあ、『すてき足袋』か」
「あるいは『ふしぎ足袋』?」

 てな話をしながら、次の新製品に手を出す。
 モンブラン味のポッキーは「期間限定」の文字があったので、よろこんで小袋をひとつ開封してみたんだけど……。

「甘い……」

 はっきり言って、ゲロ甘。

「WHITEちゃん、これ甘い……」

 小袋にはポッキーが3本入ってたんだけど、わたしは1本で脱落。2本残った袋を彼女に返したんだけど、

「開けたモノを返すな。自分で食え」

 と、突っ返された。
 そう、わたしもWHITEちゃんも、甘いモノが苦手なのだ。

「あたしゃ後悔してるんだ。このポッキーは、食えたもんぢゃねえ」

 ってWHITEちゃん、ストロベリーとモンブラン、2箱ももらってきたくせにぃ。パッケージの写真からして、死ぬほど甘そうですけど?

 食えと言われたから、お茶を飲みつつ、あさげ味ポテチを食らいつつ、無理矢理残り2本を食べる。
 ケーキのモンブランのクリーム部分だけをえんえん食べてる感じ。ゲロ甘。ストロベリーの方は、味見する気にもならない。
 ……甘党の人、おすすめですよ、ポッキーの新製品。ほんと、甘いから。

「コレ、うちの弟ならよろこびそう……」
「そうか、じゃ弟くんにプレゼント」
 そう言ってストロベリー味は、押しつけられたよ。

 恐るべしグリコ。
 さららんのすてき足袋の話が、そこでぶっとんでしまった。
 つーか、ポッキーの破壊力のおかげで月バウの感想、話してる時間なくなっちゃったよ、映画がはじまっちゃって(笑)。

 帰宅してから、問答無用で弟に押しつけたさ。
 WHITEちゃんから君へのプレゼントだ。甘いモノはうちの弟の腹へ。
 甘党のくせに、太らないんだからいいよな。まあ、あの身長で太られても迷惑だけど。

 映画のあと、WHITEちゃんとふたりで晩ごはん食べたんだけど……。

「おなか、微妙にすいてない……」
「ケーキでも食べる?」
「いや。お菓子はもういい!!」
 後を引くよ、破壊力ポッキー。

 それでも、阪神優勝セール、全品30%OFF!! な店で「いちばん割引率が高いのは、いちばん高いモノだよな!」と、値段を見て注文したけれど。……ぜんぜん、食べられるじゃん、おなか!(笑)

 映画の話は翌日欄に。

 

地獄と天国。

2003年9月8日 その他
 9月6日、夜。
 1通のメールが、携帯に届いた。

 うわ、なつかし。
 イシちゃんからだ。もう何年会ってないかな、イシちゃん。会う約束のたびに、彼女の都合が悪くてドタキャンになっちゃって、そのままなんとなーく縁遠くなって、しかもそのうち結婚しちゃって、もーぜんぜん会うこともなくなった相手。
 どーしたんだろ、イシちゃん。メールもらうのだって、「結婚しました」報告の1行メール以来だぞ。

 なつかしさによろこんで、メール本文を携帯の画面に出す。

 〈タイトル〉
 こんばんは
 〈本文〉
 遅くに失礼しま
 す。実は今、ス
 ノオちゃんが交
 通事故に遭い、
 ****病院に

 ……わたしの携帯は、文字が大きい。買ったときのままで、小さい文字に設定し直したりしていないせいだ。
 画面に、これだけの文章が表示された。

 交通事故?!
 スノオちゃんが?!!

 イシちゃんもスノオちゃんも、学生時代の同じクラスの友だちだ。
 スノオちゃんに最後に会ったのは、去年のわたしの誕生日、ミヨの結婚式だ〈イシちゃんはミヨの結婚式も前日ドタキャンだった。わたしはイシちゃんの代わりに急遽受付をやった〉。

 画面をスクロールするのが、こわかった。
 スノオちゃんが交通事故に遭い、****病院に……その次は、なに?

 まさかこれ、訃報?

 がくがくぶるぶる。
 めちゃ恐怖しながら、スクロールボタンを押す。

 入院しています
 。腎臓破裂でし
 ぱらくかかりそ
 うです。
 今のところ、手
 術はしなくてよ

 ……腎臓破裂?!! 破裂してるんですか、内臓が!!
 えーと、スノオちゃんは車に乗る人だったよね。交通事故って、ぶつけられたの、ぶつけたの? 同乗者は? まさか家族とか、なんか大変なことになってるんじゃあ?
 咄嗟に、いろいろこわい考えが頭を走る。

 で、でも、生きてるんだ。
 訃報じゃない、スノオちゃん、生きてるんだ。大ケガみたいだけど、とりあえず生きてる。
 どきどきする自分をなだめる。

 まだ心臓ばくばくしたまま、さらに画面をスクロールさせる。

 さそうだとのこ
 とです。
 お時間があれば
 ベッドから動け
 なくてヒマをも
 てあましている

 ……あれ? 首を傾げる。
 腎臓破裂、だけど今のとこ手術はしなくてもよさそう、まではわかる。
 しかし、ヒマをもてあましている?

 さらにスクロール。

 スノオちゃんの
 携帯に、励まし
 のメールをお願
 いします。
 −イシ子より−

 ……ヒマをもてあましているスノオちゃんの携帯に、励ましのメールを??

 って、スノオちゃん、めちゃくちゃ元気なんかいっ。

 がっくし。
 不安に震えたぶん、反動が大きい。

 わたしは速攻スノオちゃんにメールをした。

 スノオちゃんからは、

“あらま、なんかすっかりゆーめーじんね。今さっきミヨにもメールもらって返信したところっす。……(以下、私信は略)”

 とゆー、とてものんきな返信がきた。
 事故に遭ってから3日目、今は点滴もはずれて、元気にやっているらしい。
 へなへな。安心して、気が抜ける。

 つーかイシちゃん。
 アンタのメールの書き方が、いちばん悪いよっ。
 どーして「スノオちゃんがヒマをもてあましているので、メールをお願いします。スノオちゃんは今、交通事故で入院しています」という書き方をしてくれないのー?!
 時系列順に書いてくれたってのはわかるけど、携帯メールにそれは酷だよー。泣。

 とゆーことで、本日はスノオちゃんのお見舞い。前もってアポもとってある。
 日曜日をはずしたのは、わざと。
 日曜日はきっと、他に見舞客があるだろうから。一度にたくさんの人に来られるより、誰も来なくて寂しい日に来てくれた方がうれしい、と、入院時に父が言っていたので。

 身内以外の見舞いはひさしぶりなので、ネットで見舞いのマナーを調べ、手みやげや見舞金の相場と常識などを頭にたたき込んでからさあ出発。
 結婚式もそうだけど、マナー事って時代や自分の年齢によって微妙に変化するからさー。以前通りのことが今の「ふつう」かどうか、いちいち調べる癖がついた(笑)。

 そして。

 ほんとに元気だったよ、スノオちゃん。わたしが行ったときには、ベッドをソファ代わりに坐ってお茶をしていた。
 広い個室で、悠々自適。つーか、ふつー病院は携帯電話禁止だろ。個室ってことで、大目に見てもらっているそうな。
 病室に入って、最初に目に飛び込んできたのが、大きなツードアの冷蔵庫と、その上の「化粧品一式」。
 入院患者なのに、「化粧品一式」。収入のほとんどを「衣」に費やす、おしゃれ命のスノオちゃんならではだ。

 途中、ご両親も現れたんだが、お父様は巨大な布団袋持参だった。
 布団袋?
「だって、病院の布団、いまいちなんだもん」
 ってアンタ、自宅から布団運ばせたんかい。よく見れば、枕はすでに病院のモノではなく、微妙な曲線を持つ快眠枕だった。自宅から搬入済みだったらしい。

 自宅近所を歩いているときに、車にぶつけられたそうだ。
 ミラーをぶつけられた横腹は痛かったが、血が出たわけでもなく、意識もあったので救急車が恥ずかしかったと言う。病院で診察を受けたときに「腎臓破裂してますねえ」と言われ、心底驚いたそうな。救急車を拒否して、自力で病院に行かなくてよかったね(そうするつもりだったらしい)。
「どうせ全額向こう持ちだし、それさえどうせ保険だし、退院まで個室でいいかな、って」
 とのこと。
 元気だし、暴れない限り痛みも大してないそうだが、とにかく腎臓が治るまで迂闊に動いてはいけない、ということで入院させられているらしい。病室内なら、ふつーに歩いているそうだし。
 まったくもっていつものスノオちゃん。
 ほっとした。

 ほっとした、ので。

 いやあ、喋りまくったよお。
 なまじ、個室だからさー。
「この間の会社の友だちなんか、4時間喋っていったよ」
 という話を聞いていたもんでな。
 ははは、わたしは3時間半ほど喋り込んでいました。
 喫茶店でダベってるのと同じだ。
 お茶とお菓子で、えんえんお喋り、途中写メールしてみたりと、若い娘さんのよーな30女ふたり。

 あ、もちろん、イシちゃんからの「こわいメール」も本人に見せたさ。このメールを読んで、どれだけわたしが震え上がったかを訴えたさ。スノオちゃんはけたけた笑っていた。

 *お見舞いのマナー*
 患者さんを疲れさせてはいけません。15分から20分ほどで、病室を出ましょう。

 あー、たのしかったー。
 帰宅してから、お礼と様子伺いのメールを出すと、速効返事が来る。
 とてもたのしんでくれたようだ。テンション高い。
 そのメールの最後には、

“ヤマダも見舞いに来てくれるって言うし。ここで懐かしの同窓会しましょうや。”

 と書いてあった。
 ここ、って……病室で同窓会かー。
 ほんとに元気だな、スノオちゃん。

 
 書き込みはできないし、そもそもつながらないし、カウンターも変だし、ろくなことがないな、このサイト。

 友人のオレンジから、報告がありました。

 彼女とは昨日、一緒に買い物をしたの。
 明日のインテのために帰阪しているオレンジは、穴の開いた財布を長年使っていたそうだ。不便だし縁起悪いし、新しいものに買い換えたい。でも、財布なんてもの、そうそう買い換えたりする? と言われ「しょっちゅう買い換えるけど?」と答えたわたし。
 財布って、好きなのよ。
 わたしはたぶん、服よりも鞄と財布と帽子が好き。鞄と帽子はシーズンごとになにかしら買っているよーな気がする。この夏は帽子ばかり3つも買ったしなあ。
 財布もよく買い換えていた。
 ただし今は、「これこそ生涯の伴侶!」てな財布に出会ってしまったため、当分買い換えるつもりはない。
 それでも、見るのは好きよ。
 てなことで、彼女の財布購入におつきあいしました。

 いやあ、いろいろ見たよー、財布。
 ああ、たのしい。

 不景気ってのはいいねえ。全体的に安くなってる。このブランドが平時でこの値段かよ、バブル時代には考えられん!てな。

 すべてにおいてそうだと思うけど、ファッション性と機能性は反比例するよね。
 かわいい財布は、使い勝手が悪い。機能的な財布は、かわいくない。
 ポイントは、かわいさと使いやすさの妥協を、どのへんにするか。

 オレンジが長年使っていたのは、ゴルチエの黒にシルバーがアクセントの財布。オタクってほんと、ゴルチエ好きだよね。わたしもオタクだからわかるわ(笑)。
 新しい財布も、オレンジはやはり、ゴルチエっぽいものに惹かれていた。……が。
 悩んだあげく、オレンジが選んだのは。

 とてつもなくかわいい、赤いがま口だった。

 とにかく、かわいい。
 それまでけっこう冷静に選んでいたのに、そのシリーズのコーナーにたどり着くなり、ふたりそろってきゃーきゃーハート。
「かわいいっ」
「かわいいよこれ、なんでこんなにかわいいのっ」
「えー、こっちもかわいいよ、ラインがすごい」
「これもかわいい。うそっ、これもかわいい」
 語彙少なすぎ。
 ふたりそろって「かわいい」しか言えなくなる。
 他のブランドとちがい、そこだけは和風。伝統工芸の漆塗りがどーのと解説文があった。老舗の12代目のだれそれさんが作っているとかいう、工芸品ブランドらしい。

 はっきりいって、使い勝手はものすげー悪そう。

 でも、見た目がかわいい。群を抜いて、かわいい。女の子ハートがきゅんきゅん言う感じ(笑)。

 柄もカタチも和風。
 トンボだとか花だとか。
 着物のような生地に、特殊プリントで漆が使われているらしい。
 大人のかっこいい女性が、ハンドバッグからこの財布を出したら、さぞやかっこいいだろうなあ。よくある海外ブランドの財布じゃなくて、この日本の美しさを見せつけてくれるお財布だったら。そんな女性、わたしなら好きだぞ。

 悩みまくった末に、オレンジはこの和風の財布を買いました。
「在庫はありますか?」
 と聞くと、財布フロアの販売員さんは、
「全種類、ひとつずつしか入荷してません。だからこのデザインはこれひとつです。これが売れてしまったら、また別のデザインを陳列します」
 と答えた。デザイン多すぎて、全部陳列できていない現状。しかしどれもみんな、かわいい。
 わたしだって、「生涯の伴侶」とまで思っている今の財布がなければ、この日本美人に浮気していたかも……(笑)。

 それが昨日のこと。
 オレンジの買い物につきあったあと、WHITEちゃんとCANちゃんと映画に行ったの。

 そして今日、昨日買った財布の使い心地を、オレンジは電話で報告してくれました。

「めっちゃくちゃ、使いにくい!!」

 嘆く。力一杯嘆く。

「でも、めちゃくちゃかわいいんだよ……。眺めていると、しあわせになるんだよ……」

 実用品を買ったんじゃなく、装飾品を買ったんだよ。そう思おうよ。アクセサリってのは、そーゆーもんだよ……。

 あまりに使いにくいので、そのうちまた、新しい財布を求めて彷徨うかもしれんそうだ。
 ふりだしに戻る。

 
 昼間は未来ちゃんとデートして、夜はCANちゃんWHITEちゃんと映画。

 風邪っぴきの未来ちゃんをエスコートするはずが、ついついクリアランスセールに夢中になってしまった。
 だって明日から旅行だし!
 旅行前にはいろいろ買い物したくなるじゃない。

 それにしても、夏休みだなあ、お盆休みだなあ。
 どこもすごい人。

 WHITEちゃんからは悲鳴のメールが届く。

「映画館は人でいっぱい。『踊る大捜査線2』がまたしても見られなかった」
 また?
 あなた先週も同じこと言ってたよね?

 本日3人で見る予定だった『トーク・トゥ・ハー』も、定員オーバーでアウト。なんてこったい、わたしたちなんのために集まったの?
 仕方なくごはんだけ食べて解散。……ほんの3時間ほど、喋りまくってたけどな。

 それにしても、毎日出歩いてるよなあ。

 
 母は旅立ちました。
 今度は北海道です。
 先月は屋久島で、今月は北海道。……ほんと、元気だな、母。今回は大雪山とやらに登るそうです。……ほんと、元気だな、母。

            ☆

 大人になってからは、身長を測る機会がない。
 身体測定なんてもの、ないからな。
 だから、わたしが自分の身長として記憶しているモノは、学生時代最後の記録だ。

 そのあとのことは、「なかったこと」だ。

 そうさ。
 つい先日、病院で身長体重を測られてしまったけれど、その数字は「なかったこと」さ。
 体重は自宅でも量れるからわかっていたけど、身長はノーマーク。

 学生時代より伸びているなんて、そんな現実は「なかったこと」さ。
 ばばあになったんだから、ぴちぴち時代よりしぼんで小さくなっているはずなのに、伸びているなんて、そんなことは「なかったこと」さ。

 人に聞かれたら、ちゃんと今までと同じ数字で答えるわ。
 ええ。

 
 さて、じんましん発病4日目。
 重病さでいけば、この日が最高潮でした。も、半泣き(苦)。

 朝から病院に行き、治療してもらう。
 ……が、無理がたたったんでしょうな、注射してもらうなり気分が悪くなり、そのまま処置室のベッドに担ぎ込まれた。
 動けるようになるまで、点滴を受けている人たちや、看護士さんたちと雑談してました。
 つーかわたし、アイドルだったわ。「病気が目に見える」っていうのは、大きいね。わかりやすくひどい状態だったので、みんなこわいもの見たさでのぞき込んでくるし、同情もしてくれる。
 わたしも、あまりにひどい自分の肌を見せたくてしょーがなくなっていた。ほーら、こんなに気持ち悪いのよー、服に隠れている部分はもっとすごいのよー。わたしの症状のひどさに周囲が声を上げるのが、快感だったり。
 ……みなさん、よい人たちでした。素直に声を上げ、同情してくれてありがとう。ここにいるってことは、みなさんもなにかしら病気の人たちなのにね。
 家族旅行中、つらくても「辛気くさい顔しないで、周りが迷惑する」と言われ、気を張っていた分、「つらいでしょう、かわいそうに」と言ってくれる見知らぬ人たちが、ありがたかった。
 同情が心地よかった……。くおー、わたしにやさしくしてくれー、病気自慢させてくれー。つらい顔をしたり弱音を吐いたら叱られた2日間分、ストレスが溜まってるんだよー。
 ちがう意味で、病院で癒されました(笑)。

 せっかく水曜日なのにな……映画は見に行けない。さようなら、『スパイ・ゾルゲ』。映画は映画館でしか見ないので、もう見ることはないのだわ……。

 
 せっかく目覚まし時計に新しい電池を入れ、起床時間にアラームを合わせて寝たのに……。
 スイッチ入れるの忘れてた。
 ははははは。
 2日連続、余裕のない朝(つーか、目覚ましナシでもギリギリ遅刻しない時間に目が覚める、わたしってすごい・笑)。
 そしてやはり、2日連続WHITEちゃんは寝坊で遅刻。こちらからTELしてなきゃ、遅刻どころかすっぽかされていた。朝の約束はやめておいた方が無難だよね、この人とは。来ない確率が他の人と比べて異様に高い。

 しかし、なにがあったんだろう。
 朝起きるなり、視界が狭かった。
 左目が開かない。
 多すぎる目やにを洗顔で洗い流し、鏡を見ると……うわ。
 眼球中の毛細血管が存在を主張しまくり。キモ。
 痛いしかゆいし、熱いし。

 ついでに、鼻の右の粘膜もおかしくなっており、痛いしかゆい。鼻が赤くなってるし、穴の形が少々いびつになってる。

 帽子を深くかぶり、眼鏡をかけて家を出た。誰もわたしの顔を見ないでください。左まぶたが腫れて、眼球は真っ赤、おまけに鼻まで赤く腫れてるおばさんなんて、キモすぎる。
 ……花東宝発売日。またしてもWHITEちゃんが来ないから、またしても1番乗りでひとりぼっち(前述の通り。TELしたら起きてきた)。
 チケットだけ買って、早々に帰宅。以後家から一歩も出ず。誰にも会わず。
 日曜だから、病院にも行けないし。
 この日記書いてる今も、完治せず。

 明日……花組千秋楽なんですが……。
 この目で行くの、わたし?
 コンタクトレンズ入れられないし、いつも以上にぶすでキモい顔なんですけど。
 でもって、ムラまで行ってたら、病院行ってる時間もないし。

 明日にはマシになってるといいなあ……。

 
「あの、近所まで来てるんですが……表札、出てますか?」
「? 出てると思いますけど……いちおー」
 パナソニックのおにーさんと、わたしの電話での会話。
 なんで「いちおー」かというと、本名+ペンネームの連名で表札出してるから。知らない人が見たら、ややこしいかなと。
 しかし、修理に来てもらうの、これで3回目なんで、まさか「家がわからない」と言われるとは思わなかった。
「ほんとに近くまで来てますんで、一度家の外に出てもらえますか」
 と言われ、あわてて玄関を出る。
 ……そしたらほんとに、家の前の道をパナのトラックが徐行していたよ。ここです、我が家はここ。合図をして、止まってもらう。
「表札は……」
「出てますよ、ほら」
 とおにーさんにポストを示すと、ポストには某大型電気店のちらしがべろんとつっこまれており、名前部分が隠れていた。
「……見えないでしょう?」
「……見えませんね」
 悪いのは某大型電気店(家から徒歩5分)だ!

 そうして、よーやくDVDレコーダーが完全復活した。
「2回も出張修理に来てもらったのに、結局直ってない」
 とオペレーターのおねーさんに言ったせいかしら。今回はその2回とは別の人が来てくれました。
 んで、今度の人はちゃんと本体の中を調べ、部品を交換してくれたよ。
 ああよかった、これで動く。操作ができる。

 パナのおにーさんがレコーダーの修理をしている横で、わたしはパソコンの復旧作業。
 めでたく3度目の再セットアップさ。ふふふ。
 Outlookに登録してあったメルアドはすべて消失しました。Cookiesまかせにしていたパスワードもすべて消失しました。登録テキストを引っ張り出して、設定し直しだよ。
 ああでも心配しないでフレンズ、友だちのメルアドはOutlookなんぞで管理してませんので、問題ないです。

 そうして、ともに壊れたDVDレコーダーとパソコンは、ともに復活いたしました。

 ああ、電化製品はめんどくせえなあ。

 
 DVDレコーダーの修理の人が、よーやくやってきた。
 結局、リモコンを新しくしただけ。
 それなら5日も待たせなくていいだろうに。

 動くようになったレコーダーの整理をしていると、今度はパソコンが臨終した。
 あまりに突然で口があんぐり開いたまま。
 Giga Pocketを立ち上げるなり、ブラックアウト。
 ななななんなの、またしてもGiga Pocket?! 過去2回再セットアップするはめになったのも、映像系の不安定さゆえ。

 それに連動するかのように、DVDレコーダーもまた動かなくなった。

 わたしの部屋、なんか悪い電波でも出てる?
 てなわけで、無事に散らかりきった我が家に帰宅しました。ああ、生きててよかった。この部屋を放置したままじゃ、死ぬに死ねない。
 と言っても、帰ってきたからといって掃除をするわけじゃないんだけどな……。

 帰って来るなり家庭内でいろいろあって、消耗しました。あー……。

 

つぶやき。

2003年5月16日 その他
 背中を押して欲しい。
 と、切実に思う。

 オレンジと電話でそんなことを話していた。

 わたしもオレンジも身がすくんでいて、歩き出すことができずにいる。
 いや、幾度となく歩き出そうとしたが、そのたびに転び、その痛みが消えないものだから、次の一歩をこわがっている。

「上質な萌えが欲しいね」
「萌えがあれば、踏み出せるのにね」

 萌えはオタクの命だ。
 ホモ萌えのことじゃなくてね。
 自分がココにいる意味、みたいなもの?

「とりあえず、オギーに期待かな」

 来週オギーの舞台を観に行くのだが、そのときに求めているモノに出会えるかもしれない。
 オギーなら、わたしの背中を押してくれるかもしれない。

 オギーの舞台には、ホモ萌えはまずないので(笑)、真っ当に「生きるための萌え」を期待しているよ。
 わたしが留守をしている間に、大阪では大雨が降っていたらしい。
「ドリフのような雨だった」
 と、WHITEちゃんは語る。

 予定が詰まった1週間の、唯一なにもない1日。
 ……ということで、やたら多忙。雑事に追われる。

 東京からバスに乗って、早朝に帰宅したわけだけど、猫に責められました。
 余裕がなかったので、親の家に預けに行かなかったのね。どうやら彼は丸2日間、ひとりぼっちだったらしい。(1日1回は親が様子を見に来てくれたはずだが)
 わたしの顔を見るなり口やかましく鳴きわめき、そのあとは膝から降りない。……重い。
 しかしわたしは忙しい。なんせ、予定のない唯一の日。猫を膝から落として、ばたばたと走り回る。すると猫も一緒になって走り回る。やれやれ。

 夜にはオレンジと長電話。明日が見えないわたしたちの、明日はどっちだ?!

 
 すっかり忘れていたけど、この日記を書きはじめてもう1年経つ。2002年の5月3日からはじめたんだ。

 人間何事も修行。わたしは不器用なので、練習なしになにかがうまくできることはない。

 わたしはずっと、エッセイの類いが書けなかった。あとがきは大嫌いだし、フリートークなんかもってのほかだ。
 フィクションなら書ける。物語を創ることならできる。でも、「自分」の考えていることを書くのは超苦手。
 理由は簡単、「恥ずかしいから」。

 小説を書いていたって、書いているのがわたしである以上、「わたし」の生の姿がどこかに関与していると思う。ある意味、フリートークよりも明らかに「わたし」が丸見えであったりもすると思う。
 ……だがそれは、べつにいいのだ。だってそれはあくまでも「フィクション(作り物)」であって、「生のわたし」ではないから。

 しかしエッセイだとかトークだとかで、「生のわたし」を「自分で」書くのは嫌なんだ。
 自分で書く以上、そこには見栄だとか欲だとか、いろんなものが入って純粋ではなくなるだろう。純粋でもないのに、純粋なふりをする、それが恥ずかしい。
 自意識過剰もいいところだが、わたしはわたしを愛しすぎていて、わたしの考えをそのまま文章にすることができないのだ。

 そうやってわたしは、小説以外の文章は書けない人間として、長く生きてきた。

 転機が訪れたのは、同人誌を作るようになってからだ。

 わたしと盟友オレンジはある作品にハマり、ものすごい勢いでその作品のパロディ同人誌を作った。なんせ毎月発行だ。月に1冊は本を作っていた。
 パロを書くだけでは、愛が止まらなかった。萌えが止まらなかった。わたしたちは、その作品がどれだけすばらしいか、わたしたちを虜にしているのかを、紙面で語りまくった。
 ……紙面で語る? 自分の萌えを、自分の言葉で? それって、わたしがもっとも苦手とすることじゃないか。

 萌えを語りたい。だけど、わたしには語ることができない。
 二律背反。
 苦悩の果てに。
 わたしは、ある方法にたどりついた。

 それは、「わたしというキャラを作って、わたしの意見を語らせる」という方法だ。

 神が舞い降りた。
 この手法でなら、わたしはいくらでも萌えを語ることができた。自分の意見を文章にすることができた。

 具体的に言うと、どーゆー方法かって?
 今の、この日記のようなこと。
 わたしはこの日記で、わたしの言いたいことを言いたいままに書き散らかしている。
 が、この日記は「生のわたし」とは微妙にチガウ。言っていることもやっていることも、ありのままのわたしだが、語っているのは「わたしというキャラ」である。
 「生のわたし」と、この日記に出てくる「わたし」には微妙に距離がある。それが「わたしというキャラ」である。
 わたしはわたしというフィクションを作り上げることで、わたしのノンフィクションを文章にすることができるのだ。

 人間何事も修行。わたしは不器用なので、練習なしになにかがうまくできることはない。

 同人誌で鍛えたおかげで、わたしは「わたし」というキャラでWeb日記を書くことができるようになったわけだ。

 使わない刃物はさびるし、使っていない電化製品は勝手に壊れる。せっかく手に入れたこの手法も、使わないとさびついてしまうかもしれない。
 日々、エクササイズ。
 わたしは文章修行をする。
 日記を書くことで、わたしは「日記の書き方」の修行をする。

 そうして、1年だ。
 わたしはこのキャラで、これからも日記を書き続けるつもりだ。

 ところで、この日記を読んでいるリアル界のわたしを知っている人は何人いるの? なんか、回っているカウンターのすべてが友人知人だったら嫌なんですけど。
 だってわたし、自分からこの日記のことを誰かに教えたことは一度もないのよ? 秘密なのよ?
 なのに友人たちにばれてたら、それってちょっとな。
 かねすきさんのお友だちは、自力で発見しちゃったのよね。んでもってかねすきさんにもばれちゃったのよね。……で、他は? 他は誰もいない? いたら名乗り出てくれ。

 オレンジは言った。「『佐藤浩市/総受』、で検索したらヒットするんじゃないの? 地球上の日本語サイト全部合わせても、そんな検索ワードでヒットするのはあんたの日記くらいなもんでしょ?」
 …………やってみたけど、ヒットしなかったもん。それならオレンジは、ここにはたどりついてないかな?

 

けろの家出。

2003年4月23日 その他
 けろが家出しました……。

 そう、わたしは最近怠けているのです。
 美容体操もろくにしていないし、散歩もしていません。
 ブタなおばさんまっしぐらです。

 それを証明するかのように、けろが家出しました。

 けろとは。
 「てくてくエンジェル」という歩数計の中にいるバーチャル・ペットの名前です。
 「てくてくエンジェル」は、持ち主が歩いた歩数によって、ペットが成長していくゲームなわけ。
 けろ、と名付けたわたしのペットは、わたしがろくに歩かないもんだからどんどんぶさいくにデブになっていった。そしてついに今日、「置き手紙」を残して消えてしまったのよ……。
 がーん。
 昨日見たときは、つぶれただいふくみたいな姿で怒ってたのに……今日はもう「置き手紙」かよ……。

 つーことでリトライ。
 今度こそがんばるわ、けろ!

          ☆

 水曜日なので映画に行く予定だったのだが。
 父の用事、母の用事、弟の用事、で、西に東に走り回っているうちに時間切れ。ぜえぜえ。わたしって家族共有のパシリなの?
 ねえわたし、『デアデビル』は見に行けるのかしら? なんかこのままずるずると見逃しちゃいそーな気がするんだけどっ?

 
 わたしの色は黄色。

 いちばん好きな色。
 いちばん惹かれる色。

 子どものころは、自覚がなかった。
 自分がいちばん好きなことはなんなのか。
 自分がいちばんやりたいことはなんなのか。

 トシをとってようやく、わたしはわたしを知る。

 好きな色に気づいたのは、高校生くらいになってから。
「黄色い服なんて、持ってる人いないよね?」
 と友だちに言われ、その場にいた子はみんな「そりゃそーだ」と言い、わたしも一緒になって言いかけ……首を傾げた。

「わたし……黄色い服、持ってる」

 持ってるどころか、複数持っていた。シャツもズボンもワンピも。
 スーツも持ってたな。
 思い起こせば、小学校の卒業式で着たスーツも、黄色だった。
 中学のとき家庭科で作ったパジャマも、黄色だった。

 わたし、黄色好きだったんだ……。

 知らずに、いつも黄色い物を買っていた。
 いつもいつも、気づくのが遅い。

 わたしはわたしを知らない。

 今日、父の病院でぼーっと考えた。
 今わたしが使っている鞄は、ミスドでもらったタウンショルダー。黒に近い紺地に、黄色のパイピングがアクセント。
 中央部分のメッシュポケットに、アドバンスSP。それにはヤフオクで買った某デザイナーの黄色いウサギのついたストラップがつけてある。
 ああわたし、ほんとに黄色好きだなあ。
 紺地に黄色のバッグ、そしてそれと同じ黄色のマスコット。……なんてきれいなんだろう。
 なんかうっとりと、見とれてしまったんだ。

 いつからわたし、黄色が好きなんだろう。
 どうして好きなんだろう。
 好きになるってどういうことだろう。なにがあってわたしは、この色を好きになるんだろう。

 色だけじゃなくてね。
 好きなこと、好きな人、やりたいこと、欲しいもの、みんなみんな、気づくのはいつだって遅い。
 そして、不思議だ。
 どうしてわたし?

 わからないことだらけだ。

 
 キティちゃんは今日もピンクでした。
 上から下までピンク。
 だけど、先日とはチガウ服。
 ……アンタ、いったい何着ピンクの服持ってるのよ?

 えーと、これで何回目だ? イタリア旅行メンバーの会合。
「今度こそ旅行の写真を手に入れるぞ!」
 という趣旨で集まった。

 わたしたちがイタリアへ行ったのは、あのテロ事件の翌月でしたっけねえ。
 そして今はもう、戦争がはじまってるんですが。
 ……なのにわたしたちまだ、あのときの写真を手に入れていないんですね?!

 ネガを紛失していたわたしは、なんとか探しだし、焼き増しを写真屋で受け取ってから待ち合わせ場所に行きました。
 これでもう文句は言わせないわ、わたしは義務を果たしたわ。
 旅行から1年半、よーやくみんな、アルバム整理ができるわねっ。

 ところがキティちゃんが言った。
「ええっ、なんで緑野、写真持って来てんの? アンタ、ネガなくしたって言ってたじゃない。だからあたし、安心してたのに」
 安心だと?
 そう、キティちゃんてば。

「あたし、まだ焼き増ししてない」

 などと言うのだ。
 ええっ?!
 んじゃ、今日もまだ写真は全部そろわないの?!
 そろわない、ってことは、アルバム整理はできないってこと?!

 んじゃ、なんのために今日集まったのよー。

 ネガがどこへいったかわからない、ってわたしが言ったとき、いちばん責めたのは他ならぬキティちゃんさ。
 それが、この始末かい(笑)。

「なんだと? なにやってんのアンタはっ」
 キティちゃんといちばんつきあいの長いフクスケさんは容赦がない。
「ええっ、キティちゃんの分は、まだなの?!」
 遅れてやってきたミジンコくんも悲鳴。

 結局わたしたち、今回もまた、ただ集まってメシを食うだけの会でしたわね。生春巻きはうまかったけどさ。3軒ハシゴして、ひたすら食べて飲んでましたけどさ。

 ……で、次はいつ集まる?

「そうね、夏くらいかしら」
 とキティちゃん。をい。夏まで、写真の焼き増ししないつもり??

 なんか2年越しになりそーな予感……。

 
「派手な服を着た女が来るから、誰かと思ったら、なんだ、緑野か」
「あんたに言われたくないわ。なんなのよ、その格好」

 ……わたしとキティちゃんの第一声です。
 挨拶もなく、これが互いに掛ける、最初の言葉です。

 キティちゃんは、ココちゃんとデイジーちゃんと一緒に花バウを観に来ていました。そしてわたしは、未来ちゃんとデートのため、ムラへ来ていました。

 わたしとキティちゃんは、どうも、ケンカでもしているようなやりとりをよくするようです。
 キティちゃんはナチュラルに「こわそう」に見える人です。あと「えらそう」とか、「お高そう」とか。本人は、のんきなお人好しなんだけどね。外見が、そんなふーに見えてしまう。
 キティちゃんの仲良しで、同じ会社で働いているココちゃんは、いつも彼女におびえています。ココちゃんにとってキティちゃんは、仲良しで一緒にいると楽しいけど、その反面とっても「こわい人」らしい。
 だからココちゃんは、その「こわい人」であるキティちゃんを相手に、わたしがポンポン言い合うのを見て、不思議だったようです。
「緑野さんって、いっつもあんなふうにキティさんに言うんですか……?」
 と、最初のうちはすくみあがっていたそうな。
 ココちゃんの目には、わたしも同じように「こわい人」に映っていたのかもしれない。

 わたしはべつに、ことさらキティちゃん相手に「すごい言い方」をしているつもりはないんだが……。
 冒頭の会話が、会って最初の言葉じゃあ、善良なココちゃんにおびえられても仕方ないか、と、反省……。

 でもさでもさ、わたしの口が言いすぎるとしたら、それはキティちゃんの言葉にも問題はあるわよね?
 顔を見るなり、「派手な服の女」って、なによそれ。いつもと変わらない格好してただけですけど。まあ、マニッシュを通り越してボーイッシュだったかもしんないけどさっ。派手じゃないもん。紺が基調だったもん。
 そう言うキティちゃんは、上から下までピンク一色だった。彼女はなにがあっても絶対フェミニン。ジーンズなんか穿いたこともないというお嬢様。わたしと、服の趣味は正反対。また、似合うものも正反対。
 服から小物まで全部ピンク一色の女に、服装のことでつっこまれたくないわ!

 注意。
 わたしとキティちゃんは、とっても仲良しです。
 今日もまた、自分の連れの存在を忘れるくらい、きゃーきゃー喋ってしまいました……すまん、未来ちゃん。今日はわたし、あなたをエスコートしなきゃなんないのにっ。

 とってもかわいらしい未来ちゃんを紹介すると、キティちゃんは「ふーん」と品定め。そーゆー目つきで人を見るからアンタ、こわい人だと誤解されるんじゃないの?
「緑野の友だちにしては、ずいぶん雰囲気がちがうね」
 上から下まで眺め倒したあとで、なにを言いますか、この女は。なんて失礼な。
「どーゆー意味よ、それ」
 ……またしても、ケンカにしか見えないやりとり。
 いや、本人同士はぜんぜん、そんな気ないっす。だってこれ、日常だもん。わたしとキティちゃんは、いつもこう。
 ……未来ちゃん、こわがってなかったかしら。おろおろ。

 仲良しなのに、なーぜーか、ケンカしてるみたいな会話になるのよねえ。わたしとキティちゃん。
 キティちゃんも首をひねっていたよ。
「あたしと緑野が喋ってると、周りが引いてない? ふつーにしてるだけなのに」
 と。
 ……わたしら、そんなに口悪いかな??

 エリザベートのドレスを着たいという未来ちゃんをエスコートするのが、本日の目的ナリ。
 かわいくて若い女の子が着飾るのを見るのはいいもんだよ。すっかりおばさんモードです、はい。
 おばさん、とゆーより、オヤジか……?

 

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