アイーダは難しい役だなと思う。
 宙組『王家に捧ぐ歌』を観て。

 これは初演から思っていたことだけど、アイーダってヤな女だよね?
 女子が嫌う女子っていうか。
 クラスにこのタイプがいたら、絶対遠巻きにされてるなっていうか。

 一昔前の少女マンガのヒロインタイプ?
 貧しいけれど一生懸命、横断歩道でおばあさんの手を引いて、いじめっ子には注意して、いつも正しくて、正しいことを隠さなくて、空気関係なく正しいことを言っちゃう。そして身分違いの王子様が、彼女の心の美しさに魅せられてメロメロになっちゃう、てな。
 昔ならそれで良かったけれど、現代だとマイナス点ばかりの女の子ですわ。

 だからポイントは、このヤな女を、どれだけ「かわいく」演じるか、なんだよなあ。
 かわいく、てのは文字通りの「かわいい」ではなく、「かわいげ」のこと。愛嬌というか、「嫌な女だということを気づかせない」「嫌な言動ばかり繰り返すけれど、仕方ない」と思わせるほどの、「フィルター」を発動させなくてはならない。

 初演のトウコの場合は、「男役が演じる娘役」ということで、クリアー出来た。
 もともとクドく濃ゆい持ち味の男役だから、初の娘役でちょっとした女らしさやけなげさを見せるだけで、アイーダの持つ棘が軽減された。
 アイーダの「私は正しいビーム(攻撃的・常時発動)」は「もともと男だしな」で正当化され、時折ちょっと「引く」だけで「私はけなげフィルター(必殺技・ここぞというときに発動)」にて持ち上げられた。

 だが、トウコと同じことを娘役がやると……。
 きついなー。

 キムシンはアテ書き能力の高い人だと思ってるけれど、再演時にキャラを書き換えたりはしないんだ、と、『王家』再演のときに思った。
 エチオピアトリオのキャラ立てなんて、毎回自由にいじったって本筋とまったく関係ないと思うんだけど、初演のままだった。綺華れいちゃんのカマンテなら、吉岡清十郎@『巌流』系にしたってよさそーなもんなのになー。初演まんまだと彼の実力だと弱くなっちゃうだけなのに、変更なしだったもん。
 てな経験上、『王家』に関しては初演のバランスを変える気はないんだなと、今回も漠然と思っていた。
 だからポスターにアムネリスが載ってなくても、アムネリスの比重は同じだろうと思ったし、ウバルドが2番手役でもなんの書き込みもされていないだろうと思った。
 で、実際その通りだった。
 そして、初演まんまの台詞回しで展開するラダメス@まぁくんとアイーダ@みりおんを観て、いちいち納得した。ああ、再演時に感じたまんまだなあ、と。

 ラダメスはいい。
 問題は、アイーダ。
 やっていることはトウコまんまなのに……なんだろう、この引っかかり。
 アイーダの端々に、ざりっとなにかがこすれる。

 それは、かわいげのなさだった。

 同じ台詞回しなのに、みりおんだとキツく感じる。いやな感じに残る。
 「平和」を訴えず「愛」を口にしている分、初演よりも「正義を振りかざして鼻につく」部分は軽減されているはずなのに。

 アイーダは「強く」なくてはならない。
 アイーダを「ふつうの娘役」として演じてしまうと、きっと目も当てられないウザい勘違い女になる。
 なよなよめそめそ、私って可哀想。
 そうしないためにも、強く、自我と誇りを持って両の足で立つ! ……を、やりすぎると、自己中価値観押し付け女になる。

 難しいな。

 みりおんの苦手分野かなと思う。
 「かわいげ」という部分。

 みりおんがかわいくないと言っているわけではなくて。

 『うたかたの恋』のときも思ったんだけど、みりおんって致命的に芸風に、知性があるの。

 野生の魂とか無知な天使は、苦手。
 知的な意志のある女性は得意。

 『うたかたの恋』のヒロイン・マリーは無垢であればあるほどに、観客の涙を誘う。が、みりおんのマリーには知性を感じて、ことさら無邪気な台詞の数々が、空々しかった。知性あったらその台詞は言わんわー。言うとしたら、ナニを考えてるんだろう、言葉の裏で?てな。
 もちろん、「無邪気な天使を装いながら、すべてを理解し、あえて相手の求めるまま、共に滅びることを選ぶ女性」というのは魅力的な設定だけど、『うたかたの恋』ってそういう話じゃないし。

 みりおんだと、アイーダにも「知性」を感じてしまう。

 アイーダがアホキャラだと言ってるわけじゃない。
 彼女は「戦いは新たな戦いを生むだけ」という「真理」を説く「賢者」だ。知性はある。
 そういう意味じゃなくて、彼女が賢者なのは生まれ持ったスキルであって、後天的に受験勉強とかで詰め込まれたモノじゃないんだ。
 みりおんの醸し出す知性は、「野生の獣の賢さ」ではなく、きちんとした家庭で躾と教養を得た、大人の女性の持つ賢さだ。
 会社で活躍してくれる分には頼もしいけどね。アイーダに必要される賢さとは、色が違う。

 なんつーか、みりおんアイーダはあちこちが、賢しかった。

 シロッコの名台詞「賢しいだけの子どもがナニを言うか」的な引っかかり?(笑)

 賢さが悪い方向に出ているというか。


 知性と理性がある。
 それはみりおんの特性。
 それを活かせる役をやるととても魅力的。
 本能で行動する女の子の役は苦手。
 賢く見えるゆえに、言動に裏があるように見えてしまう。

 難しいな。

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