宙組『王家に捧ぐ歌』でいちばん残念なことは、衣装だな。

 エジプト側の無駄な金色尽くし。
 お金をかけて気合いを入れて新調したのはわかる。あれだけの人数分だと、さぞかし高く付いただろう。
 が。
 改悪。

 近くで見て豪華な衣装と、遠くで見てきれいな衣装はチガウ。
 オペラグラスでよーっく見ると、「ああ、豪華なのね」とわかるけど、肉眼だと背景セットと同化して見える。
 砂色のセットに砂色の衣装……。
 加えて。
 エジプト人とエチオピア人の見分けが付きにくい。
 あの広大な劇場で、膨大な人数がいっせいに現れる演出で。
 いちばん最初に飛び込んでくる視覚情報は「色」だ。
 衣装のデザインでも布の質感でも装飾品でもない。衣装の色だ。
 人種によって肌の色を変えているといったって、ヅカは外部と違い、役者の肌の露出が少ない。男たちが半裸になったりしない。出ているのは顔と手だけなので、肌の色の差異は衣装の色にインパクトで負ける。
 舞台にあふれんばかりの、砂色の大群。
 背景も砂色、出ている人たちも砂色。
 エジプト人=お金持ち・豪華な衣装、エチオピア人=びんぼー・粗末な衣装、という設定なんだけど、ヅカでは乞食の衣装だってほんとうの意味で汚い衣装じゃない「相対的に」というだけだ、当然びんぼーなエチオピア男たちだって、それなりにきれいな衣装を着ている。
 ふたつの陣営の差をわからせなくてはならないのに、同じに見えるってどうなの。
 ぱっと見区別が付かず、よく見てようやく「ああ」とわかる。
 そんな衣装にわざわざ替えるってナニ。

 そして、個人的にすごくすごく残念なこと。
 アムネリス様の豪華衣装が、映えない。

 なんせ、みんな金色を着ているから。
 お着替えに退場したアムネリス様が、仰々しく再登場、初演ボスターでも使われていた超豪華衣装、ある意味『王家に捧ぐ歌』という作品を象徴する重要ドレス姿を披露。
 ……するのに、映えない。
 ラインはチガウけど女官たちと同じ色のドレスに着替えただけか-。あ、よく見ると素材が豪華? ……てな。

 『エリザベート』でいう鏡の間のドレス、暗い舞台にエリザベートがひとり登場し、自我を持った女性として凛として歌う「私だけに」。
 あの場面を、白いドレス姿の女官たちで埋めるようなものですよ。そりゃシシィのドレスがいちばん豪華で、周りの女官たちは布もデザインも大したことないものになってるんだけど、タカラヅカだから十分きれいなドレスで、なにより色が同じだからぱっと見の印象の強さは、ひとりで登場したときより遙かに落ちる

 初演は良かったなあ。
 エジプト兵は白の衣装。
 砂色の背景に映える。
 反対にエチオピア兵は砂色、背景にも床にも同化する、大地の色。
 女官たちも今よりはおとなしい色の衣装で、そのなかでただひとり金をまとうアムネリスの美しいこと。

 初演は良かった、というと初演厨と呼ばれるかもしれんが、初演厨なのは事実だし、これだけは断言する。
 衣装改悪。

 終始違和感でいっぱい。
 エジプト兵が地味できれいじゃない、エチオピア兵と混ざる、せっかく大人数いるのに背景に埋もれて人海戦術が活きない。
 女官の衣装嫌だ、振付の股開きポーズ好きだったのに、衣装の質感が重く固くなったせいで楽しめない、アムネリス様の邪魔になる色。
 不満不満!

 歌詞に「光ってやがる、輝いてやがる」というフレーズがあるからそれを受けてのことかもしんないけど、だからといって衣装を金色にする必要はない。エジプトの装飾は十分豪華だったし、白い衣装はきれいだった。白を保つ、ということ自体、古代においてはとてつもないゼイタクのはず。
 つか、戦場でもすでに金ぴか衣装の兵士と戦ったエチオピア兵が歌うのだから、それはエジプト兵の衣装ではなく、王都についての感想よね?
 それを「光ってやがる、輝いてやがる」だから衣装を金ぴかに、というのはおかしい。

 お金をかけて改悪してるのが、業腹で。
 お金持ち=金ぴか、という発想がアタマ悪すぎて嫌だ。発想が貧困すぎる。
 前夜祭の愛ずんの衣装見て、嫌な予感はしてたけど、実際に舞台で観るときついわー。

 初演はよかった……。

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