それで結局、「スカーフェイスに秘められた真実」ってなんだったんだろう?

 『アル・カポネ―スカーフェイスに秘められた真実―』について、どういう答えが出たのかは知らない。
 や、世の中では。

 原田くんがどんな「真実」を思い描いてこの作品を書いたのかは、わからない。
 そして、わたし以外の人が、どんな「真実」を受け取ったのかは知らない。

 まあぶっちゃけ、それはどうでもいいんだ。

 わたしがものすごく気になること、これだけは受け入れられない、という部分は、そこじゃないから。

 アル@だいもんは、脚本家のベン@ひとこを拉致監禁して、わざわざ自分語りをする。
 世の中的にアル・カポネは大悪人、ゆえにベンは、彼を悪党とした映画脚本を書いている。
 アルはそれゆえにベンを拉致した。
「真実を知って欲しい」と。

 アルは言うんだ。
「フィクションだから自由にしていい」と。
 実在の人物をモデルにしているからって、本当のことのみしか書いてはならない、ということはない。伝記じゃないんだ、教科書じゃないんだ、盛り上げるために史実を変えてもかまわない。
 ただ、嘘を書くなら、それが正しくないこと、ほんとうはどうだったかを理解した上で、盛り上げるための嘘を書いて欲しい。
 真実を知って欲しい。
 その上で、好きに書くのはかまわない、と。

 アルが語る「真実」は、ベンが「常識」として知るものとは、ずいぶん違っていた。

「真実はひとつだ。だが、その捉え方は人の数だけある」

 だから、作家は好きに書いていいのだと、アルは言う。

 わたしはこのくだりにいたく共感した。  
 フィクションというものの本質。
 どんな出来事も、人の数だけ捉え方がある。だから物語は無限の可能性を持つ。

 なんだ、原田くんもクリエイターなんだな、想像すること・創造することに意義を見いだしているんだ……そう共感した次の瞬間。

 ベンは喜々として歌い出す。

「♪彼は言った。真実はひとつではないと」

 ちょ……っ!!

 ベンさん? あなた、人の話聞いてました?
 アル・カポネさんは言ったんですよ、「真実はひとつだ」と。

 その会話の直後に、なに正反対のこと言ってんのおおおっ?!

 でもって、さらにベンは歌う。

「♪彼は言った。俺は悪なのか?と」

 言ってねえええっ!!
 アルは自分にとっての真実を語ったのみで、「だから俺は悪じゃない」とは言ってない。

 アルが言ったのは、自分にとっては真摯に生きた結果だが、それを悪だと判断する者がいることはわかる、ということだよな?
 それが「真実はひとつだ。だが、その捉え方は人の数だけある」だよな?

 アルの語ったこと、全否定。
 てゆーか、ベンは、カケラも理解してない。

 またね、ひとこのキラキラ笑顔がね、この「カケラも理解してませ~~ん♪」「つか、真逆の意味に受け取ってま~~す♪」を加速させていてね……。

 ギャグかと思ったよ……。
 「いい場面ね」と盛り上げておいて、どっしゃーーん!と落とすんだもん。
 笑うとこ?

「真実はひとつだ。だが、その捉え方は人の数だけある」
 といった直後に、同じ意味として、
「真実はひとつではない」
 と言わせるいい加減さに絶望した。

 捉え方は人の数だけある、を、「その人にとっての真実」ということで、「真実はひとつではない」とした、のかもしれない。
 ならば、そう説明しなければならない。
 真実はひとつだ=真実はひとつではない、という方程式が成り立つための過程が必要だ。
 今のままだと「答えは〇だ」と書かれた参考書を見たひとこが、「わかった、答えは×だとここに書いてある!」と叫んでるようなもの。や、〇でしょうが、なんでこれが×なの、×に見えるの、正反対ですがな、あなたバカなの、目が見えないの?! てことになる。

 真実はひとつではないから、なんでも好きに書いていいんだ、と、真実はひとつだが、その捉え方は人の数だけあるからなんでも好きに書いていいんだ、は、まったく違うんだよ……。
 これを「同じ」だと思っている人がクリエイターだなんて、ありえないっす……感性が雑すぎるっす……。


 そして、ベンが「彼は言った、俺は悪なのか?と」と歌うことで、「その捉え方は人の数だけある」すら、否定した。

 アルは断定していない。
 かまってちゃんの誘い受ばりに、「俺は悪くない」とチラッチラッと「真実」を語ってはいるが、限定はしていない。
 あくまでも、「その捉え方は人の数だけある」というスタンスでいる。
 それは、ここまでの『アル・カポネ―スカーフェイスに秘められた真実―』という作品のカラーだった。
 この作品を見て、「アル・カポネ」をどう捉えるかは、観客ひとりひとりにゆだねられていた……はず。
 が、ここでベンが「カポネは悪じゃない」と歌ってしまうことで、答えを解説してしまった。

 『アル・カポネ―スカーフェイスに秘められた真実―』……その「真実」とは、「カポネはいい人」。
 ベンひとりの偏った捉え方、という描き方ではなく、「作品テーマ」として歌われてしまうんだ。
 だからこそ、ラストシーンでベンの映画が締めに使われる。

 原田くんがどんな「真実」を思い描いてこの作品を書いたのかは、わからない。
 そして、わたし以外の人が、どんな「真実」を受け取ったのかは知らない。
 でも。
 方法的に、構造的に、ここで決めつけちゃってるのよ!


 原田ェ……。
 ほんとに、雑な意識で作家やってんだなあ。


 この作品がうすっぺらいのは、ベンの歌うテーマ曲に集約されていると思うよ。

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