花担友人たちと、かわす会話がある。
「だいもん、初日の方が面白かった」
「だいもんが初日にやり過ぎてるのは、いつものことでしょ」

 目新しくもない、ありがち会話。
 だいもん氏は初日にぶっ飛ばしすぎて、そのあと我に返るのか、ちょっと抑えに入る。反省するのかな? 模索するのかな? ……で、続けているうちにどんどんヒートアップして、最後の方になると暴走する。
 リピート観劇し甲斐のある人だと思う。

 まあとにかく、初日は他のどの回ともチガウことが多いと思う。

 『アル・カポネ―スカーフェイスに秘められた真実―』もまた、初日がすごかった。
 と、2回目の観劇で思った。そうか、あれは初日だったからか……。今日観たら、それほどじゃなかったな……や、十分すごいけど、初日ほどじゃない……という、いつものコース(笑)。
 わたしは今回チケ運よくて、前方席でしか観てないのだけど、初日はオペラグラスなしのズーム体験をした。
 オペラ使ってるわけじゃないのに、主演の人がぐわわーってアップに見えるの。
 裁判のシーンね。
 れいこも出てるしあすくん見たいし、オペラ下ろして全体を観てたの。情報量多い場面だから、多層構造を楽しみたくて。
 なのに。
 気がついたら、カポネ@だいもんがアップになってる。オペラ使ってないのに。
 わたしの視界、わたしの視神経が、だいもんに釘付けになっている。
 視界の外側のエリオットにも気持ちを割きつつ……カポネしか、焦点が合わない。
 ときどきあるんだ、こういうこと。ほんとときどき、滅多にあるもんじゃないけど、たしかにある。
 テレビ画面のように、舞台役者がぐーんとアップになる。
 他を席巻し、たったひとりがその空間を支配する。
 そりゃわたし、そこそこいい席で観てたけどさ。いちばん後ろの端席でこうなるかはわかんないけどさ。
 それにしても。

 快感。
 肌が粟立つ、ぞくぞくする。血が奥の方から熱上昇する、この感じ。
 気持ちいい。
 すげー気持ちいい。
 これがあるから、ライブパフォーマンスというジャンルは廃れないんだろう。自宅で寝転んでモノ喰いながら楽に無料で得られる娯楽はいくらでもあるのに、編集加工して完璧にした映像を映画館で安価に見られるのに、安くないチケット代と時間と労力かけて劇場へ行き、舞台上だけでなく客席のコンディションだのに左右される完璧ではありえないもの……生の舞台が、有史以来続いていること。

 そして、舞台役者という職業が絶えないことにも、納得する。
 テレビタレントと違って、儲からない仕事なのにねえ。れおんくんがタカラヅカ的には伝説の大スターでも、世間的にはほぼ無名、であるようなもので。知名度という点でライブのみのアーティストは不利。そして知名度は収入に直結するから、重要。
 同じ役者という商売でも、ぜんぜん違う。

 だいもん見てて、思う。
 気持ちいいんだろうな。
 舞台で生きる、舞台を掌握し、世界を牽引する……それはまぎれもない快感なんだろう。

 カメラがズームするみたいに、カポネがアップになった。
 彼の咆哮が、世界を引き剥がした。
 わたしのいる現実から、めりめりと生々しい音をたてて、彼のいる場所へ。
 力尽くの行為、引き剥がされたところから肉片や細胞の破片が舞う。きしみ、悲鳴が上がる……「世界」の。
 その感覚は、現実ではない……現実社会では味わえないものであり、だからこそ、まぎれもない快感である。
 引き剥がされ、釘付けになるわたしも、世界を引き裂き支配するだいもんも。
 快感を得ている。
 ……それは過分に苦しみも含んで。熱の中で一気に押し流されるため、区別している間もなく。

 初日を観たあとわたしは、すぐにでも観に行きたいと思った。
 作品がいいとか面白いとかいう観点ではなく、単純に、だいもんを、浴びたかった。
 あのオーラ、客席を鷲掴みして自分の元へ引き寄せる、あの波動を浴びたかったんだ。
 翌日はれおんくんのラストデイだったから、無理だったけど。
 なんつーか、劇薬摂取により、瞬間的に中毒症状が出てたのね。だいもんだ、だいもんをくれ、だいもんが切れたら大変、禁断症状、ハァハァ……っ、的な?(笑)
 でもま、あくまでも瞬間的なモノだから、日程的に不可能だったためとはいえ、次の観劇日まで時間が空いた。……ら、治まった(笑)。
 むしろ、「あれ……? 思ったほどすごくない……?」と、拍子抜けした。
 初日マジックだったのか、たんにわたしのコンディションとかカンチガイとか、理由はわからん。
 それで、だいもん中毒になることは避けられた。幸か不幸か。

 だいもん氏は憑依型の役者だと思うが、またそれゆえに濃度に差があるのかな、とも思う。
 手を抜いてるとか技術が足りてないとかではなく、生理の部分、「舞台は生き物」という意味で、耽溺度がチガウのではないか。
 いつだって彼の舞台はアツく、これ以上ない真摯さで高いクオリティを展開してくれる。それだけで十分、ふつうの役者ならそこに行くまでも大変、てなもんだが、だいもん氏には「そこから先」があるんだな。
 だから、彼の舞台は中毒性がある。

 わたしはあの快感を、知ってしまったからなあ。
 だいもんが、いつもではないけど確実にいつか見せてくれる、あの「舞台がぎゅいーんとなる瞬間」(アタマ悪い表現)を、知っている。
 だから、もっともっとだいもん。
 わたしは、だいもんを求めている。


 そして。
 だいもんが他の役者たちをぶっ飛ばしてしまったあの初日の記憶を引きずったまま。
 やたら思い出すのは、トウコ主演の『龍星』だ。
 トウコの圧倒的実力と熱量でねじ伏せた、ピカレスクロマン。トウコと、彼以外の出演者たちとの「格」の差がすごかった。役者としての格。舞台人としての格。disるわけではなく、わたしの目に映った事実として。2番手のれおんくんは劇団愛以外なにもかも不足で、ウメちゃんもまたどたばたしているだけだった。みなみちゃんは実力はあったけど、出番がほとんどなかった。
 トウコが、力技で支えきった。他との差が圧倒的だった。その孤軍奮闘ぶりが、役柄的に効果を上げていた、面もあったろうな。
 あのときのトウコを、思い出した。
 雪組カポネチームは、当時の龍星チームほどいろいろいびつだとは思ってないけど……それでも、だいもんひとりが抜きんでている感は否めない。
 それできっと、思い出しちゃうんだろう。

 ……だいもんで『龍星』観てみたいな。きっと壮絶だぞ(笑)。

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