トップスターは特別な存在である。
 宝塚歌劇団はピラミッド式の番手制度で組が運営されており、5つの組にひとりずつトップスターがいる。
 その唯一無二の存在トップスターには、様々な権利がある。
 芝居にて必ず主人公を演じることもだし、公演の最後の大階段パレードで、ナイアガラ付き大羽根を背負って、最後に大階段を降りることもそうだ。

 いろんな「トップスターならでは」の権利がある。
 そのなかでも、とびきり「トクベツ」なこと。

 それは、ショーの主役を演じることだと、わたしは思う。

 芝居の主役は、別箱でも、新人公演でも、できるからねー。
 だけど、ショーは、基本本公演のみだ。新人公演だって芝居のみ、ショーの新公はかなりイレギュラーで、ほとんどない。別箱でもショー公演は稀だ。あっても単独主演ではなく、主な出演者表記だったりする。

 芝居は物語の力も借りられるが、ショーはスター個人の力で成り立たせなければならない。たったひとりで、ショーを牽引できる舞台人は、トップスタークラスの力が必要だからだろう。半端なランクでは、任せられないってことか。
 2番手が全ツを主演として回る場合でも、芝居一本モノが基本で、ショーは避けてるもんなあ。

 だから、本公演で、大劇場で、ショーの主演が出来ること、というのは、タカラヅカのトップスターの持つ、特別な権利なのだと思う。


 てなことを、改めて感じた、みりおくんの初ショー主演『宝塚幻想曲(タカラヅカ ファンタジア)』初日。

 みりおくんは入団当初から抜擢されて、ずーーっとずーーっと「トップスター候補生」として特別養成コースを歩いてきた人だ。
 抜擢されること、特別な立場に立つこと自体は、決して不慣れではないし、経験値が足りないわけでもない。
 そして、準トップとして大劇場センターも務めてきたし、晴れて花組トップスターになってからも、大劇場1作、別箱公演2作をこなしている。
 これ以上ないくらいの、「ベテラン」経験値を持つスターだ。

 それでも。

 みりおくんのいっぱいいっぱいさに、「初体験」なのだということを、思い知る。

 そうか。ショーの真ん中は、はじめてか!!

 2番手以下で「場面」のセンターに立つこと、1本モノ芝居のフィナーレで歌い踊ることとは、ワケがちがうんだ!

 芝居は、「役」として舞台に立っている。トートであり、カルロであったわけだ。
 でも『宝塚幻想曲』の真ん中にいるみりおくんは、「明日海りお」として舞台に立っているんだ。
 花組トップスターとして。


 いや、なんつーか。
 大変、そうでした。
 いろいろと。

 テンパってるなあ。そう思えるほどには。

 そして、気づくわけだ。
 この『宝塚幻想曲』という作品、「みりおくんの、はじめてのショー作品」として、座付き演出家が「みりおくんのためだけに書き下ろした作品」ではないのだということに。
 たしかにみりおくん率いる新生花組のための書き下ろし新作ショーなんだけど、「みりおくんのための作品」というよりも「宝塚歌劇団海外公演用演目」として作られてる。
 だから、みりおくんの得意分野や魅力を最大限に発揮出来るかどうかには頓着せず、「作品としてのメリハリ」とか「海外の客向けサービス」とかに執心している。
 ぶっちゃけ、みりおくんの苦手分野もがんがん盛り込んである。

 これは、大変だ……。

 しかも。
 相手役のかのちゃんがもう、「スター初心者です!!」と顔にでかでかペイントされている。
 「トップ娘役初心者」ですらないの。「スター初心者」なの。トップ以前に、舞台の真ん中でライト浴びて「存在する」こと自体に慣れてないの!!

 こ、これは……大変だ……。

 そして。
 2番手のキキくんが、周囲気にせず、勝手にキラキラしてるの!!(笑)
 トップを支えようとか、思ってないよね、そもそも思いついてないよね? 自由だな、まったく!

 大変だな!!(笑)

 みりおくんがいっぱいいっぱいで。
 すげーすげー、きりきりきりきりがんばってて。

 かのちゃん周囲見えてなくて、キキくん周囲見てなくて。

 ああもう、愛しいわ!!

 みりおくんの一生懸命さ、あのぎりぎりっぷり。
 重責背負ってただもうストイックに神経質に、役目こなすことに必死になって。
 似合わないことや苦手なことも、真正面からぶつかってて。
 空回りしてるかのちゃん引っ張って、好きな方向へ走り出してるキキくんやカレーくん引き戻して、全部全部、背中に背負い込んで、前を向いて。

 ああ、これはこれで、得がたい魅力だなあ。

 つい先日、超ベテラントップ、レジェンド柚希の「スター力で世界に君臨する」ステージを観たところじゃないですか。
 トップスターの発する力で、舞台上だけでなく劇場全部を覆ってしまう。温度を変え、持ち上げ、浮かせてしまう……そんな、とてつもないパワーに身をゆだねる快感。

 それと見事に正反対の……青い、不完全な舞台。
 だが、それがまた、魅力なんだ。
 このぎこちなさ、荒削りだけれど若者が懸命に己れと闘い、前へ進もうと気を発している舞台……これもまた、まぎれもなく「タカラヅカ」で、ひとの心を動かすものなんだ。


 あー、いいなあ、みりおくん。
 みりおくんというと、「悪く言う人がいない」「愛されキャラ」というイメージだ。
 客席で隣り合った見知らぬ人と話したりする場合、高確率で「好きなジェンヌ」として名前を聞く。大抵の人は「だってきれいだもの」と続けるのだけど。
 彼の場合、顔のきれいさだけでなく、こういう芸風も含めて、愛されるんだろうなあ。
 そう思った。


 みりおくんのためだけのオーダーメイド服ではなく、あまり似合わないタイプの服かもしれない。超ヒールのブーツばかり履いていられないわけだし。
 だけど『宝塚幻想曲』は「宝塚歌劇団が外の世界に向けて力を入れた」作品だ。本気できれいに作った新しい服だ。
 得意でなくても、着こなそうとしている姿は素敵だし、そもそも、美しい人はナニを着たって美しいのだ。

 みりおくんの新しい門出に乾杯。

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