ところで『凰稀かなめラストディ』のチケット、手に入らなくて苦労したんですが。

 わたしはご贔屓退団後、すっかりヲタ力が落ちていて、いろいろいろいろチケット入手に出遅れがちだった。
 とはいえ、ヲタやって長いので、チケット事情に対する大体の勘というか、手応えみたいなもんが働くわけだ。百発百中ではまったくないけれども、「タカラヅカ観たことナイけど、一度観てみたいなあ」てな人よりは経験上、チケットの動きに予想が出来る。

 で、トップ退団公演なのに、定価以下チケット売買サイトで大量に出回っている公演の場合、ラストディチケットも等しく出回るものなのですよ……ふつーなら。あのトップさんのときも、あのトップさんのときも、あのトップさんのときも……てな、実際に見て聞いて体験したゆえの記憶、判断。

 が。
 かなめくんのラストディチケットは、まーーったく、余る様子がなかった。
 たまにサイトに出ても、瞬殺。
 需要と供給が釣り合っていない。
 何故。

 そして実際にラストディ上映会場の映画館へ行くと、これまた違和感。
 いつもファンが血相変えて買い求める限定パンフレットが、売れ残っている。ふつーに売店に並んでいる。
 また、館内の空気も平静だ。退団公演東宝千秋楽特有の、濃い空気がない。拍手も手拍子も起こらない。みんなふつーに、映像を観ている。

 そうか……100周年需要か。

 メディアで宣伝しまくった宝塚歌劇団100周年祭りは、あとになればなるほどその効果を見せた。
 幕開きの『眠らない男・ナポレオン』はいいスタートダッシュ、そこからトップ退団公演、100周年記念公演、伝家の宝刀『ベルばら』、トップ退団公演と続き、タカラヅカの話題がファンのみならず、一般人の口にも上がる。
 人気の星組公演がさらに盛り上がり、続く待望の『エリザベート』再演が過去例を観ないチケ難公演となる。始発で行っても当日券を取れない、徹夜組が後を絶たない、テーマパークのイベントみたいな騒ぎになる。

 100周年祭りでタカラヅカというエンタメに初参加した人たちは、コアなハマり方はしてないけれど、盛り上がり方は知っている。
 チケットの取り方はネットでわかるし、誰でもある程度入手出来る。
 どんなイベントがあり、どう楽しむか。昔は自分で体験するか、人を介してしか得られなかった知識が、自宅や移動中など、どこでも手軽に手のひらの中で確認出来る。

 100周年祭り参加メンバーが、「はじめて経験するトップスター退団祭り」が、宙組だったんだ。
 『エリザベート』で一大ムーブメントになったあと。
 誰でも体験出来る、参加出来る、祭り。
 生の公演を観るために、何度も時間とお金を出して劇場に通うことはないけれど、最後の「サヨナラショー」や、「袴での挨拶」は観たい。「タカラヅカのトップスター退団」に参加したい。
 そう思う人たちは、こぞって「ラストディ」チケットを買う。

 公演チケットが定価やそれ以下で市場に出回っているのに、ラストディチケットだけはチケ難。
 そして、チケ難公演に相応しい数だけ用意されただろう、スター個人のメモリアルパンフレットは売り切れず。
 映画館の中も、しんとしている。
 ……それは、こういうことなんじゃないかな。

 と、わたしは勝手に分析する。
 勝手に、ですよ。
 事実かどうかは知りようがない。
 ただわたしは、そういうことかなと想像し、納得する。

 祭りには、人が集まる。
 本気のファン以外の人も。ただ、体験したいだけの人も、盛り上がりたいだけの人も。

 それが、悪いと言っているわけじゃない。
 どこまでが本当のファンで、どこからがニセモノとか、そんな線引きは無意味。
 命懸けて心も時間もお金も捧げて応援してきたけれど千秋楽だけはどうしても劇場へ行けない事情があって、泣く泣く大阪の映画館で見送ることになった、という人も。
 ふつうに好きなスターさんだから、最後を観たいなと思って来た人も。
 ヅカファンだからラストディは毎回観ているの、という人も。
 ナマで観たことないけど、最後くらい映像でもイイから観てみたかった、という人も。
 それこそ、トップスター退団はタカラヅカの華、最大の祭り、それを体験してみたかった、というだけの人でも。
 どんなスタンスでもいい。
 それぞれの思いで、そこにいれば。
 それを許すのが、ライブビューイング、舞台中継だろう。
 いろんなスタンスの人に、広く門戸を開くための。

 ただ、100周年需要を読み切れなかったわたしがうかつだった。チケットねえええ!

 100周年祭りは、おそらくれおんくん退団までは続くと思う。
 タカラヅカが生んだビッグスター、そのラストステージだもの、体験しなければ! てな。

 問題はそのあと、だなあ。
 ラストディだけ売れて、生の舞台チケットが求められない現状は、ちょっとこわい。
 手軽に手に入る情報や映像だけで満足してしまう人たちが、100周年祭り参加組には多いってこと……だよね?
 タカラヅカは舞台あってこそ。
 映像は映像でしかない。

 自分で足を運ばなければ、なんの情報も得られなかった時代の古い人間は、今のなんでもかんでも即時にネットに情報が拡散される現代に、困惑している。
 ばばあですから。

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