雪楽を観に行こう。
 そう思ったのは、『ルパン三世―王妃の首飾りを追え!―』公演期間中、半ばあたりのことだ。
 思ったというか、思いついた。

 わたしはヅカヲタで、同じ公演を何度見ても楽しめる人だけど、「千秋楽はなにがなんでも観る」というこだわりは持ってない。
 初日は観たいけど、楽はわりとどーでもいー。や、もちろん機会があればよろこんで観るけど、チケットもないのに苦労して大金使ってまで手に入れて「なにがなんでも観なければならないっ!!」とは思ってない。

 こだわっていたのは、ご贔屓にだ。
 贔屓の公演は何度でも観たい。その姿を見られるのが最後だというなら、観納めたい。同じ公演をフタ桁観るのと同じハート、好きな人を見たい。だから、千秋楽も行く。絶対行く。

 贔屓のいない公演は、そんなこだわりがない。

 雪組はずっと特別で、思い入れのある組だけれど、そこに贔屓はいない。
 だから、「千秋楽を観る」という選択肢が、最初からなかった。

 選択肢がないから、思いつきもしない。
 初日に観て、あとはお茶会の日とか新公とか、自分の休日とか、自由に観たいときだけ観に行っていた。
 ご贔屓いなくても週一で観に行ってるわけだから、ほんと雪組好きよね、わたし(笑)。
 そうやって公演に通いながら。

 ふと、思いついた。そうだ、千秋楽。
 千秋楽を観に行こう。
 観に行っても、いいんじゃない? アリじゃない?

 雪組好きなんだもん。
 まっつはいないけど、やっぱり雪んこたちが好きなんだもん。
 ショー嫌いだけど(笑)、それでもちぎくんたちを観るのは楽しいんだもん。

 思いついた。……ほんと、それまで、考えもしなかった。何年も雪楽観るの当たり前だったのに。それくらい、まっつの存在は大きかった。まっつがいない、それだけで、わたしとタカラヅカの距離感は変わった。

 変わった……けど。
 それでも、タカラヅカが好きで、雪組が好き。

 チケットないけど、とりあえず行ってみよう。
 この公演チケ難で、立見まで売り切れることがわりとあるわけで、千秋楽はもちろん立見まで完売だろうけど、まあそれでも、行くだけは。


 なんだか、不思議だった。


 数ヶ月前、同じように劇場に白い人たちがいた。
 卒業するジェンヌを見送る人たちがいた。
 わたしも、そのなかのひとりだった。

 なんか、自分ひとりが取り残されて、周囲だけ時間が進んでいる感じ?
 ドラマなんかでよくあるじゃん、主人公だけ止まってて、周囲の人たちが早回しで動いてくの。あれ。

 大劇場のロビーで、ぽかんとしてさ。
 あれ、あたし、なにやってんだろ、って。
 ここでナニしてんだろ。
 今はいつで、なにをやってるんだろう。
 10年前から変わらずこうしていて、ヅカヲタで、まっつファンで。
 10年間同じことやってたから、時間がすぱんと断ち切られてしまっても、はい終わり、こっから先は新章です、と切り替えて進めない。
 トシ取ると、そういう柔軟性が衰えるのよ。

 あたし、なにやってんだろ。
 立ち尽くしたまま。


 不意の、空虚。
 ぽつん。
 ぽかん。

 足元が抜ける、そんな感覚。

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