いろいろ好き勝手に文句を並べてますが。
 『白夜の誓い ―グスタフIII世、誇り高き王の戦い―』、悪くないっすよ?

 わたしが耐えられない、大嫌い、生理的に無理、許せない……そう思う作品は別にあり、『白夜の誓い』はそんなレベルではまーーったくない。
 これが退団公演だとかフタ桁観劇基本の贔屓組だとかなら感じ方も違ってくるだろうが、それはすべての公演で同じこと。
 今のわたしの感覚では、この作品に生理的嫌悪感はない。

 ひどい作品は、いくらでもある。
 『白夜の誓い』は名作ではないけれど、ヅカクオリティでいえば「ふつー」なんだと思っています。
 凡作とか、平均点の作品とか、そのあたり。

 破綻しまくってストーリーわけわからん、てわけじゃないし、登場人物キチ〇イだらけ、ナニ言ってんのかわけわかんない、てわけじゃないし、語られる倫理観が崩壊しているわけでもないし、非人道的表現や演出のしてある問題作でもないし、汚い・醜い画面というわけでもない。突然臓器移植キャンペーンを行うわけでもないし、下ネタ乱発するわけでもないし。
 ヅカファンが大好きなヨーロッパのお話で、宮廷が舞台で、軍服に輪っかのドレスがてんこ盛り。
 ヅカ一の美貌の君が、豪華衣装を身にまとい、これでもかと美貌を披露する作り。
 主人公は「人の命が大事」「人間は平等、犠牲にしていい命なんかナイ」と正しいことを言っている。
 トップと同期スター、トップと2番手、トップと3番手と、男同士の友情系の見せ場がそれぞれあり、トップ娘役と娘役別格スターとの女同士の友情、トップ娘役と娘役2番手との場面もある。
 男役同士の友情は萌えとされるし、男役至上主義のヅカだからこそ、女同士の「いい場面」はレア、それゆえに底上げされてありがたがられる風潮があるし。
 だから、男同士も女同士も、友情や心のつながり・理解場面は「サービス場面」カウントだよねー。
 海戦という、男祭りな場面もあるし。
 ラストは主人公死んじゃいます、というお涙頂戴で終わるし。
 ヅカらしい、ヅカファンの好きなものが、ちゃんと盛り込まれている。

 全般的に薄味で盛り上がりに欠ける。
 でも、それすら「ふつー」の範疇だ。つか、原田くんだよ。いいにしろ悪いにしろ、そんなとてつもない強いベクトルはないっしょ。凡作とかふつーの駄作とか、そのへん。

 作品は、ふつー。
 しかし。

 この作品を「いびつ」と感じるのは、人の使い方。
 トップスター、トップ娘役、2番手、3番手、トップの同期スター、娘役2番手……。
 ふつーなら「スターがいっぱい」と豪華に感じるはずが、「タカラヅカとしてのふつーの使い方」をしていないために、不思議なことになっている。

 たぶん、ヲタじゃない方が、この作品を楽しめるんだろうな。
 ヅカにも宙組にもなんの思い入れもない方が、「ふつーにいい話」として受け入れやすいと思う。
 わたしの狭い狭い見聞範囲でしかないが、宙組ファンにこの作品が評価されていないことと、他組ファンからは「どんだけひどい作品かと思ったら、ふつーじゃん」「けっこいいいじゃん」という温度感であることからしても。

 駄作具合で言えば、雪組『一夢庵風流記 前田慶次』と宙組『白夜の誓い』はどっこいどっこいだ。

 最初は何時間にも亘る超大作で、カットしまくりでなんとかぎりぎり90分に収めました、というのを『前田慶次』でも『白夜の誓い』でも聞いたぞ? なんでそこをカットする?? おかげで出来た作品わけわかんないぞ?? てのもな。

 駄作ぶり(ヅカではふつーレベル)は同じ。
 なのに、組ファンの評価が正反対。

 『前田慶次』は「組ファンなら楽しめる」で、『白夜の誓い』は「組ファン以外の方が楽しめる」。
 そしてヅカは、特にトップ退団公演は、組ファン(その組の各スターのファン含む)のリピートで成り立っている。

 『前田…』の評価が高く、『白夜の誓い』が過剰に貶められているのは、そのへんに原因があるのかなと。

 『白夜の誓い』のここがおかしい、をえんえん書いておいてなんだけど、わたし『前田…』でもいっぱい書いてますから。だって変だったもん。わかんなかったもん。不満だっていっぱいあったもん。
 でも、わたしは当然『前田…』が好きよ。ぐっちゃぐちゃな話やなー、と思っても、萌えがあったもん。楽しかったもん。そして、『前田…』を「駄作!!」と言う人がいるのも、すげー納得。自分がヲタだから楽しめてる自覚も自信(笑)もあったもん。

 駄作でもいい。完璧でなくていい。
 ファンがよろこびさえすれば。

 ファンはふつーに「タカラヅカ」を求めてるんだなと思った。
 トップスターがいて、トップ娘役がいて、2番手がいて3番手がいる。
 タカラヅカらしいタカラヅカ。ふつーのタカラヅカ。
 だって、タカラヅカファンなんだもん。

 『一夢庵風流記 前田慶次』はふつーにタカラヅカだった。みんなが嫌いな和物で、しかもストーリーぐちゃぐちゃだったけど、それでも「スターの魅力に合っている」なら底上げされた。
 タカラヅカのふつーのスターシステムで作られた作品だった。
 あ、「ヅカファンは日本物が嫌い、日本物は売れない」は、小林一三翁現役の頃から言われてる事実です、昔の映像で一三翁が「みんなが嫌いなのはわかってるけど、伝統だから残さなきゃ」って語ってるのを見た。こんな昔から「日本物は売れない」って周知のことだったんか!と、かえって感心した。……それでも日本物を続けていることにも。

 みんなが大好きなヨーロッパでドレスと軍服モノで、きれいな画面でヅカ的にはふつーの駄作だったけれど、『白夜の誓い』は「植爺より耐えられない、観るのが苦痛」、植爺より、ってそれすごい最低評価ですがな?!と言われる、その違いは。

 ふつーに、トップスターとトップ娘役が愛し合って、2番手がそれに絡む、ふつーのタカラヅカだったら、ここまで言われてないんじゃないかな。


 わたしは『白夜の誓い』は、作品としてはふつーだと思ってます。
 悪くない。タカラヅカとしてはよくあるレベル。観客の思い入れで評価の変動が大きい、ふつーのタカラヅカ。

 ただ。

 問題は、そこじゃない。

 ……それが問題。

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