『New Wave! -花-』初日観劇。

 どんな舞台になるのか、まったくわからないままでの観劇。
 作品解説やポスターから、「主演なし」とか「主な出演者が3人連名だから、3人主役で学年順の考慮あり」とか。過去に『ハロー!ダンシング』のような「主演を置かないショー公演」もあったのだから。

 わからないまま、観て。

 わたしは、思い出した。

 あれは『Victorian Jazz』千秋楽の日。
 フィナーレで踊りながらだいもんは、まるで「終わる」ことを惜しむように劇場を見回している……ように、見えた。
 いつもいつも「表現欲」を感じていた子。「もっと演じたい、もっと表現したい」、全霊を挙げてそう訴えているような芸風。
 舞台が好きで、演じること、歌うことが天職で。
 もっと、もっと。そう感じる、飢餓感を抱えた子。
 もっと、与えればいいのに。この子が欲しがるモノを、欲しがるだけ、与えてみればいいのに。そうすればこの子は、どこまで表現してみせるんだろう。
 そう思っていただいもんが、ようやく、「表現する場」を与えられた。
 はじめての主演。
 はじめての真ん中。
 そして彼は、見事に務めを果たし、バウ公演は盛況のうちに千秋楽を迎えた。
 その、最後のフィナーレで。
 彼は、「終わってしまう」ことに耐えるような、惜しむような表情で、劇場を見回していた。
 わたしには、そう見えた。
 もっともっと、表現したい。歌いたい、演技したい、踊りたい。
 なのに、終わってしまう。


 戻っておいで。

 そうだ、そのときわたしは、そう思ったんだ。
 戻っておいで。
 強い強い「表現欲」を持つ君。
 戻っておいで。
 もう一度、ここへ。いくらでも表現していい、舞台の真ん中へ。

 一度バウ主演出来たって、次があるかどうかなんかわからない。劇団の胸のうちひとつで、ジェンヌの運命は決まる。
 だいもんがこれからどうなるのか、そんなことはさっぱりわからないけれど、それでもわたしはそのとき思ったんだ。
 とても、シンプルに。

 戻っておいで。

 ここが、君の居場所だから。舞台の、真ん中が。

 君がいちばん、君らしく生きられる場所。
 だから、戻っておいで。

 君の主演する舞台が、また観たい。

 そう思った。

 そんな風に思ったのは、はじめてだった。
 で、そんなことは、すっかり忘れてた。
 ……すまん、ほんとに、するっと忘れてた。思い出すことはあっても、いつも思い返しているわけじゃないから。

 それを。

 思い出したんだ。
 『New Wave! -花-』初日、1幕のラスト。

 「主な出演者が3人連名」だから、見せ場も順番、並ぶときは3人並んで、だけど学年的にだいもんセンターで、いろいろと仕事が多い。大変だなー、主演兼座長は、てな感じ。
 なんというか、だいもんの「使命感っ!」という気負いが、肩からゆんゆん漂ってきていた。
 MCもあるしさー。
 キキくんは天然、この子末っ子ですか? なんか「許されてる」という前提でその場に存在している感じが、さいこーです(笑)。
 あきらは……わたし、あきらの人となりをぜんぜんイメージすらしたことなかったんだなと改めて思った……この人真面目!! そして、わきまえてて、常識人!
 だから、ふたりとも、だいもんの助けになってない(笑)。
 キキくんはだいもんの鬼気迫るムードなんかまーったく気にせず好きに振る舞ってるし、あきらは決して出過ぎない執事みたいなムードで立ってるし。だいもんの緊張は、ゆるむ暇がない。
 ちょっと面白いです、こいつら(笑)。
 みんなそれぞれ緊張して、必死に自分の仕事をしているんだろうけど……だからこそ、なんか漏れている性格や心の立ち位置が、楽しすぎる。

 そんな「主な出演者が3人連名」というはじまり方で。
 だいもんはめっちゃ力入っていて。

 1幕のラスト。
 「オルフェとユリディス」の物語がはじまる。や、プログラム見てなかったから、そんな設定知らないまま観たんだけど。
 だいもんが陽水の「傘がない」を歌うところからスタート。

 行かなくちゃ。君に会いに行かなくちゃ。
 だけど、傘がない。

 そして、不思議な、不安な、世界が広がる。
 象徴的に現れるヒロイン、べーちゃん。彼女を追うだいもん。オルフェの物語だと知らないから、べーちゃんは幻とか、イメージだけの存在なのかと思ったよ。
 同じ舞台の上で、違う世界にいるかのように、すれ違う。

 ここで。

 ナニか、変わったと思う。

 物語が、はじまった。
 望海風斗主演の。

 そしてわたしは、思い出したんだ。
 『Victorian Jazz』千秋楽の日、思ったことを。
 戻っておいで。
 ここが、君の生きる場所。
 舞台の、真ん中。

 そうだ。
 そう思ったんだった。

 だから。

 おかえり。

 心の中で、そう返していた。
 おかえり、だいもん。君の場所へ。

 1幕ラストの「オルフェとユリディス」は、圧巻だった。

 響く歌声とダンス、そして、表現力。
 彼が、舞台の真ん中。この世界を牽引する者。

 下級生2名と連名で、座長で、公演を創らなければならない、引っ張らなきゃならない、そんな使命感にぴりぴりした空気は、別のモノに変換していた。

 だいもんが、「世界」に入っていた。
 彼が世界に入り、世界を吸収し、再び放出し、作り替えていた。
 走り出した。
 彼の創った世界で。
 彼が、真ん中の世界で。

 ぞくぞくした。
 これが出来るから、「真ん中」なんだ。真ん中でないと出来ないし、してはいけない。そして彼の「表現欲」は、これを欲していた。
 表現したい。
 世界を、作り替えたい。

 目の前の世界が、裏返る。
 だいもんを中心に、布が巻き取られるみたいにいったん引いて、裏返って別のモノになる。

 物語が、はじまった。
 彼を、中心に。


 役者って。
 役者って、こういうもの?
 こういうことをやってのけるのが、俳優というものなの?

 なんかもお、すげーもん見た。

 そして、だいもんが主役のまま、1幕は、「オルフェとユリディス」の物語は劇的に幕を閉じる。
 ほんとに、そこで終わる。

 だいもんに、スイッチ入った。エンジンかかった。
 2幕はもお、ふつーにだいもん主演だし。
 だいもんセンターで、その後ろにあきら・キキ。トップスターとW2番手の扱い。そういう立ち位置、演出。
 3人横並びだったのは、1幕の前半だけか。

 冴え渡る、歌声。

 歌える、ってすごい。これだけの力になるんだ。
 舞台に加わる、説得力。
 彼がセンターである、まぎれもない力。

 仙名さんもすげー歌声響かせるし。
 歌ウマがマジで場を与えられ、力を解放すると半端ナイな。


 わたしが今いろいろといっぱいいっぱいなせいもあるけど、泣けて仕方なかった。

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