4回目の『ロミジュリ』。
 初演星組、再演雪組、再々演月組。
 ここではじめて、ようやく、完成形を見た。

 そう思ったのが、乳母@美城れんだ。

 役の少ない海外ミュージカル。
 女性の役はとてつもなく少なく、女性の2番手格の役が、ふとっちょおばさんという、タカラヅカ的にかなりきびしい扱い。

 初演星組では、新公ヒロバウヒロと数多くこなしてきた路線スター、娘役2番手ポジションにいた、れみちゃんだ。美少女スターのやる役ではなかったけれど、他に役もないし、れみちゃんはその演技力と歌唱力で立派にこなしていた。実際、彼女のソロで大泣きしたさ! れみちゃんの乳母大好きだー!
 ……けど、「チガウ」感はぬぐえない。
 美少女スターが肉布団巻いてやるような役じゃない。

 再演雪組では、男役スターのコマくんが抜擢された。
 娘役では「汚れる」ことができない。タカラヅカの娘役、とくに路線スターは良くも悪くも「型」があって、そこからはずれると軌道修正できなくなるんだ。現にれみちゃんは、それまでは薄幸のヒロインなどを得意としていたのに、あばずれだーの年増だーのの脇の個性派スターにスライドしていった。
 娘役スターでは、乳母役は出来ない。でも、女性キャラでヒロインの次の大役だ。まったくの脇の別格女役さんには割り振れない。
 てことで、男役スターを起用。芝居力のある、歌えるスターのコマくん。
 男役だから、どんだけ「汚れる」こともOK、現に雪組初日、乳母はピエロのようなおてもやんメイクで登場した。徹底的に滑稽な役として作る予定だったんだろう。……不評だったのか、数日でふつうのメイクになったけれど。
 滑稽な姿も骨太な芝居と存在感も素晴らしいけれど、残念ながら、歌に無理があった。男役だから、ソプラノでは歌えない。地声で勝負していたけれど、なかなかどーして大変なことに。
 コマつんの乳母、大好きだったさ、毎回泣かされたさ!
 ……けど、「無理がある」感は残った。
 新公主演バウ主演した男役スターだもん、おでぶおばさん役でソプラノで歌えなくても、仕方ないって。

 雪組新公は、歌ウマ娘役、さらさちゃんだった。
 本役で歌えないソプラノを、美しく響かせてくれるはず。また、れみちゃんはヒロイン経験多数の路線ど真ん中スターさんだったけれど、さらさちゃんは別格歌姫系だもの、おでぶおばさん役も躊躇なく体当たりすることができるだろう。
 そう期待したけれど、んな半端な役ではなかったらしい、「娘役」としての歌ウマ程度じゃ、太刀打ち出来なかった。高音は出ても、低音はきびしい。
 また、外見は「かわいい女の子」のまま。それで、同世代の娘役たちと混ざって芝居をする難しさ。

 男役では歌いこなせない、娘役では汚れきれない。
 だから再々演月組の、専科の圭子ねーさま登場にわくわくした。
 専科さんなら「汚れる」ことが出来る。そしてもともと超歌ウマ女役さんだ、ソプラノ任せろ、どんな曲でも安心クオリティ。
 しかし、なんてこったい、こちらは芝居がダメだった。や、わたしには。
 乳母に対する違和感、疑問、拒否反応でいっぱいだった。
 どんだけ歌声が素晴らしくても、外見が乳母らしいおばさんぶりでも、この芝居には感情移入出来ない。
 なんなんだろ、この包容力なさ。この乳母は、エマさん演じる神父様と「神はまだお見捨てにならない」を歌ったりしない!!

 月組新公、乳母は芸達者な晴音アキちゃん。役幅の広い彼女はそれまでも「汚れる」役をやっているので、乳母役も問題ない。
 が、なにしろ難役過ぎて。歌える子なのに、歌に振り回されて芝居どころぢゃない。
 なんだろ、この役にはもっとどーんとした、とてつもなくでっかい器が必要なんだと思った。それは若手娘役には難しいものなんだろう。


 てな歴史を経て。
 ついに、完成形を見た。

 星組再演『ロミオとジュリエット』にて。

 路線娘役スターだと違った。
 路線男役スターだと歌えなかった。
 歌ウマ専科さんでも役的に違いすぎた。
 新公学年の娘役さんでは到底太刀打ち出来なかった。

 それが。

 別格で、男役で、外見をどんだけ汚してもよくて、歌ウマで、老け役任せろな芸風で、ハートフルな芝居を得意とする、美城くんの乳母が、素晴らしい。

 歴代乳母の足りなかった部分、残念だけど至らなかった部分、かゆいところに手が届かずじれじれした部分を、美城くんが見事に全部拾っていった。

 うっわ、マジすげえ。
 かゆいところをいちいちちゃんと、かいていってくれるの、手が届くの、その快感ときたら!

 や、まだちょっと「動いてない」部分がある気はするけど、それはこれから芝居を重ねることによって変わっていくと思うので無問題、むしろわくわくしている、さらなる進化を。

 一連の心の変化、ジュリエットへの愛情、見せ場のソロ、最後の変心の台詞、霊廟での歌声、それらがひっかかりなくしゅわ~~っと広がる。
 気持ちいい。
 欲しかったものを、「はい」と差し出される感じ。
 ……いやほんとわたし、圭子ねーさまの乳母がダメでさー……最後に見たのが月組版だからってこともあり、さらにさらに美城くんを、両手を振って持ち上げちゃいますの。
 や、圭子ねーさまは好きなんだけど、出演してくれるとうれしい人、その歌声を聴きたい人。でも、乳母は違ったの、わたしには。

 美城くんの乳母を見られたことが、星組再演『ロミジュリ』の意義のひとつだなあと思う。
 ……美城くん、役作りのためか、いつものにも増して景気よく太い、ジェンヌの域を飛び越えて太くなってるんだけど……汝鳥伶サマがあの横幅だからこそキュートであるように、美城くんも今回はアリなんだと思う。
 ……乳母役が終わったら、以前のサイズには戻ってくれるんだよ、ね? そこだけが心配。


 余談。
 「美城れん」で思い出すこと。

 あれは、博多の夜のことじゃった。
 『フットルース』観劇後、わたしと友人たちはきゃーきゃー興奮したまま、「博多と言えば屋台だー!」と、ラーメンを食べにとある屋台へ腰を落ち着けた。どーってことない、ふつーの屋台。
 ラーメンもふつーにおいしかったし、贔屓の話で盛り上がる時間はふつーにとっても楽しかった。
 そして、気がつくのだ。

「あ、凰稀かなめ」

 屋台の天井。わたしたちの坐っている、真上の庇部分。
 そこに、かなめくんの千社札が貼ってあった。

 花の道にあるお店みたいに、店の人とかファンとかが貼っている……?、わけない。
 よく見ると、千社札の横に、流麗なサイン。

「この屋台、かなめくん来たんだー!」
「それでサインしていったんだ」

 天井はサインだらけだった。よくわかんないけど、有名人が来るたびに残していくんだろう。たまたま上を見なかったら、見ても真下に坐ってなかったら、気づいてないよ、なんて幸運。

 そして、かなめくんの千社札とサインの横には、「美城れん」と書いてあった。

 書いて、あるの。縦書きで。
 その横にはたぶん、美城くんのサイン。

「かなめくんと美城れんかー。そっか、去年『ロミジュリ』で博多来てるもんね」
「つか、ふたりだけで来たんだ、屋台」
 他にジェンヌのサインはないから、そういうことなんだろう。

「でもなんで美城れん? サイン書くのはわかるけど、楷書で名前書くのってめずらしいんじゃ?」
「でも書いてないとわかんないし」
「千社札貼ればいいのに」
「持ってなかったんじゃ?」
 そーして、気がつくんだ。
 「美城れん」と縦書きされた名前は、同じ黒マジックで四角く囲ってある。

「これ……千社札のつもりなんぢゃ……?」

 名前を楷書で縦書きして、四角く囲む。
 かなめくんの千社札の横。

 いやあ。
 大ウケしました。

 名前書いて四角く囲って、エア千社札!!

 ふつーに名前書いてあるだけなら「へー」だけど、エア千社札!

 なんかもお、一気に美城くんの株が上がりました。かわいい、愛しい。仲間内でもー、すっげーウケたよ、和んだよ。

 まあその、反対に、「かなめ姫、いつも千社札持ち歩いてるんだ……」「いつファンの人に『サインください!』って言われても大丈夫なように?」と、そっちでも盛り上がったけどな。さすが姫!!と。

 大ウケして写真も撮ったんだけど、なにしろわたし、PCクラッシュして写真1000枚ほど消失しましたからさー。博多の写真も全部失ったのさ。

 美城くんというと、あの幸せだった博多の夜、天井に書かれたエア千社札が浮かぶのさ……(笑)。

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