月組バウホール公演『月雲の皇子』初日に行ってきました。

 相変わらず、なんの予備知識もありません。
 無教養なもんで、衣通姫伝説もまったく知りません。

 だもんで、ナニを下敷きにしてあろうが関係なく、まったくのフィクションとして臨みました。


 えーと、上田久美子先生のデビュー作。

 タカラヅカファンとしては、新人演出家のデビューには大いに興味があります。今後のタカラヅカの趨勢に関わることだから。
 最近は次々と若い人たちがデビューしてくれて、うれしい限りです。

 ファンとは貪欲なモノ。「もっと、もっと!」と言い続けるイキモノなので、えらそーに批評しちゃったりするわけです。
 タカラヅカが好きだから、もっともっと、いい作品が観たいんだもん!


 で。

 まず、デビュー作からコレか!! と、思った。

 最近デビューしたみなさんというと、

2010年 生田大和『BUND/NEON 上海』
      原田 諒『Je Chante』
2012年 田渕大輔『Victorian Jazz』

 という顔ぶれですか。

 近年デビューのみなさんの処女作品もわたしは、わくわくと初日に駆けつけました。
 予備知識無しで楽しみたいから。
 生田くんのぶっ飛ばしぶりとぶっ壊れぶりに心震え、原田くんのぶっ壊れぶりとテンションの低さに心冷え、田渕くんの意気込みと頭でっかちな感じに苦笑しましたっけ。
 生田せんせには処女作から惚れ込んだので、以来彼の新作を心待ちにしています。
 田渕せんせにはツッコミどころは多々あれど、若者の勇み足は微笑ましいわねと、年寄りゆえの上から目線炸裂で様子見状態。
 原田せんせは好みではないので、ええっと、がんばってくださいとしか。

 彼らのデビュー作が記憶に新しいだけについ比べてしまうわけなんだけど。

 なんつーか上田せんせ……よく、コレをやろうと思ったな、と、思いましたの。

 純粋にね、難しいの、題材が。

 5世紀の日本が舞台。
 てことで、日本語自体難しい。
 20世紀が舞台の上記3作とは基盤からチガウ。

 で、古代王朝の陰謀・戦乱モノだ。
 いろんな立場、いろんな視点のキャラクタが絡み合い、プロットもややこしいし、見せ方も大変。
 やることが山ほどあって、ハードルの高さ半端ナイ。

 新人がチャレンジする題材ぢゃない……。

 その無謀さっつーか、「これが、若さか……」というアグレッシヴさにまず、感心しました。

 そして、この難しい題材にチャレンジするだけあって、うまい人なんだなと思った。
 原田くんや生田くんのデビュー作のように、ぶっ壊れてない(笑)。
 ちゃんとストーリーは組まれている。

 だから、見終わったあとのいちばんの感想は。

 惜しいわ。

 ……だった。


 うまい人なんだろうなと思った。難しい題材にあえて挑戦しているし、それを裏切ってないし、よくやっている。
 でも。

 惜しいわ。

 あちこち、足りてない。
 なまじその近くまで来ているから、届いてないことが、惜しい。
 ……上からの物言いですまんのう。でも正直なとこを記しておく。

 「これは、誰のための物語か」と問う鼻息の荒さも、いろんなキャラクタを出して縦横に世界を構築しようとする姿勢も、タカラヅカの王道の悲恋をやろうとする意気込みも、主役と2番手をカッコ良く美しく描こうとする心遣いも、いいんだけど、正しいんだけど。

 どれも、中途半端だ。

 恋愛モノとしても弱いし、兄弟愛憎モノとしても、弱い。

 明らかに間違っているわけじゃなくて、単に「足りていない」のがわかるだけに……惜しい。

 コレ、手を加えればどーんと良くなるんじゃないの? もう少し推敲を重ねる時間があったら、もっと良くなったんじゃないの?
 そう思える。

 せめて、どっちかにしぼるべきだったんじゃないかな。恋愛か、兄弟萌えか。
 生田くんくらいぶっ壊れたパワーがあれば、大笑いしながら膝を打って喜ぶことが出来たんだけど、とくに壊れてない分、足りなさが目立つ……。

 また、複数視点を描き切るのは上級テクニックが必要なので、主人公をしぼるべきだったんじゃないかな。

 正直、主人公の木梨軽皇子@たまきちがナニをしたかったのか、わからん……。
 W主演か?ってな比重の穴穂皇子@ちなつも、しかり。

 や、わかるよ?
 足りない部分を想像で補うことはできる。たぶんこーゆーことなんだろう?と思うことは。
 でもそれは想像の余地というより、作者の力不足というか、力尽きて書けていないだけな気がする……。
 もっと書き込むことはできたと思うんだ。
 もう一歩を、理性が邪魔して踏み込めないでいる? なんか、そんなことを、勝手に感じちゃったよ。

 まあぶっちゃけ、いちばんの敗因というか、問題は下級生バウだということだと思います……。

 これが、ある程度のスターさん主演の公演なら、この「足りない」部分をキャストが力業で埋めてくれたと思う。
 キャストのフリースタイル部分で味付け可能なくらいの「空欄」だと思う。

 しかしこれ、研6になったばかりの若者の、初主演バウなわけで。
 書いてあることを演じるだけで精一杯、それ以上を自分で埋めることは、今の段階ではできていなかった。

 だから、惜しい。
 いろんな意味で。


 ただ、それはわたしがわたしの立ち位置だから思うことであって。
 全組全作品観ます、「タカラヅカ」が大好きな口うるさいヲタク、上から目線上等ナニサマお客様、というだけの人間。

 これが、贔屓の公演だったら、楽しいと思うよ。

 だって、いろんなキャラクタがいて、それぞれ楽しそうに息づいている。
 主役はひたすらかっこいいし、ヒロインはとってもタカラヅカ的ヒロインだし、2番手がまたオイシイ。

 こりゃいいわー。

 足りない部分は脳内補完したり、勝手に創作して楽しめるだろうし。
 足りなさは、初日だったからのことで、回数を重ねればキャストが力業で埋めてくれる、その成長の過程を楽しめるのかもしれないし。

 デビュー作で欲張っていろんなことやって、結果力尽きているのは、良いことだと思うの。
 減点されることだけを恐れて、当たり障りのないものを作った……かどうかはわかんないけど、そう感じた、某せんせのデビュー作より、ずっといい。

 つか、この題材をデビュー作に選んで、なんとかカタチにしちゃったことに、感心するさ。
 これからも意欲的に、難しい題材にあえてチャレンジしてみてほしい。
 20世紀欧米舞台の「雰囲気だけ」作品しか書けない作家には、なってほしくないもん。

 面白かったし、泣いたけど、足りなさが歯がゆいっちゅーか、「わたしならもっとこうするのに!!」があちこちにあって、精神衛生上よくなかったような(笑)。 

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