いつまでも『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』の話。

 カイト@咲ちゃんを追ってきたヤクザ三人組。
 カイトを殺そうとする理由は、「ボスを殺そうとしたから」。

 カイトの物語は説明がほとんどないので、なにが起こっているのかわかりにくい。
 白田@レオくんに「ボスに紹介してやる」と言われたあと、山田@真地くんに「ボスを殺そうとした」と言われるだけ。

 このふたつの「ボス」は別人だと思う。
 何故なら、ふたつの場面でカイトと関わるヤクザが別人だからだ。

 組への勧誘がレオくんとおーじくん。組の敵として追ってきたのが真地くん、翼くん、ゆうりくん。

 レオくんの言う「ボス」と真地くんの言う「ボス」を同一人物だと仮定すると、おかしなことばかりになる。

 第一に、レオくんたちが言う「ボス」をカイトが殺そうとしたなら、追ってくるのはレオくんたちのはずだ。自分たちが勧誘したちんぴらが、組のボスを害したのなら、責任を負うことになるはずだから。

 第二に、カイトが勝手に組のボスを狙ったのではなく、レオくんの命令によるものだとしたら、たしかにレオくんはカイトの追っ手にはならないだろう。
 だがこの場合、レオくんは追っ手以外で再登場しないとおかしい。追っ手の真地くんは、レオくんと同じ組のヤクザ、カイトを拾ってきたのがレオくんだと真地くんも知っているわけだ。何故兄貴分のレオくんがカイトの始末に現れないのか、説明がないと。
 レオくんはもうすでに始末されたとか、あるいはすべての罪をカイトに押しつけているとか。

 第三に、ヤクザ界で自分の組の組長は父親も同然、親殺しは最大のタブー。
 レオくんが追っ手でないことや、彼の話題が出なかったことが「たまたま」だとしても、BJ@まっつ相手に事情を説明するだけの社会性のある山田@真地くんが、「親殺し」に触れないのはおかしい。
 山田役のキャラ設定からして、カイトを殺すのが自分たちの世界では当然のことなのだ、それが正義であり道理なのだと語るはずだ。

 第四に、真地くんはカイトを「ボスを狙った男」という以上にはなにも知らない様子だった。名前も呼びかけない、「そいつ」呼ばわり。
 同じ組で同じ釜の飯を食っているとは思えない。

 カイトが自分の組のボスを殺そうとした、という設定ならば、どう考えても追っ手はレオくんでなきゃおかしいんだよなあ。
 カイトが本当に裏切ってヤクザ界最大のタブーを犯したなら、兄貴分のレオくんが自ら処理すべきだし、レオくんに利用されたのだとしても、それならなおさらレオくん自身が「死人に口なし」で口封じしに来るだろうし。

 これらのことから、「カイトは敵対する組のボスを狙った」とわかる。
 レオくんに勧誘されてどれくらい経っているのかわからないけど、少なくとも、1年未満のこと。せいぜい数ヶ月。……レオくんは最初からカイトを利用するつもりで、鉄砲玉として使い捨てるつもりで勧誘したんじゃないか。

 組に入ったところでカイトの居場所はなかったんだろう。
 だからエリ@あゆみちゃんの肩を借り、BJ@まっつのところへ来たんだろう。
 他に頼るものもなかったから。


 で、この3人のヤクザ。

 リーダー格の真地くんが研3、子分の翼くんが研4、ゆうりくんが研2。
 若っ。

 真地くんがこんだけ喋るのを見るのは、『黒い瞳』以来。彼の場合、タッパで役割を割り振られている気はする。なにしろ雪組最長身だもんなー。翼くんに身長があれば、翼くんがリーダーだったんじゃないかなー、学年的にも、キャリア的にも。

 真地くんはこんだけまともに舞台で台詞喋るのも、キャラクタがある役も、はじめてだったと思う。
 どんどん、目に見えてうまくなっていくのが、すごい。

 DC初日と青年館では、まったく別ですよお客さん!

 若い子って伸びるの早いわー。

「てめえに逮捕権はないだろうが。俺たち殺したら国際問題だぞ」
 最後の台詞が、DC序盤、ナニ言ってんのかわかんなかったもんなー(笑)。
 正塚せんせの怒鳴り芝居、「男役の声」「怒鳴り声」「捨て台詞には長過ぎるから早口で言い切らなければならない」「日常的な単語ではない、耳馴染みの薄い言葉」と何重苦にもなっていて、最初の方は「キーキーキー!!」って感じだったもん。

 つくしちゃんの金切り声が「台詞」として成り立っていくのと同じように、真地くんの捨て台詞もちゃんと「台詞」になっていくのを見守るのが、生舞台の醍醐味ってやつでした。


 この3人のヤクザ、キャラ立てがわかるのもまたいいよな。

 真地くんはインテリ系。
 冷静に部外者のBJに事態を説明するし、BJの名前と顔も知っている。でも子分のことは怒鳴りつける。表向きの顔と暴力的な顔、ふたつあるらしい。
 すぐに暴力をちらつかせる子分たちと違い、まずは「会話」を成立させようとする。苛立ちを下敷きにした「俺たちをなめてるわけじゃないよな?」が、とてもらしい言い方。

 翼くんはアタマ弱い暴力男。
 ヘラヘラ笑いが特徴、暴力だの銃だのをちらつかせるのが大好き。でもほんとのとこはヘタレ、BJにちょっと凄まれるだけで腰が引ける。……BJに殴り倒されるくらい、腕っ節も弱いヒョロ男だしな(笑)。

 ゆうりくんは役に立たないまぬけ男。
 真地くん、翼くんが銃を抜くのに、彼ひとりまともに銃を持てず、お手玉したあげく落としてしまう。だからトラヴィス@ホタテくんにも、撃たれずに済んだ。
 そしてなんといっても最後の台詞、「おぼえて〇※☆△~~!!」。ぶるっちゃって「おぼえてやがれ」がちゃんと言えず、舌が回っていない設定。

 ……真地くん、ろくな子分いないな(笑)。

 真地くんもだけど、ゆうりくんが日に日に「男役」としての立ち方……舞台での居方っていうのかな、を、身に付けていくのが見ていて楽しかった。
 このダメヤクザ役はなんつってもトラヴィスとの漫才が重要で、タイミング命。おかげで「喋ること」に集中し過ぎててあまりなりふりかまっていない様子。それでも、その集中感が気持ちよかった。
 あと、医師連盟のとこがナニ気にかっこいい(笑)。

 翼くんはもともとこれくらいできるだろ、っていう先入観があるからか、あまり発見はなく。
 雪担の知人が「翼くんはナニかひとつあれば化けると思うから、じれったい。てゆーかああいう子をこの手で育て上げたい」とアツく語っていたなー。
 うんうん、わかるー。歌えて踊れて芝居も出来る、身長はないけど脅威の小顔でスタイルもいい。でもなんか、押しが足りない~~。
 や、実際問題一介のヅカファンが「育て上げる」ことができるのかは置くとして、タカラヅカが「生徒の成長を見守る」ことを魅力のひとつとしていることから、「そんなことができたらいいよねー」という話で。


 ヤクザは全部で5人出るけど、みんなキャラが違ってイイ。

 レオくん(研5)はいかにもな胡散臭い系。インテリというよりは、腹黒系でしょ。物腰が柔らかいけれど、なにしろ黒白縦縞ヤクザスーツにオールバックですよ(笑)。

 おーじくん(研4)は愚鈍系。のーみそまで筋肉って感じ。レオくんの意見鵜呑み、レオ兄貴の顔色でコロコロ態度を変える。
 や、ナニ気におーじくんがうまいんだわ……。


 こんな脇の子たちまでしっかりキャラ作って楽しそうに、舞台で生きている。
 『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』が面白いのは、そういうところにも現れている。

コメント

日記内を検索