しつこく『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』の話。

 トラヴィス@ホタテの謎、続き。

 トラヴィスはいなくてもいいキャラ。
 彼はストーリーにまったく絡まない。

 だからわからないんだ。
 作中の「出来事」と彼の関連度。


 1幕では、彼は「ただのお邪魔虫」。
 勝手にBJ@まっつにくっついてやって来て、邪魔者扱いされながらもBJ邸にいる。BJはトラヴィスをさくっと無視。

 このあたりでは、特に謎がない。
 BJがトラヴィスを重要視していない、無視している、だから物語的にも観客的にも、無視していい。ただのお笑い担当。出てきたら笑わせてくれる、それだけ。

 問題は、2幕。

 2幕の冒頭から、謎なんですけど。

 帰国するバイロン侯爵@ともみんに対し、トラヴィスはやたら緊張している。「高貴な方ですから」というのが理由。ああそうね、某合衆国には貴族ってもんがナイから、かの国の人たちのお貴族様へのこだわりは半端ナイらしいわね、と考えて……首をかしげる。

 えっと。
 トラヴィスさん、その「高貴な方」ってさ、BJ誘拐犯なんだけど? 知ってる?

 トラヴィスの任務は、BJを守ること。「私にも信念があります!(キリッ)」とやっていた、真面目な青年。
 BJにどんだけ冷たくあしらわれようと、臆することなく「信念」を貫いていた。
 そんな彼だから、BJが行方不明になったときに盛大にへこんでいた。
 誘拐されたとわかったときは、駐留軍まで巻き込んで大騒ぎしていたらしい。

「1時間後にスイッチを入れてください!!」
 って、あんだけお願いしていたのに、BJ、んなこときれーに忘れてたよね?

 駐留軍基地に行って、受信機の前で息を詰めて待ち続け……信号がなく、これまた苦悩したことだろう。
 発信機が壊れているのか、はたまたBJが発信機を押せないような状況になっているのか、悪い方向にいっぱいいっぱい考えて、苦しみまくったことだろう。

 なのにその翌日、BJはふつーの顔して帰ってきて。

 …………このあたり、なにがどうあったのか、知りたいです。

 最初の発信機の「BJが好奇心でスイッチを押す」→「なにがあったんですかああぁぁっ!!とトラヴィスが血相変えて駆けつける」を見て、BJはトラヴィスに旅館を紹介したわけっしょ? あ、こいついいヤツじゃん、って。
 最初の「ぽちっとな」でそれだったわけで。
 誘拐されたあと、無事に戻って来たBJを見たトラヴィスが、どんな反応を見せたか。
 知りたいじゃないですか?
 そして、ツンデレBJ先生が、どんなリアクションを取ったか。
 知りたいじゃないですか?

 で、BJはトラヴィスになにをどう話したの? どこまで話したの?
 軍隊まで巻き込んでるわけですが?
 合衆国本国にも、報告しているだろうし。

 バイロン侯爵の秘密を守るため、BJはどこまで誰に話したんだろう?

 半端な報告では、許してもらえないと思うんですが。
 トラヴィスは大統領暗殺を企んだテロ組織、に対抗するために、BJの護衛をしている。BJの誘拐がその組織絡みだった場合、再び大統領、ひいては合衆国にも関わってくる深刻な事態だ。
 国の存亡を懸けて、BJ誘拐事件を調べると思うんですが。


 奇形腫から摘出された少女・ピノコのことは、別に秘密ではない。
 だからトラヴィスもそういう子どもがBJ邸にいて、治療を受けていることは知っていた。
 でも、まだまだ人間の身体にはほど遠い状態の少女が、足りなかったパーツをすべて得て、いきなり人間として生まれ直す不自然さは、どこまで理解しているのか?
 バイロン侯爵がナニをしに日本へ来たのか……ドナーになってくれるまではいいとして、移植の規模がものすごすぎて、そこまでカラダを切り売りしてなんで平気なのか、不思議に思わないんだろうか?

 トラヴィスは、どこまでナニを知っているの?


 また、カイト@咲ちゃんのことは、どこまで聞いていたの?
 トラヴィスが日本へやって来た、その夜にBJ先生は命の危機に見舞われている。強盗カイトに銃を突きつけられているんだ。
 BJ先生はそれ、トラヴィスに話した?


 BJの相棒として、当たり前に彼の横にいる……一緒に過ごしている、だけに、トラヴィスがなにをどこまで理解しているのかが、わからないってのは、問題だと思う。


 ナニもかも話したんですかね?
 バイロンさんの秘密も、彼との取引内容も。
 ものすごい秘密だと思うし、それを政府に、軍に知られたら大変なことで、知り合ったばかりの他国の軍人さん(?)に、BJはぺらぺら喋ったのかしら?

 トラヴィスとの間に、確固たる信頼関係があれば、わかるんだけど。
 そんなものを築く間もなくBJは誘拐されたりなんだりしてたわけで。

 真実を話さずには済まないほどの大ごとになっている。
 真実を話すには危険すぎる、話したとは思えない人間関係。
 ……この相反する事態に陥っているのに、なんの説明もないんですよ。

 トラヴィスが大統領警護官でなければよかったんだけどね。ただの私設ボディーガードとか。政治にも軍事にも絡んでいない人なら。
 なにかいうと「軍が」だから、ナニかあれば合衆国に筒抜けだってことになるし。


 トラヴィスはいいキャラだし、作者にも観客にも愛されている。

 だけどいろいろと間違ったキャラクタだ。
 いなくても本筋に関係ないし、むしろ、いることで設定的にはマイナスになっている。
 どうあがいても変だ、彼の存在。


 でもわたしは、トラヴィスが好き。
 この物語に、トラヴィスがいてくれて良かったと思っている。

 この設定上の歪みを埋めるにはさー、愛しかないと思ってる。

 つまり、だ。
 軍まで巻き込んで大騒ぎしていたトラヴィスのところへ、誘拐されていたBJがなにごともなく帰ってきた。
 BJはトラヴィスのことなんかすっかり忘れていた。
 ふたりは出会ってから数日しか経っていないし、その間も発信機の修理だとか誘拐だとかで、顔を合わせることもほとんどなかったし、会話もろくにしていない。
 そんな状態での再会。
 その再会で。

 愛の花がひらいた。

 理屈ぢゃない。
 自分を心配しまくっていたトラヴィスに、無事に帰ってきたBJに、お互い吊り橋効果でどどーんと気持ちが動いちゃった、と。

 それでトラヴィスは、任務がどうあれ立場がどうあれ、BJが「これ以上言えない」と言ったらそこで引き下がる。
 BJへの信頼ゆえに、国への忠誠心を捨てる。信念を曲げる。

 BJも、そんなトラヴィスを信じる。彼がスパイ行動をしないと、ほんとうにただ護衛のためだけにBJのそばにいるのだと。

 1幕の終わりまで、なんの友情も信頼もないふたりなのに、2幕では家族みたいになっていたわけですから。
 BJの帰国と同時にナニか花開いたんだなと、それしか考えられないぢゃないですか。

 トラヴィスの謎。

 答えは、愛。

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