未だにちんたら、『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』の話。

 この『BJ』という作品において、わかりにくいのが「作中の時間経過」と、「トラヴィス」。

 2幕最初の場面にて、ツンデレの我らがBJ先生@まっつは、護衛官のトラヴィス@ホタテにツンツンしている。

 トラヴィスの任務はBJの護衛なので、彼の行くところすべてに、ふつーに付き従うつもりでいる。
 なのにBJはあったり前に言うんだ、「キミはここに残ってくれ。ピノコをひとりにするのは心配だ」。

 トラヴィスを、なんだと思ってるんだ?

 トモダチ? 同居人? 部下?

 SPに対して、言わないよな。「子守をしててくれ」とは。
 存在意義を否定してますがな。

 トラヴィスはもちろん抗う。
 「発信機があるじゃないか」と言うBJに、「あんなもの、役に立ちませんよ!!」と言い切って、客席からものすごい熱の笑いを得るんだから、ホタテマンすごい。

 ここでBJがひどいのは、トラヴィス相手に最後まで会話しないこと。
「仕方ない、連れて行くか」
 とつぶやくんだけど、ふつーこの話の流れなら、「連れて行く」のはトラヴィスのことでしょ? 「一緒に行く」と言っているのはトラヴィスなんだから。

 なのにBJ先生、トラヴィスは見てないの。
 彼の後ろにいるピノコを見て「連れて行くか」とつぶやく。
 だからトラヴィスは「え?」と素で返す。
 自分に対して言われているわけじゃない……てことは、つまり?

「ピノコを連れてきてくれ。キミのせいだ。キミが面倒見ろよ」
「ええっ?!」

 いやいやいや、この論理、変だから!
 トラヴィスがピノコの子守のために家に残る謂われはないし、それを拒否ったからって、「トラヴィスのせい」にはならない。

 わかっていて、BJは無茶ぶりをしている。
 トラヴィスなら断らないと。

 この「キミが面倒見ろよ」がねええ。

 DCの最初の方は、冷たく突き放すように言ってたの。不機嫌そうに、嫌そうに。
 なのに、公演が進むにつれて、BJが変わっていったの。

 いたずらっ子のように、笑いながら言うの。「キミが面倒見ろよ」って。

 変わりすぎだから!!
 そこまで変わっちゃうと、人間関係変わっちゃってるから! ストーリー変わってるから!!


 DCの最初の方の様子だと、BJとトラヴィスの関係は「発信機の修理が済んだら教えてくれ」って切り捨てていた、あの感じなの。
 ぱきっと線を引かれた、突き放した感じ。

 だけど、DC後半から青年館の様子だと、もう友だち同士みたいな気安さがあるの。
 わがまま言って困らせるのもアリ。だって仲良しだもん。

 ……あのー。
 どういうことっすか、これ。


 わからないのは、「作中の時間経過」と、「トラヴィス」。

 DCの最初の方は、「あまり日にちが経っていない」のだと思って見ていた。

 トラヴィスが某合衆国からBJにくっついて日本に来て、その翌日にはBJがバイロンに誘拐されて、数日後に戻って来て、ピノコの手術して、さらに数日後。

 トラヴィスとBJは親しくなるヒマもない。
 だから「発信機のやり取り」をしていたときの、固い感じのまま。
 バイロンさん不死身だから、手術してほんとに2~3日でぴんぴんしてるのかもしんないなー。

 でも、後半の様子だと、「けっこう日にちが経過している」ように見えた。

 BJは先に帰国したけれど、バイロンさんはそんなにすぐに日本へ来たわけじゃない。
 や、すぐに来たかもしんないけど、すぐさま手術したんじゃなく、切り刻んだ内臓が完全回復するまで待ったんだ。
 ほんとうに元気なカラダになるまで待って、それから手術した。
 で、そっからさらに日にちが経ち、あちこちニクを削いだバイロンさんが、もとのオトコマエの侯爵様に戻るくらいゆっくり療養してから、BJに帰国の挨拶に来たんだ。
 ピノコが自分で歩いて、「バイバイロン」と言えるくらい、時間が経っていたんだ。
 その、長い日にちの間に、トラヴィスとBJは打ち解けたんだ。


 いやあ、時間経過がわからんですなー。

 ラストにトラヴィスさんが「1年間、お世話になりました」と言い出したとき、1年も経ってたんかい!!と、突っ込んだもん。
 合衆国大統領……1年もトラヴィスをBJの護衛に派遣してたの……? あるかどうかもわからない、テロ組織の報復を恐れて? それ全部、税金でだよね?
 ちょっとありえないっていうか、無茶な設定だわ。

 せいぜい1ヶ月で引き上げるでしょ……所詮BJはよそ者で、某合衆国とは無関係な人間なんだし。
 それに、公務を再開したのを機に、トラヴィスに帰国命令を出しているわけで、……えーと、大統領、1年間公務を休んでたの? ……そんな場合、すでに職を辞してるよね? 代わりはいくらでもいるだろうし。

 やっぱ1年は変だ……。


 トラヴィスってさ、ぶっちゃけ、いなくてもかまわないキャラだよね?

 で、トラヴィスがいるために、なんか変なことになってるの。
 合衆国大統領護衛官が、丸1年合衆国と無関係の無免許医師にくっついているのは、リアリティがなさ過ぎる。
 テロ組織の話も立ち消え、伏線にもなってないし。
 トラヴィスが役に立ったのって、ヤクザのちんぴらトリオを追い返しただけだし。しかもヤクザのひとり@真地くんに「てめえに逮捕権はないだろ」と言い負かされてたし。
 ちんぴらに言い負かされる「プロ」……。
 役に立ってねええ。

 トラヴィスの仕事は、子育て。

 BJの奥さんポジ。
 BJおとーさんと、トラヴィスおかーさんが、子育てがんばる話。

 ……大統領警護官……。


 いなくていい役だけど、正塚は、この役にこだわったんだろうな。
 なんつーか、作者の愛情が詰まりまくった役だ……。
 それは、BJがなんだかんだいって、トラヴィスを大好きなことからも、わかる。
 主人公に愛される役、それは、ナニをさておいても、重要な役なんだ。
 リアリティとか、役割とか、そんなもんがなくっても(笑)。


 「キミが面倒見ろよ」……BJが、笑って言う。
 いたずらっぽく、ドSに。
 いぢめるのが、たのしい。うれしい。
 大好きだから。
 どんなわがままも意地悪も、受け止めてくれる。そばにいてくれる。
 大好きだから。

 そんな関係。


 いつの間に、そんなことに……。
 謎だわ、「作中の時間経過」と、「トラヴィス」。

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