未だに『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』の話。

 1幕ラスト、作品全体の中詰めにあたる、ショー場面が好きだ。
 ほんっとに好きだ。
 ある意味、いちばん好きだ。

 この作品で、いちばん盛り上がるところだよね。

 バイロン@ともみんが決意を歌う。
 あきらめていた「今」を動かすことを誓う。
 涙のきらめく頬をさらしたまま、アツく吠える。これぞ「夢乃聖夏!!」そのまんまに。

 ともみんのこういうところが好き。
 たとえ開くことない石の壁だとしても、その熱量で叩き割ってしまいそうなところ。
 そう、信じてしまえそうなところ。

 立ち上がれ。
 その情熱が、奇跡を起こす。
 そう信じられる、まっすぐなアツさ。その光。

 ド演歌歌唱も相まって、アツいアツい。


 ともみんの歌を受けて、BJ@まっつが歌う。

「♪めぐり会うそのことすら 小さな奇跡かもしれない」

 まっつの歌う歌は、全部同じことの繰り返し。
 全部で何曲歌ってたっけ? でも、ピノコへの歌と、テーマと、2種類しかないよな。
 曲は違っても同じ内容なのな(笑)。「かわらぬ思い」も含めて。

 ここで歌うのはテーマ曲の方。

「♪できることなど儚いけれど 自らをひたすら信じる」

 まっつのテーマ曲で、唯一派手な曲調。
 「攻め」な場面。

 ともみんのソロから、このまっつのソロに移る流れ、ものすごく好き。
 ともみんが下手へ去るのと入れ替わりに、BJの影たちが舞台に登場する。
 影たちの一番奥、センターにいるのは影じゃない、BJ自身だ。

 振り返り、歌い出す。

 前へ、響く歌声。

 BJの周囲で踊る影たち。

 命とは、奇跡の名だ。
 わたしたちは奇跡をくり返して、生きている。
 この思い通りにならない世界で。
 ちっぽけな拳を握り、ちっぽけな力を振り絞り。

 それを、肯定する歌声。


 そこから、ピノコへの語りかけになる。
 バイロン侯爵の力を借りて、ピノコを救えるかもしれない、と。

 背中を向けて坐っているのは、ピノコの影@ゆきのちゃん。

 おだやかなやさしい歌声。
 ちょい夢見がちな。
 なにしろ「愛を信じている」BJ先生ですから。


 力強い歌から、やさしい歌になり、次にまた、曲調が変わる。


 さっきまでの激しいテーマソング。
 生きる力を、命の肯定を歌ったその曲で、カイト@咲ちゃんが正反対の歌詞を歌う。

 BJは下手に移動、中央奥にカイト登場。
 カイトが絶望を歌う。

 訳もなくオレは生きる……なんために?

 激しい曲調、激しいコーラス。
 カイトの叫びに、コーラスが呼応する。

 上手にはエリ@あゆみちゃんも登場して、苛立ちに満ちたダンスを踊る。

 波は高まり、寄せて返すように、カイトたちが移動したあと、さらに同じ演出でバイロン侯爵@ともみんがカイトのいた位置に登場する。

 同じ曲。
 バイロンは、諦念を歌う。

 息を潜め、悠久の時を生きた……ひとりきり。

 激しい曲調、激しいコーラス。
 同じ曲なのに、何故ともみんひとり演歌なんだ、コブシ回るんだ(笑)……と、ツボに入りつつ、こちらも彼の叫びにコーラスが呼応する。

 上手には、カテリーナ@せしこも登場して、惑乱に満ちたダンスを踊る。

 その間、BJはずっと下手前で踊っていた。バックにいるのはゆめみさんだっけ。

 カイト、そしてバイロン。
 絶望と諦念の叫びを聴いていたBJが動く。

 流れているのは、ずっと同じ曲。

 そして、BJが歌うのは、いつも同じテーマだ。

 生きろ。
 絶望も諦念も当たり前にある、この世界で。

 めぐり会いは奇跡。
 命には限りがある。
 それが答え。
 それだけが、事実。

 生きろ。

 群衆たちを背に、BJがセンターに立つ。
 声を上げる。
 ただひとり。

 生きろ、と。

 命、を肯定する。

 それを受けて、群衆が声を上げる。
 テーマの合唱になる。

「♪いつか いつの日か 今ここに生きてこそ」

 「かわらぬ思い」から一貫して変わらない、『BJ』のテーマ。
 いや、正塚晴彦のテーマかもしれない。

 カイトが、バイロンが、トラヴィスが山野が、みんなみんな、共に合唱する。
 BJを中心に。

 生きろ。

 その合唱が、最高潮に達したとき、ぴたりと音が消える。

 ざっと群衆が割れ、舞台奥にひとりの少女が立つ。

 白い服に身を包んだ、華奢な少女。
 たった今、この世界に生まれ出た少女。

 パジャマのような、道化師のような衣装。
 まん丸い、びっくり目。

 無遠慮に無機質に、少女を凝視する人々を見回して、少女はたどたどしい足取りで、歩き出す。
 生まれたばかりの雛のように。

 そして、転ぶ。
 前のめりにべちゃーっと倒れて、「わああああ」っと泣き出す。

 赤ん坊は、何故生まれたときに泣くのか。
 あたたかい母の胎内から、外気に触れることはつらいのだと、ショックなのだと、昔読んだ。
 「生まれる」ことは、衝撃なんだ。つらいことなんだ。
 だからまず、泣くんだ。悲鳴を上げるんだ。

 だけど。


 泣く少女を助け起こしもせず、ただ見下ろして、BJは言う。

「自分で起き上がるんだ。それが出来なければ、お前は一生倒れたままだぞ」

 言葉を投げつけられ、少女は泣き止み、あがきはじめる。
 不自由な手足を動かし、起き上がる。

 BJは手助けしない。だけど、見守っている。
 舞台奥へ立ち去る風にして、立ち止まって少女を見つめている。

 起き上がった少女は叫ぶ。

「アッチョンブリケ!!」


 ここで、暗転。
 1幕終了。


 初日はぽかーんだった。ものすごい空気だった。
 しかし。

 1幕のこの終わり方が、めちゃくちゃ好きだ。

 ともみんの歌からはじまる作品の中詰め、1幕ラストまでの流れ。
 テーマソングと人の流れ、ダンス。
 どれも秀逸。
 血が沸き立つ。

 テーマソング1曲の中で、カイトやバイロンの「アンチテーマ」も含まれてるんだもん。
 そして、それらをも内包し、超越し、揺るがない、BJの歌声。

 彼は一貫して揺らがない。
 ただ、テーマを歌い続ける。

 もー、大好きだ、ここ。
 この場面だけでもハードリピートOKっすよ。
 わくわくわくっ。

 物語のテーマが全部きゅっとこの数分間に詰め込まれてる。
 ぶっちゃけ、ここだけで作品全部成立する勢い(笑)。

 正塚せんせのショーパートでいいと思うこと、ほとんどないんだけど、久しぶりにキタわー。
 『二人だけの戦場』のイチロ・トド・たかこの歌い継ぎ以来かもしれない。(ってそれ何年前)

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