『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』青年館でまっつは、DC楽の「ほとんど歌わない」状態から、「ほとんど歌う」状態になった。

 それはほんとに良かった。
 どーなることかと思ったもの。
 歌全カットで芝居に変更とか、そういうことも考えられたもんなー。

 青年館初日、DCで歌詞朗読だったところを歌い出すたびに、客席から「歌った!!」という空気が立ち上る。なんとレアな雰囲気(笑)。はじめてだこんな経験。

 まっつが歌うたびに「歌った」ことへの驚きと安堵があり、加えて「美声」に酔う。
 いろいろと抑え目ではあっても、十分美声で音程も確か。
 なんだよ、ふつーに歌ってんじゃん……と思うから、本来歌である部分が唐突に台詞になると、びびる。

 1幕の2曲目のピノコへの歌の、ラストにて、最後の歌いあげ部分のみが台詞に変更。
 あ、やっぱり調子悪いんだ。ふつーにきれいに歌ってるから、もういいのかと思った、てな。

 本調子ではない、無理をしてやっている……状態でも、こんだけうまいんだから、すごいわな。

 ふつーに舞台が進み、バイロン侯爵@ともみんとの掛け合いのソロもふつーにがんがん行ってたし。
 その勢いのまま、1幕のエンディング、「2幕に続くぜ!」という派手な中詰めショー場面になり……歌カットに、心から驚いた。

 えっ、ここカット? DCでは歌ってたとこだよね? あのひどい状態でも歌ってたのに、回復してるっぽい今、歌わないんだ??

 バイロンのソロのあと、BJ@まっつが影たちと共に登場、短いけれど力強いソロを歌う……場面。
 そこから曲調はがらりとかわり、ピノコへのやさしい歌になる。

 その力強いソロがなくなり、カゲコーラスの響く中、まっつは無言で身振り手振りしていた。

 その直後のピノコの歌は、歌う。
 語り掛け調の歌だから、台詞になっていても違和感なさそーなとこなのに、こっちは歌うんだ……。

 カイト@咲ちゃんの絶望のソロ、バイロンの諦観のソロ、それを引き継ぎ、BJが主題を強く歌いあげる……部分が、コーラスになっていた。BJも歌っているようだが、声はほとんど聞こえない。
 そっから全員の合唱、ピノコ@ももちゃん登場、になり、1幕は終了する。

 1幕ラストの、この変更が、心から残念で。

 たたみかけるように主題を歌い継ぐこの中詰めが、実はいちばん好きだったんだ。
 物語として観ればツボは他にもあるが、「作品」として観た場合、もっとも盛り上がるのはここだ。

 なにしろこの作品、クライマックスが、ない。
 「正塚復活!」な、とってもハリーらしい作品で、それゆえにハリーの欠点「クライマックスなし」もしっかり盛り込まれてます(笑)。

 だから2幕には盛り上がるところが、クライマックスがない。ただ淡々と進んで、終わる。
 1幕ラスト、ここだけが真っ当に盛り上がってるのなー。
 2幕で肩すかしされるとわかっている以上、ほんっとに貴重なんですよ、この派手に盛り上がる1幕ラスト。
 その、唯一無二の派手な場面で……主役が声を出さない。

 ……これは、痛いわー。


 単純に不思議だった。
 なんでこんな半端な演出になっているんだろう?

 ソロがまるまるカットになっているところ、歌ナシならそれでもいいから、代わりにダンスソロにしちゃえばいいのに。
 影たちが周囲を囲んで踊っているなか、真ん中のBJがナニもしてない、って、変。
 一応身振り手振りしているけれど、ダンスではなく、「ソロを歌うときの振り付け」でしかない。
 歌ってないのに「歌用の動き」だと、どうあがいても物足りない。

 もともとBJにはダンスが少なすぎるんだ、踊らせろ~~、まっつのダンスを見させろ~~。じたばた。

 ダンス場面へとぱきっと変更してくれていたら、なんの不満もなかったんだけどなあ。
 カイトとバイロンががんがん歌って踊っているなか、主役のBJだけ歌いも踊りもしないんじゃ、なんとも寂しい。カイトたちのソロのとき、BJも舞台隅でちょっと踊ってはいるけどね、ほんとちょっとだけだしね。それだけじゃね。
 なまじ作品中もっともドラマティックな場面であるだけに……。

 ダンスに変更してくれないんだったら、他の歌削ってでも、ここは歌わせて欲しかったよ、正塚せんせ……。

 青年館初日、幕間休憩時はちょっとしょぼんでした。
 いちばんぐわーっと盛り上がる1幕ラストで「えっ、歌カット、代わりのダンスもなし? BJ中心に盛り上がる演出もせず、これで終わるの??」と。

 肩すかしくらった……。

 なまじ1幕、ほとんど歌っていたし、美声だったし。
 このまま行ってくれるのかと思っていたら、まさかのクライマックスのカット……。
 これじゃ2幕も期待できない……さらに肝心な部分がカットされたりしてるかも……?

 心配に反して、2幕はしっかり歌っていた。
 高く歌いあげる夜明けの歌の真ん中部分のみ台詞に変更、それ以外は全部歌った。

 わたしが「まっつの歌声が必須」と思っていたのは、1幕ラストと、2幕の夕暮れの歌だ。
 1幕ラストは残念なことになっていたけれど、2幕はちゃんと歌ってくれた。

 赤く染まる空、ピノコとトラヴィス@ホタテくんのシルエット。
 「家族」を眺めながら、BJが優しい瞳で歌う。

 美しくあれ この世のすべて

 「権威」ある人たちから存在を、生き方を否定され、糾弾されたあと。
 それでもBJは、「世界」をやさしい瞳で見つめる。
 愛しい者たちがいる、この世界を。


 2幕の2曲って、同じテーマを歌ってるよね。
 人生肯定。命の肯定。
 主題歌「かわらぬ思い」と同じ。

 同じ意味の歌なので、そのうちどっちか1曲だけ歌って、1曲は歌詞朗読になるとして、夕暮れの歌の方が歌でうれしい、と思うのは、わたし個人の趣味。

 夕焼け空とトラヴィスとピノコ、徐々に暮れてゆく空、星の瞬き、手をつなぐトラヴィスとピノコ……。

 ピノコをひとりにするのは不安だ、と言ったBJが、ピノコが勝手に駆け出すのを放っておいている。トラヴィスがいるから。彼に、すべてを任せて。
 BJの様子をうかがってから、ピノコのあとを追うトラヴィス。彼の任務はBJの護衛、なのにBJを残してピノコを追う。
 ここでもう、BJはトラヴィスを信じきっているし、トラヴィスは任務とは関係なくBJのそばにいる。
 ふたりの心の距離がわかる場面。

 BJが愛しい者たちを遠く眺めながら、あわく微笑みながら歌う。

「美しくあれ この世のすべて」

 BJの影たちは、まるで祈るかのように両手を合わせる。
 美しくあれ。幸せであれ。
 すべての、命あるものたち。

 許されて、いるのだから。

「どんな人間でも、いつかは幸せになれるかもしれないってことだ」


 DCで歌詞朗読になっていたこの歌を、まっつが朗々と歌いあげたとき、ぞくぞくした。

 歌った……!
 ここ、ちゃんと歌ってくれた……!!

 ってことで、もう1曲の方は一部朗読でもいっか、という気分。
 どっちにしろ、人生肯定ソングにはトラヴィスが不可欠なんだよね。夜明けの歌が終わると「おはようございます」ってトラヴィスが現れるの。
 そしてBJは「よう」って、すげー当たり前にしているの。
 ったく、いちゃいちゃしやがって(笑)。


 あとはふつーに歌っているし、ほんと、残念なのは1幕ラストの歌カットのみなのよー。

 とはいえ。

 青年館初見の人たちは、1幕ラストになんの不満も持っていないようだし、DC版を知らなかったら歌カットされてるとかわからないくらい、ちゃんと演出されてるし。

 残念なのは、わたしの好みの問題なんだろう。

 1幕ラストの歌い継ぎが、好きだったんだ。

 ということだけ。

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