BJ@まっつが、カイト@咲ちゃんを嫌いなのは、よくわかる。

 『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』第1幕にて、BJはカイトに対してブチ切れる。

 足が不自由なカイトは、自分のすべての不幸をそのせいにしていた。安上がりな自己憐憫と自己正当化、責任転嫁。さいてーだ。

 カイトが幼稚で卑劣で、クズなのはかまわない。そんなの、カイトの勝手だ。勝手に不幸でいればいいし、もっと不幸になればいい。
 BJは最初、カイトを嘲笑っている。「金がないと殺されるかも」と言うカイトに、「知ったことか。どうせ博打でつくった借金だろう」と。

 BJがキレるのは、そこにピノコ@ももちゃんがいるから。

 ほんのついさっき、ピノコはBJを助けるためにカイトを超能力で攻撃した。
 つまりピノコは起きているし、BJとカイトの会話を聞いている。

 「足が不自由だから幸せになれない」という泣き言も、「(身体が不自由なら)死んだ方がマシだ」「どうせまともに生きられない」という決めつけも、全部全部、ピノコは聞いている。

 BJを守るために超能力を使ったピノコが、沈黙している。カイトを攻撃することもなく。
 彼女はどんな想いで、カイトの言葉を聞いたのか。

 カイトに金を渡して追い払ったあと、BJは再度ピノコに語りかける。
 ついさっきも同じよーなことを言って、同じよーな流れで歌い出したよね。
 でも、この2曲のピノコへの歌は、意味合いがぜんぜん違うんだ。

 1回目のときはやさしく希望に満ちた歌だったのに、2回目はかなしい苦痛を含んだ歌になっている。

 生まれてくるべきではなかった。
 求められていない、居場所がない、しあわせになれない。

 カイトの決めつけはピノコに対してであり、自分自身に対してでもある。
 そして。
 ピノコと自分を重ねている、BJのことでもある。

 存在を許されない彼ら。
 誰にも理解されず、孤独の底にいる彼ら。

 だからBJは、ピノコを助けなければならない。彼自身が、生きるために。


 そこまでカイトを嫌っていたのに、次にカイトと会うとき、BJは態度を一変させている。

 ヤクザ同士の抗争で、傷ついたカイトはエリ@あゆみちゃんに支えられてBJの家までやって来た。

 ケガ人だから助ける。だって、医者だから。
 ……という範囲を、超えた態度なんだ、BJ。

 カイトを追ってきたヤクザ@真地くんたちの銃口に身をさらし、カイトを守る盾となる。

 それはカイトが、生きたいと切望して、ここまでやって来たからだ。

 最初に会ったとき、自暴自棄だった強盗が。
 「自分が殺されるかもしれない」からと強盗を思いつくような幼稚で自分勝手な青年。うまくいかないと、駄々をこねるだけ。
 あのままのカイトだったら、BJのところまで来ずに、そうそうにあきらめていただろう。自分の不幸を呪って、他人を恨んで。自分では、なにもせずに。

 それが、恋人らしい女の子と一緒に、BJを頼ってきた。
 BJの家って、町中ではなく、崖の上にあるんでしたっけね。ただ医者にかかりたいだけなら、そんなところまで来るはずがない。

 カイトは、おぼえていたんだろう。自分にやさしくしてくれた、ぶっきらぼうな医者のことを。
 叱り飛ばし、金をくれた。自分と同じ「生まれてくるべきではなかった」子を、助けようと必死になっている変わり者。

 カイトの気持ちがわかるから、BJにスイッチ入った。
 「いやしくも私は、自分の患者を見殺しにしたことは一度もないんだ」「この男は絶対に渡さん」……ピノコに語りかけていた、あの言葉だよ?
 見捨てたりしない、助けてやる……。

 “お前は今 怯えながらも ひたすら生きようとしている"……。

 カイトを抱きしめるBJが、やさしすぎてびびる(笑)。

 BJせんせ、落ち着いて。それ、ピノコちゃうから! せんせよりはるかにでかい(縦にも横にも)男の子だから!! せんせにそんなことされたら、誤解しちゃうから! いろいろとやばいから!!
 と、心配しちゃうくらい、この瞬間カイトへの心の向き方が一途で無防備で、こわいです、BJ先生。

 おかげでカイトくん、すっかり誤解しちゃってるしねー。
 BJに治療費のことを言われるまで、なんか思い込んでたみたいよ?
 「あんたやっぱり、金だけの人なのかな」「なんだと思ってたんだ」……ほんとに、なんだと思ってたんだ(笑)。

 命懸けで銃口の盾になってくれた人ですよ?
 生きるか死ぬかのときに、抱きしめてくれた人ですよ?
 耳元で、やさしい声(しかもあの美声、かつ無意味にセクシーヴォイス!)でささやいてくれた人ですよ?!

 そりゃオチるわ……吊り橋効果ありすぎるだろ……。

 一生かかって、BJに治療費を払う……つーか、関わり続けるんだろーなー。
 つか「一生」って、それプロポーズ……ゲフンゲフン。

 エリは出来た子だから、カイトがどんだけBJせんせ大好きで、なにかっちゃーせんせのことをうっとり話しても、それごと全部受け止めてくれるんだろうなー。


 いやその、腐った意味は置いておいても、カイトの物語はピノコやBJ自身とリンクした、ドラマティックな物語だと思うんですよ。たかが日本のヤクザの抗争で、規模は小さいけど、心のドラマとして。
 バイロン@ともみんの話は1幕ラストで完結してるよーなもんだし(相愛の恋人同士の痴話喧嘩以上の事象を描いてないからなー)、ストーリーのあるカイトの方をじっくり描いて欲しかった。
 ともみんとせしこのいちゃいちゃは大好物なので、毎度がっつり堪能しましたし、熱血侯爵様がツボ過ぎるので楽しかったけれど、それとは別に、「作品」として、カイトとバイロンの物語の尺の取り方が間違っているだろうと。
 ……まあいろいろ事情があったのかなと思う。


 カイトを襲ったヤクザたちは、「このままで済むと思うなよ」と捨て台詞を残しているけれど、それはBJの「私の患者は、お前らの世界の人間も大勢いるんだよ」が関係して、問題なしになったんだろーなーと思う。
 BJ先生が一言、裏社会のボスに脅しをかければ、それで解決。「あのBJ先生になんてことを……!」てなもんで。
 や、なんかすでにホロボロンテさん@『エロイカより愛をこめて』的な展開しかアタマに浮かばない……暗黒街のボスがBJせんせの大ファンなんだよね……それで誰もBJに手を出せないのよね……(笑)。


 生まれてきたことを恨んでいたら、誕生日なんか祝えない。
 カイトはBJによって生まれ直した。それは、人間のこぶの中から生まれ直したピノコと同じように。

「誕生日おめでとう」
 カイトの言葉は、自分自身に向けたものでもある。

 居場所のなかった負け犬は、この「世界」を受け入れ、歩きはじめた。

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