それはそうと、カイト@咲ちゃん。

 『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』での、彼への印象はなんといっても、うまくなったねええ!!だ。

 や、だって、最初が『ロジェ』だったんだよ? ナニあのへたっぴ!! って、声を出すたび悪目立ち。黙っていても、まるまると健康的に太ったオンナノコが男装してしてる、ナニよあれ?? って、悪目立ちしていたのよ? 今だから言えるけど!(笑)
 で、次が『はじめて愛した』よ? ナニあのへたっぴ!! って、声を出すたび悪目立ち。黙っていても、まるまると健康的に太ったオンナノコが……以下略。今だから言えるけど!(笑)

 今も、めっちゃうまいわけでもないし、オンナノコまんまのお尻やぱんぱんの太股を見ると、どーしたもんかと天を仰いじゃうけど。

 それでも、うまくなった。
 姿も、よくなった。

 『マリポーサの花』新人公演で、その卓越した歌唱力に劇場内が震撼した……のに、そっから歌は劣化する一方、今では歌が得意でない若手に分類されているよーな気もするが。
 歌以外は、うまくなった。


 『はじめて愛した』だって、ぱつんぱつんな上にへたっぴだったけど、それでもなんか、味があるというか、無視できない芝居ではあった。
 正塚作品で抜擢され続け、かなり鍛えられたというか、正塚色に染められているんだろうなあ。
 それが今回、見事に花開いた感じ。

 ええ、カイト、好きです。

 説明台詞のない、短いやりとりだけで進む正塚芝居が心地いい。
 わたし、なにがどーしてどーなった、の説明台詞はリピート観劇しているとあきちゃうみたい。最初の1回2回はいいんだけど。
 正塚節の方がそこから広がるものがあるから、リピートしても新鮮でいられる。

 カイトは物語自体もあまり尺を取って語られていないので、その分想像力が働く。

 まず1幕のカイトの、どーしよーもないダメンズぶりに、泣けた。

 天涯孤独で足が不自由。
 「BJになめられてる」と思ったときに、「足が不自由だからだ」と思うくらいに、今までさんざん足のことを蔑まれてきたんだろう。

 たしかにそれは可哀想。それは不幸なことだろう。

 だけどそれは、カイトの不幸の本質じゃない。
 BJ@まっつが言う通り、「もっと不自由な身体でも、幸せに暮らしている人間はいくらでもいる」。

 カイトの不幸は、足が不自由だってことに、逃避していること。

 思い通りにならないすべてのことは、足が不自由なせい、オレが悪いわけじゃない。
 いつも、すべて、なにもかも、オレは悪くない。オレはナニも悪くないのに、いつも不幸なオレ、なんて可哀想。

 そういう考え方自体、ちょームカつく。
 だからBJも激怒する。

 それはそうなんだけど、わたし、カイトのこのどーしよーもないダメダメぶりに、けっこう感情移入しちゃうのな。

 どっから見てもカイトは完璧に間違ってる。観客全員に「こいつ、間違ってる!」と思わせることを目的にして、作者はこの幼稚で卑劣な言動を書いていると思う。
 間違っていることは疑いようもないけれど、わたしはその、「そこまで追い詰められてしまった弱さ」に、感情移入する。

 誰だって、好きで歪むわけじゃない。歪まずにいられなかったカイトの孤独を想像すると、泣ける。

 「オレは悪くない。悪いのはオレ以外のすべてだ」って思わないと、生きてこられなかったんだね。
 自分を守るために、他人を恨んだり傷つけたりするしか、なかったんだね。

 BJにお金を渡されたとき、たぶんカイトは「ありがとう」って言おうとしたんだと思う。素直に。反射的に。
 うれしかったんだと思う。
 自分よりも不幸な人間を、助けようと必死になっているBJ。どんな人間も幸せになれるかもしれない、そう言うBJ。
 そんなBJに、お金を渡されて。
 ……でもBJがひどい態度で追い払おうとするから、カイトはお礼を言いそびれた。悪態をつくことになった。

 バカだけど、芯から腐っているわけじゃない。
 そう思わせる、単純さ。


 大金を得たことで気が大きくなって、仲間たちに奢ったり、気になっていた女の子エリ@あゆみちゃんを口説いてみたり。
 ほんとにバカ。

 エリはもともと、カイトのことをけっこう好きだった。
 だから姿を見ない間は心配していたし、店に現れたときは自分から声を掛けている。
 「お前も他の女と同じだ。オレなんか相手に出来ないっていうんだろ」と言うカイトに、一瞬キレかける。

 エリはちゃんと、足が不自由で借金だらけのカイトのこと、好きだったんだろうにね。そのまんまのカイトを受け止めていたんだろうにね。
 そういうつきあいをしてきたつもりだったろうにね。

 なのに、「足が不自由だから、相手に出来ないって言うんだろ」とか言われたら、キレるわ。バカにすんな!って思うわ。


 そのままヤクザ@レオくん、おーじくんの前で見栄張って、組に入ることになって。

 カイトのソロが、泣かせるのだわ。

 「♪どうせ負け犬。吠えることでしか守るすべはなく」「♪世間見返してやれるなら、この命さえ、今さら惜しんでみてもはじまらねえ」

 彼の人生が、まんま見える。
 バカにされるくらいなら死んだ方がマシだ……そう吠えるのは、いつも蔑まれてきた、と思っているから。

 ヤクザになりたいわけじゃない。そこまで落ちたいわけじゃない。
 だけど、居場所がない。
 この世界に、求められていない。

 世界が自分を拒むなら、世界を傷つけて、自分がここにいることを示すしかない。
 最初に拒んだのは、世界の方。
 だからオレは悪くない。


 自暴自棄になって、鉄砲玉を引き受けて。

 ヤクザ@レオくん(役名は白田)はたぶん、最初からカイトを利用するつもりだったんだと思う。
 舎弟にするつもりなんかなく、鉄砲玉として使い捨てる予定。
 組に入るためとかなんとか理由を付けて、敵対する組のボスを殺すように言いつけた。

 見栄張りカイトは拒めない。殺しぐらいなんでもねえ、と銃を受け取り、敵対ヤクザのボスを襲い……失敗した。
 敵には追われるし、組には戻れない。

 どこにも行き場がなくて。

 たぶん、エリのところに行ったんだろうなあ。

 このままだと、殺される。
 死ぬ前にもう一度、会いたい人って……カイトの貧しい半生には、エリぐらいしかいなかったんだろう。

 で、エリと一緒のときか、彼女に会う直前に撃たれて。
 エリは出来た子だから、見なかった振りも警察に通報することもせず、カイトに肩を貸して、一緒に逃げて。

 カイトは「いつ死んでもいい」と口では言っていたけれど……ほんとうに、最後の最後、死ぬかもしれない、と思ったときに。

 死にたくない、と思ったんだろう。

 敵対ヤクザ@真地くんたちに追われながら、自分を見捨てないエリの声を聞きながら、ぬくもりを感じながら。
 「オレの人生なんか、どうせこんなもん」とあきらめていたけれど。いや、あきらめた振りを、していたけれど。

 死にたくない。
 生きたい。

 だから。

 彼は、BJのところへ行った。

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