『JIN-仁-』のストーリーを語ろうとすると、途方に暮れる。
 ストーリー? ストーリーなあ? あったっけ……?

 南方仁@キムはイケメンのスーパードクター。神の手を持つ男。でも、婚約者の結命@みみを乳がんで亡くし、内心やさぐれている。
 あくまでも、内心。対外的には誠実で柔和な頼れるドクター様だもの。心の傷はひとりだけで背負い、他人の前では笑って、ふつーに日常生活を送っている。

 そんな彼が、謎の急患@りーしゃを追ってタイムスリップ。りーしゃはウサギ、キムはアリス。
「時間がない、時間がない」
「ウサギさん、どこへ行くの?」
 ウサギを追って飛び込んだ穴の奥、落ちた先には、不思議の国が。

 仁が落ちた先にあったのは、不思議の国・江戸。

 そこで仁は、現代の医学知識を使って、江戸時代の人々を助ける。
 幕末の有名人にも、市井の無名の人々にも、たくさん出会う。
 結命と瓜ふたつの少女・橘咲@みみにも出会う。

 この時代にはない治療法や薬を披露したり作ったり、死ぬはずの運命の人を助けたり、少しの間でも寿命を延ばしたりしているわけだから、未来が変わってしまう。
 最初は「それまずいんじゃね?」と思うが、江戸時代生活が長くなると、そんなの気にしていられなくなる。何年もこっちで生きてんだから、ここで生きることを考えるべきだよなと。

 で、タイムスリップものにありがちっちゅーか、自分が死にかけた(もしくは、死んじゃった?)ら、もとの世界に戻って来た。
 江戸で6年生きたはずが、現代では6日しか経ってなかったよ! ありがちだよ!

 そしたら、死んだはずの結命は生きていた。
 仁が江戸時代でいろいろ歴史を変えたせいだ。
 約束通り、仁は結命の命を救ったんだね! ハッピーエンド。


 ……あれ?
 メインであるはずの、江戸時代の話は??

 小ネタ的エピソードはいろいろあるし、キャラクタはてんこ盛りで登場してばったばったやってるんだけど、大きなストーリー自体は、ない。
 皆無。

 よーするに、仁が江戸時代に存在しない知識を持ち込んだことで、医学の進歩が早まったんだよ! 結命の先祖の咲が医術に目覚めて、日本医学発展に貢献したよ! というだけのこと。
 それゆえに、現代医学で救えなかった結命が、助かった、と。

 メインであるはずの江戸時代には、ストーリーが、ない。
 原作やドラマでは、医学ネタやキャラクタ個々のドラマ、幕末という魅力的な世界の新旧視点による再構築と追体験、タイムスリップ(謎の赤子……つーかなんたら奇形腫?)の謎解き的ミステリ展開、などをじっくり描いていたわけだが、そんなもんが、一切ない。潔いほど、ナニもない。

 ということで、ストーリーを語れない……(笑)。
 キャラクタのエピソードを語るのが、ストーリーの代わり。
 どのキャラがどんな風に登場し(=仁と出会い)、仁先生ラヴ!になるか、に終始する。
 危機にも陥らないし、大きな事件もない(原作では大きな危機や事件も、この舞台では大したことなくさらっとあっちゅー間に流される)し、ただめでたしめでたしが積み重なる。

 いやあ、こうやって語ると、ひどい話だな(笑)。

 ストーリーないし、危機もなにもなく、いつもハッピー。
 いや、数名亡くなってますが、みんな「結果オーライ」的でな。ひたすら仁先生マンセーだけで話が進む。

 そのくせ、クライマックスのまとめ方はひどいし(笑)。
 まともなタイムスリップものだとは、誰も期待して観てないだろうけど、それにしても説明不足。

 龍馬@ちぎの血をあびた仁の中に奇形腫(龍馬)が生まれ、死にかけたことでタイムスリップ、現代へ。謎の急患とは、江戸で6年過ごした仁自身。で、体内に龍馬も飼ってる(笑)のに、現代の仁がその龍馬(奇形腫)を取り出してしまったから、あの謎の赤子の声「やめて、離さないで」になる。
 6年後の仁(龍馬)は、龍馬(奇形腫)を手に逃げ出し、仁はそれを追いかけて江戸時代へタイムスリップ。

 これじゃ永遠のループになっちゃうんだけど、仁が歴史を変えていることと、現代に戻って来た時間が違うことで、パラレルワールドに舞台は移行しているんだろう。
 仁は江戸時代で6年過ごし、それなりにおっさんになっているはずなのに(りーしゃごめんよ)、少年のようなキムくんのまま、「あれから6日しか経っていない」そうなので、パラレルワールドの仁は肉体ごとタイムスリップしたのではなく、精神だけなのかもしれない。
 6日間意識不明で眠っている間に、6年分の別の仁の体験をしたのかもな。

 んで、眠っている間に、別の仁が歴史を変えて、東都大学病院だっけ?かは、仁友堂病院になっている。
 んで、死んだはずの結命は、仁友堂院長・橘結命となって元気にゴッドハンドをやっている。

 目覚めた仁はぴっちぴちの若者のまま、元気でゴッドハンドで大病院の院長という、なにかも持ち合わせた結命と再会、ハッピーエンド。

 別の世界では、仁が永久に同じところをぐるぐる回ってるのかもしれん。江戸時代から龍馬憑きでやってきた仁(謎の急患)を追って仁が不思議の国……江戸時代へタイムスリップ、そこで6年過ごして龍馬憑きになって現代に現れ、現代の仁に追われて……と。

 えー、そーゆーことなのかと理解したんだが、どうなんだろう。
 説明不足すぎて、わけわからん。
 「タイムスリップもののお約束」的な共通認識や、原作とドラマの知識があるから、勝手に話をつなぎ合わせてこんな感じかなーと思ったわけなんだが。

 まあ実際、わからなくても、なんの問題もないし。……ひどい話だ(笑)。

 大きな失敗をしてやさぐれている主人公がタイムスリップして、いろいろがんばって、元の世界に戻って来た。「6年経ったはずなのに、目が覚めたら6日しか経っていなかった」ときたら、なんの説明もいりません、失敗はなかったことに、歴史が変わっていた。……それがお約束です。

 だから説明不足でも平気なんだろう。ひどいなー。


 ひどいひどいと何度も言いましたが、そーゆーところをひっくるめて、アリだと思っています。

 ストーリーなんかなくて、肝心要のタイムスリップ話も「お約束だから」というだけで説明もろくになく、やっていることは、キャラクタの見せ場を作ることだけ。

 ひどいんだけど(また言いました)、その「キャラクタ=ジェンヌを魅力的に見せるだけの舞台」ってのは、アリだと思うのよ。

 だからこの作品のいちばんの欠点は、1時間35分以内にまとめられなかったことに尽きると思ってる。

 ……ストーリーないんだから、ショーの時間削ってまで長々やる必要ないじゃん(笑)。

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