『ドン・カルロス』の、カルロス@キムの友人関係について、考える。

 カルロスは、貴族の若者たちを「親友」と呼ぶし、若者たちもカルロスを「親友」と呼ぶ。

 でも実際、親友ぢゃないよね?

 まず、ポーザ侯爵@ちぎは、絶対ちがう(笑)。
 3年前にネーデルラントに渡り、最近帰国したそうな。国王陛下がおぼえてないくらい(笑)、宮廷から遠い人間だったらしい。

 じゃあ言葉だけなの、カルロスに友だちはいないの?

 ほんとの意味で友だちだったのって、フアン@ヲヅキだけかもなあ、と思う……。

 というのも、カルロスにタメ口を利くのは、フアンだけだからだ。

 身分ゆえ、かもしれないが、アレハンドロ@翔くんなんか、カルロス的にはかなりくだけた態度を取っているのに。
 羽交い締めにしたりして、男の子らしいじゃれ方をしている。……のに、アレハンドロの方は敬語を崩さず、しかも「崇拝してます!」てな態度。

 学友たちとの場面は、カルロスがいっそ可哀想になる。
 線を引いているのは、友人たちの方だ。カルロスは「親友」だからと歩み寄っているのに、そのアレハンドロたちからすればカルロスは親友ではなく、あくまでも「殿下」なんだ。
 なついているのも「殿下」だから? ……そう思わせてしまう距離感が、寂しい。

 そりゃカルロスも「誰も本当の私を知らない」とひとり銀橋で歌っちゃうわけだよ。
 親友なんて名前だけ。本当にカルロスと同じところに立つ者はいない。

 両者に隔たりがあるのはたしかだけど、悲しいけれど、それでも貴族の若者たちは、あきれるほど素直で純粋だ。
 線を引かれることでカルロスは孤独感や絶望感を持っているかもしれないけれど、それでもこの若者たちを愛していたんだろう。
 彼らの無垢な瞳は、孤独な王子の救いとなっていただろう。

 ネーデルラントの惨状を嘆く彼らは、本当に二心ナシ、心から義憤に憤っているんだ。

 若者たちソングで、実は毎回泣けるんだ。
 祖国の偉大さを語り、未来を信じる若者たち。
「♪太陽のもと 正々堂々と 声を上げて歩こう」

 正々堂々と。
 別に「見なかった」ことにしてもいい、他人の苦しみを見過ごせず、我がことのように憤る若者たち。
 責任を取る覚悟は出来ていない、所詮子どもの正義だけど、正義は正義。真心は真心。
 「自分さえよければ、他人なんかどうでもいい」とは思わないんだ。
 弱きものに手を差し伸べることを、「正しい」と思っている。いや、それをして当然、しないことは「間違ったこと」と、思っている。

 彼らの高潔さ、幼い自尊心が、キラキラとまぶしい。

 若いっていいなあ。
 わたしみたいな年寄りは、若者の若さゆえの誇りと驕りを見ると、泣けてくるのよ。じんとして。
 愛しくて。

 もしもこのあと、カルロスが処刑されていたら、彼らは傷つくんだろうなあ。
 自分たちが、幼い正義感で「正しいことをするオレ、かっけー!」程度の気持ちで持ち込んだネーデルラント問題で、尊敬する殿下が殺されてしまったら。

 クララ@あんりの死がトラウマになって人生曲がっちゃったポーザ侯爵並に、若者たちも人生歪みそうだ。


 若者たちの幼さは、カルロスと次元が違う。
 そのことからも、カルロスに友だちはいなかったんだろうなあ、と思う。

 フアンとは一緒に育ったそうなので、もう少しくだけた関係があったのかもしれない、あって欲しいと願う。
 そうでないと、双方気の毒だ。

 カルロスがほんとうにひとりぼっちだったと思うのも、「だから私にもお前がわかる」と断言するフアンが、独り相撲だったりするのも、悲しいもの。


 脚本的に、関係らしきものが描かれているのは、フアンとアレハンドロ止まりだと思う。

 んで、アレハンドロはちょっと不思議というか、消化できない部分がある、わたし的に。

 彼はクチを開くと「殿下大好き」「殿下のためなら命も喜んで投げ出す」と、かなりヘタレな風情で言っている。
 翔くんがへたっぴなため、彼の台詞はいちいち幼くて、アタマ良くない感じがすごくするんだわ。
 自分で考えて言っているというより、「偉大なる殿下様がこうおっしゃるので、ありがたくこう受け止めております、はい」って感じに聞こえる。他人から右を向けって言われたら右を向くんだろ的トホホさっていうか。

 なのにこのアレハンドロくん、カルロスがネーデルラントを救う件を拒絶したときに、すげー冷たい目で、カルロスを見ている。
 ヘタレな太鼓持ちにしか見えないのに、何故そこで悪役並みの表情でカルロスをねめつけているの??

 アホなのは演技? ほんとはカルロスを軽蔑していて、口先だけで追従していいるの?
 それともネーデルラント問題を拒絶されたから、そのとき限定で怒っているの? にしても、その目つきは「親友とこの一件でのみ意見が合わなかった」ときにする目じゃないよ?

 そのわずかな場面と、それ以外のときの別人ぶりがものすごくて、よくわかんない……(笑)。
 深い演技プランがあってやっているのか、それをわたしが理解できていないだけか、あるいは単にそのう、技術不足で表現できていないだけなのか。
 アレハンドロは大変なキャラだなあ(笑)。

 翔くんがどーゆーつもりでやっているのかわかんないけど、冷たい目をした彼は、ごっつーカッコイイ。美形だからなあ、翔くん。

 てゆーか、アレハンドロ・ファルネーゼ、って、綺麗な名前だわ……『銀英伝』に出られそうなくらい(笑)。


 カルロスと友人たちの関係も、もう少しちゃんと描いて欲しかったなあ。
 それが「結局、王子としての表面しか見てくれない、名前だけの親友たち」という設定であったとしても。

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