ハマコは首席入団。
 76期首席の純名が雪組で、77期首席のトウコが雪で、78期首席の王子が雪で、79期首席のハマコも雪に来たから、まだヅカ歴の浅かったわたしは「雪組って首席の人が配属される組なの?」と思った記憶がある。
 地味に堅実、優等生な芸風……そうよね、芝居と日本物の雪組だもんね、なにはさておき実力最優先よね、とか納得してたっけあのころ。だから首席者が多い、てな。

 ともかく、ハマコは首席入団。
 だもんで初舞台のときも、組長に呼び出されるのは研一を代表してハマコ。

 1993年当時、月組の組長は汝鳥伶サマ。汝鳥さんはハマコを呼び出して、研一生になにかしらの事柄を「伝えるように」と言った。
 ぴっちぴちの初舞台生ハマコさんは、「はい、わかりました!」とよい子のお返事。

 が。
 ハマコさんは、何故かしらそのことを、すっかり忘れていた。なんでかわからんが、伝えなかったらしい。
 言いつけが伝わっていないことに疑問を持った汝鳥さんが、再びハマコを呼び出した。

「この間言ったこと、ちゃんと伝えてくれた?」
 それに対してハマコさんは。

 瞳をキラキラさせて、満面の笑みで答えた。
「はい、伝えていません!!」


 ……それから実に15年以上の月日が流れた。

 汝鳥さんは未だに、ハマコを見るとなにかにつれそのときの話をするらしい。
 ハマコはすでに忘却の彼方。伝言の内容も、そもそも「そんなことあったっけ?」状態らしいし、なにより、言いつけを忘れていたくせに満面の笑みで「伝えていません」ってなんだそりゃ、どんな研一だよヲイってもんらしいが。
 した方は忘れても、された方は忘れないもんなんだ。
 汝鳥さんは語る。
「あの、ハマコが、副組長だもんねえ。しっかりしてきて良かったねえ(笑)」
 てなことを。

 『イゾラベッラ サロンコンサート(第8回 未来優希)』は、ハマコのヅカ人生を振り返るものであり、彼の豊富を語るモノでもあった。

 オープニングは初舞台公演『グランドホテル』『BROADWAYBOYS』から主題歌。

 「ブロードウェイ・ボーイズ」はともかく、ハマコの声で「グランドホテル」を歌われるとテンション上がるわ。てゆーか『グランドホテル』観たい……ふつーに男爵主役で、雪組で。水しぇん主演で。……はっ。となみ姫にバレリーナは無理だわ(ヲイ)。

 その初舞台時の想い出、つーことで、失敗談を話してくれました。

 それから「思い出深い曲をメドレーで」と、曲の解説は後回しに歌い出した。
 前もってプログラムをもらっているから、次の「宝塚メドレー[I]」が「パッサージュ~この世に残らぬ愛~いのち」であることは知っている。
 プログラムには公演名や出典名ではなく、あくまでも曲名が記されている。
 「パッサージュ」とあればソレは公演名『パッサージュ』ではなく、同公演で使用された同名の主題歌のことだろう。

 しかし。

 ハマコが歌い出したのは。

 天使の夢を見たわ
 真夜中にひとりきり
 白い翼広げて
 空に浮かんでいた


 オープニングかよっ?!

 『パッサージュ』という作品の導入、テーマの一部を表す歌。
 びびびびっくりした。

 少女の透明なソプラノで歌われる幻想世界が、ハマコの的確なアルトで綴られる。
 歌詞があるのはここだけなので、そのまま歌声はスキャットになり……「ホリデー」になる。

 そう。
 『パッサージュ』の核。サブタイトルにもなっている、「硝子の空の記憶」と名付けられた場面。
 崩れかけた硝子の町で、一人の男が、死にゆく女に出会う。そのダンス。

 クリエイターのデビュー作には、その本質が詰まっているという。
 オギーのショー作家としての、デビュー作『パッサージュ』。
 その、コアを成す場面。

 陰コーラスは、圭子女史とハマコ。
 切なさと空虚さある静かな歌声が、古いレコードのような、わずかにノイズの入った音で再生される。

 無表情な男女、男の手のひらに操られるように、独特の動きをする女。
 舞台いっぱいの男女カップルたちは、やがてみな終焉を迎えていく。

 美しく、どこまでも美しく、そして哀しい……わたしにとっては、美しすぎて哀しすぎて、おそろしい、場面だった。

 当時『パッサージュ』で号泣し過ぎて、帰り道で貧血起こして倒れたり(迷惑な)してたもんで、もうカラダが条件反射的に反応するのな。
 「ホリデー」を聴くと、泣く。という。

 ハマコの、生「ホリデー」!!

 8年だかの時を経て、夢の空間。
 スイッチ・オン。
 泣きスイッチ入りましたよ、ええ。

 が。

 ……が、なんだよな。

 この「ホリデー」はとーーっても短くて。
 わたしのスイッチ入った途端。

 曲調はがらりと変わる!!

 許されざぁる愛とぉぉお 心にぃ決ぃめぇてえええ

 いきなり仰々しいザ・宝塚的歌謡曲、コブシ回して歌い上げだ、『バッカスと呼ばれた男』だ!!

 わたしの叙情スイッチは一気に地面に人型にのめりこみ、顔に縦線山ほど引いて終了しました。
 こぉの世にぃ残~らぬ愛もあぁぁるうう……って、ああ、歌える自分が嫌。『バッカス』はダイスキだったのよ、通ったわよ、最後は広島まで行ったさ!!(笑) アタシに『バッカス』語らせると長いわよ? ムラ、東宝、全ツと改編されて、3つとも微妙にチガウ話だからねアレ。加えて新公まであるからね。
 新公の悪役しいちゃんがどれほどかっこよかったか、吟遊詩人のレアちゃんがどんだけ美しかったか、ハマコがナチュラルにおっさんだったことも含め、語ると長いわよ~~!(笑)

 ド演歌まっしぐらな「この世に残らぬ愛」に続き、『凱旋門』の「いのち」。鳩の羽ばたきが聞こえてきそうなほど、一音一音を大切に、愛しそうに発音して歌う。

 ハマコが歌う「ハマコの歴史」。
 それは、雪組を見てきたわたしの歴史でもあった。
 どの歌にも、想い出がありすぎる。

 歌い終わったあとで、どの公演の曲だったのかを解説。
 最初の「パッサージュ」は、冒頭の曲だけど、エトワール・バージョンらしい。たしかに、最後に歌い上げがあるから、そっちバージョンだなとそこでわかった。『アルバトロス、南へ』でも、ゆめみちゃん(博多座『パッサージュ』エトワール)が歌ってたよな。
 「ホリデー」は当時録音スタジオで「試合に負けたボクサーのような感じで」歌えと先生に指導されて、「???」状態で試行錯誤して歌ったらしい(笑)。
 すごい表現だな、ソレ……。
 しかもハマコ、当日はきれーに寝過ごしていて、相棒の圭子タンの電話で起きたそうで。起床から40分だかなんだかでマイクの前に立っていて、声がまったく思うように出なかったとか。それでえんえんえんえん歌い続け、声が出る、を通り越してオーバーワークになってから本番だったとか。
 今明かされる。製作秘話(笑)。

 なんにせよ、生「ホリデー」が聴けただけで、あの場に行った甲斐があった。……ほんとにワンフレーズだけだったけどな(笑)。

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