彼の孤独に届くものは。@アデュー・マルセイユ
2007年11月4日 タカラヅカ 春野寿美礼の演技は日替わりで、公演回数分ちがっていて、同じことがない。
なにが正しいとかではなく、そのなかで好みのモノと出会えるかどうか、わくわくする(笑)。
『アデュー・マルセイユ』にて、いろんな「ジェラールさん」を見たけれど、そのなかでわたしがいちばん忘れられないのは。
リュドヴィーク@『マラケシュ』のよーなジェラールさんだ。
その日のジェラールは、笑わなかった。
シモンと再会した銀橋でのみ、お約束のように笑って見せたけれど、それ以外は笑顔ナシ。むしろ、そこでだけ笑うから、彼の冷え切った心がこわい。
ジャンヌを紹介されても興味なし。手相のことを言われてもウザそう。
過去の回想は暗く、苦く。眉間のしわとときおり虚ろになる瞳。
マリアンヌにもそっけない。明け方に見るマルセイユの夢とは、悪夢なのだろうか、淡々とどこかに毒を秘めて。「色も匂いもない。君みたいに」とマリアンヌに言う声は、まぎれもなく、皮肉。き、きらいなんだ、マリアンヌのこと。ムカついてるんだ。
ジオラモにも渋面のまま対峙。悪人たちの登場に増すのは、厭世観。
酔っぱらいシモンに対して、アタマは撫でてやるものの、目は彼を見ていない。もちろん笑いもしない。
「嘘をついてすまない」と、言いはしても心は見えない。
バザー会場でもクールでドライ。マリアンヌにもモーリスにも興味はなし。ふたりきりになったあと「おふくろが生きていたら」と語るけれど、神話を歌うけれど、顔は沈鬱なまま。……いつも必ず笑顔になる場面なのに。ここで笑わなかったのは、この1回だけだ。
暗く、重く、そしてどこか投げやりで。
なのに口跡はいつもよりはっきりと、語尾がキツイ。
苦さの中にある情念。甘い雰囲気なんかどこにもない。怒っているような、挑んでいるような重い面持ちのまま彼は言う。
「忘れ物だ」
とまどうマリアンヌを、強引に引き寄せ、唇を奪う。
えーと。
なにが起こっているのか、わからなかった。
あまりに、今まで見てきた「ジェラールさん」とも『アデュー・マルセイユ』とも、違いすぎて。
彼が抱く絶望の深さは、なにごと?
まるで、荒涼とした死の砂漠にいるみたい。誰も見ていない、愛していない、いや、必要とすらしていない……?
誰の言葉も、届かない。
彼の閉ざされた心には。
彼がまとう壮絶な孤独に、リュドヴィークを見た。うわ、この人知ってる、あの日のリュドだ。
リュドヴィークがジョジョになって、マルセイユへやって来た?
や、もちろんリュドではないのだけど。魂が声なき悲鳴をあげているような孤独感に、リュドヴィークを彷彿としたんだ。
マリアンヌを愛しているようには見えない。だけどあの情念はなんだろう。強引にキスしたのは、彼が彼女を求めているからだと思う。でもそれは、甘いものとはまったくちがった、獣の本能のようなものに見えた。
捕食? 生きるために?
その直後のシモンとの場面。シモンにはまったく興味がないようなので、暴れるジャンヌには目も合わせないし、「大変だな」の一言も投げやり。どーでもいい、らしい。
シモンに絶交を言い渡されても態度は揺るがず、口にする言い訳も「とりあえず言ってみた」という心のこもっていないもの。
……シモンが怒るのも、無理はない。友だちだと思って苦悩していたのはシモンひとり。ジョジョはなんとも思っていない。突きつけられる現実。
シモンが出ていったあと、ひとり……ジェラールが歌う、冷ややかさ。
泣き声のように、悲鳴のように歌うこともある、この歌を。
冷ややかに、乾ききったまま歌う。
絶望。
彼の内にあるもの。
大きな空洞が彼の大半を占め、どんな光も熱も届かない。
表情は変わらず、眉間にしわを刻んだまま、苦い顔のままずっと。
響き渡る歌声。明瞭な発音。感情を吐露する歌を、感情を否定するかのように歌いきる。
……ドキドキして。
この人、どうなっちゃうの? こんないびつな、こわれたひと、このあとどうなっちゃうの?
すでに何回も観た作品だということを、忘れていた。
ジェラールという男がこれからどうなるのか、目が離せなかった。
石鹸工場で再会したマリアンヌは、すでに恋人気分。ジェラールがアンニュイで突き放した雰囲気なのに、気にせず甘えた声を出す。
甘さのカケラもない喰われるようなキスひとつで、こんな女おんなした雰囲気なるはずがない。あのあとマリアンヌは、ジェラールに抱かれたんだな。蜘蛛の巣にかかった蝶のように、食べられてしまったんだ。
いつもなら甘いチューひとつで舞い上がっているのだと思えたけれど、恋に恋する浅慮な女子学生に見えたのだけど、このときだけは大人の関係に思えた。
「女」を全開にしなだれかかってくるマリアンヌに対する、ジェラールの苛立ち。際立つ冷ややかさ。
温度がないまま「君が世の中のナニを……」と言い捨てる。言葉の鋭さと容赦なさ。すぐに「すまない、言い過ぎた」と撤回するけれど、心はこもっていない。
どうなるんだヲイ。このふたりは、どうなっちゃうんだ??
ドキドキして、マジで心臓がばくばくいっているのを意識しながらオペラグラスでジェラールだけを追いかけた。
いやその。わたしはまっつファンなので、まっつが出てくると視界がまっつ中心になるのよ。これは仕方ないのよ。それまで、絶対そうだったのよ。
なのに。
このときばかりは、まっつがいても関係なく、ジェラールだけを見た。物語の行方が気になってしょーがなかった。
どーなっちゃうのよ?! ドキドキドキ。
ダンス・コンテストで、ジェラールとマリアンヌは踊り出す。情熱、というよりは、情念のタンゴ。絡み合う愛憎。
マリアンヌ@彩音ちゃんの顔もこわかった。もともと表情が少ない子なので、こわばったまま固定した顔が、こわいのなんのって。
ジェラールは暗い、獣の顔をしている。怒っているとか苦悩しているとかではなく、本能がゆらめいている感じ。
マリアンヌ相手だと、獣の本性が現れるのか? 肉食獣の血。抱えた絶望や厭世観を超えて、「生」への終着として獲物の血肉を欲すると?
最後のキスがまた、生々しくて。食らいつくようで。受けるマリアンヌも、なんかエロくて。……びびる。
そしてあとは怒濤の展開、地下水道で種明かし。が、ここでもまたジェラールはクールなまま。心こもってないまま「14年前」の話をしたり、一件落着したり。
てゆーか、笑わない。ほんとうに、にこりともしない。
「心の鎖も解かれた」と、乾いたまま言う。……いや、思ってないだろソレ君カケラも。
マリアンヌとの別れも、淡々としたまま。
ダンスのときに見せた情念は息を潜め、乾いた暗い空洞がただ言葉を紡ぐ。
そうか……この娘でも、ダメだったんだ。彼の絶望を癒すことはできなかったんだ。
一旦すがったマリアンヌだが、男の冷たさを理解したのかあきらめたのか、すぐに納得し、別れを受け入れた。ジェラールの演技のせいか、マリアンヌはとにかく大人っぽかった。
すべてが終わり、マルセイユを発つときにも、ジェラールに笑顔はナシ。笑いかけてくるシモンにも、言葉でだけ「親友だ」と返す。……ひでえ。
彼は自分の孤独だけでいっぱいのようだ。絶望という空洞には、なにも入ってこないんだ。
最後の別れの歌は、まさしく「アデュー」……永い別れの歌で。ジェラールがこの街へやってくることは二度とないだろうと思わせる、かなしい絶望の歌。
歌声は澄み切り、これでもかと豊かに響いているのだけど。
ジェラールの旅は、絶望のまま終わった。
……という「本日のジェラールさん」の日がありまして。
その絶望の深さ、孤独の凄絶さに、息が詰まりました。見ていて、苦しくて苦しくて。
嗚咽することも出来ない、ただ刮目するしかない、見守ることしかできない、苦しさ。
誰も彼を救えない……そのことによる、わたし自身の無力感、絶望感。
いやあ、消耗したなぁ……。
その次に見たときは、ジェラールさんはアンニュイ基本であっても、とりあえずいろんなところで微笑んでいたのでほっとし、また寂しくもあったんですが。
春野寿美礼の演じる「孤独」は、絶品ですから。
なにが正しいとかではなく、そのなかで好みのモノと出会えるかどうか、わくわくする(笑)。
『アデュー・マルセイユ』にて、いろんな「ジェラールさん」を見たけれど、そのなかでわたしがいちばん忘れられないのは。
リュドヴィーク@『マラケシュ』のよーなジェラールさんだ。
その日のジェラールは、笑わなかった。
シモンと再会した銀橋でのみ、お約束のように笑って見せたけれど、それ以外は笑顔ナシ。むしろ、そこでだけ笑うから、彼の冷え切った心がこわい。
ジャンヌを紹介されても興味なし。手相のことを言われてもウザそう。
過去の回想は暗く、苦く。眉間のしわとときおり虚ろになる瞳。
マリアンヌにもそっけない。明け方に見るマルセイユの夢とは、悪夢なのだろうか、淡々とどこかに毒を秘めて。「色も匂いもない。君みたいに」とマリアンヌに言う声は、まぎれもなく、皮肉。き、きらいなんだ、マリアンヌのこと。ムカついてるんだ。
ジオラモにも渋面のまま対峙。悪人たちの登場に増すのは、厭世観。
酔っぱらいシモンに対して、アタマは撫でてやるものの、目は彼を見ていない。もちろん笑いもしない。
「嘘をついてすまない」と、言いはしても心は見えない。
バザー会場でもクールでドライ。マリアンヌにもモーリスにも興味はなし。ふたりきりになったあと「おふくろが生きていたら」と語るけれど、神話を歌うけれど、顔は沈鬱なまま。……いつも必ず笑顔になる場面なのに。ここで笑わなかったのは、この1回だけだ。
暗く、重く、そしてどこか投げやりで。
なのに口跡はいつもよりはっきりと、語尾がキツイ。
苦さの中にある情念。甘い雰囲気なんかどこにもない。怒っているような、挑んでいるような重い面持ちのまま彼は言う。
「忘れ物だ」
とまどうマリアンヌを、強引に引き寄せ、唇を奪う。
えーと。
なにが起こっているのか、わからなかった。
あまりに、今まで見てきた「ジェラールさん」とも『アデュー・マルセイユ』とも、違いすぎて。
彼が抱く絶望の深さは、なにごと?
まるで、荒涼とした死の砂漠にいるみたい。誰も見ていない、愛していない、いや、必要とすらしていない……?
誰の言葉も、届かない。
彼の閉ざされた心には。
彼がまとう壮絶な孤独に、リュドヴィークを見た。うわ、この人知ってる、あの日のリュドだ。
リュドヴィークがジョジョになって、マルセイユへやって来た?
や、もちろんリュドではないのだけど。魂が声なき悲鳴をあげているような孤独感に、リュドヴィークを彷彿としたんだ。
マリアンヌを愛しているようには見えない。だけどあの情念はなんだろう。強引にキスしたのは、彼が彼女を求めているからだと思う。でもそれは、甘いものとはまったくちがった、獣の本能のようなものに見えた。
捕食? 生きるために?
その直後のシモンとの場面。シモンにはまったく興味がないようなので、暴れるジャンヌには目も合わせないし、「大変だな」の一言も投げやり。どーでもいい、らしい。
シモンに絶交を言い渡されても態度は揺るがず、口にする言い訳も「とりあえず言ってみた」という心のこもっていないもの。
……シモンが怒るのも、無理はない。友だちだと思って苦悩していたのはシモンひとり。ジョジョはなんとも思っていない。突きつけられる現実。
シモンが出ていったあと、ひとり……ジェラールが歌う、冷ややかさ。
泣き声のように、悲鳴のように歌うこともある、この歌を。
冷ややかに、乾ききったまま歌う。
絶望。
彼の内にあるもの。
大きな空洞が彼の大半を占め、どんな光も熱も届かない。
表情は変わらず、眉間にしわを刻んだまま、苦い顔のままずっと。
響き渡る歌声。明瞭な発音。感情を吐露する歌を、感情を否定するかのように歌いきる。
……ドキドキして。
この人、どうなっちゃうの? こんないびつな、こわれたひと、このあとどうなっちゃうの?
すでに何回も観た作品だということを、忘れていた。
ジェラールという男がこれからどうなるのか、目が離せなかった。
石鹸工場で再会したマリアンヌは、すでに恋人気分。ジェラールがアンニュイで突き放した雰囲気なのに、気にせず甘えた声を出す。
甘さのカケラもない喰われるようなキスひとつで、こんな女おんなした雰囲気なるはずがない。あのあとマリアンヌは、ジェラールに抱かれたんだな。蜘蛛の巣にかかった蝶のように、食べられてしまったんだ。
いつもなら甘いチューひとつで舞い上がっているのだと思えたけれど、恋に恋する浅慮な女子学生に見えたのだけど、このときだけは大人の関係に思えた。
「女」を全開にしなだれかかってくるマリアンヌに対する、ジェラールの苛立ち。際立つ冷ややかさ。
温度がないまま「君が世の中のナニを……」と言い捨てる。言葉の鋭さと容赦なさ。すぐに「すまない、言い過ぎた」と撤回するけれど、心はこもっていない。
どうなるんだヲイ。このふたりは、どうなっちゃうんだ??
ドキドキして、マジで心臓がばくばくいっているのを意識しながらオペラグラスでジェラールだけを追いかけた。
いやその。わたしはまっつファンなので、まっつが出てくると視界がまっつ中心になるのよ。これは仕方ないのよ。それまで、絶対そうだったのよ。
なのに。
このときばかりは、まっつがいても関係なく、ジェラールだけを見た。物語の行方が気になってしょーがなかった。
どーなっちゃうのよ?! ドキドキドキ。
ダンス・コンテストで、ジェラールとマリアンヌは踊り出す。情熱、というよりは、情念のタンゴ。絡み合う愛憎。
マリアンヌ@彩音ちゃんの顔もこわかった。もともと表情が少ない子なので、こわばったまま固定した顔が、こわいのなんのって。
ジェラールは暗い、獣の顔をしている。怒っているとか苦悩しているとかではなく、本能がゆらめいている感じ。
マリアンヌ相手だと、獣の本性が現れるのか? 肉食獣の血。抱えた絶望や厭世観を超えて、「生」への終着として獲物の血肉を欲すると?
最後のキスがまた、生々しくて。食らいつくようで。受けるマリアンヌも、なんかエロくて。……びびる。
そしてあとは怒濤の展開、地下水道で種明かし。が、ここでもまたジェラールはクールなまま。心こもってないまま「14年前」の話をしたり、一件落着したり。
てゆーか、笑わない。ほんとうに、にこりともしない。
「心の鎖も解かれた」と、乾いたまま言う。……いや、思ってないだろソレ君カケラも。
マリアンヌとの別れも、淡々としたまま。
ダンスのときに見せた情念は息を潜め、乾いた暗い空洞がただ言葉を紡ぐ。
そうか……この娘でも、ダメだったんだ。彼の絶望を癒すことはできなかったんだ。
一旦すがったマリアンヌだが、男の冷たさを理解したのかあきらめたのか、すぐに納得し、別れを受け入れた。ジェラールの演技のせいか、マリアンヌはとにかく大人っぽかった。
すべてが終わり、マルセイユを発つときにも、ジェラールに笑顔はナシ。笑いかけてくるシモンにも、言葉でだけ「親友だ」と返す。……ひでえ。
彼は自分の孤独だけでいっぱいのようだ。絶望という空洞には、なにも入ってこないんだ。
最後の別れの歌は、まさしく「アデュー」……永い別れの歌で。ジェラールがこの街へやってくることは二度とないだろうと思わせる、かなしい絶望の歌。
歌声は澄み切り、これでもかと豊かに響いているのだけど。
ジェラールの旅は、絶望のまま終わった。
……という「本日のジェラールさん」の日がありまして。
その絶望の深さ、孤独の凄絶さに、息が詰まりました。見ていて、苦しくて苦しくて。
嗚咽することも出来ない、ただ刮目するしかない、見守ることしかできない、苦しさ。
誰も彼を救えない……そのことによる、わたし自身の無力感、絶望感。
いやあ、消耗したなぁ……。
その次に見たときは、ジェラールさんはアンニュイ基本であっても、とりあえずいろんなところで微笑んでいたのでほっとし、また寂しくもあったんですが。
春野寿美礼の演じる「孤独」は、絶品ですから。
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