三木章雄はセンスのない人だと思う。
 『コパカバーナ』、星組版のとき、すでにそれは露呈しきっていた。
 日本語の芝居として、タカラヅカとしてありえない破綻を抱えながら、それでもキャラクタのハマり具合とキャストの力技で星コパはなんとかなっていた。
 それを、宙組に移行するにあたって。

 彼は、なにがしたかったんだろう?

 トニー@かしげとローラ@るいちゃんはいい。主演コンビは真っ当にラブストーリーを演じられるだろう。
 リコ@タニは……ええっと、まあ、なんとでもなるだろう。コンチータ@あすかちゃんは続演だから問題なし。

 問題は、3組目のカップル、サムとグラディスだ。

 『コパカバーナ』は二重構造でオチつきの物語だ。
 一人二役を完璧にこなせる人たちが演じなければならない。
 この一人二役を完璧にってのは、「演じ分ける力」というだけのことではない。ぶっちゃけ、演じ分けなくてもいいんだ。どちらかというと、逆。

 別の役だけど、同じ人だよね?

 と、観客に思わせなければならない。
 衣装やカツラを変え、立場や年齢が変わっていても、「同じ人がやっている」とわからせないと。

 タカラヅカ初心者は口を揃えて言う。「みんな同じ顔だから、誰が誰かわからない」「登場人物の見分けがつかないから、話の筋がわからない」「衣装が次々意味もなく替わるから、余計混乱する。なんでいちいち着替えるの?」
 それでも主役と相手役くらいは「なんとなくわかる」から、団体客のおっちゃんおばちゃんも物語について来られるんだ。
 髪型が変わっても衣装が替わっても、一見さんに見分けてもらう力。脇役はAとBが入れ替わっていてもわからないが、主役と脇が入れ替わっていたらわかる。
 今回の場合で言うなら、かしちゃんはボーイの制服を着て給仕をしていても、「あれ?あの人主役やってる人だよね?」とわかるってこと。
 でもボーイAとボーイBが入れ替わって給仕をしていても、一般客は気づかない。
 コパガールCとコパガールDが立ち位置を入れ替えて踊っていても、気づかない。
 スター力というもの。
 どこにいても「あの人、メインキャストだ」とわからせる力。
 それは歌だとか踊りだとかという技術とは、ちょいと異なる特別の能力。もちろん後天的に取得する技術でもあるけれど。

 二重構造でオチつきの物語である『コパ』では、メインキャストにこのスター力が必須。

 オチの部分で、ふたつの世界が融合する。別人のハズのキャラクタが、リンクする。
 出てきた瞬間に「同じ人? 別の役? あれれ?」と観客を混乱させなくてはならない。

 宙版サムとグラディスは、この構造の構築に、失敗していた。

 
 グラディス役は何故、美風舞良ちゃんだったのだろう?

 うまい人だしキュートだということもわかる。サム@らんとむと同期だから組ませやすいというのもあるかもしれない。
 しかし。

 グラディス役としては、チガウだろ。

 彼女では「スター」として「一人二役」をこなせない。
 真ん中教育を受けてこなかった彼女は、ライトを跳ね返す力に欠けている。……今は。将来どうなるかはわからないけれど、今この時点では。
 オチの部分が、彼女ではまったく活きない。

 そもそも、キャラ立てがチガウのだ。

 グラディスは元コパガールで、人生経験とハッタリを重ねた頼もしい「おねーさん」だ。小娘ではない。
 まいらちゃんのグラディスでは、彼女が語る「アタシはコパガールよ!」の歌が、全部嘘に聞こえる。
 今はおばさんだけど、たしかに若いころは大富豪だの王子様だのを足蹴にして吠えていた高慢なコパガールだったのかも、と思わせる迫力が必要なんだ。
 そのへんのショーガールと差異のない、オーラのない「ふつーにかわいいよね?」程度の女の子が吠えてみせても、「ぢゃなんでアンタ今、そんなに平凡なの?」ということになる。
 グラディスの語る「栄光のコパガール時代」は多分に嘘くさいけど、「嘘だとしても信じたいファンタジー」としての魅力がなきゃダメだよ。
 まいらちゃんのグラディスは、なんなの? おばさんなの? ふつーに若くてかわいいけど? じゃあなんで今、コパガールじゃないの? 

 最後のオチの部分で、星版ではサムもグラディスも「そのまんま」で登場したのに、宙版ではふたりともわざわざ「老けて」登場する。
 つまり、物語部分のグラディスは「若い」という設定なんだろう。

 何故?
 物語部分と現代部分が「そのまま」リンクするから「オチ」になるのに何故、ソレをぶち壊す?

 しかも、グラディスが「若い」と彼女のキャラクタが崩壊する。ローラに説教し、励まし、世話を焼く「先輩」としてのキャラが壊れる。

 何故、グラディスを壊した?
 何故、物語を壊した?

 なにをしたかったんだ?

 
 サムもまた、キャラクタを壊されている。
 わざわざ「サムの息子サミー」という別人にされている。
 「ライナスの毛布」を肌身離さず持っているガキンチョ。カラダは大人だが、中身は幼児。
 「こんな人いるよね?」というコメディ枠を超えて、「こんなヤツいねーよ」のギャグ枠。
 ただ笑わせることだけを目的としたキャラ設定、言動。

 サムがあまりに幼児でギャグキャラなので、グラディスとの「恋愛色」が消えてしまった。
 
 グラディスとサムは、オチ部分で「夫婦」として登場する。
 恋愛色の消えたこの構成でソレをやられても、意味がない。オチにならない。

 何故、サムを壊した?
 何故、物語を壊した?

 なにをしたかったんだ?

 
 理由の見当は付く。

  
 らんとむの役がない。
 

 コレだけだろ、理由?
 たったこれだけの、あさはかな理由で、なにもかも壊したんだよな?

 花組のバリバリ路線男役、御曹司らんとむの演じる役がない。
 組替え直後の公演だ、扱いは落とせない。
 タカラヅカのタカラヅカらしい理由で、らんとむになにかしら役を付けなければならなかった。

 そしてすべてを、台無しにした。

 どこまでアタマ悪いんだ、この演出家。溜息。

 
 らんとむに「路線男役」としての面子を潰させない扱いでサムを演じさせるなら、脚本全部作り直す必要があった。

 サムが毛布を握りしめたガキでなければならないというなら、それに合わせて全部作りかえないと。
 まず、最後のオチの「親」というのはやめる。
 「そのまま」のガキで登場させられる、サマンサの兄だとか弟だとかにするしかない。そうして毛布を持って、うっとりさせるしかない。……「親」としての登場より、確実にインパクトは落ちるが仕方ない。

 それから、グラディスと恋愛させる。
 幼児程度のーみそのサムと、若い女の子のグラディスだが、それでも見ているモノにわかるようにラヴを入れなきゃ。
 でないとオチでサムとグラディスがカップルで登場できない。

 グラディスがコパガールを辞めた理由を作る。もしくは、彼女もまたコパガールにあこがれて、でも結局なれなかった女の子という設定を作り直す。
 おばさんだったら説明しなくても「トシのせいで辞めたのね」とわかるけど、「サムとも長いつきあいなのね」とわかるけど、若い女の子設定なら、全部一から作って説明しないと。

 ローラに対して「姉」のように導くのではなく、「夢を追う同志」として「親友」として存在させる。

 ここまで作りかえないと、「サムの息子サミー@のーみそ幼児」を使えない。
 それをなにもしないで、ただ「あさはかに笑いを取る」目的でサムを幼児にして、「ハゲオヤジ役ぢゃないから、路線に相応しいだろ」という理由で、らんとむに演じさせる。
 サムの年齢に合わせてグラディスも若返らせ、あとは全部、もとのまま。
 物語が壊れているのに、キャラクタが壊れているのに、オチが壊れているのに、おかまいなし。

 演出家、バカですか。
 つか仕事しろよ。

 パズルと一緒なんだから、勝手にピースをいじったら、他も調整しないと1枚の絵にならないっつーの。
 バカじゃないなら、手を抜いたとしか思えない。


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