ある殺人計画−すべては愛のために。−@ベルサイユのばら
2006年7月7日 タカラヅカ コメント (1)「……で、あの男は何者なんだ?」
「あの男?」
「最近の訓練にまざっている男だ。派手なマントをつけて、謎の軍服を着た……」
「ああ、アレは私の従僕だ。私の父から、私を見守るように言いつけられているんだ」
「従僕……? 見守る……? あんたが赴任したてで俺たちと衝突して苦労しているときは、いなかったよな? なにもかもうまくいっている今になって派手なマントと謎のきらきら軍服で訓練に混ざるのが『見守る』ということなのか? 俺はどこのカンチガイ貴族かと思ったぞ、平民なのか」
「悪い男じゃないんだ。ただ、その、いろいろと感覚が個性的で」
「周りがドン引きしていても、平気で指図してくるし」
「悪い男じゃないんだ。ただ、その、空気読めないだけで」
「どこかカラダが悪いのか? ときどきあきらかに『ワタシを見て!』って感じによろけたりしていたが」
「悪い男じゃないんだ。ただ、その、目が悪いことをなにかと主張したがるだけで……普段は忘れているくせに、ときどきかまって欲しいときにアレをやるんだ」
軍服を着たふたりの男……いや、ひとりは男装の女性だが……は、顔を見合わせて溜息をついた。
男装の女性は、ひどく疲れているようだった。
「そういえば、あんたに結婚話が出ていると聞いたが、どうなんだ?」
男が、男装の女性に聞いた。
「ああ、それはもう断った。断るしかないしな」
「断るしかない?」
「ここにひとりの男性がいる。彼は私が他の男性に嫁いだら生きてはいけないだろうほどに、私を愛してくれている。もし彼が不幸せになるなら、私もまたこの世でもっとも不幸せな人間になってしまう……」
「その男のために、一生誰とも結婚はしないと? その男を愛しているのか?」
「わからない。そんな対象として考えたことはなかった」
「……ひょっとして、あの男のことか? 空気を読めないかまってちゃんの、あんたにつきまとって謎の軍服で訓練に混ざる男」
「彼が片目なのは、私のせいなんだ。私をかばってケガをした」
「それで、あんたの前でわざわざ『目が痛む』ふりをこれみよがしにつづけているのか? あんたはソレを負い目に、結婚も出来ないということか」
「悪い男じゃないんだ。私を愛してくれていることは、たしかなのだし……」
「愛していれば、なにをしてもいいのか? 目のケガを理由に一生あんたをしばりつけるつもりなんだろう?」
「……結婚話が持ち上がったとき、殺されかけた」
「なんだと?!」
「私を他の男に渡すくらいなら、私を殺して自分も死ぬのだと言って、毒を盛られた。未遂に終わったが、ひざまずいて号泣された、これほど愛しているのだと」
「どこのストーカーだ。ソレであんた、言いなりになっているのか」
「仕方ないだろう。悪い男じゃないんだ……ただちょっと、自分本位なだけで」
疲れ切った男装の女性は、なにもかもあきらめたように続ける。
「彼は私のために生き、私のために片目を失った。私はソレに報いなければならない。彼が不幸になれば、彼を見捨てた私を、私自身が許せない。……彼の好きなようにさせるさ……悪い男ではないんだ……」
「そんなバカな」
男はいきりたった。
まちがっている。過去の過ち……かどうかもこの際怪しい……を楯にとって、一生脅され続けるなんて。
「本人は愛だの善意だののつもりなんだろうが、やっていることはただの犯罪だ。空気読めないレベルの話じゃないだろう。なんとかするんだ」
「……どうやって? 彼は一生私のそばにいるつもりだ」
「考えがある。あの通り空気を読めない上に派手好きで注目されたがる性質の男なら、誘導しやすい」
男は力強く言った。疲れ果てていた男装の女性は男に身を寄せる。軍服が様になるだけあって女性にしては大柄だった(ついでにかなり男顔で顎が長かったりした)が、彼女を抱きしめる男はさらに大きく逞しかった。
「衛兵隊全員で協力しよう。あんたを救うためならよろこんで動くだろう。あんたにも、演技をしてもらわないといけない」
「演技?」
「あの男を、たらしこんでもらう」
「そんなこと」
「やり方は、教える」
そして。
運命の日。
戦場となった街の見通しのいい橋の上に、問題の男は華美な私製軍服を着て立っていた。男の性格を考慮し、少しそれらしげな言葉をかけるだけで、男は嬉々として一段高いところ……橋の上に立ち、隊士たちに命令口調でなにかと言いつけ、悦に入っていた。
男装の女性も、その新しいパートナーとなった男も、他の衛兵隊士たちも、全員安全な橋の下に立ち、なりゆきを見守った。
銃声が響いた。1発、2発、3発……なんと12発も響いた。呪いにかかったシンデレラを解き放つ、12時の時計の鐘にも似た音だった。
男装の女性はそれまでの自分のすべてを捨て、新しい人生を手に入れたのだ。
「あの男?」
「最近の訓練にまざっている男だ。派手なマントをつけて、謎の軍服を着た……」
「ああ、アレは私の従僕だ。私の父から、私を見守るように言いつけられているんだ」
「従僕……? 見守る……? あんたが赴任したてで俺たちと衝突して苦労しているときは、いなかったよな? なにもかもうまくいっている今になって派手なマントと謎のきらきら軍服で訓練に混ざるのが『見守る』ということなのか? 俺はどこのカンチガイ貴族かと思ったぞ、平民なのか」
「悪い男じゃないんだ。ただ、その、いろいろと感覚が個性的で」
「周りがドン引きしていても、平気で指図してくるし」
「悪い男じゃないんだ。ただ、その、空気読めないだけで」
「どこかカラダが悪いのか? ときどきあきらかに『ワタシを見て!』って感じによろけたりしていたが」
「悪い男じゃないんだ。ただ、その、目が悪いことをなにかと主張したがるだけで……普段は忘れているくせに、ときどきかまって欲しいときにアレをやるんだ」
軍服を着たふたりの男……いや、ひとりは男装の女性だが……は、顔を見合わせて溜息をついた。
男装の女性は、ひどく疲れているようだった。
「そういえば、あんたに結婚話が出ていると聞いたが、どうなんだ?」
男が、男装の女性に聞いた。
「ああ、それはもう断った。断るしかないしな」
「断るしかない?」
「ここにひとりの男性がいる。彼は私が他の男性に嫁いだら生きてはいけないだろうほどに、私を愛してくれている。もし彼が不幸せになるなら、私もまたこの世でもっとも不幸せな人間になってしまう……」
「その男のために、一生誰とも結婚はしないと? その男を愛しているのか?」
「わからない。そんな対象として考えたことはなかった」
「……ひょっとして、あの男のことか? 空気を読めないかまってちゃんの、あんたにつきまとって謎の軍服で訓練に混ざる男」
「彼が片目なのは、私のせいなんだ。私をかばってケガをした」
「それで、あんたの前でわざわざ『目が痛む』ふりをこれみよがしにつづけているのか? あんたはソレを負い目に、結婚も出来ないということか」
「悪い男じゃないんだ。私を愛してくれていることは、たしかなのだし……」
「愛していれば、なにをしてもいいのか? 目のケガを理由に一生あんたをしばりつけるつもりなんだろう?」
「……結婚話が持ち上がったとき、殺されかけた」
「なんだと?!」
「私を他の男に渡すくらいなら、私を殺して自分も死ぬのだと言って、毒を盛られた。未遂に終わったが、ひざまずいて号泣された、これほど愛しているのだと」
「どこのストーカーだ。ソレであんた、言いなりになっているのか」
「仕方ないだろう。悪い男じゃないんだ……ただちょっと、自分本位なだけで」
疲れ切った男装の女性は、なにもかもあきらめたように続ける。
「彼は私のために生き、私のために片目を失った。私はソレに報いなければならない。彼が不幸になれば、彼を見捨てた私を、私自身が許せない。……彼の好きなようにさせるさ……悪い男ではないんだ……」
「そんなバカな」
男はいきりたった。
まちがっている。過去の過ち……かどうかもこの際怪しい……を楯にとって、一生脅され続けるなんて。
「本人は愛だの善意だののつもりなんだろうが、やっていることはただの犯罪だ。空気読めないレベルの話じゃないだろう。なんとかするんだ」
「……どうやって? 彼は一生私のそばにいるつもりだ」
「考えがある。あの通り空気を読めない上に派手好きで注目されたがる性質の男なら、誘導しやすい」
男は力強く言った。疲れ果てていた男装の女性は男に身を寄せる。軍服が様になるだけあって女性にしては大柄だった(ついでにかなり男顔で顎が長かったりした)が、彼女を抱きしめる男はさらに大きく逞しかった。
「衛兵隊全員で協力しよう。あんたを救うためならよろこんで動くだろう。あんたにも、演技をしてもらわないといけない」
「演技?」
「あの男を、たらしこんでもらう」
「そんなこと」
「やり方は、教える」
そして。
運命の日。
戦場となった街の見通しのいい橋の上に、問題の男は華美な私製軍服を着て立っていた。男の性格を考慮し、少しそれらしげな言葉をかけるだけで、男は嬉々として一段高いところ……橋の上に立ち、隊士たちに命令口調でなにかと言いつけ、悦に入っていた。
男装の女性も、その新しいパートナーとなった男も、他の衛兵隊士たちも、全員安全な橋の下に立ち、なりゆきを見守った。
銃声が響いた。1発、2発、3発……なんと12発も響いた。呪いにかかったシンデレラを解き放つ、12時の時計の鐘にも似た音だった。
男装の女性はそれまでの自分のすべてを捨て、新しい人生を手に入れたのだ。
コメント
…
…
「やり方は、教える」
で、男は男装の女性の(長い)顎を持ち上げてます。はい。……真面目に書くと生々しくなるので、あえて地の文排除してますが(笑)。
丸顔の男と、三日月顔の男装の女カプ(笑)。