東宝『NEVER SAY GOODBYE』を観て、ますますジョルジュがダメになっていたわたしが救いを感じたのは、ムラで観たときジョルジュと同じかそれ以上にダメだった、ヴィセント@タニだった。

 あ、あれ?
 ヴィセントって、こんな人だっけ?

 ムラで観たときヴィセントのことは脚本上のことしか、触れなかった。わたしにとっての逆鱗台詞を吐く無神経キャラとして、「作者のあさはかさを露呈したキャラクタ」としてスルーしていた。
 それまでどれほどかっこよく存在していても、あんな台詞を吐いてそのことについてのなんのフォローもないキャラは、嫌だ。かっこよくなんかない。
 演じている人が誰であっても、もうダメだと思っていた。雪『ベルばら』のロザリーが、まーちゃんがどれほど真摯に演じてもキ*ガイにしかならないよーに、脚本が狂っていたらどーしよーもない。そういう意味で、スルー対象。
 タニちゃんがどうこう以前。

 それが。

 東宝前楽で再会したヴィセントは、ぜんぜんアリなキャラクタになっていた。

 狂ってない。
 アリだよ、あの人!!

 わたしの逆鱗台詞っちゅーのは今さら言うまでもないが、「所詮お前たちは、ただの外国人なんだ」「お前は写真を撮ってるだけだろ」ですわ。
 人として、これだけは言ってはならない台詞。
 これを言ってしまった段階で、その人物はアウト。……もちろん、こーゆー最低なことを言う心の弱く醜い人間だという設定ならアリね。ただ、この作品ではそうじゃなく、こんな台詞を言いながらも「かっこいいヒーロー」として描かれているから逆鱗ポイント直撃。

 ムラで観たときは、ヴィセントはただの無神経男だった。人としてまちがっているのに、それでもヒーローとして描かれた気持ち悪い世界観の登場人物だった。
 こんな気持ち悪い男を、「カマラーダ」とか美しい言葉を使ってなあなあで許してしまうオリンピアーダのメンバーも浅慮で卑怯なつまらない集団に思えた。

 が。

 東宝前楽。
 ヴィセントはふつーに、かっこよかった。

 彼は、歪んでいなかった。
 気持ち悪い世界観の住人ではなかった。

 たしかに同じ台詞を口にする。
 人として言ってはいけないことを言う。

 現代日本でいうなら、「一緒に甲子園を目指す仲間だ!」と言っていたのに、口論した際その仲間に「なんだよお前なんか所詮**のくせに」と国籍のことで罵るよーなもんだ。
 なのにきちんと謝罪もせず、「まあまあ、みんな仲間じゃないか」とお茶を濁して終わり。……「所詮**」って腹の底で思っているからこそ、罵ったのにね。そういう事実は「なかったこと」。……そんな表面だけ取り繕った、卑屈な関係。君たち、そんなんじゃ甲子園なんか行けっこないよ。

 その、人としてまちがっているヴィセントくん。

 東宝では、まちがったことを口にしたあとも、ぜんぜん、悪びれていなかった。

 激昂したからつい言ってしまった、わけじゃない。
 失言じゃないんだ。

 彼は自分がなにを言っているのか、わかったうえで、口にした。

 仲間だとか言いながら、実は仲間たち全部を見下していたこと。信用してなんかいなかったこと。
 それを、本気で、口にしたんだ。

 本当のことだから、悪びれたりしない。
 言ったときも、あとも。「しまった」なんてカオをしない。むしろ思慮深ささえ感じさせる。
 深刻な、大人の男のカオで事態と対峙する。

 そうか。
 君、最初から、誰のことも信じてなかったのか。
 人間なんて所詮そんなもの、かわいいのは自分だけだって思ってたのか。
 根っこの部分の信念だから、ソレを口にすることで悪びれたりキョドったりしないんだ。
 仲間たちの反発を黙って聞いているヴィセントは、やたらとかっこよかった。

 そう。
 わたしの逆鱗ポイントは、「歪んだ地平」なの。「まちがったこと」を「物語上都合がいい」から「正義」として描かれること。

 今回のヴィセントの台詞は人としてまちがっている。こんなこと言わなくてもぜんぜんいいのに、何故ヴィセントにこんな台詞をいわせるのかが謎だった。
 でも、言わなきゃいけない、キ*ガイ台詞。気の毒なタニちゃん、それまでどれだけかっこよく演じてきても台無し。……だったのが。

 まちがった台詞を変えようがないのなら、それを言うキャラを「まちがった人物」にするしかない。
 気持ち悪いのは、まちがった台詞を言うのに「まちがっていない人物」として描かれていることなんだから。

 ヴィセントは、信念を持って他人を信じない男だった。
 都合がいいから、あえて「俺たちは同志だ」とか言って利用していたの。
 そのことを、打ち明けただけ。彼は「まちがった人物」という点において、「まちがっていない」の。

 祖国を守るために、あえて外国人たちを利用していたのか。
 そしてそのことを口にして、罵られても、びくともしないんだ。

 ソレは、アリだ。
 こーゆー男は、アリだ。

 人を信じられない男が、それでも仲間を募って戦った。その強い意志、戦いの中での心の動きに、興味が湧く。

 真実を告げられた仲間たちは最初反発するけれど、それがヴィセントの信念だということに気づき、誰も彼に謝罪や撤回を求めない。
 自分たちが今、ひとつの目的のために手を取り合う必要性だけを考え、改めて絆を強くする。

 「失言」を「なあなあで誤魔化す」ではなく、もっと暗い、しかし激しいものを秘めた場面になってますがな?!

 信念を持って歪んだ男ヴィセント、かっこいいぞ?!

 陰鬱に立つヴィセントはまぎれもなく「大人の男」で、それまでの「陽気さ」や「オリンピアーダのリーダーぶり」からはかけ離れ、戦いの最中銃をかまえているときの鋭さを放つ。
 こちらの顔が、彼の本来の姿だったのか。

 そう答えが見つかり、ヴィセントにはなんの文句もなくなった。
 や、かっこいいよ!
 「所詮外国人」と思っているくせに一緒に戦って、その「外国人」の遺したカメラをあんなに愛しそうにしていたんだぜえ?
 彼の負の部分と、それでも「仲間」としてたしかにあった信頼と、彼の葛藤を思うと萌えるんですが(笑)。

 タニちゃん、ムラのときと演技変わったよねえ?
 このヴィセントはぜんぜんアリだー。

 
 ……わたしにはこう見えた、つーだけのことなんですが。
 それでも、ヴィセントを好きになれてよかった。
 正しく歪んだ男は好きだよ。


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