「私の姿が見えている方も声しか聞こえない方も、聞いてください」

 それまでは、「イベント」だった。
 歴史に刻まれる日にナマで立ち会っている高揚感があった。

 ありえないほどのたくさんの人々、ド派手な演出の数々。
 それを素直に楽しんでいた。

 人が人の力で行う「祭り」に感動していた。

 たかちゃんが現れ、ゆっくりとお立ち台に上る。
 わたしが場所取りをはじめてから5時間半。ただこの瞬間のために、わたしは並び続けた。
 流れる曲は「世界でひとつの花」……想い出の『W-WING』の。

 イベントだった。祭りだった。FCにも入っていないわたしは、外側から眺めることでしか参加できず、実感できないまま、なにかをどこかに置き去りにした感を抱えたまま、早朝からムラにいた。

 だけど。

 さあ 涙を拭き
 顔を上げて 歩くんだ
 僕は生きている 君の中に
 決して言いはしない サヨナラだけは
 NEVER SAY GOODBYE


 たかちゃんが歌い出した瞬間、なにもかもが消えた。

 涙が出た。

 「世界でひとつの花」が奏でられているとゆーのに、たかちゃんはそんなことはものともせず、高らかに歌った。
 アカペラで。
 とびきりオトコマエな、「男役」の声で。
 「和央ようか」の声で。

 不意打ちだ。
 お立ち台があった。マイクが用意されていた。
 だからといって、歌い出すなんて、思ってなかった。

 彼は、舞台人なんだ。
 ナマの女性の姿ではなく、オフで喋っているマイペースな姿でもなく、彼がほんとうに生き、魅力を放っていたのは、舞台での姿だ。
 誇るべき舞台人だ。
 だからこそ。

 最後まで、舞台人としての姿を見せてくれるんだ。

 舞台で歌うのと遜色ない歌声を、こんな音響もなにもあったもんぢゃないところで、だけど愛だけで埋まった空間で、響かせる。

 和央ようかという人。

 万全の体調でもなく過酷な退団公演の舞台を勤め上げ、愛と感謝を歌って去っていく。
 白一色で埋まった夜のステージで。

 ずっと見てきた。18年間。
 イメージはいつだって血統書付きの大型犬。
 優雅に美しいのに、ひとなつこくて盛大にしっぽを振ったりじゃれついたりするから、ちとありがたみに欠ける、親しみやすいやさしい大きな犬。
 細いくせに大きなカラダも、ふさふさの毛並みも、きっときっと、誰かをあたためるためだね。寒い夜によりそって、凍えないようにあたためてくれる。
 このぬくもりがあるから、生きていける。そう、思わせてくれる。

 拍手と、愛を呼ぶ声だけに満ちる空間。
 白い花と白い人々と、フラッシュの点滅と。
 白い服の人々が振る、やわらかい色のライトと。

 
 ここは、美しいところだ。

 
 神様、ここは、美しいところです。
 とても無意味で、なんの役にも立たない、だけど愛だけが詰まっています。

 これは「祭り」。大きな祭祀。
 人の心がただ愛と感謝だけを語る。
 無力で、カタチに残らなくて、だけど、だからこそ、うつくしいもの。

 かみさまがいるなら、ここに降りてきて。

 どうか、このひとたちに、祝福を。
 みんなみんな、しあわせでありますように。

 たかちゃんが、最後までしあわせに「和央ようか」であれますように。
 たかちゃんを愛する人たちが、最後までしあわせに「和央ようか」を見守れますように。

 神社が美しいように、教会が美しいように、祈りの場は美しいものだから。
 ここもまた、祈る美しさに満ちているから。

 わたしは宗教とかさっぱりわかんないが、それでも祈る。
 大好き。ありがとう。しあわせに。……祈りの言葉は、とても単純。

 
 オープンカーに乗って遠ざかっていくたかちゃんを、いつまでもしぶとく見つめながら。

 祭りの終わりの呆けたようなざわめきを、感じていた。

 一定のルールのある空間はきれい。どんなに雑多な場所であったとしても。
 その一定のルールで整列した大勢の人々の輪が、崩れる。ルールが崩れ、人垣が崩れる。ダムが決壊するように。

 それも、壮観だ。
 この一大イベントを最初から眺めていた者にすれば。

 うわー、すげー。

 ぽかんと眺める。
 崩れていく人垣を。ゲートに向かって流れていく一般人たちの波を。

 歴史が今、動いた。
 あの人の退団は、歴史の大きな1ページ。

 わたしはソレを見守る。
 見守ることしか、できない。

 
 花の道からパレードを見ていたというハイディさんと合流し、ずぶ濡れ(いろいろあってね・笑)なのをおどろかれつつも、千秋楽の話を聞かせてもらう。

 ハイディさんと入れ替わりに別の場所にいたジュンタンと合流、誠さんにもちらりと会って、ついでに某店で麻尋しゅんくんとすれ違い(こんな店でふつーにメシ食ってんのか、こんな日に・笑)、2日連続終電を逃さないよう気をつけながら解散する。

 帰りの電車でひとり、思わず携帯電話で録画した、たかちゃんのお立ち台の姿を眺める。わたしカメラも録音機器もなにも持ってないんだわ。ナマが命の人なんで、そーゆーの興味なくて。
 でもさすがに「お立ち台+マイク」まで出たときゃ「音だけでも記録したいっ」と携帯のビデオカメラを立ち上げた。
 画面はハレーション起こしていて、ろくに映ってないんだが。

 歌は、聴ける。

 
 泣いた。

 
 

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