祭りの夜。@NEVER SAY GOODBYE千秋楽
2006年5月9日 タカラヅカ 白に染まる日。
次々と白い服の人たちが走り出てくる。
ある人は泣きながら、ある人はハイテンションのまま。
白い服の人たちは、事前に練習していた通りに所定の位置につく。
芸能人のさゆりもいた。彼女は後ろにいるわたしたちに向かって、大きく泣き真似をして見せた。実際、たくさん泣いたんだろう、そんな感じで。彼女も特別扱いはなく、ふつーにガードに入った。
あらかじめ敷かれていたカラーシートが、白に染まる。白い服の人たちで埋まっていく。
一般人は彼女たちの後ろにしか立てないから、たちまち視界から消える。
なにかもが、白。他の色は、世界から消える。
運び込まれていた白薔薇がパレード沿道に並べられ、白い服の人たちは声掛けの練習をはじめる。
用意が調っていく。
祭りがはじまる。
そう。
これは、必要なことだ。
祭祀。
神がいるかどうかは論点ではない。
神を必要とする人の心のために、祭りはあるのだ。
日常ではない「ハレ」の日。
闇と光が交ざり、邪と聖が隣り合う日。
すべては、ひとのこころのために。
「イベント」としてのこの宙楽のセッティングをずっと眺めてきた。
壮大な祭り。大きなイベント。
たくさんの人が働き、ひとつの目的のためにひとつになっている。
それを眺め、場所取りというカタチで「参加」しているわたしは、昂揚していた。
今、歴史が動いている。
歴史に残る1日を、体験している。
その高揚感。
イベントが大きければ大きいほど、わくわくする。
退団して欲しいわけじゃない、失いたいわけじゃない。ただ、それとは別に、この退団のためのセレモニーが、派手であればあるほど愉快なのだ。
彼らのための「祭り」が特別なものであって欲しいのだ。
準備完了のあと、待ち続けた時間からすればあっという間に、祭りははじまった。
退団者が花道を歩いてくる。まさに、花道。花で飾られた道。
夕暮れ。
拍手とフラッシュの光、潮騒のような歓声。
「きれいね」
「きれいね」
見守る人たちが、口々に言う。
タカラジェンヌは、みんなきれい。
退団する人たちは、みんなきれい。
花總まりが現れたとき、わたしはそれでもまだ、信じられずにいた。
袴姿で歩いてくる女の子。
あれは誰。
花ちゃんなの?
ほんとうに?
あまりにちょこんと、華奢で小さな女の子。
舞台での花ちゃんを小さいと思ったことはないし、実年齢も君臨してきた年数も知っている。
それでも目の前を歩く花ちゃんは、とても幼くかわいらしい儚げな女の子だった。
ああ、ミーミルか。
ミーミルやった子だ。
伝説の『白夜伝説』を観たとき、幕間にプログラムのページをめくった。あのミーミルって役をやった子、誰? あんな子いた?
そして、見つけた写真に、愕然とする。写真の小ささと、位置に。こんなに下級生なの?
……それと、カオに。
いやその、花ちゃん当時すごい写真写りでね……舞台のかわいらしさと素顔のギャップは、ものすごいものがありましたのよ。
あの幕間を思い出した。
そっか、ミーミル役の子だ。
見つけた。
妖精・花總まり。
ここにいたんだね。
わたしのなかで、ミーミルと目の前の女の子がつながった。
あの子誰? と白黒のプログラムのページをめくった、あのとき。
わたしが「花總まり」と出会ったあのときに、「今」がつながった。
メビウスの輪のように。
ぐるっと回って、最初に戻ったというなら。
これで終わりはおかしいよ。
まだまだ、見ていたいのに。いてほしいのに。
まだ。
……そう思う気持ちを残して、花ちゃんは車の中に消える。花で飾られたガラスの中は見えない。
暮れはじめてからは、早い。世界が「夜」に飲み込まれるのは。
あんなに明るかった世界は、いつの間にか夜になっている。花道を歩く退団者の顔が見えにくくなっていることに、太陽の不在に気づく。
残された退団者はひとり。
たかちゃんの登場を前に、祭りは「夜」に突入した。
真の「祭り」は夜に催される。儀式だから。祈りだから。
篝火と詠唱と、荘厳な祭礼具と。
どうか、壮大であれ。
わたしたちの愛した人に相応しく。
派手で、大仰で、美しく。
「記念」になることで、想い出を作って。行き場のない想いを浄化させて。
祭りは、大きい方がいい。
昂揚と恍惚にすべてを忘れ、酩酊できるように。
和央会は、それを理解しているようだ。
神官たちは祭儀を執り行う。
人々の期待のままに。
まず、白い花で埋まったオープンカーが現れた。
ド派手な車、ド派手な装飾。
歓声が上がる。高まる興奮。
それが覚めやらぬうちに、次の歓声が和央会の間を伝言ゲームのように伝わる。「絨毯だって」「赤絨毯やるって」……彼女たちのささやきは、スタッフが朱の絨毯を抱えて現れたときに、歓声に変わる。
赤絨毯登場。
映画で見るような巻かれた絨毯を、くるくる転がしながら広げていく。
その贅沢感。
絨毯のセッティングが終わらないうちに、次の歓声が上がる。
報道席の後ろで作られていたお立ち台が、数人がかりで運び込まれてくる。
お立ち台登場。
生きた白薔薇で埋められた、ありえないほど豪華なお立ち台。
報道席前に設置され、動かないように固定したり、さらに花を運んで周囲を飾ったりと、天井知らずの贅沢さ。
しかもこのお立ち台、ただの台ぢゃないんだ。
お立ち台の、ライトが点灯した。
白い花の間から、やさしい黄色い光が灯る。
幻想的な美しさ。
上がる歓声。
なになに、あそこにたかちゃんが立ってくれるの? それなら、後ろの人たちにも姿が見えるね。
わざわざああやって台まで作ったんだから、あそこでしばらく立ち止まるってコトだよね? それなら、いままでのトップさんたちより長く見られるってコトだよね。
それだけでもよろこんでいたというのに。
スタンドマイク登場。
さらに盛り上がる歓声。
マイクがセットされたってコトは、たかちゃん、喋る?
これまでのトップさんは生声で「ありがとう」とか言ってくれるだけで、ちゃんとした長い挨拶はしてくれなかった。つか、できなかった。
でもマイクがあるなら、単語以外のちゃんとした言葉を話すことができる、そのつもりのはず。
声が聞ける? という期待で盛り上がる人々の耳に。
突然、音楽が届いた。
生演奏開始!
パレード沿道の一角に、不自然に白木のラティスで囲った空間があったけれど。
そこにエレクトーンが運び込まれていたらしい。
どこまでやるんだ和央会!
派手さが小気味いい。
そう、どこまでも盛り上げて。
わたしたちの愛したあの人に相応しく。
あの人が特別だということを、知らしめて。
世界はすっかり夜。
地球の半分は、太陽の影に入ってしまった。
だけどわたしたちが待つのは光。
まぎれもない、光。
そして、待ち人が……和央ようかが、現れた。
次々と白い服の人たちが走り出てくる。
ある人は泣きながら、ある人はハイテンションのまま。
白い服の人たちは、事前に練習していた通りに所定の位置につく。
芸能人のさゆりもいた。彼女は後ろにいるわたしたちに向かって、大きく泣き真似をして見せた。実際、たくさん泣いたんだろう、そんな感じで。彼女も特別扱いはなく、ふつーにガードに入った。
あらかじめ敷かれていたカラーシートが、白に染まる。白い服の人たちで埋まっていく。
一般人は彼女たちの後ろにしか立てないから、たちまち視界から消える。
なにかもが、白。他の色は、世界から消える。
運び込まれていた白薔薇がパレード沿道に並べられ、白い服の人たちは声掛けの練習をはじめる。
用意が調っていく。
祭りがはじまる。
そう。
これは、必要なことだ。
祭祀。
神がいるかどうかは論点ではない。
神を必要とする人の心のために、祭りはあるのだ。
日常ではない「ハレ」の日。
闇と光が交ざり、邪と聖が隣り合う日。
すべては、ひとのこころのために。
「イベント」としてのこの宙楽のセッティングをずっと眺めてきた。
壮大な祭り。大きなイベント。
たくさんの人が働き、ひとつの目的のためにひとつになっている。
それを眺め、場所取りというカタチで「参加」しているわたしは、昂揚していた。
今、歴史が動いている。
歴史に残る1日を、体験している。
その高揚感。
イベントが大きければ大きいほど、わくわくする。
退団して欲しいわけじゃない、失いたいわけじゃない。ただ、それとは別に、この退団のためのセレモニーが、派手であればあるほど愉快なのだ。
彼らのための「祭り」が特別なものであって欲しいのだ。
準備完了のあと、待ち続けた時間からすればあっという間に、祭りははじまった。
退団者が花道を歩いてくる。まさに、花道。花で飾られた道。
夕暮れ。
拍手とフラッシュの光、潮騒のような歓声。
「きれいね」
「きれいね」
見守る人たちが、口々に言う。
タカラジェンヌは、みんなきれい。
退団する人たちは、みんなきれい。
花總まりが現れたとき、わたしはそれでもまだ、信じられずにいた。
袴姿で歩いてくる女の子。
あれは誰。
花ちゃんなの?
ほんとうに?
あまりにちょこんと、華奢で小さな女の子。
舞台での花ちゃんを小さいと思ったことはないし、実年齢も君臨してきた年数も知っている。
それでも目の前を歩く花ちゃんは、とても幼くかわいらしい儚げな女の子だった。
ああ、ミーミルか。
ミーミルやった子だ。
伝説の『白夜伝説』を観たとき、幕間にプログラムのページをめくった。あのミーミルって役をやった子、誰? あんな子いた?
そして、見つけた写真に、愕然とする。写真の小ささと、位置に。こんなに下級生なの?
……それと、カオに。
いやその、花ちゃん当時すごい写真写りでね……舞台のかわいらしさと素顔のギャップは、ものすごいものがありましたのよ。
あの幕間を思い出した。
そっか、ミーミル役の子だ。
見つけた。
妖精・花總まり。
ここにいたんだね。
わたしのなかで、ミーミルと目の前の女の子がつながった。
あの子誰? と白黒のプログラムのページをめくった、あのとき。
わたしが「花總まり」と出会ったあのときに、「今」がつながった。
メビウスの輪のように。
ぐるっと回って、最初に戻ったというなら。
これで終わりはおかしいよ。
まだまだ、見ていたいのに。いてほしいのに。
まだ。
……そう思う気持ちを残して、花ちゃんは車の中に消える。花で飾られたガラスの中は見えない。
暮れはじめてからは、早い。世界が「夜」に飲み込まれるのは。
あんなに明るかった世界は、いつの間にか夜になっている。花道を歩く退団者の顔が見えにくくなっていることに、太陽の不在に気づく。
残された退団者はひとり。
たかちゃんの登場を前に、祭りは「夜」に突入した。
真の「祭り」は夜に催される。儀式だから。祈りだから。
篝火と詠唱と、荘厳な祭礼具と。
どうか、壮大であれ。
わたしたちの愛した人に相応しく。
派手で、大仰で、美しく。
「記念」になることで、想い出を作って。行き場のない想いを浄化させて。
祭りは、大きい方がいい。
昂揚と恍惚にすべてを忘れ、酩酊できるように。
和央会は、それを理解しているようだ。
神官たちは祭儀を執り行う。
人々の期待のままに。
まず、白い花で埋まったオープンカーが現れた。
ド派手な車、ド派手な装飾。
歓声が上がる。高まる興奮。
それが覚めやらぬうちに、次の歓声が和央会の間を伝言ゲームのように伝わる。「絨毯だって」「赤絨毯やるって」……彼女たちのささやきは、スタッフが朱の絨毯を抱えて現れたときに、歓声に変わる。
赤絨毯登場。
映画で見るような巻かれた絨毯を、くるくる転がしながら広げていく。
その贅沢感。
絨毯のセッティングが終わらないうちに、次の歓声が上がる。
報道席の後ろで作られていたお立ち台が、数人がかりで運び込まれてくる。
お立ち台登場。
生きた白薔薇で埋められた、ありえないほど豪華なお立ち台。
報道席前に設置され、動かないように固定したり、さらに花を運んで周囲を飾ったりと、天井知らずの贅沢さ。
しかもこのお立ち台、ただの台ぢゃないんだ。
お立ち台の、ライトが点灯した。
白い花の間から、やさしい黄色い光が灯る。
幻想的な美しさ。
上がる歓声。
なになに、あそこにたかちゃんが立ってくれるの? それなら、後ろの人たちにも姿が見えるね。
わざわざああやって台まで作ったんだから、あそこでしばらく立ち止まるってコトだよね? それなら、いままでのトップさんたちより長く見られるってコトだよね。
それだけでもよろこんでいたというのに。
スタンドマイク登場。
さらに盛り上がる歓声。
マイクがセットされたってコトは、たかちゃん、喋る?
これまでのトップさんは生声で「ありがとう」とか言ってくれるだけで、ちゃんとした長い挨拶はしてくれなかった。つか、できなかった。
でもマイクがあるなら、単語以外のちゃんとした言葉を話すことができる、そのつもりのはず。
声が聞ける? という期待で盛り上がる人々の耳に。
突然、音楽が届いた。
生演奏開始!
パレード沿道の一角に、不自然に白木のラティスで囲った空間があったけれど。
そこにエレクトーンが運び込まれていたらしい。
どこまでやるんだ和央会!
派手さが小気味いい。
そう、どこまでも盛り上げて。
わたしたちの愛したあの人に相応しく。
あの人が特別だということを、知らしめて。
世界はすっかり夜。
地球の半分は、太陽の影に入ってしまった。
だけどわたしたちが待つのは光。
まぎれもない、光。
そして、待ち人が……和央ようかが、現れた。
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