笑いと脱力の『ベルサイユのばら−オスカル編−』、ロザリーの話の続き、その3。

 ベルナールと結婚しておきながら、「あんな男、一度も愛したことはないわ。わたしが愛しているのは、今でもオスカル様ただひとり」とオスカルに夜這いをかけたロザリー。

 やることやってすっきりして、何事もなかったかのように帰宅したその翌日。

 それでもわたしは、信じていた。
 今のままでは、ロザリーはひどすぎる。悪女もいいとこ、被害者ヅラした偽善者になってしまう。
 きっとこのあと、ロザリーがベルナールに言うんだわ。
「ゆうべ、オスカル様と話しました。これで少女のころの憧れに、きちんと終止符を打つことが出来ました。これからはあなたの妻として生きていきます」
 とかなんとか。
 常識で考えれば、「善人」という設定の第2ヒロインが、他人を平気で騙し、利用し、出し抜いてシレッとしたまま終わるなんてありえないもの。
 フォローがあるはずよ。たしかに人の道に外れることをしたかもしれないけれど、それを悔い、改め、新しい人生を進むっていうオチが用意されているはずだわ。常識から考えたってそうよ。ロザリーは「善人」設定なんだから。

 植爺に常識なんてものを求めたわたしが、バカだった。

 ベルナールとロザリー夫婦が会話をするシーンがあった。おお、ここできっと、ロザリーに対してのフォローが……。

「オスカルがパリに進駐するそーだ。今パリに来るのは危険だから、止めるように説得しなければ」
「オスカル様にはオスカル様の、深いお考えがあってのことです。止めたって絶対無理、無駄なことはしない方がいいわ」

 星組のベルナール@しいちゃん、ロザリー@ウメにゃんの夫婦会話がまんま展開されている……!!

 で、でも、星組Ver.とは意味がチガウよ?
 いくら同じ台詞でも、ロザリーはゆうべ、実際にオスカルに会って、今ベルナールが言っているのと同じことを本人に言ったのよ?
 オスカルの気持ちを洞察して語った星ロザリーとはちがい、雪ロザリーは本人の口から聞いたことをそのまま語っているだけ。

 もちろんそれはかまわない。洞察して語ろうと、本人の言葉をそのまま伝えようと、同じことを言っているのはたしか。
 しかし問題は。

 雪ロザリーは、それがオスカル当人の言葉だと言うことを隠匿した。

 えええっ?!
 なんで、自分の意見として語るの? ソレ、君の意見やなくてオスカルの意見やん! 本人から直接聞いたことを、何故隠す?

 ……言えないのか。
 ゆうべ、オスカルに会ったことは。
 浮気だから。
 夫を裏切ったわけだから。
 そしてソレを、悔いる気も改める気もないから、隠すんだ。

 これからも、夫を騙し続けるために。

 このときのまーちゃんがすごい。天使のようなキヨラカな微笑を浮かべて言うんだ。
「あの方の数奇な人生に相応しい最期があるとすれば」と。
 なにもかも見通し、知り尽くしているかのように。

 ゆうべ、密会していたくせに。
 その事実を完全に抹殺して、聡明さと慈愛ゆえひとの一生を見据えた聖母のよーな、美しくも感動的な言葉を並べ立てる。

 えーと。
 カンニングしておきながら、100点取って「当然のことですわ」と微笑むみたいな。
 本人から「止めても無駄」「これは運命」と聞かされていたから、それをそのまま言っただけなのに、さも自分が洞察したかのよーに語り、ひとから「すげー。ロザリーちゃんってアタマいいんだね」と言われるみたいな。

 卑劣。

 だけどその姿は、微笑みは、天使。

 
 何故。
 何故ロザリー、そんなことにっ?!!

 
 すごすぎるよ、植爺……。
 なに考えてこんなことにしたんだ。いや、知ってるよ、ナニも考えてないんだろ? 植爺だもんな。のーみそも感性も枯渇して半世紀は経ってるもんな……がっくり。

 星組Ver.であんなにかっこよかったベルナールは、まったく同じ台詞とシーンなのに、究極のバカ男に。

 アンタが尊敬の眼差しで見ているヨメは、浮気してんだよ……アンタを騙してるんだよ……今言ってることだって、浮気相手の受け売りだよ……それで感動しているアンタって……アンタって……。

 ベルナール@ハマコ、可哀想すぎる!!

 
 すまん。
 爆笑した。
 つか、笑うしか、ない。

 オスカルやアントワネットの「死に時」を予言した、星組Ver.の「死の天使ロザリー」も大概だけど。

 雪組版は、それをかるーく超えたね。

 「背徳の天使ロザリー」。

 
 夫を騙し続け、浮気相手の男のもとで夜を過ごしてきた女が、その浮気相手の「死に時」の話をするなんて、こわすぎる。

 オスカルとのデュエットダンスのあと、ロザリーはあまりにあっさり立ち去りすぎる。オスカルもさばさばしすぎている。
 これはやはり、あのデュエットダンスはつまり、そーゆーことだったんぢゃないかと思うんだ。
 植爺がどう考えているかは関係ない。あんなの、無視してよろしい。
 今あるものだけを分析していけば、そうとしか思えないんだ。

 明日死ぬかもしれない軍人の、自宅で過ごす最後の夜に現れた女。
 今生の別れかもしれない夜に、女は積年の想いを告げる。「愛しています」
 そこでデュエットダンスになったら、ふつーそれは、そういう意味だろ?
 恋の成就。愛の一夜。

 結ばれたからこそロザリーは、オスカルの愛を胸に抱いてあっさりと屋敷を後にする。

 オスカルは、ロザリーたち民衆の敵になることはないと約束してくれたけれど、ほんとうのところはわからない。
 オスカルは貴族で、ロザリーは平民側だ。
 どんなにオスカルが平民を守りたいと思っても、立場上そうできないことだって、あるだろう。

 これは、別れかもしれない。
 最初で最後の抱擁かもしれない。

 そう思って男の屋敷を後にした女が、その男の死期について語るとしたら。

 やはりこれは、アレじゃないのか?

「死によってしか結ばれない、そんな愛もある」by アンドレ@原作

 ロザリー、オスカルが自分のために死ぬと思ってる?!
 心中しよーってことになってる?!

 ロザリーの脳内で? それともオスカル、あんましアタマ使ってなさそうだから、うっかり雰囲気に流されてそれらしいこと言っちゃったとか??

 戦慄しました。
 あまりに、愉快すぎて。

 ぶっ飛びすぎてるよ、ロザリー。

 最後の最後まで、わたしの期待は裏切られ続けたわけだ。ロザリーが「善人」設定なら、こんなおそろしい女のままにしておくはずがない、という祈りは、届かなかったよ。

 ひどすぎる、ロザリーの扱い。
 おもしろすぎる、ロザリーの扱い。

 まさに、抱腹絶倒。腹がよじれるほど笑いました。

 
 それにしてもまーちゃん、大変だなあ……。


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