抱腹絶倒捨て身のお笑い作品『ベルサイユのばら−オスカル編−』、ロザリーの話の続き。

 最大級の笑いは、2幕の夜這いをするロザリーだ。

 いつものオスカル様の私室、明日はパリ進駐、最後の夜。いつもならこれから「今宵一夜」がはじまるそのときに。

 姿は美女だが性格は男前なコムカル様が、異様な気配を感じて鋭く叫ぶのだ。
「怪しい奴! 何者だ出てこい!!」

 現れたのは、ベルナールに嫁いでそれっきりだったはずのロザリーだ!!
 1幕途中から出なくなっていたので、すっかり存在を忘れていたら、いきなり「曲者」扱いで登場。

 夜這いキタ−−−−!!

 なにしろ「曲者」ですよ。「怪しい奴」ですよ。
 妹同然にかわいがっていた女の子が里帰りしてきただけには、ありえない反応でしょ?

 どうやらロザリー、コムカルが身の危険を感じるほど、異様な気配を発していたらしい。
 やっぱナニか? ヤる気満々でカーテンの陰に隠れ、隙をうかがっていたのか? その気配を勘付かれてしまったのか? 気づかれなかったら、そのままコムカルが寝入るまでそこに隠れていたのか?

 ありえない。
 「曲者」として大仰に登場することもわからないし、そもそも何故今このタイミングで現れなければならないのかもわからない。

 笑わせるためとしか、思えない。

 曲者がロザリーだったこと、「今宵一夜」のはずなのに、アンドレではなくロザリーが現れたことにも、笑えて笑えて仕方なかった。

 ロザリーは怒濤の告白をする。
 パリは危険だから行くな、てなことを。
 そんなつまんねーことを言うために、「曲者」扱いされるように忍び込んだのか?

 なんでつまんねーことかというと、すでにその話題は「波状ギャグ」になっていたからだ。

 オスカル率いる衛兵隊がパリ進駐、と決まってから、出る人出る人全員が「そんな危険なところに!」と大騒ぎをするので、すでにその意見はギャグでしかない。
 同じこと、わかりきったことを繰り返すことによって笑わせるアレだな。

 ほんとうに「危険な任務に就くオスカル」という事象を表現したいなら、要所でガツンとやらなければいけない。
 次々登場する人々全員が同じことを言っていたのでは、「危険な任務」ではなく、「たんにオスカルが無能なんじゃないの?」という印象の方が強くなる。「信頼されていないんだな」ということで。

 だもんで、わざわざ屋敷に忍び込んでまで(なんで玄関からふつーに入ってこなかったんだろう……やはりよほどやましいことをたくらんで……ゲフンゲフン)やってきたロザリーが、そんなどーでもいいことを口走るのは、間抜けでしかない。
 「忍び込む」「隠れていた」「曲者! 出てこい!」という大仰さが前振りとしてあるだけに、さらに間抜け度アップ。

 いくら植爺がバカでも、ヅカでレズ話をやることはないだろうとタカをくくっていたわたしは、のんきに笑っていた。
 すげーなロザリー、夜這いしてまでこんなどーでもいいことをがなりたてるか。
 まあこーやって出番を増やし、「ロザリーはこんなにもオスカルのことを心配しているのですよ」というエピソードを入れたつもりなんだな。
 と、勝手に納得していたのですよ。

 だが、敵は植爺だ。
 最悪の予想の斜め上を行く謎の生命体。

 テンパッたロザリーは、本気で愛を告白しはじめた。

「好きです。愛しています!!」

 −−ちょーーっと待てっ!!
 告るか?!
 告っていいのかロザリー!!

 植爺はたぶん、「マンガを読めない」「コマを追えない」「ふきだしや枠の文章を理解できない」人だとわたしは思っている。
 だからきっと、原作も本当の意味では読んだことがないのだと思う。

 たしかに原作でもロザリーは同じ台詞を言っている。
 だがそれは、「ふきだし」でではない。モノローグだ。心の中だ。声に出しては言ってないんだってば!!

 てゆーか、言ったらソレ、すでにロザリーぢゃないだろう!!

 植爺……。
 マンガを読めないもんだから、ふきだしとモノローグの区別がついてないんだな……それでこんなとんでもないカンチガイを……。

 カンチガイだよな? 失敗だよな?
 まさか本気で、やってないよな? な? 人として、そこまでバカじゃないよな……?
 『ベルサイユのばら』を、「ロザリー」を、「オスカル」を、そこまで理解のカケラもしていなくて、なにもかもぶちこわしにして平気だなんて、そんなことはないよな? な?

 ………………。

 ロザリーというキャラクタが持つ、センシティヴな痛みを、「少女」という「失われるもの」だけが持つ、もっとも美しい儚いものを、ただのレズ話に貶めてしまうなんて。

 結婚し、夫がいて、毎日生活しているにもかかわらず、「愛しているのはあなただけ」と開き直って不倫する、ふつーの女、ふつーのおばさんの話に、貶めてしまうなんて。

 同性愛が悪いと言っているわけじゃない。
 もともとそういうスタンスで描かれているものなら、それでいいさ。
 だがロザリーは、そうぢゃないだろおおおぉぉぉ。

 だってだって、ロザリーはもう結婚しているんだよ?
 たとえ「オスカル様に振られた。やけくそよ、ええい、誰とでもかまわないわ、結婚してやるー!」でてきとーに結婚したのだとしても、あれから何年も経っているわけだろ?
 そんな女は最悪だから、きっかけはそうであったとしても、今ではちゃんと夫を愛しているのだと思っていた。
 フォローが入ると思っていた。
 ロザリーというキャラの人格を守るためにも。

 なのにロザリーは、ずーっとずーっと、夫を騙し続けていたらしい。
 愛してもいないのに、仕方なく結婚生活をしていたらしい。
 やけくそで一緒になった、あのときのままの気持ちだったらしい。

 ……最悪ですがな。
 そんないやらしい女、ロザリーぢゃない。

 あまりの展開に、腰を抜かしていたら。

 そんな人格破綻ロザリーを、オスカルはにっこり受け止め「うれしいよ」と、デュエットダンス。

 ええええええっ?!
 なんぢゃそりゃあああぁぁぁ!

 なに考えてんだ? なんなんだこの展開は?!
 マジレズやりますか植田よ?!

 そーやって長々といちゃくらしておいて。
 オスカル様はあっさり言うのだ。
「ありがとー。忘れないよ。じゃ、下男に送らせるから気をつけて帰ってね」
 なんなんだその、のーみそに花が咲いているよーなお気楽さは?!

 ロザリーも「はい(はぁと)」とみょーにすっきりした顔でとっとと帰っていくし。

 えーと。

 なにがしたかったんだ……?

 夫がいる身で他の人間に夜這いをかけて「夫なんか愛してないわ。あなたがメラニーと婚約したから、くやしくてチャールズのプロポーズを受けたのよ! 私が愛しているのはアシュレ、あなただけよ!!」てなノリでオスカルに告ったロザリーもひでー女だが、それをにっこり笑顔で受け入れて、そのくせとっとと追い払うオスカルも、大概だよな。

 夜這いしてまで愛を告白してきた女の気持ちを、どうやらこの男、カケラも本気にしていないようだ。

 えー、男だとか女だとか言う前に、「相手がどれくらい真剣にものを言っているか」ってのは、伝わるものだ。
 どんなに突拍子もないことでも、相手が涙ながらに本気で語っているのなら、ふつーの人間なら、本気で受け止めるものだろう。

 なのにこの男……オスカルは、まったくその気がなかった。へらへら笑って「うれしいよ」とスルーした。
 どうやらオスカルにとってロザリーってのは、どうでもいい存在だったらしい。
 彼女の真実の叫びは、オスカルには1ミリたりとも届かなかったのだ。なにしろはじめから、オスカルに聞く気がなかったから。

 ロザリーも人格破綻したひでー女だが、オスカルも負けてない。他人の気持ちなんかまったく理解できない、欠けた人間であるらしい。

 ロザリーを適当にあしらって追い返し、この男が次にしたことといえば。
 いそいそと上着を脱いで、アンドレを呼んだ。

 アンドレを口説くために、ロザリーを追い返したのか!!

 ひ、ひでー!!

 ロザリーを追い返したあとでいそいそと服を脱ぐのが、もお。ヤる気満々って感じで、なおイヤンです(笑)。

 ……笑えた。
 てゆーか。
 笑うしかない。

 壊れきった人々の、壊れきった一夜の話に、ひたすら大ウケした。
 せっかくのワタドレとコムカルの「今宵一夜」だったのに。その前に笑いすぎて、気分を変えるのに苦労した。

 あー、コムカルのことを「男」呼ばわりしてますが。
 男ですよ、アレ。
 あんな無神経な奴、野郎認識で十分です(笑)。ロザリーに対しての態度、女性ならありえない。植爺がアタマの中で作った変な男です。

 
 さて。
 ここまでぶっとんだ、ぶっ壊れたロザリーというキャラクタ。
 オスカルに夜這いかけて、ラヴラヴいちゃいちゃしてから、夫のもとへ帰っていった不倫女。

 翌日がまた、すごいの。

 長くなりすぎたから、続く(笑)。


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