「抱腹絶倒」という言葉が、これほどふさわしい舞台が他にあるだろうか。『ベルサイユのばら−オスカル編−』

 たしかに、あらかじめクレーン操作のペガサスが登場すると聞いていたので、「ああ、ついに開き直ってお笑い路線を目指すんだな、植爺」と悟ってはいた。誰もよろこばない、嘲り笑われるだけの演出を大枚はたいてするのが植田紳爾という人だ。そんなものに乗せられるコム姫に心から同情するが、「仕方ないことだ。いつかアンシャンレジームが終焉を迎えるときまで、植爺の横暴に耐えるしかないんだ」とあきらめていたさ。

 たしかに、噂のペガちゃんはすごかった。
 身も蓋もないクレーン車が夢の舞台の上に現れ、悪趣味きわまりないみょうちくりんな物体にまたがったコム姫が、満面の笑顔でやんごとなき方のように、下々の者たちに手を振っていた。
 そのシーンになにか意味があればまだ救いはあるが、もちろん、そこにはなんの意味もない。ただ、あきれ、笑うだけのシーンだ。
 クレーン車はクレーン車でしかない動きをし、これまた涙を誘うちゃちな翼がワイヤーで引っ張られてぱたぱたと羽ばたく真似事をする。
 たしかに笑えるが、それと同時にもの悲しくもなる、おそろしいシーンだった。

 この作品が「抱腹絶倒」なのは、このドアホウなクレーン車の登場のことではない。

 物語すべてが、お笑いなのだ。

 笑った。
 わたしとkineさんは、声を必死に殺しつつ、身をふたつに折って笑った。肩だの腕だのを叩き合いながら爆笑した。ひとりで耐えることなんか不可能だった。

 こんなおもしろいものを見て、笑わずにいられるものか。

 もー、腹筋鍛えられたよ。
 リピートしてたら、ウエスト細くなるんじゃないか?

 こんなに笑ったのって、壮くん主演の『お笑いの果てに』以来じゃないか?

 おもしろかった。
 理不尽だとか不快だとか嫌悪だとか、壊れているとかまちがっているとか、そーゆー段階じゃない。
 笑える。
 その一言に尽きる。

 笑いのツボはありすぎて、どこから説明していいのかわからん。
 だが、確実に言えるのは、ロザリーの扱いだろう。
 
 最初に「ロザリーがオスカルを慕っているというエピソードを入れる」という話を聞いたときに、嫌な気持ちはした。
 「女が軍服を着てなにが悪いの。男装の女性にあこがれてなにが悪いの」だかいう台詞を気持ち悪いバカ女にわざわざ言わせる感性の男が、「ロザリーがオスカルを慕う」ことをまともに表現できるはずがない。いやそもそも「理解」できるはずがない。
 きっと気持ち悪い、「男から見た一方的なレズ話」になる。

 それでもここはタカラヅカだから、AVにあるよーな、「男から見た一方的なレズ話」を露骨にやるはずがない。わけのわからない、「植爺、理解できなかったんだな」てな的外れなシーンが増えるだけだろう、と思っていたのよ。

 まさか、本気でレズをやるとは。

 植爺が理解できてないのはあたりまえだから仕方ないとして、できないならできないで、マジで百合話にするなよ。男だけがたのしいような偏ったレズ話を、女性客相手の舞台でやるなっつーの。溜息。

 なんにせよ、ロザリーのくだりは笑わせてもらった。

 まずご丁寧にベルナール@ハマコが1幕でも登場する。
 これがまた、ハマコあて書き?! というか、植爺、ハマコのこと好きだよね。というか、すばらしくもツボを押さえた、うるささ。

 どっから見ても「借り物です」というよーな、似合わない、無意味に豪華な衣装を着たベルナール。
 なんであんなちんちくりんな格好をしているんだろう……と思って見ていたら、怒濤の説明台詞。
 場の空気も読めず、自分の気分だけで突っ走る人間、としてベルナールを表現。これがまた、ハマコによく似合っていてねぇ。「演説癖」がある、という、素敵なキャラの立て方。
 ハマコがえんえん説明台詞をがなりたて、しかもソレを「つい癖が」てな言い訳で締めくくられちゃうと、それだけで笑いツボ直撃、わたしゃひぃひぃ笑ってました。

 わたし植爺大嫌いだけど、唯一、ハマコの使い方だけは好きだわ。
 ハマコがいちばんハマコらしく、その存在と魅力を発揮できる役をやらせるよね。
 もちろん、与えられた「役」を、ハマコが正しく表現しているからこそ、彼が植爺に気に入られているのだと思うけれど。
(コム姫お披露目作品はすごかったよなあ……ハマコの扱い。2番手だったよ……遠い目)

 その空気を読めない暑苦しい暴走男、ロザリー@まーちゃんを好きで、彼女にプロポーズをしに来たらしい。
 さあ、これから告白だっ! てなときに、お約束にタイミングを外されて。ロザリーに脈がないことなんか、観客には丸わかりだけれど、当のベルナールには伝わっていないことも、やはり丸わかりで。

 そーゆー「なさけなさ」もまた、なんともいえずハマコ。

 ロザリーに告白できなかったベルナール、彼女への告白をすっとばして、保護者であるオスカル@コム姫に話を持ち込んだらしい。
 ここで、「あの似合わないフリフリ服は、プロポーズのための勝負服だったのか!」とわかる。

 あのちんちくりんな格好が、勝負服!!
 プロポーズのために、必死になっておめかししてきたんだ。たぶん、借り衣装だよね。サイズ合ってなかったもの。
 そうまでして張り切ってきたのに、ロザリーにはあっさりスルーされて。
 それで、仕方なくオスカルに助力を求めに行ったんだ。

 かわいい。
 かわいいぞハマコ。
 つか、ベルナール。

 かわいくてかわいくて、おかしくて仕方がない。

 しかも。
 ロザリーはベルナールのことなんか、なーんとも思ってない。ま、当然だわな。まーちゃんとハマコじゃ、月とスッポンもいいとこだよ。おこがましいよ。見た目親子ぢゃん。(注意・だからわたし、ハマコ大好きですってば)
 なんとも思ってないけど、ふたりのキューピッド役を買って出た人間が、問題。
 オスカル様は、ロザリーの想い人だってば!

 愛する人から、「あいつはいいヤツだ。結婚しなよ」と言われてしまったら……!!
 ロザリー、大ショック!!

 叶わぬ恋とは知りながら、それでも大切に心に秘めていたのに。
 漢らしくてさばさばしていていつも低温、そして男らしい鈍感さに充ちたオスカル隊長は、ロザリーが取り乱してもまーったく察しない。
「突然のことで、びっくりしたんだな。はっはっはっ」
 ……鈍感にも程があるぞ、このバカ男!
 コム姫オスカルは、終始低温で男らしい。この鈍感さがもー、いるいる、いるよねっ、こーゆー男!! って感じでさー。んもー、じれったいっつーか、笑えるっていうか。

 オスカルに「お前のことなんか、なーんとも思ってないよーん」と言われたも同然のロザリー、ひとしきり「幻想のオスカル様(もどき含む)とせつないダンス」をやってのけたあと、健気に決心するのだ。

「オスカル様と結ばれないなら、男なんてどれでも同じ。オスカル様の言う通りに結婚します!!」

 −−ヲイヲイヲイ!!
 愛はないのか!
 愛してもないのに、自暴自棄になって結婚するのかよ?!
 ベルナールの立場は?!!

 笑った。
 腹をよじって笑った。

 ひでー。
 ひどすぎるよロザリー。
 ベルナールはそんなこととは知らず、心から喜ぶんだぜえ?

 あまりの展開に、笑うしかない。

 されど、わたしはまだ信じていたんだ。
 このままでは、ベルナールは悲惨すぎるしロザリーは人非人すぎる。
 きっと後半、バスティーユのどさくさでもいいから、ロザリーが独白するなり、ベルナールに告白するなりするんだわ。
「わたしは最初、あなたを愛していたから結婚したわけじゃありません。だけど、今のわたしはあなたの妻です。あなたと共に生きたいと思っています」
 とかなんとか。
 初恋の思い出、少女のころの憧れと、生身の女の愛はチガウ。今現実のロザリーは、ひとりの男としてベルナールを愛しているのだと、ちゃんと決着を見せてくれると思っていたのよ。
 でないとロザリー、ひどすぎるもんなー。ひとりの男の純情を、人生を、弄び踏みにじる悪女だよ。

 原作のロザリーとベルナールの恋を粉微塵にするひどい脚色だからこそ、フォローがあることを信じていたんだ。
 原作者が怒るだろ、これじゃ。

 なーのーにー。

 2幕に入り、「ロザリーの恋」はさらにとんでもないことになる。

 長くなったので、続く(笑)。


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