「さすが緑野さん。オイシイですね(笑)」
 と、デイジーちゃんに言われた。

 と、ゆーのも。
 わたしはファッションショー『日本の美を愛でる』に、遅刻していったのだ。
 すまん、会場の人。遅刻する奴が迷惑なのはわかっている。わかっているのに遅刻してしまった。走ったけど間に合わなかったのよ。ごめんなさい。
 予備知識はなにもなかった。はじまって10分くらいだったかな。「最初にステージに出ているのは他のモデルの人でありますように!」と願ってドアを開けたら、ステージにはリカくらがいたよ。
 がーん……。本命から登場してんですかい!
 客席は当然真っ暗だ。ふつー劇場なら、案内係がとんでくる。が、誰も来ない。
 わたしはしばらく待った。うろうろ席を探し回って、周りに迷惑をかけたくない。しかし誰も来ないし、見回す限り係の人がいそうにないので、覚悟を決めて自分で席へ行った……。

 わたしの席、2列目ドセンターだったのよ……。

 2列目だって知ったのは、梅田へ向かう電車の中だったんだけどね。WHITEちゃんからのメールでさ。我が目を疑ったよ。2列目? ドセンター? な、なのにわたし、遅刻していくんですか?! K列だから後ろだと思ってたんだよ。

 席の並びはよくわかっていないが、とにかく2列目まで行った。センターに目をやれば、そこだけぽつんと空いてる。WHITEちゃんとCANちゃんがわたしを見つけて、手を振ってくれた。
 しかしっ。
 通れません。
 なまじドセンターだ、着席している人の協力がなければ、席までたどりつけません。そして、着席している方々はステージに見入っていて、遅刻してきた馬鹿者のために足の位置を動かしてはくれませんでした……。
 ど、どーしよー。
 途方に暮れたわたしはふと、2列目の通路に立ったままステージに目を向けた。
 するとそこには。

 ケロ様がいた……。

 様付きで呼ばせていただきます。ケロ様です。
 さっきまでリカくらがいたステージには、今はケロ様ただひとり。
 しかも、上手側を客席に向かって歩いているところで……。

 わたしとケロ様は、向かい合っていました。
 その距離は2メートルほどでしょうか。
 向こうは歩いているので、距離はどんどん縮まります。最後は1メートルほどの距離に。
 わたしは。

 わたしは、固まっていました。

 この空間で、わたしとケロ様がふたりっきり。
 ケロ様はわたしを見つめ、わたしはケロ様を見つめている。
 今ここで、立っているのは、そして見つめ合っているのは、わたしとケロ様だけなのです!!
(とーぜんです。通路のいちばん前にぼーっと立ってる女がいたら、そりゃ出演者は見ちゃうでしょうよ)

 固まりましたとも!
 遅刻者のわたしは、それだけでも動揺しておったのです。なのにそこへ、いきなりケロ様だ! しかも「世界にわたしたちふたりだけ」だ!!
 その瞬間、回路がいくつかぶっちぎれ、緑野はフリーズしてしまいました。

 アレだよ。
 舞台で、主人公たちふたりだけをスポットライトが照らし、周りがすぅーっと闇に沈む、アレ。
 あれって、ほんとにあるもんなんだね。この瞬間のわたしの気持ちは、暗転した舞台上にふたりだけでライトをあびていた、あの状態だったよ。

 ケロ様がわたしから視線をはずされるまで、わたしは固まっていました。
 ステージのいちばん前まで来たケロ様が、ステージに沿って中央へ歩いてゆかれたとき、わたしはぺたんと坐りました。
 ちょうど2列目の端の席が空いていたの。通路に立ったままじゃ邪魔だから、とりあえず坐った。
 いやーもー、心臓ばくばくで。ケロ様退場と同時にゆーひくんが出てきたときも、まだ回路のいくつかは再起動できてないままだったよ。

 結局、途中で同じ列の人の協力を得て、わたしは自分の席に辿り着くことができた。
 すみませんみなさま、ご迷惑をおかけしました。

 それにしても。
 WHITEちゃんCANちゃんからも「緑野、固まってたね」とつっこまれ、もっと後ろのどこかの席にいたらしいデイジーちゃんにも、「あ、緑野さんだー、ケロさんと見つめ合って固まってる(笑)、と思って見てましたー」と言われてしまった……。
 ちょうどケロが初登場するシーンだったらしい。
「ケロさんの登場シーンに合わせて遅れてくるなんて、すごいですね緑野さん。オイシイですね」
 ち、ちがうよそんな。わざとじゃないよー。

 とにかく「世界にわたしたちふたりだけ」をやってしまったわたし。
 もー、頭の中はケロ様一色。

 すみません、昼間はわたし、同期バウ『Switch』を観てたんです。
 でもそれ、とんじゃいました。
 消えちゃいました。

 ビバ、ファッションショー!!
 ケロ様と見つめ合うためだけに、わたしの今日はありました!!(笑)

 ま、そーゆー与太話はおいといて。

 ケロちゃん萌えで多少おかしくなっていたとはいえ、ファッションショーの感想いっときましょう。

 これで6500円は、ぼったくりじゃないかい?

 わたしはいいよ。ケロ様と見つめ合ったあの瞬間のために6500円は惜しくないよ(しつこい・笑)。
 しかしだな、客観的に見て、あれっぽっちの催しに6500円はひどいだろ??
 時間は1時間ちょい。
 ただえんえん、着物姿のひとが歩いてくるだけさ。……ファッションショーだから当然なんだけど。
 大劇場のS席が7500円なんだよ? 比べたら、価格設定がおかしいのは一目瞭然。

 モデルさんたちはみんなきれい。だけど洋服のモデルさんだよね。歩き方とか、和服の歩き方じゃないし。なによりも立派な肩をお持ちだし。なで肩の人はひとりもいない(笑)。

 えみくらちゃんは、かわいかった。少女が似合う。
 たまこちゃんは……へんだなあ、きれーな娘さんなのになあ。顔がこわばってて、もったいない。緊張しすぎ? WHITEちゃんは「眉間のシワが気になって仕方なかった」と言っていた。
 るいるいが、とってもきれい。襟足がいいの。わーい。
 ゆら姐さん……雰囲気のあるひとです、ほんと。

 男役はなんとも、微妙。
 振り袖着て出てくるとは思ってなかったけど……あれは、なんだ? 着流し? 男性の着物を男役風に着ているんだけど、顔は女性。みなさん、ヅカメイクではなくふつーの顔ですから。
 かっこいいのかなあ? 気持ち悪いのかなあ? ふつーの人の目にはどう映るの? わたしはファンだからいいんだけど。

 リカちゃんはいちばん、微妙だった。顔だけ見てるときれーなおねーさんなんだが、態度と着こなしは「男」。
 最後、えみくらちゃんとリカちゃんがふたりで出てきて、吹雪の中に消えていくシーンがあるんだが。
 なんつーか……。
 エロかったです。
 ふつーのエロじゃなくて、「禁断」のにほひがあるエロとゆーか。
 「お兄様」と「妹」に見えたの。
 血のつながった、正真正銘の兄妹。
 だがふたりはまぎれもなく恋仲。
 罪と知りつつ妹を抱く兄と、なにも知らずに無邪気に兄に身をまかせる妹。
 罪を知る兄の艶っぽさと、無知ゆえに妹に宿る魔性。
 ……そんな感じがしてだな。ふつーのエロをリカくらに求めちゃいかん(笑)。
 あー、エロいなー。禁断だよ、タブーってやつだよ、お兄様乱心だよ、最後は心中しかないなー。
 と、たのしく観ました。

 ケロちゃんは、きれーじゃなかったです。
 いや、角度が悪いんだ、角度が。
 2列目からだと、仰角なんだもん。ケロちゃんの立派な「エラ」が目立つのなんのって……。
 それでも、わたしの目はハート型ですけど。
 歌が聴けてうれしー。『荒城の月』を、ひたすら渋く。ケロちゃんの、風邪を引いているよーな掠れ声が大好きなわたしは、声を聴けるだけでもうれしい。
 そしてケロちゃん、あれは演出なんですか? 全編に渡って「聖母のやうな慈愛に満ちた笑み」を浮かべてらっしゃいました……。
 下から見上げているわたしからは、けっこーこわかったです……。

 そして。
 ゆーひくん。あれは演出なんですか?
 全編に渡って、「仏頂面」。
 にこりともしねえ……。
 つーか、睨んでないか? 怒ってる??
 …………かっこいい…………。
 ゆーひくん、かっこいいよーっ。
 ひとりだけ「男の子」してるの。
 リカちゃんもケロちゃんも「中性」なんだけど、ゆーひくんひとり「男の子」。最後まで「ニヒルな男役」。
 演出なんだか単に機嫌が悪かったのか知らないが、かっこよかったよ。
 ゆら姐と一瞬絡むんだけど、ゆーひくんが硬質なぶん、ドキっとさせるし。
 ケロ萌えを横に置くと、わたしはひたすらゆーひにクラクラしてました。好みの顔なんだもんよ、素顔のゆーひはよぅ。不機嫌そーなとこがいいの。冷たそうなとこがいいの。攻様はそーでなくっちゃ!!(なんかドリーム入ってる)

 終わったあと、デイジーちゃんの希望で出待ちをした。
 そしたらまたしてもケロ様(また様付け復活)が、あっさりわたしの横を通り、わたしの目の前で振り返り、手を振ってくださった。
 ええっ、わ、わたしに振ってくれてるのっ?!(大カンチガイ)

「今日はケロさんDAYでしたね」と、デイジーちゃん。

 …………うん。(赤面)


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