とまあ、レイ@水目当てで旅立ち、実際水しぇんにめろめろしていたわけなんですが。

 それでいてなお。

 ミレイユ@まーちゃんに、骨抜きになって帰りました。

 梅田で観たときは、レイとシルバのラヴストーリーにしか見えなかったんだが。
 なんだよ、シルバとミレイユのラヴストーリーじゃん、コレ!!

 まことに潔く、レイが舞台にいる間はレイしか見てなかったんですが。
 幸か不幸か、レイとミレイユはあまり出番が重ならなくてね。
 レイがいるときはレイを、それ以外はキムとハマコ(同列ですか。てゆーか役名ぢゃないのか)を、そしてさらにそれ以外は、ミレイユを見ていたのですよ。

 人生でいちばん、コムちゃんを見なかった公演だな。

 わたしのコム好き人生において、もっともコムちゃんを見なかった公演。見なかった作品。
 最初からとにかく、一度も見てない気がする……ゲフンゲフン。
 ほらその、再演だから、ストーリーわかってるし。
 主人公を中心に展開するミステリだけど、主人公は「視点」だからべつに、見なくても大丈夫な作りになっている。
 3D画面のアドベンチャーみたいなもん。主人公=プレイヤー視点で進むから、プレイヤーキャラクタは画面にいなくてもいいの。いても、いつも後ろ姿。彼が向く方向に画面も動き、彼が見たものがそのままコントローラを握っているプレイヤーが見ているものになる。
 シルバ@コム姫は「視点」。彼自身は画面にいなくても問題はない。
 そんな感じだったのだわ。

 だから、彼の周囲がとてもよく見えた。

 主人公が視点となっているアドベンチャーゲームでは、大体主人公の性格は希薄だ。
 プレイヤー自身が感情移入しやすいようになっている。
 ニュートラルでクセのない「いれもの」であること。それが、主人公に必要なんだ。

 シルバはとても、いい仕事をしていた。
 クールで希薄で美しい。
 プレイヤーキャラとしての条件を全クリア。
 プレイヤーであり、彼の物語をロールプレイングする「わたし」は、とてもなめらかに「シルバ」という男とシンクロすることができた。

 女たちにちやほやされながら、それをクールに振り払う。おおっ、オレってかっこいーぞ。
 男前で年上、男として尊敬できる相棒が、愛情ダダ漏れの目でオレを見ている。レベルの高い同性を惚れさせるオレってかっこいー。
 記憶喪失で苦悩なんかしちゃうぞ。おおっ、オレってかっこいー。
 悪を討つ殺し屋だってよ。オレってかっこいー。
 優秀な外科医で美しい妻と娘がいた? おおっ、セレブじゃんエリートじゃん、オレってかっこいー。

 なにもかもが、プレイヤーにとってオイシイ。とても気分良く「シルバ」の人生を追体験。
 彼の苦悩はわたしの苦悩、てなふーに。

 シルバがなにを考えているかは、考える必要もなかった。ストーリーがとてもわかりやすく親切に、彼の心情を教えてくれるからだ。
 こう行動するということは、こう考えている。出来事がこう展開し、このキャラがこう動くから、こう考えている。

 シルバを見る必要はない。
 シルバ自身となり、シルバの目に映っている人を見ていればいい。

 コムちゃん自身の演技力は、わたしにはよくわからない。そちらが秀でている人だという認識は、わたしにはない。
 ただ、彼がセンシティヴなキャラクタを演じるときにのみ、そのへんの演技巧者たちが足元にも及ばない「魅力」を放つ人だと思っている。

 シルバは、視点だった。
 それはコム姫がシルバと正しくシンクロしていたからだろう。
 わたしは安心してシルバになり、彼の目で世界を見、人を見、彼として生きることができた。

 シルバとしてあの暗くやるせない世界に立つことは、せつない恍惚感があった。

 だからこそ。

 シルバに対するレイの愛情に反応したし、シルバと対峙するミレイユに惹かれた。

 
 初見のときは、レイとシルバのラヴストーリーだと思った。
 レイの、シルバへの愛情の温度、そして欲望の温度が皮膚を焦がす感覚があったからだ。
 彼と話しているときに、ちりちりと感じていた。
 直接皮膚を焦がす感覚だから、なにより先に反応した。

 そして今回。
 シルバとして生き、ミレイユを見つめることで、シルバの物語としての「相手役」が誰かを悟った。

 たしかにレイはシルバを愛しているし、欲してもいる。それは強い衝動であり、ある種の粘度をも伴っている。
 でも、シルバはその愛に応えていない。向けられた愛を受け入れているだけだ。

 では、シルバ自身の愛は?

 彼が見つめているのは、ミレイユだ。
 共に荒野を歩くことを、認めた相手。

 初見のときに、客席降りが見られなかったことも大きいんだよな。
 ラストの客席から登場するシルバとミレイユ。このふたりに、撃ち抜かれた。

 暗い客席の、狭い通路を歩くふたり。
 前を歩くシルバと、そのあとを歩くミレイユ。

 そこには甘さなどなく。
 張りつめた、しんと悲しい清涼さがあって。

 たくさんの人が固唾をのんで見守るなかを、歩く男と女。
 こんなにたくさんの人間がいる「無人」の荒野を歩いているんだ。
 世界に、たったふたりきり。
 同じ罪を抱いて。
 地上最後の、男と女。
 どれだけ他に人間がいても、関係ない。彼らの荒廃に届くものはいない。
 座席に観客たちがどれほどいても、通路を歩く彼らに声もかけられないのと同じに。彼らだけが別世界の住人であると、ライトに浮かび上がるのと同じに。

 その凄絶な孤独と、美しさ。

 
 甘さがない、恋愛という逃げ道のない男と女が、それでも共に生きることの痛さに、涙が出た。

 男はいいんだ、男は。
 かっこいーオレは、そーゆー生き方するの平気だ。つーかそれでこそ、オレってかっこいー。

 問題は、オレを見つめている女だ。オレと共に堕ちた女だ。

 ミレイユの美しさが、空気を席巻する。
 彼女の絶望が、孤独が。
 それでもなお、凛とのびた背筋が。

 傷つきながら、汚れながら、それでも自分の脚と意志で、シルバのあとを歩いてくる強さが。

 彼女が、愛しくて。

 ずっと重なり合うことなく歩いていたふたりが、最後にそっと近づくのが好き。ミレイユが、シルバに寄り添うラストシーンが好き。

 うわああぁん、ミレイユ好きだ〜〜!!

 まーちゃんの演じる女性は何故、こうまで透明に澄んで美しいのか。
 水のようなひとだ。(水くんぢゃなくてなっ)
 やさしく、美しく、だけど冷たくもあり、あたたかくも熱くもあり、自在にカタチを変え、相手の器に合わせてよりそい、そのくせ岩を砕き大地を流すほどの力を秘めている。
 でしゃばらず、場を壊さず、場を満たす包容力を見せる。

 ミレイユの美しさに、感動した。
 彼女の生き方の清冽さに、感動したんだ。

 シルバがわたしの視点だから。わたしはシルバだから。

 罪と孤独の荒野で。

 振り返ると、彼女がいた。

 救いだ。彼女が。彼女の存在が。
 彼女の罪が。彼女のかなしみが。
 わたしを救う。

 シルバとミレイユの、究極のラヴストーリー。

 ミレイユ、好きだ〜〜。


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