雪バウ『DAYTIME HUSTLER』でナニがすごいかって言えば。

 観客が、オヅキのことしか言わないこと。

 サバキで飛び込んだ初見のとき、わたしは作品にノリ損ね、某氏の演技に引いてしまったままのしぼんだハートで客席をあとにした。
 だから、とびきり聞き耳を立てていた。
 ねえみんな、どう思ったの、この作品?
 歩きながら、周囲の人たちのお喋りに注意していたんだ。

「まだ新公学年よね」
「そう、新公よ」
「すごかったね」
「あんな子いたの知らなかった」

 耳に入るのは、「無名だった」「新公学年の子」の話ばかり。

「とびきり濃くて」
「出てくるだけで笑っちゃう」
「あれでまだ下級生?」
「大きいわね」

 耳に入るのは、「濃くて大きな」「下級生」の話ばかり。

「えーっと、なんて言うの、あの子」
「オヅキトオマっていうらしいわよ」
「へー、オヅキトオマ」

 耳に入るのは。オヅキの話ばかり。

 早足でいろんな人の間を抜けていったんだけど。
 みんなもれなくオヅキの話をしながら歩いているのが、愉快だった。

 『さすらいの果てに』が終わったあと、観客がそろってかなめくんの話しかしてなかったときと同じだ。

 下級生ってのは、こーやってブレイクしていくんだな。

 誰だって、主演や2番手のことは知っている。彼らの名前で客を呼ぶわけだから。
 そういう意味で、主演クラスの人間が主演作品でブレイクするのはむずかしいだろう。もともと著名なわけだから。

 だが、無名の下級生は。

 主演クラスの人たちを観に来た、脇のことまで知識や興味のない人たちに強烈な印象を与えるのは、真ん中でブレイクするよりある意味たやすい。
 「無名」という強みがあるからなー。

 とはいえ、なにしろ「無名」で顔の区別もつかない興味もない状態の人たちに、「あの子誰?」と思わせるのは本人の才能であり実力だろう。
 オイシイ役をもらっても、すべる人はすべるんだから。記憶に残らない人は残らないんだから。

 『DAYTIME HUSTLER』で、波が来たと思ったのは、緒月遠麻だ。
 いいも悪いもない。強烈なんだもの。

 出張ホストクラブ「DAYTIME HUSTLER」の経営者ロレンツォ@オヅキ。
 登場からして、強烈。
 紙幣付きの派手派手羽根ショールを肩に、腰を振りながら踊り出るラテン男。
 「出張ホストクラブ」なんてうさんくさいモノを、胡散臭さ爆発に歌い踊って解説。
 この登場だけで、全部持っていった。
 おお、勝利の凱旋が見えるぞ。この場面を決めただけで、勝ったよなオヅキ。

 以来、出てくるだけで観客の視線を奪っている。ついでに、笑いも奪っている。

 2度目の観劇は、チェリさんと一緒だったのだけど。

 チェリさん、オヅキが出るたびずーっと笑ってるの。
 肩ふるわせて、声殺して。
 お芝居がよそで進んでいても、大筋に絡んでいない端にいるオヅキ見てるの。目が離せない状態らしい。
 ラストのカーテンコール挨拶時も、オヅキしか見てないし。それが横でわかるくらい、ほんとにオヅキだけだし。

 こーゆー現象を引き起こすんだわ、オヅキ……おそるべし。

 ただの「イロモノ」キャラじゃないしね、ロレンツォ。
 最初の登場は、たしかにとんでもなかった。うわー、またオヅキこっち系かよ。二枚目修行中なんじゃなかったの? またお笑いイロモノ系まっしぐら? と、危惧したが。
 ロレンツォは、イロモノでもお笑いキャラでもなかった。

 純然たる、二枚目キャラだった。

 いい男なんだ。
 高校生たちのいいアニキで、ローリーの理解者で。
 ちょいと三枚目風に笑いも取る、濃くてキザな二枚目キャラ。アニメに出てきそうな男。

 なんだよオヅキ、二枚目できるんじゃん!!
 二枚目修行中、いいよいいよ、成長してるよ!

 かっしー、壮くん、かなめくんと、ヘタレ薄味白い王子様ばかりが生息する雪組の救世主になってくれ!!(かなめくんが壮くんに似てきたよ、勘弁してくれよ、の件はまたいずれ)

 なんかもー、ひたすらオヅキがかっこよくてね。
 微妙だと思っていた素顔まで、かっこよく見えてこまるわ。
 kineさんに貸してもらった『美の旅人たち』を見て、「モデルみたーい。オヅキきれーい!」とか思っているわたしはいったい……。本放送時にちらりと見たときは「ふつーの番組に出るのは微妙すぎる顔だよな」とか失礼なこと思ってたんですけどっ?!
 ともちのときと、同じパターンだ……。過去映像までもがかっこよく見える……ど、どうしよう。

 
 波が来ている。
 劇場をあとにする人たちが、みんなみんなオヅキのことを口にしている。
 かく言うわたしも、ひとに『DAYTIME HUSTLER』の感想を聞かれたら、「オヅキがすごいの!」とまず言う。いやその、壮くんのこととかかしちゃんの脚のこととか、言いにくいことが多くて迂闊に感想言えないってのもあるけどさ……。

「きたろうがすごくよかった」
「つい目がいっちゃった」

 ざわめく声。
 最初に口にするのにちょうどいい派手さがあった、という意味なのはわかる。
 下級生でそれほど有名でない、存在くらいは知っていた、あたりのポジションだったということもわかる。
 注目しやすい要素がそろっていたことは。

 だとしても。
 ざわめきが心地いい。
 新しいスターの誕生は心浮き立つよね。
 

 オヅキしか見ていなかったチェリさんは、別れたあとにすぐ、わざわざメールを送ってきた。
 なにか忘れものでもしたのかな? なにかあったのかな? と思いつつ、メールを開けば。

件名「言い忘れました」
本文「オヅキは巨乳ですね…。」


 ……わざわざ、これだけ送ってきますか。
 爆笑しましたがな。

 ええ、彼は巨乳ですよ。
 『ドリキン』の極楽鳥とか、ものすげーボンバーでしたよ(笑)。


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