「わたしにこの芝居を見せろ!」
 とじたばたしている、全ツ『銀の狼』の感想、その4。

 コム姫の美しさを語りましょう。

 シルバ@コムの、美しいことといったら!
 コムちゃんはやっぱり、ふつーの人じゃない方がハマるねっ。

 記憶喪失の殺し屋だよ? 嘆きの銀髪だよ?
 なにその設定、ありえない(笑)。

 妻子アリのふつーの外科医だったなんて、そっちの方が嘘っぽいほど、トンデモ設定がハマるってのは、どーゆーことですか(笑)。

 見たかった朝海ひかるですよ。
 この地球とちがう重力の星にいるかのような、美しい生物。
 硬質で、無機質で。でもたしかに感情があって。

 「記憶がない」ことを悩んでいるらしいけど、たぶんソレ、チガウから。ふつーの人ほど気に病んでないから。
 てゆーか、「記憶がない」ことを悩んでいるのはきっと、

「俺はふつーの人間だろうか。チガウような気がする。人間じゃないなら、なんだろう。ちょっとこまるな」

 と思ってしまうので、ソレを打ち消すために記憶を求めているのよ。
 人間としての「記憶」があれば、安心できるから。

 とまあ、それくらい「別の生き物」ですよ、シルバ@コム姫。

 シルバはとても自己完結しているので、レイ@水の愛に気づかない。カケラも。

 そして、ミレイユ@まーちゃんとの関係も、とても硬質だ。

 正直なところ、わたしにはシルバが最後ミレイユと手を取り合うのがわからない。
 初演を観たときは不思議に思わなかったんだが、今回のシルバは謎だ。

 だってコム姫、誰も愛してないし。(役名で言いましょう、誤解を受けます)

 コムちゃんは恋愛濃度の低い人だけど、今回はそれがさらに際立った感じ。
 クールさがより純粋に抽出されたみたい。

 あまりにも「銀の狼」としてのシルバが美しすぎて、医師ミシェルとしての姿が見えない。
 あんな大きな子どものいるおとーさんに見えませんて(笑)。

 だから、彼の語る人生も苦悩も、どこか空々しい。

 それは、『銀の狼』という芝居的には失敗なのかもしれない。
 愛する家族のために復讐するのも、同じ闇を抱いた女ミレイユとの愛(もしくはソレに似たモノ)も、なんだかチガウんだ。
 脚本に書いてあるモノ、初演でたしかにあったモノが、現在の舞台にはない。
 失敗なのかもしれない。脚本に忠実、初演に忠実、という意味では。

 朝海ひかるが、物語を変えてしまった。

 人間ミシェルは影を潜め、銀の狼シルバの方が強く網膜に焼き付く。
 人間の記憶を持たず、たしかなものを持たず、居場所を持たないままに彷徨う、孤独な狼。

 感情を持たない美しいアンドロイドが、人間の真似をして苦悩し、真実を求めているような。

 人間の真似だから、人間の苦悩より浅いとか楽だとかいう意味じゃないの。
 アンドロイドの苦悩が、人間以下だなんて決めつける気はない。
 「殺された妻子を思って嘆く人間の真似」をしているアンドロイドが、そうまでして人間の真似をしている事実にこそ、深い絶望を視るわ。

 コム姫のシルバには、そんなせつなさがあって。

 目が、離せない。

 
 ミレイユ@まーちゃんは、さすがの美しさ。背筋の伸びた、聡明な女性。
 大人の女っていいなあ。
 強い人だからこそ、手を差しのべたくなるよね。甘えてもいいんだよ、頼ってもいいんだよ、って。
 ジャンルイ@キムが、「利用するだけ」でなく、ほんとうは愛していた、というのも納得の女性ですよ、ミレイユ。

 まーちゃんはどんどんいい女になる。
 可憐な少女も、毅然とした大人の女性も、妖艶な悪女も、なんでもできちゃうんだもの。
 キャラ紹介をするなら「舞風りら(妖精属)」って書かなきゃね。彼女の属性は「妖精」よ、まちがいなく。
 コムちゃんのお嫁さんは、まーちゃんでなきゃダメだ。心からお似合いのふたりだと思う。

 が。
 今回は、まーちゃんをもってしても、「恋愛」とか「相手役」に見えなかったなー。
 「同志」には見えたけれど。

 なにしろコム姫、今回ぶっちぎりでヒロインだからなー(笑)。

 男も女も、全員シルバに対して「攻」になってたもん(笑)。
 ミレイユ×シルバ、レイ×シルバ、とかゆーふーになー。

 だから作品的には、チガウのかも。失敗なのかも。シルバはアンドロイドではなく、人間でなきゃならないのだろうし。
 ミレイユと手を取り合って終わらなければならないのだし。

 でも、それはどーでもいいんだ。
 初演の『銀の狼』は名作で、それとはまったく別物だけど、今回の『銀の狼』も名作。

 なによりも、タイトルロールだと思う。
 「銀の狼」という名の殺し屋。ふつーの人間とはチガウ存在。
 それがはてしなく際立っている。

 まちがってこの地球に降りてしまった、別の世界から来た天使。
 人間の感情は持っていないけれど、人間の感情を理解したい、得たいと思って苦悩している美しいひと。
 人間たちの欲望に、慟哭に、絶望に、添うようにして立つ黒衣の男。白銀の髪。
 彼はただ、そのようにして「在る」。

 美しい闇、美しい絶望。

 シルバ@コム姫の、温度を持たない美しさが、すべてを支配する。

 
 ところで。

 シルバは、他人から寄せられる愛には気づかないと思うけど、欲望には敏感だと思うのよ。

 ミレイユはシルバを愛していても、欲望を剥き出しにはしていない。だからあんなに、ふたりの間が硬質に見えてしまったのかなと思う。
 いつかミレイユが必死に身につけている鎧がはずれ、彼女の生身の欲望が剥き出しになったとき、シルバはソレに応えるかもしれない。

 ……見てみたい、シルバに身を投げ出すミレイユ。それを受け入れ、むさぼるシルバ。

 レイとシルバの関係がやたら色っぽいのは、レイが欲望をちらつかせているからだと思う。
 そしてシルバは、それに気づいている。
 愛には、カケラも気づいてないのにね。

 愛には気づかず、欲望だけに気づく。
 なんて残酷な狼。
 ひとの美しいモノには気づかず、醜いモノにだけ気づくなんて。
 誰だって、美しいところだけを見て欲しいと思っているのに。

 
 …………レイとシルバで、色っぽいモノを書きたくて仕方ないですな…………(笑)。


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