金の薔薇、石の薔薇、そして紅い薔薇。
 薔薇にはいろいろあるけれど♪

 ギュンターが愛したのは、紅い薔薇。

 ムラ・東宝版のギュンターは知りません。
 オリガがわからなかったように、ギュンターもわからなかったので、考えないことにしてます。どーもらんとむギュンギュンには、お笑いの風が吹いていて……『エンレビ』のアレキンだっけ、昭和時代のアイドルみたいな美形キャラ、アレと同じ胡散臭さを感じてしまって、思考停止しちゃうのよ。
 らんとむくんへの好意とは、別もんですのよ。彼のギュンターがわからなかったこととは。

 だから、わたしが語るのは博多座『マラケシュ・紅の墓標』のギュンター。

 オープニングで紅い薔薇を手にし、導入歌を歌う男。

 オープニングのまがまがしさは、ものすごい。

 彼が出てきた瞬間から、世界はすでにトップテンション、深紅の街がわたしたちに両手を広げている。

 プロローグからすでにイッちゃってるギュンターは、愛しげに紅い薔薇を愛でる。

 彼は美術鑑定家。愛好家でもある。
 数年前、彼はパリですばらしい美術品に出会った。ロシア貴族ワレンコフ家の財宝、黄金の薔薇。
 人間の手で作られた、至宝。
 誰よりも美を愛するギュンターは、そのすばらしさを誰よりも理解していた。誰よりも深く魅せられていた。
 美術品を愛し、その価値を鑑定する。それがギュンターという男の基本スキル。
 だった、のに。

 その金の薔薇をめぐって、事件が起きた。

 人気女優の手に渡った金の薔薇、女優をめぐる三角関係、そして、男がひとり死んだ。

 死んだのは、ギュンターに金の薔薇の存在を教えた男。
 ギュンターをこの場に導き、勝手に舞台から降りた。

 ギュンターは美術鑑定家であり、愛好家。
 誰よりも「美」を愛し、理解する男。

 何故ならば彼自身、とても美しいから。
 「美」を愛し、「美」に愛されるに相応しい。

 その美しい彼の手が、汚れた。
 彼の目の前で死んだ男のせいで。

 血に、汚れた。

 手のひらを汚した、紅。

 そのときから、ギュンターは変わる。
 もう、美術鑑定家ではない。汚れてしまった彼は、「美」を量れない。愛せない。「美」から愛される資格がない。

 彼は薔薇を追う。

 金の薔薇を持った女優イヴェット。
「よっぽど貴女のことが好きなのね」
 と、イヴェットの付き人は言う。突き放した言葉。

 金の薔薇・イヴェット。
 チガウ。
 もう彼はそんなものを求めていない。

 彼が求めているモノは。

 
 はい。
 博多座ギュンターが求めているモノは。

 リュドヴィークだよね(笑)。

 イヴェットのことは、なんとも思ってない。
 彼女になにか執着があるなら、いつでも行動に移せたはずだ。
 金の薔薇のことも、もう口実でしかない。
 場所と持ち主がわかっているんだから、どうにでもなる。なのにしない。

 このことから、ギュンターがストーカーに身を落としてまでも求めていたモノがなにかわかるよね。

 イヴェットにくっついていれば、リュドヴィークに会えると思ってたんだ。

 もう一度、彼に会いたい。
 その想いだけで何年も。

 妄執が募り、半分この世のモノでなくなった姿で彷徨いつつ(プロローグの姿)。

 ギュンター、女キライだしなー。
 マラケシュでかわいこちゃんにコナかけられても、すげー拒絶っぷり。「汚らわしいっ!」って感じで突き放す。
 そーだよなー、君が愛してるのはリュドヴィークひとりだもんなー。女なんかケガラワシイよなー。

 あの事件で、汚されたのは「金の薔薇」じゃない。
 ギュンター自身だ。

 汚された身体。汚された心。

「僕だ。僕がヤった。いいね。僕がヤッたんだ」

 そして呪文が、彼の耳に降り注ぐ。

 −−私を汚したのは、あの男。

 彼は、薔薇を追う。

 ギュンターの愛している薔薇って、リュドヴィークのことだよね。

 汚されたんだから、責任取ってもらわなきゃ! てことで。

 イヴェットを追ってマラケシュまでやって来たギュンターは、ついにリュドヴィークを見つける。
 パリの回想シーンのあと、ギュンターはお散歩中のリュドとオリガを目撃するんだ。

 ところどころで「この世のモノではない狂言回し」だったはずのギュンターは、リュドヴィークを見つけて、「確実にこの世にいる、ただの狂人」に立ち戻る。
 リュドがギュンターを変える。

 リュドヴィークを見つけたのだから、もうイヴェットに用はない。
 ギュンターはイヴェットを追いつめ、自殺させる。彼女が持っている金の薔薇なんか、一顧だにしない。

 そして、ようやく想いを遂げるんだ。

 ギュンターを壊した、紅い血。
 彼が欲しかったのは、リュドヴィークの血。
 リュドを刺し、リュドの血に汚れた刃物で、刺し殺される。リュドヴィークの手で。

 彼の身体の中で、汚れてしまった彼の身体のなかで、ふたりの血が混ざり合う。

 究極の性交。
 混ざり合う紅い体液。

 
 う・わー。ハッピーエンドだぁあ。

 しかも、エロシーンENDですよ。
 ギュンターにとってのオーガズムはSEXではなく、リュドヴィークに貫かれる一瞬だったのだから。

 迷惑な話だけどな、リュドヴィークにとっちゃ。

 暗黒の大地に咲く紅い薔薇、ギュンター。
 君は薔薇より美しい。

 ギュンターにとっての薔薇は彼自身であり、彼を滅ぼすリュドヴィークでもあった。

 ああ、薔薇薔薇薔薇。


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