ところで、カールハインツの話。
 『霧のミラノ』のラストについて、あえて触れないままきたけど、そろそろネタバレしていいかな。

 カールハインツ@かしげってキャラ、失敗してるよねえ?

 なにを考えているのか、さーっぱりわからない。
 薄い。薄すぎるっ。

 ロレンツォ@コムの二面性が明暗はっきりと書き分けられていないだけに、カールハインツが彼に一目置くのがわからないんだよねえ。
 「男の友情」をやりたいのなら、もっときちんとふたりの関係を描くべきだよ。
 脚本も演出も足りていないし、その足りていない脚本を埋めるには、かしげも足りていない。
 総じて、薄い。

 カールハインツが好きだったのは、フランチェスカか? チガウだろ? ロレンツォだよな。

 いちばん好きなのは誰か。それをはっきりさせるだけで、ぜんぜんチガウと思う。

 フランチェスカか、ロレンツォか、ひとりにしぼって描くべきだった。
 フランチェスカだというなら、もっと恋愛色を押しだし、あくまでも彼女を通してロレンツォに興味を持つよーに描かなければ。
「カールはそんな安い恋愛はしないのよ! フランチェスカを愛していたって、表に出したりしないんだもの!」
 という設定ならば、そもそもそんな男を準主役に2500人収容の大衆劇場で上演する作品を書くことがまちがっている。
 女への個人的感情で、その女の恋人を注目してたらそいつがレジスタンスだった、という「安い」流れにするしかないさ。

 安くしたくないならやはり、ストイックに「男の友情」パターンを選ぶべきだろう。
 すなわち、カールハインツが好きだったのは、あくまでもロレンツォただひとり。フランチェスカはおまけ。
 フランチェスカに好意はあった。美人だからだ。それは男としての本能で、それ以上じゃない。カールハインツは美人の令嬢をたのしそーにバールに連れ回していたりするから、ふつーに美人が好きなんだろー。
 ロレンツォへの好意とは別。
 フランチェスカに対してどうこう、てのは、ロレンツォの女だってことだけで十分。

 カールハインツが好きだったのは、ロレンツォだよな?

 職場にロレンツォが訪ねてきたとき、カールハインツは単純にロレンツォと会えたことをよろこんでいる。ロレンツォが自分に会いに来てくれたことを、うれしいと表現している。
 ロレンツォはフランチェスカの家の件で話をしに来ただけなのに、カールハインツはそれに思い至らない。説明されてはじめて、「ああ、あの話」と理解する。
 仕事以外になんで、お前に会いにくるんだよ、カンチガイしてんぢゃねーよ。という、観客のツッコミを待っているかのよーな、とぼけっぷり。

 ロレンツォはとくに「すばらしい」部分も「したたか」な部分も見せていないんだが、カールハインツはひとりで勝手に盛り上がる。「ロレンツォに会えてよかった!!」と銀橋で歌っちゃったりする。
 カールハインツはそうやって「ロレンツォってなんかイイかも! 好きかも!」とやっているが、当のロレンツォの温度は低い。
 ロレンツォがカールハインツに一目置くという、エピソードはおろか台詞すらないんだ。彼はカールなんて、まったく眼中にない。
 なんでロレンツォに、カールと対をなす意味の銀橋歌がなかったんだろう……「男の友情」モノならば、必要だろうに。
 ロレンツォが色ボケしてるぶん余計に、カールハインツの独り相撲がかなしい。
 夢見て盛り上がってんぢゃねーよ。という、観客のツッコミを待っているかのよーな、浮かれっぷり。

 ひとりで勝手に盛り上がって、ひとりで勝手に友情を感じているカールハインツ・ベルガー少佐。
 レジスタンスとして逮捕されたロレンツォを相手に、ひとりで「君とは酒でも飲みたかった」てなことを言い出す。
 ロレンツォはそもそも全編通して温度が低いし、彼の方はカールハインツを他の脇役との区別もしていなかったので、一方的に友だち扱いされてとまどっているよーにしか見えない。
 挨拶しかしたことのなかったクラスメイトに「俺たち親友だよなっ」と言われて、びっくり顔のままつい「う、うん」とうなずいてしまった中学生みたいだ。

 せっかくの「男の友情」シーンなのに、ロレンツォとカールハインツの掛け合い歌がものすごーく唐突……。

 カールハインツの描き方が、まちがってるんだ。

 カールハインツは敵であるロレンツォの器を認め、好意と尊敬ゆえに彼の命を助ける。
 彼は、優秀な軍人である以上に、貴族として人間として誇りと公正さのある高潔な人物。
 だからこそ、彼が「個人的に行ったこと」に対しての責任を、ラストシーンで「個人的に決着をつける」ことになる。

 というキャラ設定と物語の流れを描くためには、今のままじゃぜんぜんダメだろ。

 カールハインツが好きなのは、ロレンツォ。他は一切見ない。短い時間と限られた出番では、他を描いている余裕はないからな。
 そしてロレンツォもまた、カールハインツに一目置き、なにかと彼を特別視する。「あの男は危険だ」と台詞にして歌にして意思表明する。アマポーラの歌1回削って、そっちの歌を歌わせろよ。

 そーやって、ふたりのの関係を印象的にすることではじめて、それまで何度会っても「伯爵」「少佐」としか呼び合わなかったふたりが(なんかこーゆー書き方すると別のマンガみたいやな……)、ラストのアマポーラの丘で「ロレンツォ」「カールハインツ」と名前で呼び合う、という演出が生きるんじゃん。
 あー、できればこの名前を呼ぶのも、ナマ声にしてくれよ。なんで録音なの。突然テレパシーで会話されても、観客引くから!
 ちゃんと花畑にカールハインツ自身が姿を表し、台詞で責任と覚悟を言ったうえで、ロレンツォを射殺する。
 でないと、フランチェスカの立場がない。
 男たちふたりはいきなりテレパシーで会話して、名前呼び合って、「これでいい」「こうするしかない」とか言って納得してるらしいが、ソレ、フランチェスカ聞こえてないから! ヒロイン置き去りのラストシーンはあんまりだから!

 カールハインツがなにを考えているのかわからないのは、描き方を失敗しているせい。
 ただでさえロレンツォは温度が低いのだから、そーゆー人に片想いさせるには、あらゆる意味で足りていない。

 
 てゆーか。

 そもそもこのキャラクタと作品、コム姫と雪組に合っていないってのがいちばんの問題なのかもしれないけど。

 ロレンツォに「温度」があれば、すべて片が付く、というか、欠点が目立たなくなる問題かもしれん……。

 らしくないキャラを演じているコムちゃんはかわいいし、ラヴシーンはこそばゆさが味な気もしているし、かっしーきれいだし、それはそれでいいんだろうけど。
 あくまでも、「作品」として見た場合。

 やっぱ、きついよな、『霧のミラノ』。


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