友人のモリナカ姉妹が、『長崎しぐれ坂』にハマって、機嫌良くリピートしているらしい。

 彼女たちとわたしは、およそ趣味嗜好が乖離していて、同じモノにハマることはまずない。
 それはわかっていたが、さすがにモノが『長崎…』だったので、どのへんがいいのか、真面目に聞いてみた。

「だって、ワタルくんがかわいいんだもの!」

 即答だった。

 え、えーと。
 でも、作品壊れてない?

「植田作品が壊れてるのはあたりまえでしょう? どうせワタルくんしか見ないからかまいません」と、姉。
「えっ、作品壊れてるんですか? 気づきませんでした、だってワタルくんしか見てないし」と、妹。

 グレイト! イッツ・ファン魂!!

 脱帽。完敗です。これ以上の答えはない。

「どういう話なのか、いまひとつわかってないんですけど、とにかくワタルくんがかわいいから」それだけで、妹さんにとっては観る価値があるそうなんだ、『長崎しぐれ坂』。

 ただ、姉は初見では激怒していたらしい。

「どうして、ワタルくんの腕の中で死ぬのがトウコちゃんじゃないの!!」

 なんで轟出てんのよ! と、お怒りだったとか。

 それに対し、温厚な妹は、

「まあまあ姉よ、そんなに怒るな。トド様ではなく、アレをケロちゃんだと思って観てごらん」

 と、諭したそーな。
 すると姉の機嫌は直ったらしい。「そうよ、轟なんて出てないわ。アレはケロちゃんなのよ!」と。

 
 この話を聞いて、ケロファンのわたしは頭を抱えたんだが。

 トドはダメで、ケロならいいのか……。
 ワタルファン、おそるべし。

 それを言うと、同じくワタさんファンのkineさんは苦笑していた。「わかる気がする」と。

 ワタさんファンは、ワタさんの男前ぶりに惚れていることが多い。
 包容力だとか、度量の大きさだとか。
 そしてそれは、男役が相手でも抱擁してしまえるくらいの、男前さとして表される。

 トウコちゃんやケロちゃんなら、ワタさんの「相手役」として抱擁してしまえるのだ。
 ヒロインとして、成立するのだ。

「でも、トド様じゃヒロインになりませんからねぇ。そりゃ嫌でしょうよ」

 と、kineさんは考察する。

 なるほどなー。
 トドはたしかに、ヒロインじゃないもんな。あくまでも「男」としてワタルくんの前に立つ。
 そんな「男」を抱擁しても、ヲトメとしてはときめかないんだ。

 
 とゆー話をしていた矢先、わたしはハイディさんと一緒に2回目の観劇をした。

 
 トド様の演技が、変わっていた。

 脚本が壊れていることは、彼もわかっているのだろう。
 伊佐次を自己中迷惑男にしないために、演技を変えていた。

 植爺ならではの無神経な台詞とかを、初日ほど強く言わない。壊れた部分はやわらかに流し、それ以外の部分を強く打ち出している。
 そして、壊れた男の壊れた物語だということを踏まえ、壊れていても許してもらえるよーに、かわいい演技をするよーになっていた。
 きつい、荒い、かっこいい、ことをいちばん表現していた初日と、チガウ。
 「男のかわいさ」を押し出してますよ……。「憎めない部分」を、アピールしてますよ……。

 ええ、とどのつまり。

 伊佐次@トド様は、ヒロインとして、開眼してました。

 トドロキ、あーた自分をヒロインだってわかって演じてるねっ?!
 初日ではふつーに「俺が主役」「俺がヒーロー」ってやってたくせに。
 ヒーローの座をワタさんに譲り、自分はヒロインとして立場を自覚したね?

 トドロキの受っぷりが段違いに高くなってて、びびりまくりました。
 なにかわいこぶってんだよ、あーた……。
 甘えるな甘えるな、ワタさんに甘えてんじゃないわよーっ、なによその上目遣い〜〜。

 ……すいません、所詮トドファンなので、ヒロインしているトド様が気色悪くもあり、かわいくもあり、うろたえております。

 
 『長崎…』が気持ち悪い壊れた作品だということは変わらないんだが、伊佐次がヒロイン化したことによって、大分観やすくはなってました。

 ははは……もー、どうしたもんかなー、コレ……。

 
 なんにせよ。

 轟理事までヒロインにしてしまう、ワタさんの男ぶりには、感服する所存です。


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