出勤するなり、

「昨日は、聖地巡礼しに行ってたんですか?」

 と、言われた。

 わたしはどこでも平気でカミングアウトしていて、「タカラヅカファンです、チケットあったらよろしく、どっかにツテあったらよろしく!」と触れ回ってます(笑)。
 今のバイト先でも、早々に「ヅカファンですんで! 来週ヅカ観に行くために休みます、すんません」と言っていた。

 そしてなんでかなあ、ムラに行くことを「聖地巡礼」という表現をするようになったのだよ。

 わたしが言い出したおぼえはないんだが。
 バイト仲間の誰かが言ったのかな。

 おかげで、
「緑野さん、明日、飲み会なんだけど」
「ごめん、明日は聖地巡礼なんで無理」
 てな会話が、ふつーに成立している。

 で、火曜日に出勤して。
 月曜定休、週4日勤務のバイト仲間がわたしの顔を見るなり「昨日は、聖地巡礼しに行ってたんですか?」と聞いてきた。

 は? 昨日の月曜日はわたしふつーに、ここで働いてましたよ?

「昨日の新聞に、なんとかいう人が退団したって出てたから。緑野さん、行ってたのかなと思って」

 あー……なるほど。

 月曜日の新聞に退団記事が載っているわけだから、退団したのはその前日の日曜日ですよ。
 だから、「昨日、聖地巡礼」てのはおかしい。
 それにその記事の場所は、東京宝塚劇場であって、ムラではない。

 ヅカになんの興味もない一般人は、新聞記事ひとつでこれだけぽーんと誤認するんだなー。

 と、新鮮でした。

 
 「なんとかいう人@バイト仲間の表現」が退団した。

 そう、彩輝直、さえちゃん。
 もう会えないんだなあ、と、しみじみ思う。

 結局退団公演はろくに観ることが出来なかった。
 とても残念だ。
 ナマモノの常で、公演はあとになればなるほどヒートアップし、レベルアップしていっていただろうから。

 だけどわたしは精神的に余裕がなくて、故意に『エリザベート』を避けていた。

 わたしにとっての『エリザベート』は、ムラ初日のままだ。

 あの緊張感。
 そして、手の届きそうな目の前を、厚みのあるリアルな身体で歩いていった、トート閣下。

 がけっぷちのギリギリ感で異様な空気に包まれていた、あの「生まれたばかりのトート」が、わたしにとってのさえちゃんトートだ。

 ムラでは大楽も観たけれど、それよりやはり、最前列で観た初日の方が印象が強い。

 それでいいのかもなと思ってる。

 わたしにはわたしの思い出と、見送り方があっていいだろう。

 あの緊張感は、心に封印するにふさわしいものだった。

 ありがとう、さえちゃん。

 
「退団したなんとかさんは、彩輝直っていって、とてもきれいな人だったのよ」

 新聞記事を見て、わたしのことを思い出してくれたバイト仲間に、わたしは説明する。
 もちろん彼女は興味がないので「ふーん」と言って聞き流しておしまいでしたが。


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