トップスターの条件とは、なんですか?

 華? 美貌? 歌唱力? 演技力? ダンス? スタイルとか?

 その答えを、思い知りました。

 どーしよーもない駄作を、無理矢理どーにかしてしまう、力技。

 お笑いコント芝居『さすらいの果てに』、音月桂バージョンを観てきました。
 壮一帆バージョンを観て、腹を抱えて笑った超駄作。壊れきっていたキ*ガイ作品。
 さて、それをキムくんはどう料理するか。
 多少台詞の変更はあるそうだから、少しはマシになっているとはいえ、その程度じゃどーしよーもない超駄作。爆笑するしかない壊れっぷり。そいつが役替わりして、さらにキャストが下級生ばかりになったキム主役バージョンは、いかがなものか。

 おどろいたことは。

 …………駄作だということが、誤魔化されてしまった。

 だ、駄作だよね、これ。壊れきってるよ、ね?
 なのに、それほど気にならない。
「書斎から出てきただけで犯人決定かよ!」とか、「いきなり復讐かいっ?!」とか、ツッコミどころはいろいろあるんだが、全体として超駄作とは思わなかった。もちろん脚本ダメダメのしょーもない話なんだが、まだいちおーふつーの範疇?

 それが、音月桂の力だ。

 びびびびっくりだー。同じ作品なのに。脚本は壊れきってるのに。
 壊れていることが、気にならなくなる。

 だって、歌声があまりに心地よくて。
 熱く細やかな芝居が、饒舌で。

 その歌声に、演技に魅入っていたら、駄作だってことを、忘れてしまう。
 なんかよくわかんないけど、いいもん観たなー。という気になってしまう……。

 おろおろ。
 びびびびっくりだー。予想だにしていなかった現実にうろたえる(笑)。

 駄作なのに、キ*ガイ作品なのに、誤魔化されてしまった。力技で。

 そうか、そうなんだ。
 タカラヅカのスターに必要なのは、美貌でも技術力でもないんだ。そりゃ、それらはあった方がいいに決まってるけど、それより大切なことがある。
 それを目の当たりにした。

 どーしよーもない駄作を、無理矢理どーにかしてしまう、力技。

 だってさ、ヅカの作品なんてもの、7割が駄作でしょう? んで2割がふつー、1割がよい作品、ぐらい?
 つまり、駄作であたりまえなのよ。
 少ないトップ任期作品、限られた主演作品で、アタリを引く確率なんて10分の1程度よ。7割は駄作なんだから。
 問題は、その駄作をどう料理するかよ。

 駄作はあたりまえ、だからこそその駄作を力技で「金を取ってもいいレベルに立て直す」のが、トップスターの仕事。

 どんなに華があろうと、技術があろうと、駄作を駄作のまま見せられるのはたまらない……。
 駄作をなんとか料理してしまう力を持つのが、トップスターの条件なんだわ!!

 
 てなことを、心底思い知りました。

 音月桂、おそるべし!!

 
 うまい人だとは思っていたよ。知っていたよ。
 歌唱力も美貌も、はじめからわかっていたことさ。
 しかし、ここまでとは思わなかった。
 だって今まで、「かわいこちゃん」だと思ってたんだもん。小さくても攻キャラだし、性格悪いんだろうな(笑)と勝手に思ってしまうはね返りぶりとかを、愛でてきたんだもん。
 若くてかわいい、男の子。なまじ実力があるから不遜さもある、ジャニーズ系美少年。

 だったのに。

 かっこいい……っ!

 はぢめて思いました、キムを見て。
 すまん、はじめてだ。「かわいい」はあっても、「かっこいい」はなかったんだよ、今まで。

 えーとえーと、ジェフリー少尉、キャラちがってますがな。
 あの熱さと、ふてぶてしさはなんなの?

 恋人と踊るとき、抱くとき、ときおりにやり、と黒い笑いを浮かべるのはナニ?
 敵と戦うとき、殺すとき、ときおりにやり、と黒い笑いを浮かべるのはナニ?

 あの分厚い唇を歪める、イヤラシイ微笑はなんなの?!

 くらくら。
 ジャニーズ系美少年なのに。小柄なかわいこちゃんなはずなのに。
 かわいい容姿を武器にした、ものごっつ世慣れた大人の男がいますよ!!

 壮くんジェフリーを見たときは、「こいつ、絶対ドーテー」と思ったのに、キムジェフリーは、「女ともふつーにつきあった経験ありますね、そーですね」と思えた。でないと、幼なじみの恋人とのデュエットダンスであんな笑い方しないわっ。

 そして、客席へのアピール力にもびっくり。芝居なのよ? ショーじゃないのよ?
 恋人とデュエットダンスしていても、戦闘シーンだ乱戦だとやっていても、そしてもちろんフィナーレでも、客席に目線来る来る、流し目と片頬ゆがめるあの笑い、そしてウインク、と、アピールしまくる。
 なんなんですか。どこの大スターですか。
 新公卒業したばっかの小僧っこのしていいことですか。

 あたしゃ、脇の下級生見る気満々で行ったのよ。キムのことはもう知ってるから、新しい発見を求めて、下級生チェックする気だったのに。
 なのに、どーゆーこと。

 真ん中の、キムから視線が剥がれない。

 いったんキムのアピールに捕まってしまうと、そのまま目を離せなくなる。
 わ、脇が見たいのに。なんであたし、キムだけ見てるのっ?!

 えーと。
 口元を歪める黒い笑いは、キム独特のものだ。「ジェフリー」という役だからそんな笑い方をしているわけじゃない。
 つまり、そこにいるのは「ジェフリー」ではなく「キム」なんだよね。
 だから、役作りが正しいかどうかはわからない。「ジェフリー」は発展途上の若者の役だから、若い「キム」まんまでもおかしいわけじゃないから。
 だけど「ジェフリー」として作っている真面目さやまっすぐさの上に、「キム」という「持ち味」を載せて「作品」を自分ひとりの色で染め上げる力に、感動した。

 タカラヅカの主役って、こーゆーもんだろ?

 ピラミッドの頂点に立つ、トップスターってやつは。
 作品も舞台も設定も、すべてがトップスターを中心に形成される。
 トップスターは、「タカラヅカ」という虚構の世界の全能神でなければならない。
 たとえ作品が壊れていても、役が薄くておいしくなくても、力技で「オレ様が世界の中心」とねじ伏せてくれなくちゃだわ。

 そうさ。
 見渡す限り観客が爆睡していた芝居でも、クライマックスで楊貴妃の死を嘆きながら、銀橋を渡る某皇帝陛下の姿を見たら、よくわかんねーけど感情移入してもらい泣きし、「なんかいい芝居観たかも?」と思わせてしまう……それが、トップスターの仕事だよな?

 キムくん見て、思い知りました。
 すげえや。

 
 あー、でも。
 キムのおかげで、なんか作品がふつーに見えて、ちっとも爆笑できなかったっすよ。
 壮くんのときの、笑える芝居も好きだったのにな。


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