「緑野さんって、写真うつりいいよね」って、はじめて言われた。

 今わたしゃ絶賛バイト中で、毎日勤労に明け暮れている。友人のリンコさんに紹介してもらった会社で、リンコさんはもう契約終了で辞めちゃったけど、謎の契約延長をしたわたしは、機嫌良く働いている。
 つか、いいとこだよ。仕事も人間関係も。会社勤めなんて数年……いや、十数年ぶりなんだが、わたしゃなんのストレスもなく働いている。でかい会社なんで、人数多すぎて仕事個別に分化しすぎて人間関係でストレス感じる余地もないとゆーか……。

 職種柄なのかなんなのか、バイト仲間はアート系の人が多くてさ。

 芸大卒だとかデザイン事務所にいましたとか、そっち系の専門学校に行ってましたとか。
 社員の人たちの学歴は知らねーが(院卒しか採らないそーで、今月入社の新入社員さんたちもみんな微妙に若くない・笑)、バイトはみんなアート系。

「休憩時間に、絵のモデルをやってほしいんだけど、だめかなぁ?」
 とバイト仲間に言われ、快諾。

 もうひとりのお仲間青年とふたり、並んでモデルをやる。

 休憩時間にクロッキー帳を握りしめている彼女は、ここのバイトの他に広告のイラストなんかもやっているそーで、今回はそのイラストのためのポーズ取りらしい。

 目の前で実際に絵を描きもするけど、念のために写真も撮って。
 休憩時間だけでは終わらず、結局終業後にカラオケBOXへ行って、さらに続けてみたり(わたしともうひとりのモデルくんは交互に歌い、歌っていないときにポーズを取る。絵描きの彼女は歌わずに書き続けた。カラオケ代はもちろん彼女のおごり)。

 そこでしみじみ言われたんだ。

「緑野さん、写真うつりいいねえ」

 そ、そうか? はじめて言われたぞ。
 いろんな角度から写真を撮られ、また絵のポーズとは関係なくマイク持って熱唱してるとことか、バイト仲間との仲良しショットとかいろいろ撮ってもらいながら。

「なんかモード系っていうか、絵になるよー、緑野さん」

 いろいろ持ち上げられて、「てへ」っと照れ笑い。そーかねそーかね、そんなにイイかねっ。
 もっと誉めてくれい。へへへへへ。

 ふだん容姿関連で誉められることがまったくないもんで、気分良くモデルする。ほほほ、次のポーズはコレでよくって?
 

 その誉められまくった写真を、見せてもらった。

 
 顔が、写ってない。

 
 バストアップで、斜めから撮ったものが多い。髪の毛で顔のほとんどが隠れ、鼻先だけが見えている。

「ほんとに緑野さんって写真うつりいいよね。この髪型、モード系って感じで、すごくいいよ!」

 髪型かいっっ!!

「イラストには、緑野さんの髪型を使おうと思うの。できたら見せるからね!!」
 きらきら笑顔で絵描きな彼女は言う。

 ほほほ……ふふふ……。
 ありがと、ほめてくれて。


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