チェリさんに「ミャウリンガル」を借りた。

 弟とふたりで、わくわくスイッチを入れる。
 最初に猫の個別データを入力するようだ。「えーと、種類はアメショー、性別はオス、と」弟がひとりでちゃっちゃと入力していく。
「……性格?」
 なんでも、入力事項に「性格」というのがあるのだわ。
「あまえんぼう、ピュア、しっかり者、クール、やんちゃ、お調子者」
 選択肢を弟が読み上げる。

「どれもチガウ」

「性格。性格ねえ。猫の性格なんて、一度も考えたことないよ」
「あえて言うならどれ?」
「あえて……ですらナイだろ、ここには」
「えーと、んじゃうちの猫のことをひとことで表現したら?」

「バカ」

 見事に、声がそろったよ。
 見れば当の猫は、機嫌よさげに部屋のドアの前で正座してこちらを見ている。お前だ、お前の話をしているんだ。

「バカって選択肢がなんでないんだ?」
「ピュアとかクールとか、なんか夢見てない? この選択肢」
「猫に対してドリーム入ってるだろコレは」

 意義を唱えたところで、選択肢から選ばなければ次へ進めない。

「消去法でいくか。しっかり者はチガウし、ピュアもちがう。やんちゃでもないし。お調子者ってなんだそりゃ、猫でそれはあり得ないだろ……残ったのは、クールとあまえんぼうだな」
「ソレ、正反対やん」


 消去法でしぶしぶ選んで、両極端の選択肢が残るなんて……なんて使えない性格分類だ。

 仕方ないので「あまえんぼう」にしてみる。まだこっちの方が「バカ」に近いと思うし。

 設定完了、さあ猫よ、鳴いてごらん。

 もちろん、鳴かない。
 鳴けと言って素直に鳴いたら、ソレはすでに「猫」じゃない。
 弟が必死に「ミャウリンガル」を猫の鼻先に突きつけるのだが、猫は後ずさるばかり。

 ついに猫は逃げ出した。階段を駆け下り、1階から顔だけ出してこちらをうかがっている。
 なにかもの言いたげに、鳴いてみせる。被害者ぶった鳴き声だ。

「おっ、『ほんやく中』になったぞ」
 弟が液晶画面の文字を読み上げる。

「“うれしいニャ。だいすき”」

 おおっ、翻訳したのか!

「マイクの感度、相当いいみたいだな。階段の下のあの声を拾うなんて」
「すごいね、さすが猫専用機械なだけある」

 と言っていたら。

「あれ、また『ほんやく中』だ」

 はい?
 猫、鳴いてないよ?

「“ボクはせかいでいちばん幸せだニャー”」

 ………………。

「ぼくたちの声を、翻訳したようだな」
「さすが猫専用機械」

 つ、使えねえ、ミャウリンガル!!

 マイクカンド、ソウトウイイミタイダナ。
 スゴイネ、サスガネコセンヨウキカイ。

 という音を、「猫語」として認識し、翻訳すると「ボクはせかいでいちばん幸せだニャー」になるわけだ。

 それでもめげずに猫を追いかけて、鳴き声を拾おうとしたんだけど。

 弟が突き出すと逃げる「ミャウリンガル」だが、わたしが突き出すとなにを思うのか、猫は頬ずりをはじめる。
 すりすりすり……いやあの、鳴いてほしいんであって、なついてほしいわけでは……。

「あっ、『ほんやく中』」

「“ニャンコみょうりにつきるニャン”」

 そうか、「ミャウリンガル」のマイクに向かって頬ずりする音は、「ニャンコみょうりにつきるニャン」という意味なのか。

 使えねえよ、ミャウリンガル!!

 発売当初以外、人の口に上らないわけだわ……ここまでバカだと。

 猫が実際に鳴き、翻訳されたとしても。
 それがほんとうに猫の声を翻訳したのか、わからない。
 外の車の音かもしれないし、テレビの音かもしれない。部屋の中を歩く音かもしれないし、マグカップをテーブルに置いた音かもしれない。
 猫自身のたてた音かもしれない。

 「ミャウリンガル」は、この世のすべての音を、「猫語」として認識し、日本語に翻訳し続ける。

 すげえや……この世のすべての音を翻訳。
 グローバルでファンタスティックだわ。

 てゆーか、使えなさすぎ。

 ありがとうチェリさん。
 「ミャウリンガル」堪能しました。


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