チェリさんは言いました。

「水くん、まりえったさんより色気が少なくなってましたね」

 真顔ですよ!
 真顔で言いますか、まりえったより下だと!!

 逸翁デーとやらの大劇場、芝居が終わったあとの幕間休憩のときの会話ですよ。

 芝居ですよ、芝居。
 通常のまりえったならともかく、今回の芝居のまりえったは、じじい役ですがな!
 そのじじいよりも、色気が少ないと?!!

 ……がっくり。

 否定できないあたり……ううう。

 
 われらが水しぇんの固有スキルは言わずもがな色気ですよ。
 彼の必殺技が、色気なんですよ。
 なのにその固有スキル、必殺技が、じじい以下だとなっ。

 あああ水くん……水くん、水くん、水くん……。(取り乱し、ただ名を呼び続けるの図)

 
 んじゃまた『ホテル ステラマリス』の話をしよう。
 えっ、水くんの話? なんですかソレ。今からするのは、お花様の話です。
 だって宙組と言えばお花様でしょう? にっこり。

 『ホテル ステラマリス』は、冗長かつ退屈なお話。いろいろまちがった作品なので、こればかりはどうしようもない。
 最初に観たときわたしは、「いつになったらオープニングが終わって、本編がはじまるんだろう?」と首を傾げていたもの、中盤を過ぎるまで。

 組子たちがいつも舞台上にたくさんいて、いつもなにかしらがちゃがちゃやっていて、それだけでわたしとしてはたのしい。
 七帆くんの顔はやはり好みなので眺めているとしあわせだし、いりすと暁郷を、珍獣を愛でるハートで眺めたおすのもたのしい。早霧や和などの美形で眼福にひたるもよし。目についてしょーがないカチャと真木薫、すずはるき(なぜかひらがな愛用)もハズせないよねえ。ああ、右京さんは癒し系だわ、いてくれるだけでいいの。みんながペアで踊っているなか、ひとりさみしいはっちゃんとか、ツボだわー。てゆーかメイド・コスのいづみちゃんは信じられないくらいかわいいんですけど、どうなのよ?! とかな。

 ホテル従業員たちをぼーっと眺めているだけの時間が過ぎていく。

 そうなんだよね。
 この作品が退屈なのは、視点が存在しないせいもあるんだよね。

 誰を中心に物語を見ればいいのか、誰に感情移入すればいいのかわからない。

 ウィリアムやステイシーやアレンや、いろんなキャラクタは舞台に出ているのだけど、彼らの描き方が、モブの従業員たちと同じテンションなんだわ。
「プランB!」とか言って、みんなでわいわい踊っている、同じ重さと熱さしかないの。
 ウィリアムが主役らしいことはわかるけど、こんな彼には感情移入できそうにない。

 真ん中はいつもウィリアム、というだけの「ショー」だよなあ。
 ストーリーは感じられない。
 だから「物語」だと思って観ていると、退屈してしまう。

 しかもこのウィリアム、「設定」と「言動」が一致していないためにさらに感情移入不可能になっている。
 ステイシーに気があるの? えっ、ラヴラヴの恋人アリソン? でもやっぱりステイシーにいい顔してる……なにこいつ??

 そんなよくわかんねーウィリアム以外のキャラは、名前のある人たちから名もなき従業員まで、みーんな同じテンションの描き方。
 これで、どんな物語を紡ごうというんだ。盛り上がらないってば。

 まるで、ピントのずれたホームムービーを観ている感じ。
 ピンぼけだから、なにをやっているのか、今ひとつよくわからない。

 そうそして、このボケたスクリーンのピントが、一気に合う瞬間がある。

 輪郭のうすぼんやりしていた白っぽいスクリーンで、一気に画面が鮮明になり、色が輝き出す。

 素人のホームムービーが、まっとーに「物語」として機能しはじめる。

 それが、お花様の力だ。

 ステイシーが倒れ、泣き出すところ。

 今まで誰もが等しく脇役、モブシーンの連続でしかなかったのに、そこではじめて「ステイシーの物語」がはじまるんだ。

 誰が主役かわからない、ピントのボケた物語で、「そうか、この子に感情移入すればいいんだ」とわかる。

 てゆーか、もう。

 ステイシーが主役なんだとわかれば、そっからあとはたのしいぞ。

 傷ついて、思わず弱音・本音吐露して泣き出して、すがって泣いて、抱きついて泣いて。
 だけど男は、やさしいばかりで。
 彼女が求めるものは返してくれなくて。
 でもこのやさしさは、求めるものにつながっているかも? と思っていたら、「婚約者登場」だ。
 失恋のショックと独り相撲のみじめさと、なにもかも目の前で壊れ落ちていく絶望とで、ボロボロになって銀橋で独唱だ。

 気持ちいい……。
 「物語」ってのは、これくらい感情移入させて、気持ちを揺さぶってくれなきゃだわ。

 その他大勢がえんえん歌って踊っているだけじゃ、たのしめないわ。

 この冗長な物語を、実力で「恋愛物語」にしてしまう、お花様はすごい人だ。

 ステイシーっていうのは、リアルにかわいい子だよね。
 真面目で融通が利かなくて、仕事はできるけど生きることは不器用で。
 父親にも幼なじみで婚約者のアレンにも、仕事中は完璧に「仕事用の顔」しか見せないんだよね。
 なれ合いは一切なし。潔いというか、律儀過ぎる。
 ウィリアムに惹かれているのもわかるのに、「ですます調」を一切くずさず、距離を置いたまま。せっかく朝の浜辺でふたりっきり、愛称で呼ぶことにしたってのに、それでもまだ「ですます調」、しかも次の場面ではまた役職で呼んでいるし。
 なんでそー、不器用かな。
 有能なホテルウーマンなのに。

 そんな彼女が、アレンとふたりきりのときは豹変。
 甘えを含んだ若い女の子らしい喋り方。
 これが地だとすれば、「コンシェルジュ」としての彼女はどれほど無理をしているのだろう。
 もちろん、ホテルウーマンは彼女の天職であり、夢のための努力は苦労ではない。律儀なまでの規律正しさと真面目さは、彼女らしさの表れだろう。

 ふだんの幼さやかわいらしさと、ちとローテンションだが完璧なワーキングウーマンぶりと。

 この二面性は、ものすげえ萌えなんですが。

 かわいいよな、ステイシー。
 このかわいい女の子が、ウィリアムなんぞに振られてボロボロになって泣くのよー。もー。たまんないわー。

 目眩起こして倒れるくらい身も心もボロボロなのに、その原因であるアリソンに「ようこそステラマリスへ」って挨拶するのよー。
 その不器用な強さが好き。

 このときのステイシーの姿は、最後のアリソンのキスと関連していると思う。
 強く、美しい女たち。
 頭を上げ、背筋を伸ばして生きる女たち。

 
 『ホテル ステラマリス』の物語がはじまるのは、ステイシーが物語の中心に出てきたときからだ。
 散漫な空気を、一点絞り込む、吸引する、お花様の力。

 やはり、花總まりは、すばらしい役者だと思う。
 好き嫌いを超えて、観ている者を自分の側へ引き込む力を持つ。
 うーむ。


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