「陸続きの楽園」の続きっす。
 

 最初から、ばくばくしっぱなしだった。
 『ドルチェ・ヴィータ』がはじまる。この席で観られる。そのことにどきどきしていた。

 幕開きの美しさ。問答無用で異世界へ投げ入れられる美しさ。どこを見ていいのかわからない。やばいだろこれは。水の精たちの美しさ。トウコの歌声につづいて、オレンジ色の男たちの歌声。てゆーかくみちょこわいよ。濃いよ濃いよ。
 檀ちゃんに拍手して、ワタさんと踊るところを見たい……けど、奥で踊るアルレッキーノが見たい。彼らの前後首振り小鳥さんダンスだけは、絶対に見るの。なんか知らんが、そこの振りがめちゃくちゃ好き。緑ガエルと朱色の鳥たちが前に出てきた。ケロを見たい……のに、こまった、すぐそばにゆかりちゃんがいる。ゆかりちゃんの美貌から目が離れない。
 銀橋のワタさんはいつもろくに見られない。舞台の上のアルレッキーノを見るのに必死。目の前を横切るときだけ顔を上げて。上手花道セリで沈んでいくワタさん、こんなに近いのにダメだやっぱり見られない。だって舞台中央にいるディアボロが、ケロに触れるんだもの。動かない・動けないアルレッキーノに、ディアボロが一方的に触れていく。今日はいつものように腕に触れた。二の腕をなぞって、すれちがう。昨日だっけかは、ケロの腹を、抱くよーに撫でていたね、トウコちゃん。
 
 シビさんとトウコのデュエット。隣の席のおじーさんの、飴をなめる音がくちゃくちゃ響く。食べ終わったらまた袋をごそごそさせて、新しい飴をなめる。
 花市場、明るい音楽。おじーさんの飴をなめる音、くちゃくちゃ。すでに合いの手のよう。
 緊張のケロしい。目の前の、ケロしい。
 わざと肩でぶつかりあい、つつきあい、バッグを取り合った。お前らどこのバカップル?!状態でいちゃいちゃ無限大。いちゃつきぶりなら、ワタ檀をはるかに超えたピンクハート。玄宗と楊貴妃なんか、メじゃないって。もしも「天下無敵のバカップル選手権」があったら、ケロしいがぶっちぎりで優勝してるね。だってこいつら、天然だもの。色気もないままさわやかに、そのくせラヴラヴオーラ全開。無自覚に愛し合っているやつらほど破壊力の大きいものはない、と目の前に突きつけてくる。
 ワタさん登場、手拍子手拍子、隣のおじーさんくちゃくちゃ、新し〜い・くちゃ・一日ぃがぁ・くちゃ・産声をあげたぁ・くちゃ・朝のきら〜めぇきぃ太陽ぉはぁ……くちゃ、はまだ? テンポが落ちてるぞじーちゃん! 思わず身構え(笑)。あなたぁが・くちゃ・来るのぉが・くちゃ・遅すぎた〜、ほんの束の間・くちゃ・ふたりで踊るまるでふつうの……。
 歌う3人娘、みなみちゃんのパンツは白でした(のぞいたんかいっ)。おじーさんの飴をなめる音はだんだん間延びしていき、いつの間にか聞こえなくなった。
 そして。

 そして、サテリコン。
 ひとさらいめ。
 さらわれたわたしは、おぼれ死ぬかと思ったぞ。

 ところでコーザノストラ@ケロちゃん。
 なんで2日つづけてセンターパーツ?!
 真ん中分けですよ、少年めいた髪型ですよ、若いですよ、前髪揺れてますよ、ちょっとアナタなに誘ってんですかっ。
 受オーラを気前良く放出しながら、檀ちゃんにもてあそばれてますが。
 やーばーいー(笑)。
 なんでそう色っぽいんだ。そりゃ隣のじーさんも飴なめるの忘れるわ(違います)。

 それから、黒いドレスのドルチェ・ヴィータのパンツは、やはり黒でした(のぞいたんかいっ)。
 いやあ、黒ドレスの檀ちゃんは、見えそうで見えない、ぎりぎりのラインでチラリズムを貫いてましたからなあ。ついに股間が見えたときは、興奮しました。

 ケロと檀ちゃんがいないときは、サテュロス@すずみんに釘付けだし。どどどどーしよー、すずみんの残像が消えない……絶対今晩うなされる(えっ)。

 ケロは上手にいることが多いので、近くてたのしいし、下手にいるときは上手側を向いているので、「あっ、ダーリンがわたしを見てる!!」というカンチガイ目線で幸福感にひたれました。

 ところでいちばん多く目線をくれたのは、ありがたいことにワタさんでした。
 すでに盛大に「キて」いたわたしはぼろぼろ泣いたままだったんだが。
 そんなわたしにワタさんは、とてもやさしい目線をくれました。瞳が、いたわるよーに微笑むの。舞台の上手前にくるたびに。銀橋に出てくるたびに。「大丈夫?」とか「よしよし」ってな感じのやさしい目線がくるのっ。
 カンチガイかもしれないけど。べつにわたしを個別認識してくれていると思い上がるわけじゃないけど。
 でもでも、すっげー癒やされた。うれしかった。ワタさん大好き! その「男のやさしさ」に胸が熱くなったわ。ひとりよがりでもカンチガイでも、わたしは癒やされたんだから。救われたんだから。

 最初で最後。
 もう2度とこんな席で『ドルチェ・ヴィータ!』を観ることはない。
 もう2度と、わたしは、あのいとしい悪夢に行けないんだ。
 悪魔の棲む楽園に、行けないんだ。

 あのひとのいるところから、道がのびることはないんだ。

 今いる現実を愛していないわけじゃないけれど。
 楽園の記憶が鮮烈すぎて、涙が止まらない。
 へたりこみそーになる脚をだましだまし動かして、よーやく逃げ込んだ喫茶店で、がーがー泣きながらキーボードを叩いて。水にもオーダーしたものにも、一切手をつけず、ただえんえん書き続けて。
 文字にして吐き出して、なんとか渇望と現実の折り合いをつける。

 あー、もー。
 なにやってんだか。

 あー……そんでもって。

 揺れる船の上で踊るセレブたち。
 うっかりすずみんを眺めていたら、小悪魔の登場シーンを見逃したんだ。

 ものすっげえ、負け犬な気持ち。


     

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