つながっていた。
 サテリコンのときに、痛烈に感じた。

 舞台と、わたし。

 どういえばいいんだろう。
 わたしのいたところから、舞台があまりにも「直線」に見えた。
 ちがうな。
 ケロちゃんに「直線」だった。

 コーザノストラKの足元から道がのびていて、わたしにつながっていた。

 あの青い世界からリボンのような絨毯がのびて、わたしの足元につながっていた。
 招かれていた。

 
 えーと、なんだな。
 めずらしく東宝で最前列に坐れたんだわ。
 そのときの感想。
 つってもSSじゃないよ。所詮S席。上手の真ん中あたり。

 前に誰もいないから、舞台がとても近かった。
 邪魔がなにもなかった。

 ……というだけのことなのか?
 なんかわたし、あまりにもトリップしまくったんですけど。

 今までだって、最前列に坐ったことはあった。ムラなら運が良ければ1公演1回は、端とはいえ最前列に坐れる。
 前に誰もいないとか舞台に近いからとか、そんな理由なんだろうか、アレは。

 最前列だから、ではないのかもしれない。
 他の公演では、ありえなかった。
 

 わたしは、あの場所にいた。
 『ドルチェ・ヴィータ!』、もうひとつの花市場、サテリコン。
 舞台があまりに近いことに、おどろいた。水滴に映った世界が盛り上がって見えるよーに、コーザノストラのいる裏社会がわたしに近づいた。
 そう、向こうから近づいてきたの。わたしはぼーっと座席にいた。世界が膨らみ、盛り上がり、わたしのいる場所まで飲み込んだ。波がなにもかもさらっていくように。

 さらわれたわたしは、あの場所にいた。
 コーザノストラのいる世界。
 あのひとのいる世界。
 あの奔流のなかに、いた。
 だから。
 こんなにも、平衡感覚があやしい。

 回る舞台、回る人々。わたしがあそこにいるなら、あのひとと同じ世界に生きているなら。

 べつの地球に立っているなら、きっとこんな感じ。

 わたしはわたしの生まれ育った世界を離れ、生きてきた現実を捨てて、そこにいる。あのひとのいるところにいる。
 うまく立てないのは、呼吸ができないのは、ここが異世界だから。
 陸に上がった人魚姫が、はじめて二本の脚で立っているように。

 すぐそば、体温の感じられる場所、息づかいのわかる距離で、わたしは彼らを見つめていた。

 惑乱のなかで。
 わたしはたったひとりをさがす。
 見つめる。
 彼がわたしの錨、彼がわたしの灯台。

 おぼれないために。
 うしなわないために。
 わたしは彼を見つめる。
 彼がいるから、わたしはわたしでいられる。

 直線。
 あのひと。
 たしかにわたしはここにいるのに、世界はわたしを包んでいるのに。
 ひとりだけにしか、焦点が合わない。

 オペラグラスで切り取った視界だから、ひとりしか見えないんじゃなくて。なにもかもここにあるのに、あのひとしか見えない。
 直線。最短距離。
 他のすべてを無視して、わたしと彼の間に引いた線。わたしと彼を結ぶ、いちばん短い距離。無駄のないまっすぐな線。

 そして。
 波のように彼は消えていった。
 幕が引かれるように、視界が変わった。

 その切り替わった視界に。

 ドルチェ・ヴィータがいた。
 のばした腕。白い指先。
 彼女の真後ろに、ディアボロがいた。
 のばした腕。白い指先。

 直線。
 1本のせつないタイトロープのうえに、闇の聖女と水の悪魔がいた。

 ドルチェ・ヴィータとディアボロを結ぶ線をのばしても、獲物である男のもとには届かない。男はドルチェ・ヴィータを頂点に二等辺三角形を描く位置にいる。

 ドルチェ・ヴィータとディアボロを真正面に見たのは、わたしだ。
 彼らの描くまっすぐな線は、そのままわたしに届いた。

 まっすぐな道だから。まっすぐな刃だから。
 たぶん、歩いていける。わたしはここから、聖女のところへ、悪魔のところへ。
 なににも惑わされず、よそ見をせず、たどりつけるよ。
 直線だから。

 
 とゆー。
 なんか、生まれてはじめての感覚を味わいました。

 トリップですな、これは。
 あぶないあぶない。
 てゆーか、イタいというべき?(笑)

 いーのよ、人間なにごとも経験だから!
 どんなにイタくても恥ずかしくても、ここは一発経験しておけ!てなもん(笑)。

 途中から「やばいぞこれは」と思ったんだけど。
 案の定、貧血起こして立てなくなってね(笑)。
 なんで貧血起こすのか、わかったわ。
 心臓が、血液を循環させる以外にばくばくしすぎるせい。よけいなところでばくばくしすぎてるから、本来の機能である血を送れなくなってるんだわ(笑)。

 座席に坐ったまま、異世界体験。わたし、この世界にいなかったから。あの瞬間。

続く

     

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