知り合ったばかりのオタクたちは、自己紹介をする。相手の情報を世間話の域で蒐集する。
「それで緑野さんって、ジャンルはなんなんですか?」
 名前の次に聞くのは、年齢でもなければ出身地でもない、職業でも年収でもない。
 ハマっているジャンルを聞く。ヅカで言うなら、「どなたのファンですか?」がそれに当たる。

「いやあ、とくにないんですよ。わたしのコミケのスタイルは、いわばウインドウショッピングですから」

 コミケは全日参加する。
 お目当てのサークルはとくにない。メインのジャンルさえない。
 大手には興味がない。
 人気ジャンルにもカップリングにも興味がない。
 A×Bだろーと、B×Aだろーと、あんまりこだわりなく買う。誰が受か、にはあまり重点を置いていない。間口がやたら広い。
 知っているジャンルのサークルがある区間を、とにかく歩く。歩き回る。隅から隅まで、全部歩く。
 知っているジャンル、なので、ひとつふたつではない。かなりのジャンルを歩く。芸能、ゲーム、マンガ、小説、アニメ、なんでもアリだ。東1〜6、西1・2、ほぼ全部歩く。
 壁には興味がない。ひたすら島を見て回る。
 周囲の迷惑になるので、カートやリュックなどを使って買い物しない。脇に抱えられる大きさのトートバッグのみ。
 ぶらぶら流して、気になった本を手に取り、興味を持ったら購入する。財布と腕の許す限り買う(正直、財布より先に腕が死ぬ。重くて持てなくなるんだわ……同人誌って重いから)。
 まさに、ウインドウショッピング。
 求めているのは新たな出会い。新たなときめき。
 まだ見ぬ宝島を目指して大海を進む。

「一般参加者の鑑ですね」

 ええっ。
 そうなんですか? わたし、鑑なの?

 最近のお嬢さんたちは、お目当てのサークルや、いわゆる壁だの大手だのしか興味がなく、目的のサークルでしか買い物をしないそうだ。そしてお目当て以外は見向きもせず、さっさと帰ってしまう。
 不景気だからかしら。

「緑野ちゃんみたいな買い方をする人ばっかだったら、弱小サークルももっと活気づくだろうにね」

 うお。なんか褒められている? どきどき。他人様から褒められる経験があまりないので、「まあ、どうしましょう♪」気分に。

 たしかに、たくさんのお客さんに、最初から見てももらえないってのはせつないよねえ。大手さんでなきゃ見向きもされない現状とやらがあるのなら、さみしいことだわ。

 せっかく褒めてくれた?(よろこばれた?)みたいな話の運びだったけど。

 でもなー、わたしはなにしろ、ウインドウショッピングだからなー。お目当てもなく、気に入ったモノをその場で買う人間だからなー。

 あまり、褒められた人間でもないんだよなあ。

 まさに、一期一会。
 多少気に入った作品と出会えても、つづきを買うことができない。
 サークル名も作家名も、まーーったくチェックしないからなー。つか、おぼえないから。記憶力なくて。
 そうやって見失った作家さんがどれほどいるか……永遠に同じジャンルにいてくれたらまた見つけて買えるけど、ジャンル替えされたら最後だ、もうわからない。
 今回も、冬コミで買って読んで、好きになった作家さんや作品がいろいろあったのに、ぜんぜん再会できなかったわ……もう二度と読めないのかもな……。

 こんなわたしだから、作家さんの名前やサークル名をおぼえて、わざわざ買いに行くのはほんとーにわずかばかりですわ。
 絵描きさんはまだ絵で判別つくけど、字書きさんなんかはさー、名前おぼえないせいで、似た名前の別人の本を買ってしまってヘコんだりなんだり、よくするしな(アホやわ……)。
 
 わたしの場合、必要なのは記憶することのできる脳味噌かしら……。
 こんなわたしなんぞが、一般参加者の鑑ですか??

 いや、なんにしろコミケ関連の称号なんぞ持ちたくないよな(笑)。

       

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