彼女になにが起こったのか。

 友人のミヤビンスキーとミジンコ(どちらも女性)とランチをすることになった。
 ミナミにある、ちょいとオシャレでおいしい和風バイキングのお店。

 それはいいんだが、指定された待ち合わせ場所は、「ミナミの三角公園」だった。

 三角公園?
 あまりになつかしい響きにとまどう。
 三角公園なー、もう10年は軽く行ってないわ。
 ミナミのアメリカ村、そして三角公園は若者たちの街。わたしの半分くらいの年齢の子どもたちが闊歩しているだろう場所。
 そこで待ち合わせだなんて、勇気ある行動だな。

 伝達事項の了承と待ち合わせ場所への感想を書いたメールに、ミヤビンスキーから返事が来た。

 タイトルは、「あの雲よりも高く浮け」。

> ほほほ!
>
> 私だって、三角公園なんて数年ぶりだわよっ!
> しかも、三角公園に行くには
> アメ村の中を通り抜けていかねばならんので
> 年寄りにとっては、場違い感さらにアップ。
>
> どうせ浮くのなら、徹底的に浮いてやろうと思うので
> 当日はピンクハウスのフリフリ服で参上するわ!
> おののけ若者!
> ひざまずけ、ゴスロリ!
> 年寄りには怖いものなどないのだ、ふはははは!!

 ……ミ、ミヤビンさん??

 まあ冗談だろうと思って深くは考えず、待ち合わせ場所へ行く。

 あー、ほんとにひさしぶりだ、アメ村……。若いころから興味のない場所だったが、トシを取るとさらに知らない街感増大だなー。
 わたしがアメ村によく足を踏み入れていたのは、友人のペーちゃんがビッグステップの某店で店長やってたころが最後だよ。あれって何年前だ……?

 アメ村の雰囲気は記憶にあるものと変わっていなかったが、三角公園は記憶とずいぶん変わっていた。
 なんかみょーに小綺麗になってる……。まあいいけど。

 ほぼ定刻に到着したわたしは、先に来ていたミジンコと合流。
 ミジンコは見事に、周囲と同化していた。 年齢不詳の女だな、こいつも(笑)。

 ミジンコとふたりでお喋りしながら、ミヤビンスキーを待つ。
 変だなー、時間に正確なミヤビンスキーなのに、約束の時間になっても現れないなんて?
 それでも気にせず、お喋りに夢中になっていたわたしたちに、真向かいから女の人がまっすぐ近づいてくる。

「もーっ、ずっと真向かいで待ってたのに、どうして気づいてくれないのよっ」

 女の人は、鼻息荒くそう言っている。はいー? 誰ですか、あなた。

 
 誰って……ミヤビンスキーでした。

 
 白い日傘。
 上から下まで、ついでにバッグなどの小物もピンクハウスのフリフリ・フリルで統一されたおねーさん。

 はあっ?!
 ミヤビンちゃんあーた、マジでPH着てきたのっ?!

 ミヤビンスキーのピンクハウス好きは有名でした、昔から。
 そして、「ピンクハウスは大好きでかわいいと思うけど、アタシには似合わないことがわかってるから、買わないし、着ないわ」と言っていることもまた、有名でした。

「いるならいるって言ってよ、アタシひとりで浮きまくってたじゃない! なんでアンタたち、周囲と同化してるのよっ」

 白い日傘のフリフリおねーさんは言います。
 わたしやミジンコが周囲と同化していたせいで見つけられなかった、というのは「そりゃすまんかった」ですが、ミヤビンちゃんは周囲から浮きすぎていて誰だかわかんなかったよ……マジで。

 てかミヤビンちゃん、あなたほんとに、ミヤビンちゃん?

 「ピンクハウスは着ない」と豪語していた、すっぴん眼鏡っこのミヤビンちゃん。服装はいつもシンプル&カジュアル。言動は男前。大阪人は笑いが命、ツッコミするどく口より先に手が出る足が出る。
 誰よりも「おとうさん」もしくは「大阪のおっちゃん」という雰囲気に満ちていたミヤビンちゃん。

 眼鏡はどうしたの? なんで化粧してるの?
 それじゃまるで女の人に見えるよ??

「失礼なっ、アタシはもともと女よ! つか、アタシたちが出会ったのは女子校だったじゃない!」(ビシリとつっこみ張り手付き)

 ああそーいや女子校だったね。
 でもわたしら、女子校で「おっさん」として出会ったじゃない。

「そうねえ、アタシもアンタもおっさんだったわね、あのころ……って、嫌すぎるわ、女子校でおっさんとして出会うなんてっ」(張り手付き)

 どんなにフリフリ着てても、きれーになっていても、言動は変わらず。大阪のおっさんや、アンタ……。

 ミヤビンスキーとは長いつきあいですが(「あんまり言うと、アンタの若いころの話を蒸し返すわよ? アタシはアンタの16歳のときを知ってるんだからね?」と脅しやがる)、正直、彼女がこんな顔をしていることを知りませんでした。
 だってミヤビンちゃんのトレードマークは「眼鏡」だったんだもん。
 それも分厚いフチのついた、大きな眼鏡。
 数年前、最高潮に太っていたときなんかは、服装にもぜんぜんかまわなくなり、おばさんトレーナー愛用、年齢よりずーっと老けて見えていた。
 「どーせアタシはデブでブスなおばさんだから、なにしたって無駄なのよ。好きな服は遠くであこがれているだけで、着られないのよ」と言っていたヒトが。

 この変身ぶりはどうですか、ミヤビンちゃん。
 すっかりやせて、きれいになって。
 「コンタクトレンズはキライ」と言ってどんなに薦めても挑戦さえしなかったのに。「化粧したって無駄」と言ってかたくなに拒絶していたのに。

 堂々と好きな服を着て、「きれい」であることから逃げずにいる。
 ミヤビンスキーって、こんな顔してたんだ。知らなかった。

「なんか、一路真輝さんに似てるー」
 ミジンコが無邪気に言う。
「ああ、よく言われる」
 ミヤビンスキーも鷹揚に応える。

 
 彼女になにが起こったのか。
 女である自分に後ろ向きだった彼女は今、女であることを謳歌している。

「昔は、恥ずかしかったのよ。いろんなことが。でも、30過ぎた今はこわいものないわ」

 堂々と言うミヤビンスキーは、とてもかっこよかった。
 フリフリを着ていても、やっぱり男前。

 正確にはピンクハウスではなくカネコイサオだとという(わたしには区別つかん)大人のファンタジー服を着こなし、悠々としているミヤビンちゃん。
 君の人生に乾杯。

「でも相変わらず、男も職もないままよ。フッ」

 ニヒルに笑う君に乾杯。
 
         

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