人生は、謎に満ちている。

 部屋の中に、聞き慣れない音楽が響いた。
 なんだろう、知っている曲だ。

 携帯電話の着メロ。
 電話の相手は、待ち人のBe-Puちゃんだった。え、今から家を出るの? ……えーと、今ごろはわたしの家に着いてなきゃいけなかったんじゃ……? まあ、いいや。クリスティーナさんには少し待ってもらおう。

 電話で話しながらも、頭の隅でさっき聞いた着メロを反芻していた。
 えーと、なんだっけ、あの曲。

 家まで迎えに来てくれたBe-Puちゃんの車の助手席で、思い至りました。

「そーだ、『エスパー魔美』の“テレポテーション”だっ」

 アニメ『エスパー魔美』の主題歌。
 どーりで知ってるわけだ。

 ただ問題は。

「なんで『エスパー魔美』??」

 ハンドルを握るBe-Puちゃんも、悲鳴のよーに言う。
 なんででしょう?
 なんだってわたしは、Be-Puちゃんからの着メロを、わざわざ『エスパー魔美』にしていたんでしょう。

 おぼえてない。
 ぜんっぜん、おぼえてない。

 携帯電話をトイレに流してクラッシュ、全メモリ消失のBe-Puちゃんは、ずいぶん長い期間、だれにも電話ができなかったらしい。つまり、わたしの携帯に電話をしてくることも、まったくなかった(自宅にはかかってきたけど)。
 ほんとにひさしぶりだったんだよね、Be-Puちゃんから携帯に電話が入ったの。
 だから、Be-Puちゃん専用の着メロをなにに設定していたかなんて、すっかり忘却の彼方。

 『エスパー魔美』だったんだ……。
 何故。

「名前がかぶってるとかならまだしも……ぜんぜんかぶってないじゃない」
 と、Be-Puちゃん。
 はい、まったくその通りです。

「あたしゃ、どんな曲かも知らないよ。そんなマンガ、見たことないし」
 と、Be-Puちゃん。
 あなたが好きだから設定した、というわけではないわけですねー。

 わたしはいったい何故、あなたの着メロを『エスパー魔美』にしたんでしょうねえ。
 さーっぱりわかりません。

 
 人生は、謎に満ちている。

 クリスティーナさんは、悲鳴を上げた。

「アタシが朝海ひかるを好き? なにそれ。ありえない」

 ええっ?!
 だってあなた、昔わたしにそう言ったじゃない。
 『君に恋してラビリンス』のとき、「花組でみーさん(ガイチのこと)の次に好きなのが、この朝海ひかるって子なの。見てやってね」って。
 そのあとにあったTCAで、トド様と踊っている謎の女装男役のことも、「あれは朝海ひかる」ってわたしに教えてくれたじゃない。宙組誕生のときも、なにかとコムちゃんのこと話していたじゃない。ここんとこヅカなんてまったく観に行ってないのに、コムちゃんのお披露目公演だけは観に行っていたじゃない。

 会話とシチュエーションをひとつひとつ再現しても、クリスティーナさんは完全否定。

「そんな会話をしたおぼえはない」

 えええ?
 会話自体、存在しないって?
 けっこうな数の話なんですけど?

「アタシが朝海ひかるを好きだったことなんて、アタシの人生でただの一度も存在しない。絶対にあり得ない」

 そ、そうなのか……。
 てゆーか、そこまで否定しなくても……。

 まあ、ただの一度も興味すら持ったことのない人の名前を挙げられて、「あなたこの人のこと、好きなんだよね」と言われたら、びっくりして否定するだろうけど。
 クリスティーナさんの否定の仕方はそんな感じだった。最初はわたしの言葉さえ理解できていないふうだったし。それくらい、なんの脈絡もない話だったんだろう。

 
 ひとと記憶のマジック。
 人生は、謎に満ちている。

 
 てか、たんにわたしがカンチガイしていることが多いってだけか。

              

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